米英・NATO各國、ウクライナ支援を増強


2022-11-29(令和4年) 松尾芳郎

米国防総省は11月23日に、ウクライナが緊急に必要とする装備、合計4億ドルの追加援助を決定した。これはバイデン政権が発足した2021年8月以降、26回目のウクライナ支援となる。英国政府は11月23日の発表で、就任間もないスナク首相がキーウを訪問、5,000万ポンドの追加援助を申し出た。

(On November 23, the U.S. Department of Defense announces the authorization of a Presidential Drawdown of security assistance valued at up to $400 million to meet Ukraine’s critical needs. This authorization is the Biden Administration’s twenty-sixth drawdown of equipment form DOD inventories for Ukraine since August 2021. U.K. announced additional military aid after new Prime Minister Rishi Sunak visited Kyiv at a few days ago, where announced 50 million Pound package aid.)

今回の米国からの支援は次の通り;―

  • 先進地対空ミサイル・システム「NASAMS(ナサムス)」用の対空ミサイルの追加*
  • 無人機迎撃用対空重機関銃システム(熱感知照準装置付き)を150セット*
  • 高機動ロケット砲システム「HIMARS(ハイマース)」用ロケット弾の追加
  • 「155 mm榴弾砲」用の精密誘導弾を200発
  • 「120 mm迫撃砲」用の弾丸12,000発
  • レーダー電波を受感・攻撃/破壊する対レーダー・ミサイル「AGM-88 HARMS (High-speed Anti-Radiation Missile)」の追加*
  • 高機動多目的装輪車両「HMMWV(ハマー)(High Mobility Multipurpose Wheeled Vehicles)」の追加150輌
  • 軽戦闘車両「light tactical vehicles」の追加100両以上
  • 小火器用弾丸20,000発以上
  • 発電機200台以上
  • 105 mm榴弾砲用の予備部品その他*

「*」印付きについては後述する。

ロシアによるウクライナの電力、エネルギー施設に対するミサイルや無人機による攻撃が繰り返されているため、対空防御兵器の配備充実が緊急の課題になっている。今回の米国による支援はこれに重点を置いた措置である。

今回の支援で、ロシアによるウクライナ侵攻開始(2022-2-24)以来ウクライナへの米国の支援総額は190億ドル(2兆6000億円)以上に達した。

英国政府発表(23 November 2022)によれば、「英国はウクライナに対し、新たに榴弾砲弾薬、ヘリコプター、対地攻撃用ブリムストーン2・ミサイルなど総額5,000万ポンド(8,300億円)の供与を決定または供与済み」と発表した。これは、英国の新首相「リシ・スナク (Rishi Sunak)」氏がウクライナの首都キーウ(Kiev)を訪問、援助の概要を説明、その後国防大臣「ベン・ワレース(Ben Wallace)」氏がノルウエイで行われた北ヨーロッパ国防相会議の席上で明らかにした。内容は次の通り;―

  • 榴弾砲弾丸を10,000発
  • 偵察・救難用「シー・キング」ヘリコプターを3機*
  • 無人機迎撃用対空重機関銃システム125セット(レーダー付き)*
  • -20度Cの厳寒に耐えられるウインター・キット

以下に“*”印項目の内容を述べる;―

先進地対空ミサイル・システム「NASAMS(ナサムス)=National Advanced Surface-to-Air Missile System」

[NASAMS]は、短・中射程用の地上配備型の対空ミサイル・システムで、ノルウエイのコングスバーグ(Kongsberg Defense & Aerospace=KDA)と米国レイセオン(Raytheon Missile & Defense)が共同開発したシステム。これは、UAV、巡航ミサイル、および有人航空機の迎撃に効力を発揮、現在使われている多種類のミサイルを発射できるのが特徴。

「NASAMS」は、初期は空対空中射程ミサイル「AIM-120 AMRAAM(アムラーム)」のみを使っていたが、改良型の「NASAMS 2」では、戦術データ・リンク「Link-16」が接続された(2007年)。NATO諸国では、これを地上設置型から車載型に変更、発射点変更を速やかに行えるようにした。

2019年からは「NASAMS 3」の配備がスタート、これで短射程空対空ミサイル「AIM-9X Sidewinder(サイドワインダー)」、「IRIS-T SLS」射程25 km、および長距離型「AIM-120 AMRAAM-ER」射程50 km、などが使用可能になり、米軍でも車載搭載型を採用した。

