2022年(令和4年)3月28日 鳥居徹夫 (元文部科学大臣秘書官)
昨年秋の総選挙から4月で半年が経過した。総選挙の前後に、岸田文雄首相が就任し、立憲民主党の泉健太代表が選出され、また労働団体の連合では初の女性会長として芳野友子が就任した。
この半年間を見ていると、岸田首相や立憲民主党の泉代表は頼りなく、フラフラして軸足が定まらない。
それに比べて連合の芳野友子会長はブレることなく安定感がありドッシリしておりウクライナのゼレンスキー大統領のように頼りがいがある。
◆自民党労政局の連合対応が様変わり
勤労者の組織としての連合は、従来から雇用労働政策などを行政(首相、官房長官、厚生労働大臣など)に行ってきた。同様に政党にも政策要請を行ってきたが、メディアには大きく報道されてこなかった。
今年に入り連合の芳野会長は、従来の自民党の労政局、そして茂木敏充幹事長に政策要請を行い、さらには2月には小渕優子組織運動本部長、3月中旬には麻生太郎副総裁とも懇談したことを、マスコミは大きく取り上げた。
茂木幹事長への要請活動には、労政局ばかりでなく、政策調査会や労働対策委員会の事務局も同席していたという。
自民党の方は、連合との政策協議のウエイトを高め、懇談のランクを担当局から党幹部へと上げつつある。
コロナ対策と経済再生が問われる中、勤労国民の所得増によって内需拡大を図る政策へ、自民党自身が大きくカジを切った。
岸田首相の唱える「新しい資本主義」とは無関係のようだが、国民生活向上・賃金増額は、政労使それぞれが役割を果たすことが大切というのである。
昨年9月末の党役員改選で、労政局長に森英介、局長代理に衛藤晟一が指名されたことの影響も大きい。
これまでの労政局は、外国人雇用や派遣労働・パートなど非正規労働者の拡大など安上がり労働、労働コスト切下げを狙う事業者のための活動が中心で、連合とは政策要請の事務的な窓口と言う感覚が強かった。
かつて労政局の幹部には、ワタミの渡邉美樹、ジョイフルの穴見陽一などがいたが、これらの議員が引退。替わって登場したのが、かつて川重労組の組合員であった森英介や、安倍政権時に総理補佐官として政労使会議の実現に奔走した衛藤晟一である。
自民党本部の狙いは、とかく不協和音とすきま風・亀裂が目立つ立憲民主党と連合とを離間を狙い、夏の参議院選挙の一人区対策につなげたいのではないか。
自民党も、公明党との選挙協力についても黄信号がついている。
中央では両党首間で何とか合意にたどり着いたが、それも3月になってからで、地方の選挙協力の協議はお世辞にも進んでいるとは言えない。
◆共産党にそよぐ立憲民主党
昨年の総選挙で立憲民主党は、連合票と共産党の支援という二股をかける戦略を模索したが、それは連合との政策協定「左右の全体主義に反対」に逆行する。言うまでもなく共産党・共産主義は左翼全体主義である。
それでいて立憲民主党は、山口二郎らの市民連合を仲立ちとして共産党と政権合意を結ぶという有権者軽視・共産党重視の姿勢をとってきた。
票だけよこせと言う立憲民主党の姿勢に、当然のこととして連合は反発。立憲民主党は、連合からも有権者からもソッポを向かれ、総選挙の惨敗となった。
立憲民主党も、連合とは政策協議を行っているが、中身は連合と自民党や維新の党、公明党との協議に比して形式的である。
政策協議との名目だが、立憲民主党にとっては連合への選挙支援要請がメイン。ところが立憲民主党は、先の総選挙で平気で共産党との政権構想を締結し、共産候補の取り下げを求めていた。
立憲民主党は、枝野幸男に代わり泉健太が代表になったが、共産党との共闘を継続するといい、批判政党から提言型野党への転換を打ち上げたものの、まともな提言すらない。憲法調査会にも、開催すべきでないと言ったり、出席すると言ったりのチグハグ。
