令和5年4月、我国周辺での中露両軍北朝鮮の活動と我国/同盟諸国の対応



2023(令和5年)-05-10 松尾芳郎

令和5年4月、我国周辺における中・露・両軍、北朝鮮の活動と、我国および同盟諸国の動きに関し各方面から多くの発表があった。今月の注目すべきニュースは次の9項目。

  1. 中国海軍「山東」空母打撃群を中心に4月7〜24日の間、台湾東部から沖鳥島にかけての太平洋上で大規模かつ長期演習を実施。
  2. ロシア海軍は4月中旬から下旬にかけて、日本海・オホーツク海・千島列島・樺太南部を含む地域で大規模な演習を実施。
  3. 北朝鮮は、4月13日午前7時22分ごろ平城付近から固体燃料式弾道ミサイル(ICBM) 「火星18」を日本海に向け発射。これに対し7時55分北海道に[Jアラート]発令。
  4. 陸自第8師団長坂本雄一陸将他9名搭乗のUH-60JAヘリコプターが宮古島北西の海上に墜落。
  5. 2022年度(2022年4月~2023年3月)の緊急発進回数は772回。対ロシア機は減少し150回、しかし対中国機は575回で高水準で推移。
  6. 米第7艦隊駆逐艦は南シナ海(4月9日)と台湾海峡4月16日)、同哨戒機は台湾海峡(4月28日)、それぞれで「航行の自由作戦」を実施。
  7. 米第7艦隊ヘリコプターと海自ヘリコプターは相模湾で模擬魚雷の発射訓練を実施。
  8. 4月21日、豪州、日本、韓国、米国の各海軍司令官が、釜山停泊の韓国海軍ヘリコプター訓練艦「ハンサンド」で合同会議を実施。
  9. 中国海軍、075型強襲揚陸艦・071型ドック型揚陸艦・戦車揚陸艦を大量建造中。

(Military threats from China, Russia and North Korea are tensed up in April. Japan and Allies conducted multiple large scale exercises for retaliation. Following nine were major issues.

  1. China’s “Shandong” Carrier Strike Group conducted military drill in western Pacific, between Taiwan and southern Okinawans sea, in weeks long.
  2. Russian military conducted large scale military exercise, including Japan Sea, Okhotsk Sea, Kuril Islands and South Sakhalin, in about three weeks.
  3. North Korean launched Hwasong 18 solid fueled ICBM to Japan Sea near Hokkaido, The local government issued an air raid alarm.
  4. A Japanese Army’s UH-60A Black Hawk helicopter, ten persons on board, including  General Y. Sakamoto, commander of Eight Div, Kumamoto, has lost in Okinawan Sea, at April 6.
  5. Japan’s DoD issued a report “Number of Scrambles to unidentified aircraft violating Japan’s Airspace in fiscal 2022 “. saying total of 772, including 575 for Chinese.
  6. U.S. 7th Fleet destroyer conducts Freedom of navigation Operation in South China Sea on April 10, and 7th Fleet aircraft transits Taiwan Strait on April 28.
  7. U.S. Navy, JMSDF conducts training Torpedo Exercise in Sagami Bay, April 13.
  8. Australia, Japan, Korea, and U.S. Navy’s Commanders joins Roundtable Discussion on ROK’s Hansando, April 20-21.
  9. Number of Chinese Landing vessels, including Helicopter docks (3), Amphibious Transport docks (8), Landing Ship Tanks (36), and Landing Ship medium (36), are  increasing ever before.

以下に各項目について説明する。

  1. 中国海軍「山東」空母打撃群を中心に4月7〜24日の間、台湾東部から南鳥島島にかけてのの太平洋上で大規模・長期演習を実施。

4月初旬中国海軍ルーヤンII級ミサイル駆逐艦(150)が、宮古海峡を通過太平洋に進出、数日後に与那国島と台湾の海峡を通過、東シナ海に戻った。これを皮切りに、空母「山東(17)」を含む空母打撃群の大艦隊が南シナ海から台湾南部のバシー海峡を通り、台湾を「包囲」する形で、我国の沖ノ鳥島付近に達する広大な海域で繰り返し演習を行なった。これは台湾の蔡英文総統が訪問先のアメリカでケビン・マカーシー米下院議長と会談を行う時期に合わせて行われたもの。中国側はこの米中会談への対抗措置として、台湾「包囲」の軍事演習を実施した、と明らかにした。