2022年6月、米国防総省はウクライナに8億2000万ドルの支援を決めたが、その中で初めて「NASAMS」の供与を決めている。

この時の供与は、「NASAMS」発射中隊2個中隊分として、ミサイル・ランチャー12輌。そして同年8月にはランチャー6両と搭載ミサイルを追加した。

2022年11月7日にこれらがウクライナに引渡され、11月15日のロシアからのミサイル一斉攻撃の防御に使われた。この時は10発のミサイルを発射、ロシア軍ミサイル10発を撃墜するのに成功した。

「NASAMS 2」発射中隊の構成は、4個小隊で編成される。各小隊は、ミサイル・ランチャー3両(それぞれ「AIM-120 AMRAAM」などミサイルを6発ずつを搭載)、改良型レーダー「AN/MPQ 64 F1 Sentinel」1輌、指揮車両(Fire Distribution Center=FDP) 1輌、および電子光学センサー装備観測車「MSP 500」1輌、で構成される。

[NASAMS]は、現在15ヶ国で使われ、米国では首都ワシントン防衛のため2005年から任務に就いている。

図:1(Kongsberg)「NASAMS 2」の発射

図2:(Kongsberg)「NASAMS」の標準構成は、ミサイル・ランチャー3両(各種ミサイルを6発ずつ搭載)、改良型レイセオン製レーダー「AN/MPQ 64 F1 Sentinel」1輌、指揮車両(FDC=Fire Distribution Center) 1輌、電子光学センサー装備観測車「MSP 500」1輌、それにミサイル補給車輌で構成される。

図3:(Kongsberg)「NASAMS」ランチャーに搭載するミサイルは、「AIM 9X 2」サイドワインダー、「AIM 120 AMRAAM」、「AIM 120 AMRAAM ER」、など多種。

ドイツは2022年6月に、対空ミサイル「IRIS-T-SL (Infra-Red Imaging /Tail・赤外線画像-尾部制御)」ランチャー4輌をウクライナに供与することを決定、同年10月から引渡しを開始。ウクライナ軍は10月19日、首都キーウ北30 kmの「Chernihiv Oblast」で来襲するロシア・ミサイルを撃墜した。続いて10月30日、11月15日のロシア軍ミサイル攻撃(カリブル巡航ミサイルを含む)の迎撃・撃墜にも成功した。ウクライナ軍によると100発100中だったと云う。

図4:(Defense Industry of Ukraine Photo by Timm Ziegenthaler)ドイツ供与の「IRIS-T SL」対空システムのランチャー。MAN製 8 x 8トラックにミサイル収納コンテナー4または8個を搭載する。

図5:(Wikipedia)「IRIS-T」ミサイルはドイツ・デイール(Diehl Defence)を中心にイタリアなど欧州6ヶ国が共同開発。重量87 kg、長さ2.94 m、直径12.7 cm、射程25 km、速度マッハ3、目標の赤外線を受感しながら飛翔・着弾する。

対レーダー・ミサイル「AGM-88 HARMS (High-speed Anti-Radiation Missile)」

11月24日の外電によると、「9月26日夕刻ウクライナ軍のMig-29戦闘機が発射した対レーダー・ミサイル「AGM-88 HARMS」2発がウクライナ東部ドネツク州クラマトルスクの民間人用集合住宅に着弾、これで付近の住民数名が負傷した]と伝えた。着弾ミサイルの破片から「AGM-88B HARMS」であることが判明した。Mig-29戦闘機にはこのミサイルを使う装置を搭載していないので、米国はミサイルのソフトを改修、発射できるようにしたと云う。

「AGM-88 HAEMS」は、戦闘機に搭載、敵防空網から照射されるレーダー電波を受感、電波発射源に向かい自律誘導し、敵レーダーを破壊する空対地ミサイルである。これを搭載するには航空機側に、HARMS専用コンピューター(CLC)、HARMS操作パネル(HCP)、HARMS目標指示装置(HTS)など、の搭載が必要である。