共産党との関係についても、立憲民主党は「連携は白紙」と表明した。袖にされた共産党は堪忍袋の緒が切れ、一人区で候補の擁立を進めているが、立憲民主党は総選挙並みの候補者取り下げを求めている。
また立憲民主党は、ウクライナのゼレンスキー大統領のオンラインでの国会演説に後向きであったが、一夜にして推進側に回った。
ゼレンスキー大統領の国会演説は、事前のすり合わせもなく、3月23日にオンラインで実現した。
◆岸田文雄は「背骨のないクラゲ」か
野党第一党の立憲民主党は、開会中の通常国会でも全く存在感がなかった。7月と想定される参議院選挙も、このままでは敗北が濃厚である。
だからと言って自民党も、公明党との選挙協力も含め万全ではない。肝心の岸田総裁に求心力がなく、安倍首相のような岩盤支持層は望むべくもない。そもそも首相になることが目的のような岸田文雄である。閣僚をみてもコロナ関係の厚生労働大臣、コロナ担当大臣、ワクチン大臣の3大臣を総入れ替えというお友達人事で敵を作らない。
さらには信念なし決断なし。遅く鈍く、なよなよしている。目標とスケジュール感が全く感じられない。
コロナのワクチン接種について、岸田首相は昨年12月6日の所信表明演説で「3回目のワクチン接種の前倒し」を表明したが、翌日に後藤茂之厚労相から「全国民を対象にした前倒しは困難」と軌道修正された。
多くの自治体からは高齢者の前倒し接種を求められたが、政府は「原則8ヶ月」にこだわった。おそらく十分な量を確保できていなかったのではないか。
全国一律にこだわり感染拡大を招き、第6波の対策も大きく出遅れた。
蔓延防止対策宣言は、最大で36都道府県に及び、終了したのは3月21日であった。
お友達人事では、林芳正外相への任命責任がある。
ウクライナ情勢が緊迫化しつつあり、世界各国が共同でロシアへの経済制裁に動こうというときに、林外相は2月15日にロシアの閣僚と日露の経済協力を協議した。ちなみにロシアの軍事侵攻は2月24日だった。
さらに林芳正外相は、駐日ウクライナ大使からの面会要請を、1カ月も「放置」していたことが、3月2日に国会質疑で発覚した。
ロシアの経済発展相とは喜んで会談しながら、駐日ウクライナ大使とは面会する時間がないというのである。
資質が問われるのは、岸田首相そのひとである。
◆霞ヶ関には「良きに計らえ」だが…
岸田文雄の周囲には、宮澤喜一(元首相、故人)ら国会議員の大物とか広島県知事になった血縁者が多い。彼らは東大法学部から財務省に入るなど、エリート臭プンプンである。
岸田文雄は、東大受験に二度失敗したあと早稲田大学に入学した。華麗なる一族の中で、負い目を感じコンプレックスの中で処世術を身につけてきたのではないか。
そして同じ派閥系統の宮澤喜一や河野洋平らは、NHKや朝日新聞などのメディアには左翼的ポーズで立ち振る舞ってきた。
つまり東京大学法学部、財務省、NHK、朝日新聞など「虚妄の権威」の顔色を窺い、そこから悪く思われないようにしており、岸田文雄もそれをうけついでいるようである。
中央省庁の幹部は、旧帝大とりわけ東大法学部の出身者が多く、私大卒の岸田文雄は劣等感が強いのか、首相の座についても責任ある指導ができず「良きに計らえ」となる。
それは学歴・学校歴という「権威」で、世の中を序列づける意識が岸田文雄に強いのからではないか。
それでいて、自分より学校歴で下に見る安倍元首相・菅前首相には対抗心が強いようである。安倍晋三は成蹊大学、菅義偉は法政大学第二部の卒業である。彼らは政治主導を堅持し、霞が関の言いなりにはさせなかった。
