令和3年9月、我国周辺における中露両軍の活動と我国/同盟諸国の対応(その2)


2021-10-14(令和3年) 松尾芳郎

(その1)から続く

  • 9月22日発表 日米共同訓練について

9月21日、日本海において海自からはミサイル護衛艦「みょうこう」、電子戦データ収取機(電子情報偵察機)「EP-3」、画像データ収集機(画像情報偵察機)「OP-3C」、電子戦訓練支援機「UP-3D」が参加。米海軍からは電子戦機「EA-18G」グローラーが参加し、防空戦、電子戦訓練を実施した。

「EP-3」は5機製造、「OP-3C」は5機改造、「UP-3D」は3機製造、いずれも基本の「P-3C」から尾部のMADブームを取り下ろし胴体各所にレドームを増設している。いずれも岩国航空基地第31航空群第81航空隊に所属中。川崎重工製。

図23:(Wikipedia / Hunini撮影)2015-05-03岩国航空基地で展示された海自「EP-3」電子情報収集機(9173号機)。尾部のMADブームを外し胴体上面に3個、下面に1個の大きなレドームが見える。

図24:(Wikipedia) 米海軍電子戦機「EA-18Gグロウラー(Growler)」は艦載用電子戦機。複座型F/A-18Fスーパー・ホーネット戦闘機を改造した機体。レイセオン製APG-79 AESAレーダーを含み90 %はF/A-18と共通。電子戦用装備はノースロップ・グラマン社が開発。ALQ-99ジャミング・システムは、両翼端に受信アンテナ、翼下面にジャミング発射ポッド(写真では3個)を備える。システムは自動的に敵レーダーを受感・妨害電波を発射、また発射源を特定しSIGINT電波で無力化をする。F/A-18戦闘攻撃機に同行し攻撃を支援する。翼胴体に9箇所のハードポイントがあるが、必要に応じジャミングポッドを増やしたり、携行兵装/ロケット弾を装備する。2009年から米海軍で運用開始、豪海軍でも採用2017年から使用中で、150機を製造。

  • 9月25日発表 日独共同訓練の実施について

令和3年度インド太平洋方面派遣訓練部隊(IPD21)は、9月24日インド洋東方海空域において、海自の戦技向上とドイツ海軍との連携強化のため共同訓練を行なった。参加したのは海自ヘリ空母「かが」、護衛艦「むらさめ」、ドイツ海軍フリゲート「バイエルン」。

図25:(海上幕僚監部)インド洋東方の海空域で共同訓練をする手前から「バイエルン (Bayern, F 217)」、「かが」、「むらさめ」の順。「バイエルン」は、満載排水量4,900 ton、速力29 kts、Mk.41 VLS 16セルにシースパロー対空ミサイルを装備、Mk.49 RAM 21連装対空ミサイル発射機2基を備える。かなり強力なフリゲート。

図26:(海上幕僚監部)「かが」に着艦する「バイエルン」搭載の艦載ヘリ「リンクス哨戒ヘリ」、「バイエルン」は同型機2機を搭載する。

  • 9月28日発表 日英共同訓練について

日本列島周辺海域で9月14日、15日、両海軍の潜水艦1隻ずつが参加して対潜戦訓練を実施した。

海自潜水艦名は発表されていない。

英海軍潜水艦も未公表だが、日本に派遣中の空母「クイーン・エリザベス」を旗艦とする「英国空母打撃群/CSG21」に随伴しているアスチュート(Astute)級原子力潜水艦「アートフル(HMS Artful / S121)」だと思われる。

図27:(Wikipedia) 「アスチュート」級原潜は英海軍最新の攻撃型原子力潜水艦。水中排水量7,800 ton、全長97 m、潜行深度300 m以上、水中速力29 kt、533 mm魚雷発射管6門、トマホーク対地巡航ミサイル、ハープーン対艦ミサイル、スピアフィッシュ魚雷、装備する。来日した「アートフル/S121」は3番艦で2016年の就役。同型艦は4隻、3隻が建造中。

