12式地対艦誘導弾(能力向上型)開発の現況


2022-08-15(令和4年) 松尾芳郎

政府は2020(令和2年)-12-18の閣議(安倍内閣)で「新たなミサイル防衛システムの整備等及びスタンド・オフ防衛能力の強化について」を決定、そこで“スタンド・オフ防衛能力強化のため当該装備品(長射程巡航ミサイル)開発を急ぐべし”と述べている。これが「12式地対艦誘導弾(能力向上型)」である。

(Japan accelerates to get new long range stand-off cruise missile, being developed since 2021, the missile will range more than 1,000 km, possibly up to 1,500 km, covering most of the  Chinese coastal military bases from the west of Japan’s islands. The missile, named “Type 12 SSM Enhanced Capability”, will have stealthy fuselage, larger wing, new turbofan and modern tactical datalink system.)

図1:(令和4年防衛白書PDF一括【58.2MB】三菱重工名誘提供)防衛白書別冊第IV部P.439に「12式地対艦誘導弾・能力向上型の開発」として「高出力マイクロ波照射技術」と共に示された風洞試験中の写真。ブースターを含む全長は9 m、胴体径は1 m、翼幅は4 m、胴体後部にはターボファン空気取入れ口が見える。「能力向上型」というものの「12式地対艦誘導弾」とは全く別物に見える。

令和4年版防衛白書(2022-7-22発行)のPDF一括・別冊に、三菱重工名誘で開発中の「12式地対艦誘導弾(以下12 SSMと略称)・能力向上型」の風洞試験の写真がある(図1)。

防衛白書「12式地対艦誘導弾・能力向上型」(参考資料)には大要次のように述べてている。

我国本土や島嶼に上陸侵攻が行われた場合を想定し、敵の攻撃圏外から敵を攻撃できる「スタンド・オフ防衛能力」を保有するため「12 SSM能力向上型」をできるだけ短期間で開発する。多様なプラットフォームから使用出来るよう「地発型」、「艦発型」、「空発型」を順次開発する。

図2:(防衛白書)「12 SSM・能力向上型」はマルチプラットフォーム化される。

図3:(防衛白書)「12式地対艦誘導弾・能力向上型」のイメージ。大型主翼、胴体、新ターボファンで “長距離飛翔性能”を達成、衛星利用の“誘導弾データリンク”で移動目標を正確に追尾でき、地上発射型だけでなく艦上発射型、航空機発射型を開発、“マルチ・プラットフォーム化する。

図4:(防衛白書)これまでの誘導弾開発は“研究事業”に5年、“開発事業”に10~15年、それから“量産配備”へと進めてきた。これに対し「12 SSM・能力向上型」では開発期間を5~7年に短縮し早急な配備を目指す。

図5:(防衛白書)「12式地対艦誘導弾・能力向上型」の開発スケジュール。(地発型)は2021年から開始2025年から配備予定だから、開発開始からわずか5年で実戦配備しようと言う計画だ。。(艦発型)は令和4年から開始2026年から配備予定。(空発型)は2028年/令和10年度に配備開始する。

現在配備を進めている「12 式地対艦誘導弾」は円筒形だが、「能力向上型」は大型化されステルス性を持たせるため平面を多用した形になっている。

図6;(防衛装備庁)「12 SSM能力向上型」試作仕様書。図上は「能力向上型」の要求寸法を示したもので、全長9 m以下、胴体幅1 m以下、主翼展張時の幅4 m以下。説明の上は左から(テレメータ、トランスポンダー、指令受信装置等)、(胴体部・総合弾用)、(主翼)、(分離装置)、(ブースター部)、下は左から(誘導部)、(燃料タンク)、(推進装置部)、(操舵翼)の位置を示している。図下の枠線は発射筒(ランチャー)の内側寸法(長さ9.1 m幅1.2 m、高さ1 m)を示す。

エンジンは、川崎重工・航空宇宙システムカンパニーが試作中のKJ300ターボファン、推力365~400 kgf、重量90 kg、エンジン直径35 cm、全長85 cm、の2軸式、これを「12 SSM能力向上型」用に改良して2022年度中に納入する。

川崎重工は、空自、陸自の訓練で使う小型標的機 QM-2を開発納入する実績があり、そのエンジン「KJ14」1軸式ターボジェット推力70 kg、も開発している。「KJ14」は、コンプレッサー/タービン共に遠心式・一体構造のモノローター方式。これを大型化したのが1軸ターボジェット「KJ100」推力400 kgfである。これをベース「KJ300」が作られる。