1949年に国共内戦に敗れた国民党が台湾に逃れて以来、台湾は独立状態を維持してきている。中国は蔡英文総統に打撃を加える目的で、11隻の艦艇と数十機の爆撃機、艦載戦闘機を参加させて今回の演習を行なったもの。

  • 8日には福建省で台湾攻撃のミサイル発射訓練を実施。10日には台湾南部の防空識別圏に戦闘機が侵入。
  • 「山東」では4月7日から23日の間、艦載戦闘機「J-15」と艦載ヘリ「Z-18J」が合計620回の離着艦訓練を実施。
  • 4月21日と翌22日には、戦略爆撃機H-6がそれぞれ2機ずつ沖縄本島と宮古島の間を通過、太平洋に進出、「山東」空母打撃群の演習に参加、その後往路と同じ経路で東シナ海に帰還。
  • 4月27日には、中国軍無人機1機が与那国島と台湾の海峡を飛行、台湾東部の海上を南下、旋回して同じ経路で中国本土に帰還。
  • 4月3日から10日にかけてドンデイアオ級情報収集艦(796)は、津軽海峡から本州東岸沿いに南下、伊豆諸島を通過、太平洋上で日米海軍の通信情報を収集。

米海軍と我が海自および空自は、「山東」艦隊を厳重に監視、その動きを逐一把握し、不測の事態発生に備えた。

同期間、米空母「ニミッツ」を旗艦とする第11空母打撃群と海自駆逐艦は、台湾の東岸約590 kmの太平洋上で「山東」艦隊の動きを監視しつつ演習を行い、牽制した。

図1:(統合幕僚監部)空母「山東 (Shandong)・17」は2019年末就役、満載排水量7万トン、全長308.5 m、飛行甲板最大幅75.5 m、速力30 kts、搭載機はJ-15を32~36機およびZ-9ヘリを数機 (最大16機)。スキージャンプ甲板の上向角は12度。発艦はスキージャンプ滑走で、着艦はアレステイング・ワイヤで制動・停止する。防空システムは1130型CIWS3基とHHQ-10対空ミサイル18連装発射機4基で行う。

図2:(統合幕僚監部)「山東」から離艦した「J-15」戦闘機。ロシア製Su-33をベースに瀋陽航空機が製造した多目的戦闘機。中国軍は米海軍のF/A-18E/Fと同等もしくは優れる戦闘機だ、と主張している。離陸重量32.5 ton、最大速度マッハ2.4、航続距離3,500 km、翼下面には各種ミサイル搭載用ハードポイント12ヶ所がある。

図3:(統合幕僚監部)昌河航空機が開発したZ-18大型ヘリ。胴体側面にフロートがあり着水能力を備えている。エンジンは出力1,300 kWのWZ-6Cを3基搭載。ペイロード4 tonを含み最大離陸重量は14 ton、航続距離900 km。Z-18A型は人員輸送用で兵員20名を輸送可能。「Z-18J」型は早期警戒ヘリで、大型艦に搭載して中長距離の対空/対水上警戒任務に当たる。Z-18F対潜哨戒ヘリ。

図4:(統合幕僚監部)

図5:(統合幕僚監部)

図6:(統合幕僚監部)

図7:(統合幕僚監部)

図8:(統合幕僚監部)4月21日午後、東シナ海から宮古海峡、太平洋に進出、「山東」空母打撃群と共同演習をした「H-6K」2機のうちの機番20213、もう1機は20215。

図9:(統合幕僚監部)4月22日昼、前図と同じく太平洋上での演習に参加した「H-6」2機のうちの機番9125、もう1機は54で、やや旧式の機体。

図10:(統合幕僚監部)4月17日〜23日、海自・空自が把握した「山東」空母打撃群の演習行動の日程。

図11:(海上保安庁)海上保安庁作成の「領海、、接続水域、排他的経済水域を示す図」に4月7日〜24日の間の中国「山東空母打撃群」の演習海域を赤色サークルで加筆した図。