航空幕僚監部

  • 9月2日発表 米軍との共同訓練の実施について

8月31日日本海、東シナ海、および沖縄周辺の空域で、米空軍B-52戦略爆撃機1機と空自戦闘機部隊は編隊航法訓練と要撃戦闘訓練を実施した。空自の参加戦闘機部隊は次の通り。

千歳基地・第2航空団からF-25戦闘機3機

新田原基地・第5航空団からF-15戦闘機4機

小松基地・第6航空団からF-15戦闘機2機

百里基地・第7航空団からF-2 戦闘機2機

築城基地・第8航空団からF-2戦闘機4機

那覇基地・第9航空団からF-15戦闘機4機

図28:(航空幕僚監部)8月31日米空軍B-52H戦略爆撃機と空自F-15J戦闘機2機。

図29:(航空幕僚監部)8月31日米空軍B-52H戦略爆撃機と空自F-2戦闘機2機。

  • 9月23日発表 米軍との共同訓練の実施について

9月21日日本海、東シナ海、および沖縄周辺空域において、米空軍B-52H戦略爆撃機2機と空自戦闘機部隊は、編隊航法訓練および各種戦術訓練を実施した。空自の参加戦闘機部隊は次の通り。

第2航空団(千歳)F-15戦闘機4機

第5航空団(新田原)F-15戦闘機4機

第7航空団(百里)F-2戦闘機2機

第8航空団(築城)F-2戦闘機4機


図30:(航空幕僚監部)9月21日米空軍B-52H戦略爆撃機と空自F-15J戦闘機3機。

  • 9月28日発表 米軍との共同訓練の実施について

9月24日那覇北西の東シナ海上空で、米空軍のB-52H戦略爆撃機1機、米海兵隊F-35B戦闘機2機と、空自第9航空団(那覇)F-15J戦闘機2機で共同訓練、要撃戦闘訓練を実施した。

図31:(航空幕僚監部)9月24日東シナ海上空で編隊飛行中の(上から)米海兵隊F-35B戦闘機2機、米空軍B-52H戦略爆撃機、空自F-15J戦闘機。

米第7艦隊ニュース

  • 9月1日発表 空母「カール・ビンソン(Carl Vinson)」と英空母打撃群は、第4世代および第5世代戦闘機で共同訓練を実施

8月26日米海軍「カール・ビンソン空母打撃群/Carl Vinson Carrier Strike Group (VINCSG)」と「第2空母航空団/Carrier Air Wing 2 (CVW-2)」、および、英空母「クイーン・エリザベス」を含む「英海軍空母打撃群/ UK Carrier Strike Group 21 (CSG 21)」は、フィリピン海の海空域で共同航空戦闘訓練を行なった。訓練は通常訓練、通信、空中給油を含む広範なもので、戦闘能力の向上に役立った。

米「VINCSG」からは、「CVW-2」所属の第5世代機「F-35C」ライトニングII戦闘機4機、第4世代機の「F/A-18E/F」スーパーホーネット戦闘機5機、「EA-18G」グローラー電子戦攻撃機2機、および「E-2D」ホークアイ早期警戒管制機1機が参加した。

英「CSG 21」からは、米海兵隊所属の「F-35B」STOVL /短距離離陸垂直着陸戦闘機2機と英軍の「F-35B」型戦闘機2機が参加した。

図32:(US 7th Fleet) 8月26日フィリピン海で米英両海軍の空母打撃群が共同演習を行なった。写真はF/A-18E/Fから空中給油を受けるF-35Cの編隊。

図33:(Google) 「フィリピン海」とは台湾、フィリピン、日本、ミクロネシアに囲まれた西太平洋の海域を指す。

  • 9月8日発表 第7艦隊、南シナ海で「航行の自由作戦(FONOP=Freedom of Navigation Operation)を実施

9月8日米第7艦隊所属のミサイル駆逐艦「ベンフォールド(USS Benfold /DDG-65)」は、南シナ海「スプラトリー諸島(Spratly Islands)(南沙諸島)」に中国が不法に設置した軍事拠点「ミスチーフ礁(Mischief Reef)」の12海里以内に進入、「航行の自由作戦」を実施した。

