ベテルギウス大減光の原因は超巨大コロナ質量放出!


2022-08-20(令和4年) 松尾芳郎

図1:(NASA, ESA, Elizabeth Wheatley/STScl) 「ベテルギウス」で巨大な「コロナ質量放出」が始まり収束するまでを4段階に分けて示した想像図。左の2枚は表層から高熱のプラズマが吹き出ている様子。3枚目は塵のガスが高速で噴出し濃い雲を形成、星の光を遮ぎる状態。4枚目は雲が晴れ星の光が見え始める状態。実際に撮影された写真は図2のようにもっとぼんやりしている。

図2:(ESO, M. Montarges et al)「 ベテルギウス」は1年で輝度が40 %に減光し、形も変わった。欧州南天天文台(ESO)の VLT (Very Large Telescope)が撮影した写真(2020年2月14日公開)。一年前はほぼ光度が全周に一様に分布していたが、2019年12月には暗くなり特に下半分の減光が著しい。

冬の天頂付近「オリオン座(Orion)」に見える赤色巨星「ベテルギウス(Betelgeuse)」の大減光が観測されたのは2019年10月、なぜ明るさがそれまでの1/3に減ったのか、天文学者達は研究を続けている。ハブル宇宙望遠鏡や他の天体望遠鏡の観測資料を調べて、減光の原因は、超巨大な「コロナ質量放出 (CME=coronal mass ejection)」、太陽から出る「CME」の4千億倍、であることを突き止めた。

(It’s been a few years since Betelgeuse significantly dimmed in the sky, and astronomers are still working what made the dim to one-third of its average brightness. Using the data obtained by Hubble Telescope and others, they have discovered, it was due to a gigantic corona mass ejection(CME) that released 400 billion times more materials than the sun eject.)

「ベテルギウス」はオリオン座の中で「リゲル(Rigel)」に次ぐ2番目に明るい赤色巨星。この星が2019年10月から輝度が落ち始め数ヶ月後には平均的な明るさの3分の1にまで減ってしまった。そして奇妙な事に2022年2月には元の輝きを取り戻した。これは星自体の輝度が変化したのではなく、星の周囲を覆う塵の雲の影響だったようだ。

NASAのハブル宇宙望遠鏡(HST)やその他の宇宙望遠鏡が撮影した映像を検討した結果、研究者達は「ベテルギウス」から放射された「表層質量放出 / Surface Mass Ejection (SME)」がその原因であることを突き止めた。2019年に大規模な質量放出が起こりそれが星の光を遮ったもの。これは我々の太陽表面でよく観測される「コロナ質量放出(CME)」と似た現象だ。

「ベテルギウス」では、この3ヶ月間で2回にわたり南半球で“爆発”が起き、その規模は太陽の「CME」の3,000万倍(30 million times)ほどもある巨大なものだった。そしてこれは太陽以外の恒星で初めて発見された「コロナ質量放出・CME」の現象であった。

「ベテルギウス」は大きく赤く輝いているので、オリオン座の左上に直ぐに見つけることができる。この星は周期的に脹らんだり縮んだりを繰り返す変光星で、これが太陽に位置にあれば、火星の軌道を呑み込み外周は木星に達する大きさになる。

図3:(MPIA graphics department) 超巨大な「質量放出」を起こした後の「ベテルギウス」の想像図。表面には巨大なスポットが空きその部分は輝度が低い。周期的な変動の中で周辺にガスを放出、塵の雲を作り出す。

「ベテルギウス」の大減光の原因を突き止めたのは、ハーバード&スミソニアン・センター天文物理学部門(Harvard & Smithsonian Center for Astrophysics (CfA)の天文学者「アンドレア・デウプリー(Andrea Dupree)」さんと「ハブル宇宙望遠鏡」の遠紫外線撮影像の資料などを分析した同僚である。1996年「デウプリー」さんと宇宙望遠鏡科学研究所 (Space Telescope Science Institute(STScl)の「ロナルド L. ギリランド(Ronald L. Gilliland)」氏はハブル望遠鏡を使って「ベテルギウス」の表面のホット・スポットの観測をした。これは太陽以外の恒星の表面を観測した最初の例である。