図12:(統合幕僚監部)「ドンデイアオ」旧情報収集艦(796)、4月上旬からほぼ1ヶ月間我国周囲を一周しながら、我が自衛隊、米軍の電子情報を収集していた。

図13:(統合幕僚監部)「ドンデイアオ」級情報収集艦(796)の4月の航跡。海自艦艇と航空機で常時監視・追尾を実施した。

  • ロシア海軍は4月中旬から下旬にかけて、日本海・オホーツク海・千島列島・樺太南部を含む地域で大規模な演習を実施。

ロシア国防相セルゲイ・ジョイグ大将は『今回の演習は仮想敵(日本を指す)が千島列島南部(北方4島)およびサハリン(樺太)南部へ侵入するのを阻止するための演習』と明言、『一旦占領されても戦車揚陸艦などで逆上陸、撃破する』と述べた。演習の最終段階では3隻の大型揚陸艦「アドミラル・ネヴェリスコイ」、「ペレスヴェート」、「ニコライ・ヴィルコフ」から装甲兵員輸送車BTR-82Aを多数揚陸させた。

  • 4月19日から20日にかけて合計18隻のロシア海軍艦艇が日本海から北海道礼文島沖合いを経て北海道北端の宗谷海峡を通過、オホーツク海に向け航行した。艦隊は、ウダロイI級駆逐艦2隻(543)と(548)、ステレグシチー級フリゲート2隻(333)と(339)、タランタルIII級ミサイル護衛哨戒艇6隻(921)(924) (937) (940) (971)および(978)、マルシャン・ネデリン級ミサイル観測支援艦1隻(331)、ロプチャーII級戦車揚陸艦1隻(077)、などを含む。
  • 4月19日、ロシア空軍の超音速・長距離爆撃機「Tu-22M3」8機は、オホーツク海および日本海北部の空域で、演習中のロシア太平洋艦隊の戦闘を支援するための演習を行った。ロシア国防省によると、今回の大演習には25,000名の兵員、167隻の艦艇、12隻の潜水艦、89機の航空機が参加して行われた。

米国のシンクタンク「戦争研究所 (ISW=Institute for the Study of War)」は、今回のロシア軍の日本周辺における演習について次のように解説している。

ロシア政府は、5月に日本で行われるサミットを牽制する目的で、演習で威嚇を試みたもの。日本がウクライナに提供した援助の総額は2月24日までに62億ドル。サミットでこれが上積みされる事に反対して、日本周辺、国後島、択捉島、色丹島、歯舞諸島、それに樺太南部で演習を行なった。しかし、「ISW」は、ロシア軍は日本を脅かすほど強くはない、と分析している。太平洋艦隊の第40海軍歩兵旅団と第155海軍歩兵旅団は、ウクライナ東部ドネツク州の戦闘で大きな損害を被った。このようなことでロシア太平洋艦隊は太平洋で戦力投射(power projection)をするには能力が不足している。(言外に恐れる必要はない、としている)

図14:(統合幕僚監部)

図15:(統合幕僚監部)

図16:(統合幕僚監部)

図17:(統合幕僚監部)

図18:(統合幕僚監部)

図19:(統合幕僚監部)

図20:(統合幕僚監部)プロジェクト775大型揚陸艦「ペレスヴェート(055)」は、戦車12輌、歩兵戦闘車17輌、上陸部隊250名を輸送し、海岸に乗り上げ艦首or艦尾のランプ・ドアを開いて揚陸する。満載排水量4,000 ton、28隻が建造されたが、ウクライナ軍により数隻が破壊された。

図21:(統合幕僚監部)

図22:(統合幕僚監部)

図23:(統合幕僚監部)

図24:(統合幕僚監部)

図25:(統合幕僚監部)

図26:(ロシア海軍情報部)遠距離爆撃機「Tu-22M3」は、航続距離7,000 km、超音速誘導ミサイルで地上および海上目標を攻撃する。乗員4名、全長39.6 m、翼幅/20度展開時・34.3 m、/後退時・65度・23.3 m。全備重量124 ton、速度マッハ2.05。現在66機が現役で活動している。

  • 北朝鮮は、4月13日午前7時22分ごろ平城付近から固体燃料式弾道ミサイル(ICBM) 「火星18」を日本海に向け発射。これに対し7時55分北海道に[Jアラート]発令。

北朝鮮は、固体燃料使用の新型ICBM「火星18」を4月13日に発射、実験を行った、と発表した。2017年以降、射程5,500 km級のICBM発射試験を繰り返しているが、これまでは液体燃料使用型であったが、今回初めて固体燃料型の試験を行なった。液体式に比べ固体燃料式は発射準備に要する時間が著しく短縮されので、発射兆候の探知が難しいという特徴がある。防衛する側、日本、米国、豪州、韓国としては即時対応能力が一層求められる。