図34:(読売新聞)「スプラトリー諸島には、中国が国際法に違反して設置した軍事拠点が「ミスチーフ礁」の他にも多数ある。

  • 9月8日発表 「カール・ビンソン空母打撃群」南シナ海に進出し、航行の自由作戦で友好国・同盟国を支援

「カール・ビンソン(Carl Vinson CVN-70) 空母打撃群(VINCSG)」は今年初めて南シナ海に展開した。南シナ海は世界で3番目に通商船舶の往来の多い海域で、安全確保は関係各國の重要な関心事である。

「カール・ビンソン空母打撃群(VINCSG)」は、「カール・ビンソンCVN-70」と「第2空母航空団/Carrier Air Wing 2 (CVW-2)」で構成。即ちサイル巡洋艦「USS レイク・チャンプレイン(USS Lake Champlain /CG-57)」、ミサイル駆逐艦「USS チャフィー(USS Chafee /DDG 90)」などを含む。これにサンデイゴ基地「第1駆逐艦隊(Destroyer Squadron 1 /DESRON 1)」から沿海域戦闘艦「USSタルサ(USS Tulsa /LCS-16)」が加わる。

空母打撃群に沿海域戦闘艦が加わり、南シナ海に進出するのは「タルサ」が初めての例となる。

図35:(Wikipedia) 沿海域戦闘艦(littoral combat ship) 「タルサ(USS Tulsa / LCS-16)」、2019年就役、満載排水量3,100 ton、速力40 kts。沿海水域で活動する目的で作られた3胴式の小型艦「インデペンデンス」級12隻中の8番艦。同級は19隻建造予定で12隻が完成就役済み。なお「インデペンデンス」を含む初期の4隻は今年から退役が決まっている。いずれもカリフォルニア州サンデイゴ(San Diego, Calif.) が母港。兵装はMk 110 57 mm速射砲、SeaRAM 対空ミサイル11連装機、MH-60R/Sヘリコプター2機を搭載する。

  • 9月8日発表 ミサイル駆逐艦「デユーイ(USS Dewey)」横須賀に到着、第7艦隊に編入

アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦の最新型「デユーイ(USS Dewey/DDG-105 )」は9月8日に横須賀に入港、第7艦隊隷下の第15駆逐艦隊(DESRON 15)に編入された。「デユーイ」は「フライトIIA」型、対空、対水上艦、対潜水艦能力のあるMH-60ヘリコプター2機を搭載する。

  • 9月9日発表 カール・ビンソン空母打撃群と海自艦隊が共同訓練を実施

8月31日から9月1日に掛けてフィリピン海で「カール・ビンソン空母打撃群(VINCSG)」or [CSG-1]は海自艦隊と共同訓練を実施した。[VINCSG]にはタイコンデロガ級ミサイル巡洋艦「レイク・チャンプレイン(USS Lake Champlain / CG-57)」が参加した。海自からはこんごう級ミサイル駆逐艦「きりしま(DD-174)」、たかなみ級駆逐艦「たかなみ(DD-110)」と同「おおなみ(DD-111)」が参加した。

  • 9月10日発表 カール・ビンソン空母打撃群、南シナ海で作戦行動開始

「カール・ビンソン空母打撃群(VINCSG)」と搭載する「第2空母航空団(CVW-2)」は南シナ海に入り、“自由で開かれたインド太平洋”の維持強化作戦に着手した。今回は、最新の高性能艦上戦闘機「F-35C」ライトニングIIと海軍の新VTOL輸送機「CMV-22B」オスプレイが南シナ海に展開する初の事例となる。これにより空母打撃群の戦闘能力は一段と向上し地域の安全確保に貢献できる。

