疑惑の行政文書‼「総理の意向」はなかった


   2023年03月23日(令和5年)鳥居徹夫 (元文部科学大臣秘書官

 立憲民主党の小西洋之参院議員が3月3日の参院予算委員会で、2014~15年に安倍内閣が一部の民放番組を問題視し、当時の礒崎陽輔首相補佐官が総務省に対し、放送法の解釈変更を迫ったのではないかと追及した。

小西参院議員は前日の3月2日に総務省の内部文書を公表した。それによると当時、官邸と総務省が放送法について協議し「個別の番組に圧力をかける目的で法解釈を変えた」とあり、小西議員は当時総務大臣であった高市早苗経済安全保障担当大臣を問いただした。

高市大臣は、高市大臣自身に関する記述を「全くの捏造(ねつぞう)文書だ」と反論した。これに対し小西議員は、捏造でなかった場合は閣僚や議員を辞職するかどうかを問われ「結構だ」と明言した。

3月7日、総務省は「小西文書」を「行政文書」と認めて公表したが、松本剛明総務相は記者会見で「記載内容の正確性が確認できないもの、作成の経緯が判明しないものがある」とも述べた。

総務省は3月10日、「小西議員が取り上げた文書」(行政文書)を精査し、同省の関係者十数人から聞き取り調査を実施した。その結果48ファイルのうち26ファイルは、その時点で作成者が確認できておらず、当時の高市早苗総務大臣と安倍晋三首相に関連する内容は引き続き精査を行うと発表した。

◆公文書ではない行政文書も存在 

3月13日の参議院予算委員会で、立憲民主党の福山哲郎議員は今朝(質問の当日)、総務省から「(2015年)2月 13 日に放送関係の大臣レクがあった可能性が高い」という話が飛び込んできたと発言。答弁には「別に大臣でなくとも、事務方が答えて良いですよ」と質問した。

総務省の小笠原雄一情報流通行政局長は「大臣レクがあった可能性は高いと考えられ」と答弁し、立憲民主党による高市大臣追及を後押しするかに見えた。

福山議員が、答弁者に大臣ではなく事務方を指名したのは、福山議員と旧郵政省グループと結託しているようにも見えた。

しかし小笠原局長は「日ごろ確実な仕事を心掛けているので、上司の関与を経て、このような文書が残っているのであれば、同時期はNHK予算の国会提出前の時期であり、同時期に放送部局の大臣レクが行われたのではないかと認識している」と答弁をもしていた。

 ここで「上司の関与を経て」という言葉を挿入した。これは「(上司が)事務方の文書に手を加えた」「変更した」ことを示している。

事務方は「日ごろ確実な仕事を心掛けているので」と、小笠原局長は文書作成者に類が及ばないように予防線を張っていたかのような答弁でもあった。

 ところが16日の国会審議で、この行政文書が「行政文書ファイル管理簿」になかったことと、総務省の旧自治省メンバーや総務大臣すらも閲覧できないことが明らかにされた。

国民は、管理簿を閲覧して情報公開請求ができるが、不記載では存在すらも分らないし、公文書管理法にも反する。そして関係者の処分などの対象になりなりかねない。

つまり旧郵政グループだけ電磁記録(パソコン保存)であった行政文書ではあるものの、公文書ではなかった。

総務省は、3月17日に追加報告を行った。それによると当時首相補佐官であった礒崎陽輔氏からは「放送法4条の解釈を変えるよう強要されたことはなかったことを確認した」と報告した。

また総務省は「高市大臣から、当時の安倍晋三総理、今井尚哉首相秘書官への電話のいずれについても、その有無について確認されなかった」と追加報告した。

小西議員は3月2日に、内閣法制局の審査を経ずに放送法の解釈が変更されたとし「都合のいいような解釈変更がなされ、放送局に圧力をかけている」と主張していた。

ところが総務省の追加報告には、礒崎陽輔首相補佐官(当時)から「放送法4条の解釈を変えるよう強要されたことはなかった」とされ、放送部局から高市大臣に対して「放送法の解釈を変更するという説明を行ったと認識を示す者はいなかった」とある。

つまり、行政文書が公文書とは限らないということと、小西議員が攻撃した「放送法の解釈変更」の圧力がなかったことが、逆に明確にされた。

行政文書だからといって不正確なものも存在 

行政文書と聞くと「権威ある公式文書で正確なもの」と思い込みがちであるが、すべてがそうではない。その思い込みには「役所の無謬性」が潜んでいる。

そもそも行政文書とは「行政機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画及び電磁的記録であって、当該行政機関の職員が組織的に用いるものとして、当該行政機関が保有しているもの」(情報公開法第2条)であるが、内容が正確なものとは限らない。