図6:(Wikipedia)「AGM−88 HARM(ハーム・High-Speed Anti-Radiation Missile/ 高速対輻射源ミサイル)」は、レイセオン(Raytheon Missile & Defense)が生産中、戦闘機に搭載する対レーダー・ミサイル。1983年から生産中でA型からD型までと最新のE型「AARGM」がある。重さ355 kg、長さ4.17 m、直径25 cm、速度マッハ2+、射程150 km。敵防空レーダー網の破壊に有効なミサイルだ。

105 mm榴弾砲

「ウクライナ・ウエポン・トラッカー(Ukraine weapons Tracker)」によると、米国防総省はウクライナに対し、「M119A3 105 mmデジタル化牽引式榴弾砲 (digitalized light towed gun)」16基とその弾薬36,000発の供与を決めた、と報じた (2022-8-29) 。

「M119」榴弾砲は、英国の「L119」榴弾砲を米国でライセンス生産・国産化し、1989年から米陸軍第7歩兵師団で使用開始した小型榴弾砲である。

「M119A3」はその最新型で、新しいソフト、ハード部品、航法にGPS、砲手用にデジタル表示盤、友軍の砲との連携や砲撃指令センターとの連携に使うデジタル通信装置を備えている。さらに砲の位置固定用に「SLOS=suspension lockout system」を装備している。

「M119A3」は、ロケット付き弾丸なら射程19.5 km、普通弾なら射程14 kmで、発射速度は毎分6発とされる。

またリトアニア(Lithuania)は、第二次大戦中に米国から供与された、旧式の「M101M2A1 105 mm牽引式榴弾砲」をウクライナに供与すると決めた。

図7:(Twitter account Ukraine Weapon Tracker)「M119A3 105 mmデジタル化牽引式榴弾砲」の操作訓練を受けるウクライナ軍兵士。重量は2.1 ton と軽いので、HMMWV(ハンビー)」や2.5 ton トラックで容易に牽引できる。

偵察・救難用「シー・キング(Westland WS-61 Sea King SAR)」ヘリコプター

「ウエストランドWS-61 シー・キング」は、米国「シコルスキーS-61」ヘリコプターをウエストランド社がライセンス生産したヘリだが、エンジンはロールス・ロイス製「ノーム(Gnome)」ターボシャフト出力1,600軸馬力2基に換装、対潜水艦装備を英国製にするなど改良している。1969~1996年の間に340機ほど生産された。現在では近代的な NH Industries 製NH90、Augusta Westland製AW101などに更新されている。

(Augusta Westland 社は、後にEHI社となり、AW 101はEH 101に名称変更されている、日本では川崎重工がMCH-101としてライセンス生産、13機を製造、海自に納入済み)

今回英国が無償供与する3機のWS-61ヘリコプターは、英海軍・空軍で使われ退役したものでウクライナが受け取る最初の西側製ヘリとなる、シー・キングはこれから偵察・救助(search and rescue)ミッションに使われる。ウクライナ軍パイロット、整備要員はこれまで6週間英国で訓練を受けてきた。

図8:(Westland)英海軍(RN)の Westland WS-61 Sea King SAR Helicopter。乗員2~4名、最大離陸重量9.5 ton、巡航速度110 km/hr、航続距離1,200 km。兵装はMk 44またはMk 46魚雷4基を搭載する。

英国「ブリムストーン(Blimstone) 2」ミサイル、ウクライナが受領

「ブリムストーン2」ミサイルは最新型のレーザー誘導ミサイルで、英国から受領中。「ブリムストーン」はヨーロッパ最大の防衛企業「MBDA」社が開発した空対地ミサイルである。

これを地上発射型にした「ブリムストーン(1)」はすでに数百発がウクライナに供与され、対ロシア戦に使われてきた。長さ1.8 m、直径18 cm、重さ50 kgで、ミリ波レーダーとレーザーで誘導、20 kmの距離から、6.3 kgの炸薬で重装甲の戦車を破壊する。

2010年、性能を著しく向上した「ブリムストーン2」が完成、英国軍に納入が始まった。改良の重点は、弾頭の誘導装置(warhead / homing head)とロケット部分、特にシーカーの改良、構造のモジュール化、ソフトの改善、など。これにより命中精度を一段と向上、射程の延伸・60 kmに成功。2016年英空軍のユーロファイター・タイフーン戦闘機などから高速で走行する車両に向け発射、11発中10発の命中に成功している。