図7:(Kyoto-seikei)川崎重工製「KJ300」とされる写真。一部のニュース・サイトでは「KJ100」として紹介している。

「12式地対艦誘導弾(SSM 12)・能力向上型」のシステム全体の構成は、「88式地対艦誘導弾(SSM 1)」とほぼ同じだが、発射装置/ランチャーの形が円筒形から角形に変更されている。システム構成は次の通りでいずれも車載型である;―

・捜索標定レーダー装置2基

・中継装置1基

・指揮統制装置1基

・射撃管制装置1基

・誘導弾6発搭載の発射機1~4両

・弾薬運搬車1~4両および予備弾6発を搭載するトラック

図8:(防衛白書)「12式地対艦誘導弾・12 SSM(改)」発射の様子。「12 SSM」は円筒形で主翼は「能力向上型」に比べ小さい。射撃姿勢は垂直に近く、目標の方向に関係なく空中で向きを変えて飛翔する。発射機・ランチャーは全長18 m、2002年から使われている重装輪回収車 (8 WD)の後部を誘導弾6発搭載するよう改造した車両。「能力向上型」も同じ。

図9;(陸自調査団)「12式地対艦誘導弾・12 SSM(改)」発射機(ランチャー)を後ろから見たところ。

「12式地対艦誘導弾・12 SSM」は(改)を含めて、2012年度から配備が始まり2022年度までに発射機車両で22セットが調達され、陸自富士学校に2セット、それから西部方面特科隊・第5地対艦ミサイル連隊(熊本健軍基地)に配備されている。ここから逐次南西諸島方面に展開中。

熊本、沖縄本島から射程1,000 kmの範囲には韓国全土、北朝鮮の大半、中国の東シナ海沿岸地域全てが入る。「能力向上型」の配備が進めば相当な抑止力効果が期待できる。

図9:(防衛白書)九州、南西諸島方面への主要部隊(“03中SAM”および“12 SSM”)の配備状況。”03中SAM”は「03式地対空誘導弾システム」で、その(改)型は低空で飛来する敵巡航ミサイルへの迎撃能力を向上したもの。”12 SSM“ の配備基地だけでなく重要拠点の防空システム/地対空誘導弾部隊として配備される。

「能力向上型」の特徴をまとめると;―

  • 大型化と主翼の装備で射程が「12 SSM」の200 kmから1,500 kmに延伸、敵の攻撃圏外から攻撃可能な「スタンド・オフ能力」を持つ
  • ステルス形状でレーダー反射面積(RCS)が小さく、亜音速ミサイルだが迎撃が難しい
  • 衛星データ・リンク・システムを搭載、常時最新のデータを入手し、移動目標の追尾能力が向上する

終わりに

「12式地対艦誘導弾・能力向上型」の現状について紹介した。配備中の「12式地対艦誘導弾・12 SSM(改)」に比べ射程が大幅に伸び十分な“スタンド・オフ攻撃能力”を持ち、衛星データリンク“システムで目標追尾能力が向上して、令和7年度/2025年度には部隊配備が始まる。これで、やっと我国を脅かす近隣諸国に対する有効な”反撃能力“を保有できる。

「12 SSM」は米国で高く評価されている。元米国務省日本部長ケビン・メア氏は「日本は地対艦ミサイル12 SSMをウクライナに供与せよ」と日本政府に要望している(国家基本問題研究所第931回報告 (2022-06-20))。

その中で、ウクライナを支援するために日本はもっと多くのことをなすべきだ、「12 SSM」射程200 kmをウクライナに供与するには日本政府の政策“殺傷兵器の輸出禁止”の変更が必要なことは承知している。しかし政府の例外的な政策変更を求めたい。と主張している。

―以上―

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

  • 令和4年防衛白書別冊PDF一括「58.2MB」・第IV部「防衛装備・技術に関する諸施策」439ページ
  • 令和4年防衛白書「12式地対艦誘導弾能力向上型(参考資料)
  • Yahoo 2022-07-22 “ステルス巡航ミサイルとなった12式地対艦誘導弾(能力向上型)“by JSF軍事/生き物ライター
  • 川崎重工技報179号2018年5月“小型標的機の開発―独自技術による低コスト化” by井田英次他7名
  • TokyoExpress 2021-01-10 “12式地対艦誘導弾の後継、長射程の「12式地対艦誘導弾能力向上型」の開発が決定“