米国、ウクライナに戦車攻撃用ドローンの供与を決定


2022-03-27(令和4年) 松尾芳郎

図1:(AeroVironment) 「スイッチブレード600」ドローン発射の様子。ドローンは主翼尾翼が折り畳まれた状態で携帯用ランチャーから発射され主翼・尾翼が展張して探索飛行を開始、40 km先の敵戦車に衝突、破壊する。

米政府は3月16日、ウクライナ支援のため新たに8億ドル(880億円)の軍用装備品の供与を決めた。これはすでに供与された2億ドル(240億円)に続くものである。新規供与の中には、対戦車攻撃用ドローン「スイッチブレード(Switchblade)」が含まれている。

(A new US aid package to Ukraine will include AeroVironmate Switchblade drone designed to destroy main battle tanks. The white house announced March 16th, will provide Ukraine with an additional $800 million in the form of “direct transfers of equipment” as adding on previous $200 million aid.)

新規供与のパッケージは、ウクライナ(Ukraine)の「ボロジミール・ゼレンスキー(Volodymyr Zelenskyy) 大統領」の要望リストに基いたもので、戦術用ドローン100機の供与が含まれている。ウクライナ政府は、これでロシア軍の侵入を一層効果的に防ぐ事ができる、と言っている。

米政府は供与ドローンの詳細は明らかにしていないが、下院議員ミカエル・マッコール(Michael McCaul) 氏は、ドローンは「エアロバイロンメント (Aero- Vironment)」社製の「スイッチブレード(Switchblade)」と明らかにしている。

「エアロバイロンメント」は直接のコメントは控えているが、ホームページで次のように述べている;―

「わが社は自由主義諸国の立場にあり、外敵のの侵攻から自国を守る権利を持つ企業。9/11の大規模テロ攻撃を受けたことから小型無人機(UAS)システムの開発を開始、これを国防に役立て国家に貢献してきた。革新的な対戦車ドローン「スイッチブレード(Switchblade) 」は、索敵飛行で目標を探知、攻撃する小型無人機「ロイターリング・ミサイル・システム(loitering missile system)」である。ウクライナおよび周辺の東欧友好諸国は、ロシアの野望を打ち砕き勝利するために、このミサイルが必要だ。我が社は直ちに支援に立ち上がれる。」

「スイッチブレード」は、携帯用の筒状ランチャーから発射するミサイルで、高性能炸薬と目標に着弾するためジンバル式(目標を追尾する)電子光学センサー(EO/IR sensor)を備えている。誘導には外部からの情報は必要としない。目標への誘導は発射担当の兵士が行い、発射後でも簡単に目標の変更を指令できる。

「エアロバイロンメント」は米国東部のバージニア(Virginia)州にあり、原型の「スイッチブレード300」を開発、2011年から量産を開始、米陸軍に[LMAMS=Lethal Miniature Aerial Missile System](超小型ミサイル・システムの意)として納入してきた。

2020年にはこれを改良し大型でより強力な「スイッチブレード600」を完成した。こちらは米海兵隊の[精密携行兵器(OPF-M=Organic Precision Fire-Mounted)]計画として、車載型を含めて実用化が進められている。2021年に初期運用能力(IOC=initial operating capability)を取得、現在初期少量生産に移行している。

米国の対戦車ミサイルには現在、ロッキード・マーチン製の「AGM-114 ヘリファイヤー(Helifire)」、ロッキード/レイセオン製の「ジャベリン(Javelin)」および、レイセオン製の「TOW」等が使われている。これに「スイッチブレード」が参入する。

ウクライナに供与されるのは「スイッチブレード300」と「同600」の両方になると見られる。

「スイッチブレード」ドローンは、現在の戦況に最も適合した対戦車兵器で、「ジャベリン」対戦車ミサイル(最大射程約4.5 km)より射程が長く、長距離からロシアの輸送車列や戦車群を狙い撃ちできる。

追加支援の8億ドルには、この他にステインジャー(Stinger)対空ミサイル、およびジャベリン(Javelin)対戦車ミサイル、擲弾筒ランチャー、機関銃、弾薬、防弾チョッキ、等が含まれる。

「スイッチブレード600 (Switchblade 600)」

スイッチブレード600は、携帯用の地上発射型だけでなく、車両搭載、航空機搭載への改修も容易にできる。折り畳み式の2枚の主翼と3枚の尾翼、機首には2組のジンバル式の電子・光学および赤外線センサー(EO/IR sensor)を備えている。40 km以上離れた目標を捕捉、破壊できる。目標に向けダイブ中でも“目標が軽装甲車両であった場合は” 攻撃を中断し、他の重戦車に目標に変更できる。