岸田首相は、自分より学校歴の高い霞ヶ関の官僚からの提示には「それ行けどんどん」「良きに計らえ」だが、すぐに方向転換してしまう。
なぜなら高学歴・学校歴の自称エリートは、国民生活の現場を知らず、「かくあるべき」という観念論や前例主義が多く、現場を知る政治家の主導と行政チェックが不可欠なのである。
しかも高級官僚は、おしなべて「省益重視、国民軽視」である。いわゆる幹部コースは、30歳代で県の課長や主要都市の部長に出向しチヤホヤされ、外国の大学等に国費留学が家族帯同で用意されているから、勘違いしてしまう。
岸田内閣は総選挙の直後に「18歳以下への10万円相当の給付」を打ち出した。当初は財務省主導で「2021年内に5万円を現金、年度内にクーポンで5万円」の支給方針であったが、与野党から猛反発を浴び二転三転した。
結局、昨年2021年内に現金一括給付の形を取ることも選択肢とした
また共通一次にかわる共通テストについては、「オミクロン株濃厚接触者の受験は認めない」との方針が、「別室受験などの機会確保」に変更した。
◆左翼論調のメディアの顔色を気にする岸田首相
さらには新潟県から強い要望があった「佐渡島の金山」のユネスコ世界遺産登録についても、当初の外務省・文化庁などの推薦見送りに「良きに計らえ」であったが、自民党内の猛反発から急遽ユネスコに登録申請した。
官邸や霞ヶ関は、慰安婦や徴用に関する韓国のウソの誹謗中傷を繰り返す韓国との軋轢を避け、韓国に寄り添う姿勢であったからではないか。
一方で岸田首相は、左翼論調のメディアの顔色をうかがう。
昨年12月6日からの臨時国会における岸田首相の所信表明演説には、昨年4月の菅義偉・バイデン会談の共同声明に明記した「台湾海峡の平和と安定」の言葉がなかった。
岸田首相は「近隣国との間でも、国益にもとづき、この地域の平和と安定を目指して、確固たる外交を展開していく」と述べただけで、「台湾海峡」は蒸発した。
一部報道によると、防衛大臣の岸信夫は、演説原稿の作成段階で「台湾海峡の平和と安定は、我が国の安全保障と分けて考えることはできない。両岸関係の平和的な解決を求める」との文言を加えるよう官邸側に求めたという。
とかく新聞・テレビに悪く言われないことと、支持率を気にするのが岸田流である。
◆なぜかメディアからのパッシングがない岸田内閣
岸田政権は、ブレブレで前言訂正のオンパレードであり、日本の首相としての矜持がみられない。
世論調査政権、言い訳政権とも揶揄されているが、メディアからは不思議とパッシングを受けない。あれほどブレブレであるにもかかわらず。
それは岸田政権が崩壊したときに、安倍・菅路線を継承する政権が誕生することを恐れているのではないか。
野党の政権交代は望むべくもないので、岸田首相に頑張ってほしいというのが、左翼的なメディアの願望であろう。
岸田内閣に危機があるとすれば、党内政局ではないか。
それは高市早苗政調会長が激怒し辞表をたたきつけたときであり、岸田首相周辺としては何としても避けたいし、ブレブレ批判も甘受するのではないか。
実際、経済は好転の兆しすらなく、菅義偉政権時に3万円台にのった株価は2万6千円という惨状であり、「令和版所得倍増計画」もいつのまにか蒸発した。
メディアも岸田内閣の支持率が低下するのを恐れているようであり、岸田政権の批判をためらっているようである。
「佐渡金山」のユネスコ申請のドタバタ劇があっても、メディアは岸田文雄への批判よりも、外務省などを押し切るように主張した安倍晋三への批判が目立つ。
岸田政権は、判断は早いように見えて詰めは甘く、方針はブレブレ。しかも求心力がなく「背骨のないクラゲ」そのものだが、倒れる可能性は不思議と低いように思われるが。(敬称略)
ー以上ー