 行政文書といっても、「上司の関与」により原形をとどめないほど書き換えられたものや、正確性を欠く聞き取りも行政文書となる。

 たとえば交通違反や事故の調書も行政文書であり、役所の中で作られるもの全てが行政文書であり、捜査の過程で修正されるものも多い。役所が単に文書を共有しただけに過ぎない。

行政文書というなら、検事の起訴状や判決文、上級審の逆転判決ならば、正反対の判決文が行政文書となる。「行政文書」にも、真偽不明がある。つまり正確性が担保されたものではない。

松本剛明総務大臣も国会で「内容に一部真偽が確認できない部分がある」としつつ、「すべて総務省の行政文書である」と認めたことが独り歩きしていたことを認めた。

 立憲民主党の泉健太代表らは「役人が噓をついて文書を書く理由はほぼない」などと反論したものの、総務省は3月16日の国会審議で「文書が省内で電子的に保存されている一方、管理簿に記載されていない」ことを明らかにした

◆省庁折衝で敗北し「総理の意向」と言い訳した行政文書も 

行政文書だけではなく公文書にも、政府や首相の攻撃などに恣意的に利用されたものも多い。

たとえば2016~17年の「加計学園の獣医学部新設」に関する申請と認可問題があった。文部科学省の内部文書には「総理の意向」という字句があったが、そのような発言は内閣府からされていなかった。

学部の新規創設に抵抗し、岩盤規制を守ろうとして敗北した文部科学省の担当者が、言い訳に「総理の意向」と本省(文部科学省)に報告したというのが真相のようだった。

 獣医師会と文部科学省は、52年間も獣医学部の新設を阻止してきた。

安倍首相と加計学園理事長が友人であったことを政局にし、それが「行政を歪めてきた」と政府を攻撃したのが民進党など野党と一部マスコミであった。 

獣医学部の新設に反対する獣医師会は、政治家にカネをばらまき政界工作を展開した。

つまり利権集団である獣医師会、所管の文部科学症、受託収賄の疑惑だらけの賊議員による「鉄の三角形」が、獣医師会の既得権益維持のため新規参入を阻止しようとしたのが真相であった。

旧聞になるが、第一次安倍内閣は、いわゆる「消えた年金」問題で下野に追い込まれた。

 5000万件の年金記録が蒸発して、社会保険庁は解体し「日本年金機構」は年金記録の突合作業に追われた事件である。

当時、厚生労働省は「消えた年金はない」と公言していた。行政文書だから「ウソはない」と言って、確認作業がされなかった。

さらには、慰安婦に関する「河野洋平談話(1993.08.04)」と「河野談話の検証(2014.06.21)」は、正反対の内容であるが、いずれも行政文書であり公文書である。

強制連行について「広義の強制性があった」という「河野談話および記者会見」を否定し、強制連行はなかったとしたのが、21年後の「河野談話の検証」である。

日本政府がこれまで確認した資料の中に、いわゆる強制連行を直接示すような記述は見つかっていなかったのである。また韓国側からも「強制連行」を示す証拠や資料は全く何もなかったのである。

◆政局がらみだった、小西議員の高市大臣攻撃

行政文書だからと言って正確ではない。加計学園の時のような相手がチェックしていない不正確なものもあった。

そもそも小西議員が提出した文書は、配布先に大臣室や事務次官が書かれていない行政文書に過ぎず、旧郵政グループ内輪の文書であった。

官僚は、省益のためなら政権をも倒してくる。大臣レクの文書も、大臣には配布されていないし、総理との電話も勝手に作られたようだ。

小西議員に文書を渡した官僚は、旧自治省の磯崎陽輔(元首相補佐官)を標的にしていたのではなかったか。ところが小西洋之議員がターゲットにしたのは高市大臣であった。

行政文書を持ち出した総務省の官僚は、一部は時効が成立しているものの公文書偽造、偽造公文書行使であり、国家公務員法違反(秘密漏洩、同教唆)に該当する。

しかも小西議員の挑発に乗り、高市大臣が「行政文書が捏造でなかったら大臣も議員も辞める」と発言した。

そして「森友学園事件」をめぐる安倍晋三総理(当時)の「私や妻が(不正に)関係していたということになれば、それはもう間違いなく総理大臣も国会議員もやめる」という発言も引き合いに出されてしまった。

野党の狙いは相変わらず政権攻撃であり、政局にして高市大臣に「辞職を迫る」ことであった。

総務省の追加調査で「解釈変更を強要されたことはない」と報告されたことで、小西議員の高市大臣攻撃が、立証不可能な作り話であり、政局がらみであったことが、逆に立証されたのである。