2022-09-13(令和4年) 松尾芳郎
ジェームス・ウエブ宇宙望遠鏡(以後 [JWST] James Webb Space Telescopeと略称)が太陽を周回する軌道上の観測位置「ラグランジェ・L2点」に到着、観測を開始、NASAは7月12日に「最初の画像 (First Image)」を発表した。
(IWST was launched from French Guiana in 2021, and arrived L2 point on Sun circulating-orbit. NASA released JWST’s First Image of unseen Universe at July 12, 2022)
- 「最初の画像」は銀河系内のカリーナ星雲
図1:(NASA, ESA, CSA and STScl.)「カリーナ星雲(Carina Nebula)」にあるNGC 3324と呼ぶ星の生成領域の写真で、濃いガス雲の境界付近で生まれつつある沢山の星々が輝いて見える。
NASA長官ビル・ネルソン(Bill Nelson)氏は語っている、「これは、これまで見ることの出来なかった深宇宙の世界を、ウエブ望遠鏡の赤外線探査能力で明らかにした最初の画像である。これからJWSTの活躍で宇宙の未知の領域が次々と明らかにされるだろう。」
JWSTは、今まで判らなかった宇宙の姿、太陽系の近くにある系外惑星から宇宙の始まりを示す最も遠い銀河の深宇宙までを調べ、人類に新しい知識をもたらしてくれる。
「カリーナ星雲」は、南半球の夜空に見える星雲。この星雲の中には「りゅうこつ座η星」と明るく輝く「恒星HD93129A」がある。地球から6500~10000光年の距離にあり、「オリオン座」の4倍も明るい。
- 地球から355光年離れた恒星を周回する系外惑星の直接撮影に成功
図2:(NASA/ESA/CSA, the ERS 1386 team, and A. Pagan(STScl)) JWSTで直接撮影した系外惑星NIP 65426bの写真。異なる波長帯の赤外線で撮影した初の系外惑星の画像である。
左端「紫」は「NIRCam」計測器で3.00ミクロン波長で撮影、「青」は「NIRCam」計測器画像で4.44ミクロンで撮影、「黄色」は「MIRI」計測器画像で11.4ミクロンで撮影、右端「赤」は「MIRI」計測器画像で15.5ミクロンで撮影。撮影にはいずれも「コロナグラフ(coronagraph)」・マスクを使って恒星の光を遮り惑星を直接撮影した。各写真右上にある白色の“星”印は「コロナグラフ」で遮られた「恒星 HIP 65426」の位置を示す。この周りを系外惑星は周回している。左2枚「NIRCam」で、中心にある系外惑星の像の上下にある“棒状”像は、望遠鏡で生じた鏡面収差の像。
ジェームス・ウエブ宇宙望遠鏡(JWST=James Webb Space Telescope) が捉えた最初の系外惑星の写真がこれである。この系外惑星はHIP 65425 bで、地球から355光年離れたA型恒星 HIP 65425を周回しているガス惑星だ、太陽系にある木星の6~12倍の質量がある。恒星から惑星までの距離は92 AU ( 1 AUは地球-太陽間の距離で約1億5000万キロ) である。太陽と木星の距離・7億8000万キロ /約5 AUに比べると桁違いの遠方を回っている。誕生してからまだ2千万年ほどしか経っていない若い星。生命存在の可能性は無い。
この惑星はチリにある欧州南天文台(European Southern Observatory)のVLTで短波長赤外線の観測で2017年に発見された。天文学者たちは、JWSTは長波帯赤外線を使うので、新たな発見がありそうだと期待していた。JWSTには「近赤外線カメラ/NIRCam= Near-infrared camera」と「中赤外線カメラ / MIRI=Mid-infrared instrument」(それぞれコロナグラフ付き)が搭載されている。
系外惑星はハブル宇宙望遠鏡や地上設置型のジェムニ惑星望遠鏡などで、これまでに数十個発見されている。しかし今回はJWSTによる最初の映像で、これから多くの系外惑星の探査が行われるものと期待されている。
今回は JWSTの「初期観測画像公開プログラム(JWST’s Early Release Science Program)」の中の一つとして公表された。このプログラムは、天文学者を含む世間一般に、JWSTで可能な観測レベルを知って貰うための言わば広報活動である。