  • 発射は2023年4月13日午前7時22分、首都平壌近郊から日本海に向けて行われた。日本政府は発射30分後、「Jアラート=全国瞬時警報システム」を発令、ミサイルが北海道周辺に落下する、と警報を出した。その後、落下の恐れは無くなった、と情報を修正。
  • 翌14日、北朝鮮は、固体燃料式ICBM「火星18型」の発射実験を始めて行い成功した、と発表した。それによると、1段目は「標準弾道飛行」で発射し東部の咸鏡南道沖10 kmに落下した。2段目と3段目は(飛翔距離を抑えるため)飛翔角度を大きくした「ロフテッド軌道」で飛び、2段目は咸鏡北道の沖335 kmの日本海に落下。3段目の落下については発表していない。
  • 防衛省関係者によると弾頭は高度4,000 kmまで上昇して落下、我が国EEZ圏外に落下したと言う。この高度では地上設置の固定式警戒管制レーダー( J/FPS-5)による捕捉が困難になると言われる。「Jアラート」が発令されたのは、3段目が分離した際、レーダーが3段目を捕捉し北海道に落下すると予測したためだが、その後3段目は大気圏に再突入、摩擦で焼失したと見られる。

日米韓の対応;―

  • 4月13日、日米両国は直ちに日本海上の空域で、合計8機の戦闘機による対地攻撃訓練を含む戦闘演習を行なった。参加したのは空自百里基地(茨城県)の第7航空団所属の「F-2」戦闘機4機、および米空軍三沢基地(青森県)の第35戦闘航空団(35FW)所属の「F-16」戦闘機4機。
  • 翌4月14日に日米両空軍は、再び日本海上空でB-52戦略爆撃機を含む12機の規模で、北朝鮮に警告するための演習を行なった。参加したのは、空自から第6航空団小松基地(石川県)所属の「F-15J」戦闘機4機、および米軍から「B-52H」爆撃機2機、「F-35」戦闘機4機、それに「KC-135」空中給油機2機。
  • 4月17日には、日米韓3ヶ国海軍のミサイル駆逐艦3隻が日本海で、弾道ミサイル発射情報を共有する訓練を含め、共同訓練を実施した。これも北朝鮮のミサイル発射に対処、脅迫には屈しない姿勢を示す訓練である。参加したミサイル駆逐艦は、海自「あたご」、米第7艦隊「ベンフォード」、韓国海軍「ユルゴク・イ・イ」。

日米韓3カ国軍の日本海でのBMD演習の情報を収集するためか、4月18日にはロシア軍情報収集機「IL-20」が沿海州から飛来、日本海上空を南下し島根県隠岐の島諸島沖まで飛行、反転して沿海州に戻った。

図27:(日本テレビ/朝鮮中央通信)4月13日北朝鮮が固体燃料式ICBM「火星18」の発射試験を実施、成功したと発表した。

図28:(chosunonline.com)北朝鮮が発表した「火星18」ICBMの発射軌道。1段目は咸鏡南道沖10 kmに落下、2段目、3段目はロフテッド軌道で上昇した。そして2段目は咸鏡北道沖335 kmに落下、3段目の落下点は不明(再突入で焼失?)。弾頭は高度3,000 km(北朝鮮発表)か4,000 km(防衛省関係者意見)に達し、発射点から1,000 kmの我が国EEZ圏外に落下した模様。

図29:(統合幕僚監部)4月13日北朝鮮「火星18」発射後直ちに日本海上空で対地攻撃を含む演習を実施、北朝鮮ミサイル発射に警告した。空自「F-2」は米空軍「F-16」をベースにした機体なので外見はよく似ている。

図30:(統合幕僚監部)4月17日、日本海で日米韓3カ国海軍のミサイル駆逐艦が北鮮のミサイル発射に警告するため共同訓練を行なった。左写真では、左「あたご・DDG-177」、中央「ベンフォード(USS Benfold / DDG-65)、右「ユルゴク・イ・イ(栗谷李珥)・DDG-992」の3隻が並走している。いずれも満載排水量1万トン前後、BMD能力を備える。

図31:(統合幕僚監部)4月18日、日本海での日米韓3カ国海軍のミサイル防衛訓練に関わる通信情報を探るため、ロシア軍情報収集機「Il-20」が日本海上空に飛来した。

  • 陸自第8師団長坂本雄一陸将他9名搭乗のUH-60JAヘリコプターが宮古島北西の海上で墜落.

