「新型コロナ」が共存するとき


2022-12-8(令和4年) 木村 良一(ジャーナリスト、元産経新聞論説委員)

■同時流行の兆しが見える黄色信号

図:神宮外苑で晩秋の紅葉を楽しむ人々

 新型コロナウイルスの新規感染者数が1日当たり10万人を超え、第8波の襲来が懸念されている。インフルエンザとの同時流行もその兆しが表れ、厚生労働省が警戒中だ。

 同時流行について厚労省は南半球のオーストラリアの新型コロナとインフルエンザの流行状況などから1日当たりの最大の感染者数を新型コロナで45万人、インフルエンザで30万人の計75万人に上ると予測し、感染状況を青色、黄色、赤色の3段階に分けて注意と対策を呼びかけている。青色は落ち着いた状況で、黄色は同時流行の兆しが見える、赤色は同時流行で医療逼迫が懸念される-だ。11月18日には対策会議を開いて青色から黄色の段階に引き上げた。

 対策会議で加藤勝信厚労相は第8波の可能性を指摘し、「国民への呼びかけの段階を先手先手で引き上げる」と説明したが、危機管理の面から妥当な判断である。第8波への対応について政府は今年の夏の第7波と同じ感染力や重症化率であれば、営業時間の短縮やイベントの参加人数制限などを求める緊急事態宣言やまん延防止等重点措置は出さない。ただし、医療の逼迫状況に対応して旅行や帰省の自粛は求める。これも妥当な判断だが、コロナ対策を3年も続けてきたのだから適切に判断できて当然である。

■桁違いの感染者数を出すオミクロン株

 問題は変異株である。新たな変異株が登場すると、感染者が増える。たとえば、第5波(2021年7月~10月、ピーク8月20日2万5975人)はインドで発生したデルタ株によって起こり、その前の第4波(同年4月~6月、ピーク5月8日7244人)は、イギリス由来のアルファ株によるものだった。変異株にはベータ株、ガンマ株、ラムダ株などもあり、WHOの呼称統一で2021年5月からこのギリシャ語のアルファベットで表記されるようになった。

 2022年1月にはヒトの免疫機能から逃れる変異があり、感染力の強いオミクロン株の流行が始まり、大きな第6波(同年1月~6月、ピーク2月1日10万4520人)とさらに大きな第7波(同年7月~10月、ピーク8月19日26万1004人)を作った。

オミクロン株はこれまでの変異株とは全く異なる系統に分類され、エイズなどの免疫不全の患者の体内で死滅せずに生き残った株だとみられている。実際、最初にオミクロン株が確認され、2021年11月にその存在を公表した南アフリカは世界で一番エイズ患者が多いことで知られている。

■BQ.1、XBBなど新たな派生株の出現

 オムクロン株の起源ウイルスからはBA.2、BA.4などの派生株が生まれ、現在、日本での流行の主流はBA.5だが、さらにこれよりも感染力が強く、ワクチン接種で得られた抗体が効き難くい新系統の派生株が現れている。

 BQ.1やXBBなどである。BQ.1はBA.5の派生株で、アメリカやヨーロッパで増えている。XBBはBA.2派生の2つの変異株の遺伝子が混ざり合って発生し、これはアジアで拡大中だ。BQ.1もXBBもすでに感染者が日本国内で確認されている。

 ただ、こうした新系統の派生株は従来株より重症化のリスクが高いわけではなく、過度に恐れる必要はない。これまでと同様に手洗いとうがいの励行、3密(密閉・密集・密接)の回避、換気の整備、マスクの適切な着用、ワクチンの接種をきちんと進めていけば、爆発的な感染拡大は避けられるはずだ。

 問題になってきた派生株はすべてオミクロン株から生まれた変異株である。そもそもウイルスの変異とは何か。ウイルスの構造は非常に単純で、遺伝子とそれを包む膜ぐらいしかない。単純ゆえにヒトや動物の細胞の中で増えるとき、つまり遺伝情報を複製する際、コピーミスを犯して毛色の違う子孫を作る。それが変異だ。RNAウイルスに多い。変異は起きて当然であり、今後も必ず出てくる。感染力が増したなどとむやみに恐がったり、驚いたりする必要などない。注意を払いながら、騒がず冷静に受け止め、正しい知識で正しく怖がりたい。

■変異はヒトの世界に定着する証拠

 世界中で新型コロナのウイルスが数限りない変異を繰り返し、新しい変異株、派生株が誕生し、その中で環境に合ったものが生き残り、適さない変異株は死滅していく。生まれては消え、消えては生まれる。これからもこのサイクルが続く。新型コロナが消えてなくなることはないだろう。変異の過程で感染力が強まり、逆に病原性(毒性)は弱まっている。最終的には私たちの身の回りに常在する4種類の風邪コロナウイルスと同じようなウイルスになるはずだ。変異の繰り返しはヒトの世界に定着する証拠なのだ。新型コロナはヒトと共存し始めている。

 ところで皇居や神宮外苑など都内でも、晩秋の紅葉を楽しむ姿が多く見られるようになった=写真(筆者提供)。みな感染をそんなには気にしていないようだ。新型コロナが共存しつつあるのだからそれでいいと思う。ウィズ・コロナである。

 一方、新型コロナに駆逐されるように減少し、ここ2年間流行がなかったインフルエンザになぜ、新型コロナとの同時流行の兆しが出てきたかの答えを探す手掛かりも見つかりそうだ。

 インフルエンザが同時流行の兆しを見せている主な理由は、

➀インフルエンザの流行がなく免疫を持つヒトが減った

②行動制限と水際対策の緩和でヒトとヒトとの接触機会が増えた

③新型コロナと流行の周期が重なってきた

④先に冬を経験した南半球で流行した

の4つが考えられている。

 特に欧米やオーストラリアでは水際対策を止め、海外からのヒトの流入が増えると、インフルエンザが再び流行した。インフルエンザは「輸入感染症」だとの新しい見解も出ている。

 しかし、根本的な原因について私はこう考える。前述したように新型コロナは環境に適した変異株が生き残ってきた。その環境中にはインフルエンザの存在がある。新型コロナもインフルエンザも冬場に感染を繰り返すヒトの呼吸器感染症だ。似通った感染症は互いに影響し合う。どちらかが勢力を増し過ぎると、お互いの不利益につながる。だから自然と調整し合う。新型コロナはヒトだけではなく、インフルエンザとも共存し始めている。

―以上―

◎慶大旧新聞研究所OB会によるWebマガジン「メッセージ@pen」の12月号(下記URL)から転載しました。「新型コロナ」が共存するとき | Message@pen (message-at-pen.com)