維新が大躍進、自民は関西沈没


    2023年04月25日(令和5年)鳥居徹夫 ( 元文部科学大臣秘書官 )

◆常勝関西の維新の会、大躍進で全国進出 

4月9日に投開票された統一地方選は、維新の会の一人舞台であった。

大阪府知事選では、吉村洋文知事が7割の得票で楽々と再選。維新の会代表の松井一郎大阪市長の引退に伴う大阪市長選では新人の横山英幸が、反維新の「アップデートおおさか」の候補者を寄せ付けなかった。しかも大阪府議選に続き大阪市議選でも、維新が過半数を確保した。

維新旋風の直撃を受けて、関西で大きく議席を失ったのが自民党。自民と維新の議席数で見ると、大阪府議は自民が7名(改選前16名)、維新は55名(同46名)、大阪市議は自民が11名(同14名)、維新が46名(同41名)、

一昨年の総選挙で、比例復活を含め維新の候補者全員が当選した兵庫県も、兵庫県議は自民が24名(改選前31名)、維新は21名(同4名)と5倍増に、自民党が減った分が維新の会の議席増につながった。

 関西でも京都府は、維新旋風の直撃を受けたのが共産党。維新の会の京都府議は9名となり候補者全員が当選(改選前3名)、共産党は9名と改選前の12名より後退した。共産党は、党首公選を訴えた2名のベテラン党員を、京都府委員会が除名したことへの批判も強く、議席を維持できなかった。ちなみに自民党の京都府議は28名(同29名)でほぼ現状維持。

◆奈良県では、維新の会の公認候補が知事に当選 

維新の会は、大阪府知事選や大阪市長選、大阪府議、大阪市議選と地元での勝利にとどまらず、奈良県知事選を制した。

奈良県知事選は、自民党奈良県連が新人で総務官僚の平木省を擁立した。現職の荒井正吾知事が78歳の高齢であり、多選批判が続いていたこともあり、本人も引退の意向であったと伝えられたが出馬表明した。これにより自民票が割れ、維新の会公認の新人が漁夫の利を得た。

現職の荒井知事は、自民党の一部と国民民主党の県連が支持し、自民党県連推薦候補の足を引っ張り、維新の別動隊の役割を果たした。

 奈良県議選では、維新が14名(改選前3名)と4倍増の大躍進を遂げた。自民党の当選は17名にとどまり、改選前の23名から大きく後退した。

維新の会は、公認の知事候補と16名擁立した県議候補との連動した運動が相乗効果を生み、県議は4倍増の大躍進。

積極的な候補擁立が、結果的に知事選の得票も伸ばすことにもつながった。維新の会公認の県議が誕生した選挙区には、維新の会所属の市町村議会議員がゼロという市町村もあったという。

道府県議選で維新の会は、これまで議席があったのが大阪、兵庫、京都、奈良、和歌山の5府県であったが、関東や九州など13道県に進出した。

新たに議席を獲得したのは、神奈川6議席、福岡・滋賀が3議席、北海道・栃木・群馬、埼玉・千葉・徳島・香川・愛媛・福岡・熊本・大分が1議席。維新の会は、やはり発祥の地の関西が8割(124議席中102議席)を占める。

◆低迷の立憲民主党、政策論争はなかった 

統一地方選前半戦の9道府県知事選と6政令市長選、41道府県議選、17政令市議選が実施され、4月9日投開票された。

知事選は北海道、神奈川、福井、大阪、奈良、鳥取、島根、徳島、大分の9道府県。政令市長選は札幌、相模原、静岡、浜松、大阪、広島の6市。

道府県議選(総定数2260)は41道府県。総定数の4分の1に当たる565人が無投票当選。山梨県では定数37のうち、6割強の23名が無投票であった。

選挙区(939)でみると無投票は348選挙区で約37%にあたる。

政令市議選(同1005)は仙台、静岡、北九州3市を除く17市。

9知事選の投票率は46.8%(前回4年前は47.2%)、41道府県議選の投票率は41.9%(同44.0%) 。

41道府県議選の改選定数2260議席のうち自民党が1153議席を確保した。前回2019年の1158議席は下回ったものの、過半数は維持した。

立憲民主党は県議選で当選者は185名(改選前200名)で、第2党を維持した。

維新の会は124名 (同57名)、公明党169名 (同161名)、共産党75名 (同99名)、国民民主党31 名(同34 名)、社民党3 名(同15 名)、参政党4名 (同2名)、諸派・無所属516名 (同340名)。