今回デウプリーさんとギリランド氏は、これまでの観測で判明している「ベテルギウス」の資料、写真から分光分析データまでを調べ、検討した。二人が調べた資料は;―

  • 「ステラ・ロボテイック望遠鏡(STELLA robotic observatory)」、(2006年にスペイン・テネリフェ島に設置された高分解能の分光分析望遠鏡)
  • 「フレッドL.ホイップル望遠鏡(Fred L. Whipple observatory)」の「テリンガスト・レフレクター・エコレ・スペクトログラフ(Tillinghast Reflector Echelle Spectrograph (TRES))」、
  • NASAの「ソーラー・テレストリアル・リレーションズ宇宙望遠鏡 (Solar Terrestrial Relations Observatory Spacecraft (STEREO-A))」、
  • 「アメリカン・アソシエーション・オブ・バリアブルスター・オブザーバー(American Association of Variable Star Observers (AAVSO))」、

この結果、「ベテルギウス」は2019年に“爆発”し大量の質量を宇宙に放出した、との結論に達した。

太陽の「コロナ質量放出 (CME)」と同じように、恒星の内部から浮上してくる超高温の“泡の柱(convective plume)”が大量の質量を放出したと考えられる。太陽では、この“柱”は、直径が100万km以上、質量は我々の“月”の数倍にもなる事がある。

「ベテルギウス」では、太陽の場合より遥かに巨大な力が発生して、広範囲の表面の質量を吹き飛ばした。これで恒星の表面には大きな低温のパッチができ、宇宙空間には巨大な低温の塵の雲を生み出した、と見られる。

このショックで「ベテルギウス」はまだ完全には以前の姿に戻っていない。「ベテルギウス」は 420日の周期で脈動を繰り返す“変光星”だったが未だそこまで戻っていない。「デウブリー」さんは、“元に戻るには200年ほど掛かりそうだ”と述べている(NASA press release)。

【「ベテルギウス」は現在も変わった姿を見せている。内部では振動が続いている。理由はわからない。これからもハブル望遠鏡を使って観測を続ける予定だ。】

図4:(NASA, ESA, Elizabeth Wheatley/STScl) 赤色巨星「ベテルギウス」が“爆発”、大量の質量放出をした期間の「光度の変化」を示した図。2019年末には光度が著しく低下した。

この観測結果から、赤色巨星が最後の“超新星爆発”を迎える前に、原子燃料を使い続けながらその質量を失って行く過程が見えるようだ。このような大質量の物質を失うことでこの星の将来に大きな影響が出るかもしれない。

太陽の「コロナ質量放出(CME)」は、この赤色巨星の「表層質量放出 / Surface Mass Ejection (SME)」よりも規模は遥かに小さく、両者は異なる現象の可能性がある。

NASAが公開する系外惑星資料などを収録した「TRES」や「ハブル望遠鏡」の観測データによると、「ベテルギウス」の表層は、やや表層に微細な振動があるものの元に戻りつつあり、安定化の方向にある。「デウブリー」さんによると、表層下にある対流渦(convection cell)の揺れが振動の原因らしい。ゆくゆくは「ジェームス・ウエブ宇宙望遠鏡(JWST)」の赤外線観測装置が使えるので、さらなる詳細な事実が判明するだろう。

これらの観測で「ベテルギウス」から放射された塵、雲の組成が判り、原因が突き止められるだろう。

太陽の「コロナ質量放出(CME)」

太陽の表面温度は約6,000度、ここから2,000 kmほど上空には100万-300万度の高温のプラズマがある。これが「コロナ」と呼ばれる太陽大気だ。コロナはフレアが突発的なエネルギー開放を起こす場所で、これにより大規模な質量放出が起きる。これが「コロナ質量放出/CME =Coronal Mass Ejection」である。「CME」の放出方向が地球に向くと、地球上に磁気嵐が発生、文明社会のインフラに大きな影響を及ぼす。