陸上自衛隊のヘリコプター「UH-60JA」が消息を絶った事故は4月6日午後宮古島近くの海上で起きた。陸上幕僚監部によると15時46分に航空自衛隊宮古分屯地を離陸し、北北東に飛行、宮古島北端で伊良部島に向け変針し、離陸後10分ほどの15時56分にレーダーから機影が消えた。

同機には、陸自第8師団(熊本県)師団長坂本雄一陸将を含む10名が登場していた。レーダーから消えた午後4時ごろは視界が10 km以上ある良好な状態だった。陸自は事故調査委員会を設置、当面同型機の飛行を停止した。

その後付近の海域で、同機の救命ボート、ドア等が見つかり、さらに4月18日には深度100 mの海底で同機の残骸が発見され、搭乗者数名の遺体と、激しく損傷した機体が回収された。これは熊本県第8師団に運ばれ、これから事故原因の究明が行われる。

墜落した「UH-60JA」は多用途ヘリで、米軍が多数運用するシコルスキー製「UH-60ブラックホーク(Blackhawk)」ヘリを自衛隊向けにライセンス生産した機体である。陸海空3自衛隊が使用している。事故機は第8師団高遊原分屯地の第8飛行隊に所属、当日は宮古島で活動していた。

自衛隊のUH-60系列機は、機体三菱重工、エンジンはIHIがライセンス生産している。保有数は、陸自「UH-60JA」多目的ヘリが約40機、空自「UH-60A」救難ヘリが約40機、海自は「UH-60J」、「SH-60K」哨戒ヘリ、「SH-60J」対潜ヘリ、合計で約75機。従って総計150機ほどがライセンス生産されている。

シコルスキー(Sikorsky) UH-60 Black Hawkヘリコプターは1879年に米陸軍で就役以来今年2023年3月までに5,000機が製造された。

図32:(防衛省)防衛省発表の図を加筆、判りやすいように改めた図。

図33:(防衛省)事故機と同型の「UH-60JA」多用途ヘリ。全長19.76 m(胴体15.64 m)、ローター幅16.36 m(胴体5.49 m)、高さ5.13 m、ローター直径16.36 m(4枚)。エンジンはGE製T700-IHI-401C出力1,660馬力2基。全備重量9,970 kg、巡航速度420 km/hr、航続距離470 km。海自・空自は救難機仕様の「UH-60J」を使用している。

  • 2022年度(2022年4月~2023年3月)の緊急発進回数は772回。対ロシア機は減少し150回、しかし対中国機は575回で高水準で推移。

2022年度(令和4年度)/4月から3月の期間、の緊急発進回数は778回、前年度の1,004階より減少しているが、2013年度以降は700回を超える水準で移行中。

対中国機が74 %で断然多い。東シナ海・宮古海峡・太平洋・台湾東岸・沖縄諸島南西海域、の我が国防空識別圏および領空侵犯が頻発している。

航空方面隊別での回数では、沖縄を担当する南西航空方面隊が515回で、対中国機への対応に追われている。北部航空方面隊116回、西部航空方面隊115回が続く。

図34:(統合幕僚監部)2022年度(赤色)の緊急発進は778回で2013年度以降連続して700回を超え、依然として高水準。対中国機が75 %を超える。

図35:(統合幕僚監部)中国機(赤色)とロシア機(黄色)の飛行パターン。

  • 米第7艦隊駆逐艦は南シナ海(4月9日)と台湾海峡(4月16日)、また同哨戒機は台湾海峡(4月28日)、それぞれで「航行の自由作戦」を実施。
  • 4月9日、米第7艦隊ミサイル駆逐艦「ミリウス(USS Milius / DDG 69)」は、南シナ海で中国が実効支配し軍事基地を設置しているスプラトリー諸島/南沙諸島(Spratly Islands)の「ミスチーフ礁(Mischief Reef)」に接近、海岸から22 km以内に入り「航行の自由作戦 (FONOP=Freedom of Navigation Operation)」を実施した。
  • 「ミスチーフ礁」中国が実効支配を開始する1998年以前はフィリピン領である。中国は1998年から建造物を構築し始め、2015年には3,000 m級の大型機用滑走路を建設した。埋立面積は6平方キロに達し、海軍基地を併設している。