維新の会が大幅に議席を伸ばす一方で、立憲民主党は低迷、公明党は微増。

共産党は選挙直前に、党首公選を訴えた幹部が除名されたことが大きく、議席の4分の1近くを失い、所属議員がいない「空白県」も多数生じた。 

共産党は今回、当選可能性がない選挙区で立憲民主党の候補者がいれば、政策共闘もないのに候補者取り下げた。選挙区の棲み分けで共闘成立のように見えた。

かつて政権共闘があったが、共産党は候補者のいない選挙区で立憲民主党を応援するだけであったが、それが共産党候補の運動にも手抜きクセがついたのではないか。

大阪府知事選、大阪市長選は、自民党が立憲民主党らと反維新で共闘したことが、かえって自民党の独自性を失わせた。

政府自民党を攻撃している立憲民主党の議員や、自民党批判を繰り返しているテレビコメンテーターを擁立した「アップデートおおさか」で共闘し、こともあろうに反維新で共同歩調をとった。立憲民主党に主導権を奪われ、自民党候補にはカジノ反対に同調する現職議員もいた。

つまり自民党公認の看板で、立民や社民党の推薦を受けて、立憲民主党などの批判をためらうどころか政策が左翼化した。立憲民主党などに同調することで、自民党らしさを失い、本来の自民党支持層を維新の会の候補側に追いやった。

与野党対決となったのが北海道で、立憲民主党が推薦する候補者は、自民党推薦の現職知事にトリプルスコアで惨敗を喫した。その立憲民主党と反維新の会で共闘したのが大阪の自民党である。

大阪の自民党は、政策面でも、エネルギー確保の危機対応、上海電力参入や太陽光パネルの環境破壊等について政策論争はなかった。争点づくりの意思がなく数合わせだけで立憲民主党と組み、反維新のカゼを起こせなかった。

◆維新の会の成長戦略は、労働規制緩和による労働コスト削減なのか 

統一地方選前半戦で日本維新の会が躍進し、与野党に衝撃が広がった。

維新の会は、統一地方選後半戦と同時に施行された衆議院和歌山1区補選で初議席を獲得した。

統一地方選後半戦では、維新の会の当選議員は256人となり、前回の113人から2倍超に増やした。

維新の会は、前半戦の勢いがバネになり、地方議員600名達成の目標を大きく上回り(現行470)、同党の地方議員と首長の合計数が774人になった。

維新の会の大躍進と立憲民主党の低落は、広島G7サミット後にも予想される総選挙後の「自民・維新の二大政党制」への政局をも予感させる。

連合は、4月23日投票の後半戦も含め多くの組織内候補、推薦候補が、立憲民主党、国民民主党、無所属から出馬した。

そもそも維新の党は、労働規制の緩和などを主張しており、連合の政策制度とは相容れないし敵対する。

労働規制の緩和路線は、外国人雇用や派遣労働・パートなど非正規労働者の拡大など安上がり労働、労働コスト切下げを狙う事業者のための活動であった。

労働の価値を減退させ、朝まで生テレビなどで「正社員の既得権をなくせ」と豪語した竹中平蔵は、維新の会のブレーンであったし、最近まで人材派遣会社パソナの会長であった。

大阪府や大阪市は職員を大幅に削減したが、その穴埋めとして人材派遣会社パソナに巨額の業務委託を行ってきた。それがコロナ給付金・協力金の支給遅れなど大阪の行政能力を大きく低下させた。

朝日新聞(2021年6月13日付)によると、2度目の緊急事態宣言が出された11都府県のうち、支援金の支給がもっとも遅れているのが大阪府と報じられた。

維新の会は「身を切る改革」を主張しているが、その中身は労働コストの削減、地域社会全体の労務費の圧縮につながり、勤労者の所得向上に逆行する。つまり関係する取引業者にも低価格受注とコスト削減を求め、そのしわ寄せが、そこで働く労働者に及ぶことも危惧されるのである。

許認可の審査や行政相談、そして安全や健康、さらには信用にかかわる難しい業務を、労働コスト削減を理由に、安易に人材派遣業者に委託するとなると仕事が進まないのは目に見えている。案の定、業務が遅滞し、行政サービスの低下となった。 

 たしかに行政や役所にはびこる悪慣行、無駄や不条理をなくすことは重要であり、また遅れているデシタル化などが課題である。

ところが「デジタル化よりも外注化」で、派遣労働など非正規労働に依存するようになれば、派遣労働者も含めた労働者全体の所得向上とはならない。

もちろん行財政改革の視点で、現在の法体系や制度にメスを入れ、「行政の無駄が生む民間の無駄」の解消や、簡素で効率的な行政を目指すことが必要なことは言うまでもない。(移動)

これに対し自民党は、賃上げ促進と個人消費拡大による内需拡大で、成長と分配の好循環を、一応は掲げている。 

維新の会は、労働コスト削減を成長戦略ととらえているようだ。

連合方針の理解度は、自民党の方が維新の会より高いのではないか。

◆「整理解雇4要件」も有名無実化か 

統一地方選挙で躍進した維新の会は、維新八策2002(主要政策)で「解雇ルールを明確化するとともに、解雇紛争の金銭解決を可能にするなど労働契約の終了に関する規制改革を行い、労働市場の流動化・活性化を促進」などと明記し、労働規制緩和を掲げている。