図5:(SOHO/LASCO ESA/NASA)2002年1月にESA/NASA共同開発のSOHOが捉えた「コロナ質量放出(CME)」の写真。白い円は太陽の位置。深紅色の円盤は太陽光遮蔽板。

図6:(NASA SDO)「太陽活動観測衛星/SDO=Solara Dynamics Observatory」は2010年打ち上げられ、太陽活動の観測を続けている。その前に打ち上げられた「SOHO」の後継機。地球をこの図に当てはめると直径1ミリ以下になる。

図7:(NASA SDO / Goddard Space Flight Center)「図:6」の拡大図。2012年8月31日にSDOが撮影した巨大フレア。この時「CME」は秒速1,500 kmの超高速で吹き出したが、方向が外れていたので地球には被害はなかった。

図8:(NASA  SDO) 2013年5月1日発生のコロナ質量放出/CME、数時間で収束。大規模なCMEは10億トンものガスを秒速数百キロで放出する。

ベテルギウスとは

赤色巨星ベテルギウス(Betelgeuse)についてJAXA・NASAの解説を基に復習して見よう。

この星は冬の天頂付近「オリオン座(Orion)」にある1等星(1等星は全天に21個ある最も明るい星々)、明るい赤色なので肉眼で良く見える。大きさは太陽の800倍近く*あるので、もし太陽の位置にあるとすれば、大きさは木星の軌道あたりまで広がっていることになる。

質量は、周囲を公転する惑星が知られていないので直接計算で求めることはできない。しかし種々な手法で計算され「ベテルギウス」の質量は太陽質量の20倍弱と推定されている。

(注)*:2020年にオーストラリア大学などの研究で「ベテルギウス」の大きさは[764太陽半径]と発表された。太陽半径は約70万kmなので、この764倍の大きさという事。この結果地球から「ベテルギウス」までの距離の推定値も改められ[500-640光年]となっている。蛇足だが地球の半径は僅か6,400 kmで太陽の100分の1以下に過ぎない。

太陽を含む恒星の中心部では、水素原子が核融合反応でヘリウム原子に変り、ヘリウム原子の中心核ができる。中心核は重力で次第に縮む。しかしその外側では核融合反応で水素からヘリウムが作られるようになり、今度は次第に膨らみ始める。膨らんだ星は、内部は非常に高温だが表面は太陽(6,000 K)などよりずって低温(3,500 K)となり赤く見えるので赤色巨星と呼ぶ。

太陽の20倍の質量の星は、誕生してから赤色巨星になるまで約900万年しかかからない非常に短命な星である。「ベテルギウス」は赤色巨星になってから4万年を経過している。

太陽質量の10倍以上の恒星は、中心核が崩壊して超新星爆発を起こし一生を終える。種々の観測の結果ベテルギウスは今後10万年以内に超新星爆発を起こし、中性子星として小型(太陽と同じ位の大きさ)の高密度天体として残ることになる。

太陽は一生を終える頃には、超新星爆発は起こさないが、次第に膨らみ外径が地球の軌道ほどになると考えられている。

赤色巨星の中心核は重力で縮むので温度が上がり、やがて炭素や酸素、さらにはシリコンや鉄まで次々に重い元素が作られる。爆発するとこれら原子は宇宙空間に飛散し、やがて長い時間をかけてお互いが集まってガスとなり、それらが再び集まりやがて新しい星が誕生する。

図9:(NASA )ハブル宇宙望遠鏡で撮影したオリオン座の写真。地球からこれらの星々までの距離は、ベテルギウス/725光年(2020年の研究発表でもう少し近くなった)、リゲル(Rigel)/850光年、オリオン座大星雲で知られるM42星雲/1300光年、最も近いのはγ星/255光年、最も遠いのは三つ星の真ん中にあるε星/1800光年である。このようにオリオン座に限らず全ての星座の星々は平板状ではなく遠近様々の距離にある。