  • 9月16日発表 ミサイル駆逐艦「ザ・サリバンズ(DDG-68)」横須賀に入港

アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦「ザ・サリバンズ/ USS The Sullivans(DDG-68)」が、英国空母打撃群(CSG-21)の東アジア展開に合わせて、横須賀に入港した。横須賀では乗り区民が地元の小学校を訪問、親善活動を行なった。「ザ・サリバンズ」は母港フロリダ州メイポート(Mayport , Florida)を4月19日に出航、5カ国を回り横須賀に寄港したもの。

「ザ・サリバンズ」の由来は、アイオワ州ウオータールー(Waterloo, Iowa)出身の5人兄弟の家族の名前。サリバン兄弟(28歳から20歳)は第二次大戦中米海軍巡洋艦「ジュノー(Juneau /CL-52)」に乗艦勤務中、1942年11月13日に発生した、ガダルカナル島沖第三次ソロモン海戦で伊26潜水艦の魚雷攻撃受けて轟沈、兄弟5人全員が戦死した。乗員600名のうち生存者は僅か10名だったと言う。この戦死したサリバン家の5人兄弟を悼み顕彰する意味で名付けられた。

図36:(Wikipedia)2009年2月13日撮影。横須賀に入港したミサイル駆逐艦「ザ・サリバンズ(DDG-68)は、アーレイバーク級イージス・ミサイル駆逐艦で1997年4月就役。満載排水量9,000 ton、速力30 kts以上、Mk.41 VLS 垂直発射装置90セルを装備、SM-2、BGM109トマホーク、アスロック・ミサイルなどを搭載する。

  • 9月25日発表 「ロナルド・レーガン空母打撃群」南シナ海に復帰

9月24日、「第5空母打撃群/Carrier Strike Group 5」司令官は次の発表をした。

「ロナルド・レーガン(USS Ronald Reagan / CVN-76)」と「第5空母航空団 (Carrier Air Wing (CVW) 5)」、[第15駆逐艦隊(DESRON 15)]」、それにタイコンデロガ級ミサイル巡洋艦「シャイロー(USS Shiloh / CG-67)」は、アフガニスタン撤退作戦の支援を終了し、南シナ海での任務に復帰した。

図37:(7th Fleet)南シナ海に戻り、「自由で開かれたインド太平洋作戦」の任務に復帰した空母「ロナルド・レーガン(CVN 76)」と艦上の「第5空母航空団」の航空機。

ロシア海軍情報管理局

  • 8月31日発表 太平洋艦隊コルベット艦「グロムキー」および「ソベルシェンヌイ」が日本海でミサイル射撃を実施

「コルベット艦」とは「フリゲート」と同義、両艦ともに「ステレグシチー」級フリゲートである。ロシア海軍では「20380型警備艦」とも呼ぶ。「ソベルシェンヌイ(333)」は同級の4番艦2017年就役、「グロムキー」は6番艦2018年就役、同級は10隻が完成。太平洋艦隊には5隻が編入される。

射撃演習は、小型ロケット艦「イネイ」から発射されたミサイル標的「マラヒート」に対し、「グロムキー」および「ソベルシェンヌイ」から対空ミサイル「リドウート」を発射、撃墜する形で行われ、いずれも成功した。

図38:(ロシア海軍情報局) ウラジオストク軍港に停泊中の「ソベルシェンヌイ(333)」。「ステレグシチー」級フリゲートは、満載排水量2,200 ton、速力27 kts、兵装は陸上用S-400対空ミサイルを改良した艦載型3K96「リドウート」(射程150 km)が100 mm単装砲の後部の12セルVLS/垂直発射装置に搭載される。Ka-27PL哨戒ヘリコプター1機を搭載する。

図39:(ロシア海軍情報局)ロシア海軍の新世代艦対空ミサイル「リドウート」は3種類あり、いずれも同じ装置から発射できる。長距離型は「48N6E2」射程150 km (写真上)、中距離型は「9m96E」で射程50 km(写真下)。近距離型は「9M100」で射程15 km (写真なし)。

―以上―