現在のところ、政府の「新しい資本主義実現会議」で、解雇の金銭解決は議題になっていないが、「労働移動の円滑化」論議は始まっている。

岸田文雄首相は、他人事のように労働市場の流動化を唱えているが、労働者の意思で高賃金の企業に移動するのには政府の音頭は不要である。同じ企業内、グループ企業内でのリスキニング(学び直し)など、個々の労働者の選択による処遇改善を伴う職種の移動ならば、雇用の維持を図れる。 

ところが正社員の派遣社員への転換などの非正規化や、労働コストの削減で企業の収益増を図る目的の「安上がり労働」が狙いならは、勤労国民の総貧困化を招きかねない。これでは「労働者保護法制の破壊促進」になってしまう。

中高年労働者や女性、障碍者を戦力化せず、企業から外す労働移動ならば、企業努力もなしに勤労者を低賃金の職種に移動させるだけであり、勤労者の不安が増大する。

また解雇の金銭解決は、退職金を上乗せすれば会社都合の意図的な指名解雇となり、諸判例で確立している整理解雇4要件すらも有名無実となりかねない。

 経営不振や事業縮小など、使用者側の事情による人員削減のための解雇の際にすら求められる「整理解雇4要件」とは、以下の内容である。

(1)人員整理の必要性(どうしても人員を整理しなければならない経営上の理由があること)。

(2)解雇回避努力義務の履行(希望退職者の募集、役員報酬のカット、出向、配置転換、一時帰休の実施など、解雇を回避するためにあらゆる努力を尽くしていること)。

(3)被解雇者選定の合理性(解雇するための人選基準が評価者の主観に左右されず、合理的かつ公平であること)。

(4)解雇手続の妥当性(解雇の対象者および労働組合または労働者の過半数を代表する者と十分に協議し、整理解雇について納得を得るための努力を尽くしていること)。

 連合は勤労者組織として、早急に労働規制緩和の危惧とその反論はもとより、維新の会への対応方針を構成組織だけでなく、すべての国民に提示しなくてはならないであろう。

◆子育て政策の財源は、一層の経済成長による税収増で 

いま政府は「異次元の子育て政策」の本格検討に入った。その財源を消費税ではなく社会保険料引き上げも視野にあるが、社会保険料は労使双方の負担であり使用者負担も生ずる。

 使用者側としては、労働市場の流動化や非正規化が進めば、使用者負担が少なくなる。

政府の「こども未来戦略会議」のメンバーでもある連合の芳野友子会長は4月13日の記者会見で、「(財源が)社会保険料となると賃金にも影響する。今は賃上げの方が非常に重要だ」と指摘した。

しかし財源は、新税や社会保険料でなく、経済成長による自然税収増で図るべきである。

安倍晋三政権で内閣参与であった本田悦朗氏は、昨年段階で「GDPが1%アップすると税収は2.7%増加する」と試算した。

景気上昇で所得が増加すると、累進課税で税収も増え、仕事や求人数も増え失業者や生活保護費も減るというのである。

実際、昨年度の税収は当初見込みよりも7兆円の増加であった。

 賃金が上がり、消費が増えて、投資が拡大する好循環を目指すのが、岸田首相が政権発足時に提起した「新しい資本主義」の狙いであったのではないか。

いま日本では低所得者が激増し、先進国の中で日本だけが急激に出生率が低下し、異常な早さで少子高齢化が進んでいる。

勤労者の所得全体を底上げし、個人消費の活性化と内需拡大を図り、成長路線を軌道に乗せようと主張する連合や岸田政権の姿勢と、維新の会の労働規制緩和方針とは全く逆方向。

アフターコロナとデフレ脱却、経済再生が問われる中で、勤労国民の所得増によって内需拡大を図る政策へ、政府と自民党自身が大きくカジを切ろうとしている。

その転換点が今年春の賃金引き上げであった。

国民生活向上・賃金増額は、政労使それぞれが役割を果たすことが大切という視点を、ようやく政府も取りはじめた。

 賃金が伸びなければ、国民はさらに節約して消費を抑えるしかない。そうなれば企業は労働コストを切り詰め、日本は再びデフレスパイラルに突入しかねない。

言うまでもなく労働組合は、雇用や暮らし、福祉・子育てのなどの改善を求めて、国や地方の行政はもとより、各政党に要請活動を進め、選挙では政策を反映する候補者を支援するのである。

勤労者の代表であり、最大の納税者組織である連合が目指すのは、賃金が上がり、消費が増えて、投資が拡大する好循環を生み出すことである。

つまり国レベルでは、個人消費の増大と内需拡大などで、経済を大きく発展させること。内需拡大による日本経済の活性化、労働価値を高める賃金増額を生み出し、その好循環を「令和版所得倍増計画」に発展させることが、いま政労使に求められている。