巡航速度は113 km/hrだが、目標に向けダイブする際には185 km/hrに増速し、敵戦車の装甲を貫徹・破壊する運動エネルギーを増やしてやる。

弾頭は「同300」の5倍で破壊力が著しく増えている。( WikipediaによるとFGM-148ジャベリンの弾頭を採用?)ドローンの全長は1.3 m、重量は22.7 kg、翼幅は不明、ドローン本体、ランチャー、飛行コントロール装置、長距離通信用地上アンテナ、等全てを含み総重量は54.4 kgになる。

飛行距離を80 kmに伸ばすことも可能だが、この場合は地上アンテナを2組用意し、中継する必要がある。

飛行コントロール装置は、タブレット型のタッチスクリーン(( iPadのようなもの)で、兵士が直感的に操作できるようになっている。ロックオン・モードがあり、固定目標であれ移動車両であれ、目標が決まればロックオンして着弾する。

図2:(AeroVironment) 「スイッチブレード600」。ランチャーから発射直後の状態。主翼、尾翼(タンデム・ウイング)が展張し始めたところ。機首にはEO-IRセンサー、その後ろに炸薬、尾部にはバッテリーで駆動するプロペラが付く。

図3:(AeroVironment) 「スイッチブレード600」発射準備に要する時間は10分、発射後約40分以上・距離40 km以上の索敵飛行ができ、巡航速度113 km/hr、着弾前のダッシュ速度は185 km/hr。原型の「スイッチブレード300」、飛行距離は約10 km、滞空時間は15分、から大幅に性能アップしている。

CNN News (2022-03-25)によると、ウクライナは米国からの軍事支援の項目リストを更新し、対戦車ミサイル「ジャベリン」と対空ミサイル「ステインガー」を毎日500基ずつ供与して欲しい、と要望した。米国とNATO諸国は3月7日までに対戦車ミサイル17,000基と対空ミサイル2,000基をウクライナに送っている。英国政府は3月22日、対戦車ミサイルを含む各種ミサイル6,000基を新たに支援すると発表、加えて戦闘用に資金3,300万ドルを供与すると発表した。

以下に「ジャベリン」と「ステインガー」について簡単に紹介する。

FGM-148 ジャベリン(Javelin)

携帯式対戦車ミサイルで、主な目標は戦車など装甲車両だが、低空を飛行するヘリコプターも攻撃できる。完全な「打ちっ放し(Fire and Forget)」機能、発射前のロックオン機能、自律誘導機能、等を備える。

弾頭は、戦車の装甲の薄い上部を狙う「Top Attack mode」と、建築物などを攻撃する「Direct Attack mode」が選択できる。飛翔高度は装甲車攻撃では150 m、建築物攻撃では50 m。射程は最大で2,500 m。目視で捕捉した目標に向かって赤外線センサーで自律飛行をする。

弾頭は、主炸薬の前部に副炸薬があり、着弾すると副炸薬で爆発反応装甲を無力化し、主炸薬弾頭が主装甲を貫通破壊する仕組みになっている。

システムの構成は、兵員が操作する「射撃式装置 (CLU=Command Launch Unit)」、「発射筒(Launch Tube Assembly)」、「ジャベリン・ミサイル本体」からなる。全体の重量は22 kg、射出ロケットで飛び出し、すぐに翼が展張、ロケットが着火・目標に向かう。運用は射手と弾薬手の2名、発射後直ちに退避する。

1996年以降米軍に配備された。現在はレイセオンとロッキード・マーチンの合弁企業「Javelin」社が生産している。これまで米軍に本体2万基とCLU 3,000基が納入されている。米国以外では英国、台湾、カナダ、オーストラリア、フランス、ノルウエイ、ウクライナ、などが採用している。価格はミサイル部分が約18万ドル(2,200万円)とされる。

図4:(Wikipedia)「 FGM-148ジャベリン(Javelin)」

FIM-92ステインガー (FIM-92 Singer)

携帯式対空ミサイル(MANPADS=Man-Portable Air Defense System)で、主目標は低空を飛行するヘリコプター、対地攻撃機、巡航ミサイルなど。米陸軍が1968年から使用していた「FIM-43C レッドアイ」の後継機として、1981年から生産開始、配備が始まった。設計はゼネラル・ダイナミックス(GD=General Dynamics)社、製造はレイセオン・ミサイル・システムズ。1992年には速度、射程距離を伸ばし、敵の妨害を排除する能力を高めたた「ステインガーRMP(Reprogrammable Microprocessor)」、別名「FIM-92C」が量産されててきた。