系外惑星 HIP 65425b は JWST搭載の7個の観測フィルターを透して観測されたが何れも5ミクロンの精度で明瞭な画像が得られた。これまでの観測精度は11.4および15.5ミクロンであったに比べると大きな技術的飛躍と言える。
図1で見る通り素人目には単なるスポットにしか見えないが、天文学者はこれから多くの事、すなわち色・季節の変動・自転速度・気象さらには一周する期間(地球の1年に相当する時間)までも探りだすことができる。HIP 65425bは630.7年もの長い時間をかけて恒星を周回している。
系外惑星HIP 65425bは恒星HIP 65425に比べて、明るさは近赤外線で1万分の1、中赤外線で数千分の1程度なので相当に暗い。「コロナグラフ」で恒星の光を遮断しないと撮影はできない。
- 砂塵の雲に覆われた不思議な“惑星”を発見
図3:(NASA/JPL-Caltech) 褐色矮星 VHS 1256 b は木星の20倍の大きさ、地球から72光年の位置にあり、厚い砂状の激しく動く雲に覆われている。
JWSTは砂のようなシリカ粒子(silicate grain)の雲に覆われた奇妙な“惑星”を発見した。こ
の“惑星”はJWSTのNIRSpecおよびMIRI計測器で撮影したもので、「褐色矮星 (Brown Dwarf) 」の一種、太陽系の木星の20倍の大きさである。『褐色矮星』は奇妙な星で、恒星のように水素の核融合反応で光と熱を発生できるほど大きくなく、しかし通常の惑星よりずっと大きい星で、重水素/deuterium (水素の同位元素で原子核が陽子1つと中性子1つで構成)を燃やして光と熱を出している。
この褐色矮星はVHS 1256 bと名付けられ、地球から72光年離れた位置にあり、南半球の夜空に見える[うし座]にある2個の「赤色矮星」の周りを回っている。2016年に発見されたが、なぜ薄暗い赤色に鈍く光るのか分からなかった。JWSTの観測でこのVHS 1256 bは砂状のシリカ粒子の厚い雲に覆われていることが判明した。さらに今回その大気中に、水、メタン、一酸化炭素、ナトリウム、カリウムが含まれていることを突き止めた。また、これらの含有比率が刻々変化するので、厚い雲が激しく動いていることが明らかになった。
VHS 1256 bは褐色矮星としては小型で、誕生してから比較的若い、そして2個の赤色矮星から360 AU (1 AUは地球-太陽間の距離で約1億5千万キロ)離れた楕円軌道を17,000年も掛けて周回している。
- 傍系銀河“大マゼラン雲”内にある“タランチュラ星雲”の細部を撮影
図4:(NASA, ESA, CSA, STScl, Webb ERO Production Team)写真は340光年の範囲をカバーするもので、JWSTの「近赤外線カメラ (NIRCam =Near-Infrared Camera)で撮影した「タランチュラ星雲(Tarantula Nebula)」。薄青色の部分を含む中心部が星々が活発に誕生している部分。これまでは宇宙塵に遮られ見ることができなかった場所だがJWSTにより発見された。
JWTSは、地球から161,000光年にある別の宇宙「大マゼラン雲(Large Magellanic Cloud)」の中にある「タランチュラ星雲 (Tarantula Nebula)、別名「30 Doradus(かじき座30番星)」の詳細を撮影するのに成功した。JWSTに搭載してある「近赤外線カメラ(NIRCam=Near-Infrared Camera」、近赤外線分光分析計 (NIRSpec=Near-Infrared _spectrograph)、中赤外線計測器 (MIRI=Mid-Infrared Instrument)、を使って、これまで薄い塵やガスに遮られて撮影できなかった若い星々の生まれる区域の詳細を映し出した。写真の”full-sized version”をダウン・ロードすれば星々のさらに詳しい姿とその周囲の塵・ガスまで見る事ができる。
薄青色の大量の若い星々から出る光で、誕生する区域の周りを囲んでいる“巣穴”のガスが明るく反射して見える。
我々の「銀河系宇宙」は直径10万光年の棒状渦巻き状銀河である。「大マゼラン雲」は「銀河系」から最も近い銀河で16万光年しか離れていない。直径は2万光年、そしてその中には、我々が知り得る最も活発な星々の誕生する区域「タランチュラ星雲」がある。
「銀河系」の中ににも新しく星々が誕生している区域が多く発見されている。本ウエブサイトでも度々紹介した、オリオン座三つ星近くにあるM42オリオン大星雲はその一つ。地球から1,300光年の距離にあり、大きさは24光年。しかし「タランチュラ星雲」は「M42オリオン座大星雲」より遥かに大きく、遥かに活発にもっと大量の星が形成されている場所である。