写真の欄外右上のベテルギウスとラムダ星を結ぶ線の延長上には、最も見付けやすい星・牡牛座の1等星アルデバラン(Aldebaran)/67光年がある、また左下、リゲルとk 星を結ぶ線の延長上には、太陽以外で最も明るい恒星・シリウス(Sirius)/8.6光年/おおいぬ座、がある。

図10:(NASA/JAXA)オリオン座/ベテルギウスを見付けるため、その周辺にある「こいぬ座」および「おおいぬ座」の星々の関係位置を示した図。冬の天頂には、こいぬ座「プロキオン」、おおいぬ座シ「リウス」、とオリオン座「ベテルギウス」の星が大きな三角形となり容易に識別できる。

終わりに

太陽の800倍近い大きさ、重さ20倍程あるオリオン座の赤色巨星「ベテルギウス」の情報をまとめてみた。「ベテルギウス」の光度が数年前から落ち、超新星爆発の予兆かと騒がれたが、事実は大規模な「表層質量放出/SME」が発生、その塵の雲で本体の光が遮られたためと判った。「ベテルギウス」までの距離は725光年(NASA)なので、西暦1300年にこの減光が発生し、それが今地球に届いたわけである。

既述したが「ペテルギウス」の大きさは例えて言うと次のようになる。

「太陽を直径1 cmの球とした場合、ベテルギウスは直径7~8 mになる。この比較で言うと地球は僅か0.1 mmのけしの一粒に過ぎない」、まさしく超巨大な星である。

併せて太陽で発生する「コロナ質量放出/CME」の仕組みと、「ベテルギウス」を肉眼で観察するための“星座”を記載した。700光年離れた星を見付けて宇宙の広さを感じ取ってほしい。

追記

小河正義ジャーナリスト基金第4回の募集を開始しました。今回が最後になりますので、有終の美を飾れるよう、皆様のご協力をお願いします。

連絡、お問い合わせは下記「藤井良宏」氏宛にお願いします。

  • 藤井良広

一般社団法人環境金融研究機構代表理事

〒101-0063 東京都千代田区神田淡路町1-9-5

天翔御茶ノ水ビル303号

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小河氏は元日本経済新聞編集委員で、航空、宇宙、防衛、を始めとし医療、環境、デジタルなど広い分野の解説をするウエブサイト」TokyoExpress]を立ち上げた方です。趣旨に賛同し応募される方の資格は、次のように致します。すなわち、小河氏サイト内容に関連する分野で幅広い取材活動をしている若手ジャーナリストで、個人またはグループで活動されている方々です。

応募の趣意書を送って頂き、選考委員会で審査、選考し、入選者を決定します。入選は2件、各30万円を贈呈します。応募期間は2022年10月末までです。

第4回ジャーナリスト基金に応募されない方でも、本ウエブサイト「TokyoExpress」に投稿される方々を歓迎します。投稿ご希望の方は原稿を1~10ページ程度にまとめて私「松尾芳郎」宛にお送り下さい。メール・アドレスは [y-matsuo79@ja2.so-neet.ne.jp]です。

―以上―

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

  • Fraser Cain/Universe Today August 12, 2022 “Why Betelgeuse Dimmed” by Matt Williams 
  • NASA Aug 14, 2022 “Hubble Finds that Betelgeuse’s Mysterious Dimming is due toa Traumatic Outburst”
  • Space.com August 17, 2022 “Solar burst from ‘hole’ in the sun may trigger geomagnetic storms in Earth” by Tereza Pultarova
  • JAXA “太陽コロナー活動・加熱の源を求めて” by清水敏文
  • 天文学辞典 “コロナ質量放出”
  • アストロピクス 2019-08-05 “コロナ質量放出“
  • そらえ2022年8月15日“ベテルギウスの大減光、表面で起きた大規模な質量放出が原因だった可能性”
  • そらえ2020年10月19日“爆発にはまだ遠い、ベテルギウスは従来予想よりも小さくて近い星?”
  • TokyoExpress 2020-03-23 “赤色巨星ベテルギウスの減光は自身が放出するダストが原因か?“
  • TokyoExpress 2011-08-27 “太陽嵐/コロナ質量放出(CME)の観測技術が向上“