「FIM-92C」は、一層強力なソフトを搭載し敵のフレアなどの妨害に即時に対応する。米陸軍だけで20,000基を保有している。その後も改良が続き「FIM-92H」型まで作られている。

システムの構成は、発射筒(launch tube)、バッテリー冷却装置(BCU=Battery Coolant Unit)、分離可能な把手(separable gripstock ass’y)、照準器、分離可能な敵味方識別装置(IFF=Identification Friend or Foe)、から成っている。ミサイル本体は赤外線ホーミングで目標に向かい、射程距離は約8 km。

携帯式の他に車載型が米国を含む各國で実用化している。米陸軍では4輪駆動の多用途高機動車「HMMWY」に6基搭載して使っている。また空対空型がAH-64Dアパッチ・ヘリに搭載されている。ただし、目標を目視で捉えなければならないこと、バッテリーの持続時間が短いこと、などの考慮が必要。我が国ではAH-64Dアパッチ攻撃ヘリに搭載使用している。

陸自も「ステインガー」を輸入装備していたが、東芝開発の「91式携帯地対空誘導弾」略称「SAM-1」に更新されている。

図5:(US Army) 「FIM-92C ステインガー」。兵員2名で操作する携帯式、ミサイル本体は長さ1.5 m、直径7 cm、重さ5.7 kg、ランチャーを含むシステム重量は15 kg、固体燃料ロケットで速度マッハ2.2で飛翔し、射程は8 km、有効高度は3.8 km。単価は$38,000 (440万円)程度。

図6:(YouTube)左がステインガー・ミサイル本体。右がランチャーで、左側が前方になる。

図7:(YouTube)ウクライナ南部の黒海沿岸でロシア軍機に向けて「ステインガー」を発射する様子。「youTube」では数秒後にロシア機にに命中、撃墜に成功している。

終りに

2月24日ロシア軍がウクライナに侵攻を開始してから1ヶ月が経過した。ロシア軍はこの侵攻をウクライナに住むロシア人を救出するための「特別軍事作戦」と呼び「侵攻」では無いとしている。初めの数日はロシア軍の占領地域は拡大したが、ウクライナ軍の反撃が本格化してから戦線は一進一退の膠着状態に陥っている。

NATOによると、この間のロシア軍の戦死者数は7,000-15,000名に達し、この数倍の負傷者や捕虜が発生、と推定している。このため3万ないし4万のロシア軍が戦闘能力を失った、と分析している。

ウクライナ国防省は次のように発表た。すなわち、「ウクライナ軍との戦闘でロシア軍の戦死者は15,800名に達した。ロシア軍の戦車530輌、装甲車両15,97輌を破壊し、軍用機108機、ヘリコプター124機および無人機/ドローン50機を撃墜した。」

これには米国、NATO諸国が供与した対戦車ミサイル、対空ミサイルが大きく貢献していることに間違いない。

一方ロシア国防省は、1ヶ月間でウクライナ軍の装甲車両1,587輌、野戦砲636基、多連装ロケット砲163輌、航空機112機、ヘリコプター75機、対空ミサイルS-300 システム148基、レーダー117基、を破壊した、と述べている。また、期間中、NATOを含む欧米諸国はウクライナに、野戦砲100門以上、携帯式対戦車ミサイル3,800基、携帯式対空ミサイル900基を供与して戦闘を長引かせている、とも述べている。そして「ロシアは決して挫けない」と強弁している。

ウクライナ国防省高官は、ロシアは1ヶ月間に巡航ミサイル1,200発を発射、攻撃してきたが、その59 %は撃墜・不発あるいは目標を外れていた。これは米国でも認めており、ロシアの巡航ミサイルは精密誘導システムが不十分だ、と分析している。

図:(Global Security.com) ウクライナの地図。「青」:2月24日以前にロシアが占領した地域、「赤」:2月24日以降占領した地域、「オレンジ」:戦闘地域。ウクライナは面積60万平方キロメートル、人口4,400万の大国、トルコよりやや小さい。

―以上―

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

  • Flightglobal. Com. 17 March 2022 “Washington to Supply Ukraine with AeroVironment drones: report” by Jon Hemmerdinger
  • AeroVironment News “AeroVironment stands with the people of Ukraine an all of NATO”
  • AeroVironment Home “Switchblade 600”
  • European Defence Review “Switchblade 600, the new Medium Range Loitering Munition”
  • Wikipedia “Switchblade 300 and 600”
  • CNN News March 25, 2022 “ウクライナ、米国にミサイル提供を要望、「ジャベリン」と「ステインガー」1日各500基“
  • Military Today.com “FIM-92 Stinger”
  • Global Security.org. May 25, 2022 “Russo-Ukraine War – 24 March 2022”