次に示す図5は、図4を撮影した近赤外線カメラ(NIRCam)より長い波長の中赤外線カメラ(MIRI)で撮影した映像。これでは熱い星の輝きは薄くなり、低温のガスや塵がよく見えいる。
図5:(NASA, ESA, CSA, STScl, Webb ERO Production Team) この写真は「中赤外線計測器(MIRI=Mid-Infrared Instrument)」で撮影した「タランチュラ星雲」の中心部。前図の真ん中でオレンジ色に輝く星がここでは“青く”写っている。しかしこの波長では前図で見えていた薄青色の若い星々の集団は、手前にある塵・ガスに遮られてはっきり見えない。薄青い沢山の模様は、大量に存在する炭化水素(hydrocarbon) のガスが星々からの光で薄青の紫がかった雲のように光って見えている様子。
- 終りに
NASAは、世界で最も強力な宇宙望遠鏡JWSTが撮影したこれらのカラー写真と関連する分光分析データを発表することで、世間の宇宙に関わる知識を増やすことに成功した。これからの一層の活躍を期待したい。
JWSTはNASAとESA(European Space Agency)、CSA (Canadian Space Agency)、の共同開発したシステムで、ミッション運営はメリーランド州グリーンベルト(Greenbelt, Maryland)にあるNASAのゴダード宇宙飛行センター(Goddard Space Flight Center)が担当している。
追記
小河正義ジャーナリスト基金第4回の募集を開始しました。今回が最後になりますので、有終の美を飾れるよう、皆様のご協力をお願いします。
連絡、お問い合わせは下記「藤井良宏」氏宛にお願いします。
- 藤井良広
一般社団法人環境金融研究機構代表理事
〒101-0063 東京都千代田区神田淡路町1-9-5
天翔御茶ノ水ビル303号
電話 03-6206-6639
Email green@rief-jp.org
- 藤井良宏氏のオフィスは9月20日から次に変わります。
〒101-0063 東京都千代田区丸の内3-2-2丸の内二重橋ビル5階
日本外国特派員協会 気付
(一社)環境金融研究機構 藤井良広
Email green@rief-jp.org
小河氏は元日本経済新聞編集委員で、航空、宇宙、防衛、を始めとし医療、環境、デジタルなど広い分野の解説をするウエブサイト「TokyoExpress」を立ち上げた方です。趣旨に賛同し応募される方の資格は次のように致します。すなわち、小河氏サイト内容に関連する分野で幅広い取材活動をしている若手ジャーナリストで、個人またはグループで活動されている方々です。
応募の趣意書を送って頂き、選考委員会で審査、選考し、入選者を決定します。入選は2件、各30万円を贈呈します。応募締め切りは2022年10月末までです。
- 「TokyoExpress」に投稿ご希望の方
第4回ジャーナリスト基金に応募されない方でも、本ウエブサイト「TokyoExpress」に投稿される方々を歓迎します。投稿される方は原稿を1~10ページ程度にまとめて「松尾芳郎」宛にお送り下さい。メール・アドレスは 「y-matsuo79@ja2.so-net.ne.jp」です。
―以上―
本稿作成の参考にした主な記事な次の通り。
- NASA JWST September1, 2022 “NASA’s Webb Takes its First-Ever Direct Image of Distant World” by Alise Fisher
- Fraser Cain / Universe Today September 2, 2022 “JWAT takes its First Image of an Exoplanet”
- Space Com September 7, 2022 “James Webb Space Telescope spots alien planet shrouded in weird sand-filled clouds” by Tereza Pultarova
- NASA Webb Telescope Sept 6, 2022 “ACosmic Tarantula, Caught by NASA’s Webb”
- Fraser Cain / Universe Today September 9, 2022 “Wow! Here’s Webb’s View of the Tarantula Nebula” by Nancy Atkinson