英国防総省(UK DoD)は、ウクライナに地上発射型の「ブリムストーン2」の供与を決定(2022年4月)、5月に訓練を実施、ウクライナ軍は、戦線のはるか後方に位置するロシア軍戦車部隊を攻撃、破壊に成功している。

図9:(MBDA)「ブリムストーン2」ミサイル

無人機迎撃用対空重機関銃システム

米英両国が供与するモデルは未公表だが、米陸軍が使用中の重機関銃システム「M134」Minigunあるいは「GAU-19」のいずれかと考えられる。両者共に多銃身回転式で高速射撃が可能な汎用銃システム。

「M134」は、口径7.62 mm NATO弾使用・6銃身の高速機関銃、毎分最大6,000発の射撃が可能

「GAU-19」は、口径12.7 mm NATO弾使用・3銃身の高速機関銃、毎分1,300発の射撃が可能、米国では陸軍、海兵隊、海軍で多数使われている。

対航空機用には口径20 mmの「M61バルカン(Vulcan)」が使われるが、小型・中型の無人機迎撃用には、口径7.62mmまたは12.7 mmの銃で十分と考えられる。一部外電は、供与が決まったのは汎用性の高い「GAU-19」ではないか、と推定している。

図10:(U.S. Navy You tube) 「M134 Minigun」を発射する兵士。口径7.62 mm NATO弾を使用、6銃身回転式機関銃

図11:(GD GAU-19 You Tube) 「GAU-19」軽量機関銃システムは、車載型、ヘリコプター搭載型、艦艇搭載型と多くがある。口径12.7 mm NATO弾を1,300発/分の発射速度で、UAV、有人航空機、などを迎撃できる。

終わりに

米英2カ国に限らず、他のNATO諸国から様々な防空システムがウクライナに供されている。スペインは地対空ミサイル「アスピーデ」、既述したがドイツは「IRIS-T」を10月から供与、ロシアからのミサイル攻撃の防御に活躍している。リトアニアは、自国開発の電子銃「スカイワイパー」50基を供与、来襲する無人機の航法装置・通信装置を電子的に破壊、無能化するのに効力を発揮している(Yahoo CNN 11月19日 Newsweek)。

翻って我が日本政府のウクライナ援助はどうか。外務省発表(2022-9-26)で、3億ドルの緊急人道支援を表明、うち2億ドル分を実施中で、防弾チョッキ、ヘルメット、防寒服、などを供与した、とされる。また、11月22日に林外務大臣は、発電機、ソーラー・ランタンを新たに送付すると発表した。しかし、これらは他の西側諸国の援助に比べ、内容や金額が著しく劣る、いわば最低限のお付き合いと言ったところ。

岸田首相、林外相は度々ヨーロッパを訪問しているが、まだ一度もウクライナに行っていない。NATO諸国首脳の対応と余りにも掛け離れている。

―以上―

本稿作成の参考にした記事は次の通り。

  • Global Security org. November 23, 2022 “$400 Million in Additional Assistance for Ukraine”
  • Wikipedia “NASAMS”
  • Raytheon Missile & Defense “NASAMA”
  • Kongsberg “NASAMS is the world’s first operational Network Centric Short to Medium Range Ground Based Air Defense System”
  • Air Force Fact Sheet Display “AGM-88 HARMS”
  • Eurasian times com. Nov. 21, 2022 “Ukraineian MiG-29 Fighter fires AGM-88 Anti-radiation Missile against Russia” by Ashish Dangwal
  • Army Recognition.com. 2022-9-3 “US to deliver M119A3 105 mm digitaized light towed guns to Ukraine”
  • Gov. UK 23 November 2022 “UK to give artillery rounds and helicopter and part of military aid to Ukraine”
  • Aviaci onkine.com. 2022-11-23 “UK donates three Sea King helicopter to Ukraine” by Gaston Duois
  • Defense Industry of Ukraine 21 November 2022”Ukraine received Brimstone-2 missiles form UK”
  • Wikipedia “Brimstone missile”
  • Technology Org. / Science & Technology News November 25, 2022 “Hevy machine guns against dronees: U.S. to provide 150 units of these formidable weapons for Ukraine”
  • Yahoo CNN 11月19日Newsweek “ウクライナへの対空ミサイル・システム援助“
  • TokyoExpress 2022-09-21 “米、追加軍事支援6億ドルを発表“