「スプラトリー諸島/南沙諸島」には、中国はすでに「スピ礁」と「ファイアリー・クロス礁」に長大滑走路を建設済みで「ミスチーフ礁」と併せて3本の滑走路を持っことになる。

  • 4月13日、同14日、海自護衛艦「きりさめ・DD-104」満載排水量6,100 tonは、南シナ海で米ミサイル駆逐艦「ミリウス・DDG 69」と共同訓練を実施した。
  • 4月16日、「ミリウス」艦は台湾海峡を通過、ここでも「航行の自由作戦」を行なった。
  • 4月28日、米海軍の哨戒機「P-8Aポセイドン(Poseidon)」は、台湾海峡を通過飛行「航行の自由作戦」を遂行した。

図36:(Google)南シナ海で中国が不法に占拠する諸島の位置。

図37:(U.S. 7th Fleet Public Affaires)米第7艦隊ミサイル駆逐艦「ミリウス(USS Milius, DDG-69)」は、アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦の19番艦、1996年就役、2018年にイージス・システムをベース・ライン9に改修、BMD能力が付与された。同艦は今回で3回目となる台湾海峡を通過「航行の自由作戦」を遂行している。

図38:(military.com)「P-8A」ポセイドン(Poseidon)哨戒機。対潜攻撃(ASW)および対地攻撃(ASuW)機能を備え、情報・監視・偵察(ISR=Intelligence, Surveillance and Reconnaissance)を遂行するのが任務。ボーイング軍事・宇宙・防衛部門が生産中、エンジンはCFM56-7B推力7,300 lbsを2基装備、最大離陸重量は85.8 ton、行動半径約2,000 km、乗員9名、魚雷、巡航ミサイルを装備する。米海軍は128機を調達している。日本を除く西側各國で広く採用されている。

  • 米第7艦隊ヘリコプターと海自ヘリコプターは相模湾で模擬魚雷の発射訓練を実施。

米海軍厚木基地に駐屯する「ヘリコプター攻撃中隊(Helicopter Maritime Strike Squadron) HSM 77」に所属する「セイバーホーク(Saberhawk)」は海自「航空開発団(Air Development Squadron / VX-51)」所属の「SH-60K」ヘリと、4月13日に相模湾で対潜水艦戦(ASW)を想定して訓練用模擬魚雷の発射訓練を行なった。この種の訓練は従来はカリフォルニア州沿岸で行われていたが、脅威が高まる日本近海で行うことで実戦対応の技量が高まり、両軍にとり有効であった。

米海軍「ヘリコプター攻撃中隊(Helicopter Maritime Strike Squadron) HSM 77」は、第5空母航空団の隷下で「ロナルド・レーガン(Ronald Reagan)空母打撃群(CSG-5)」に所属し、空母を含み各艦艇に搭載されている。

「セイバーホーク」ヘリは、基本的にはシコルスキー「MH-60Rシーホーク(Seahawk)」ヘリコプターで、対水上戦(SUW)および対潜水艦戦(ASW)機能を強化し、最新の電子装備を装備した米海軍で最新の機体である。

基本型の「MH-60Rシーホーク(Seahawk)」は、陸軍用「UH-60ブラックホーク(Blackhawk)」のローターを折畳み尾部ローターを傾けて、狭い艦上で使えるよう改修された機体。これまでに約940機が製造されている。

図39:(7th Fleet Photo)米海軍ヘリコプター攻撃中隊(Helicopter Maritime Strike Squadron) HSM 77所属の「セイバーホーク(Saberhawk)」が魚雷を投下する様子。4月13日相模湾で撮影した写真。

  • 4月21日、豪州、日本、韓国、米国の各海軍司令官は、釜山停泊中の韓国海軍ヘリコプター訓練艦「ハンサンド」で合同会議を実施。

4月21日、オーストラリア、日本、韓国、米国の4ヶ国海軍司令官は、釜山港に停泊中のヘリコプター訓練艦「閑山島/ハンサンド(Hansando ATH-81)」に集合、近隣諸国の軍事情勢や海軍の動向について、意見を交換・討議を行った。集まったのはオーストラリア海軍司令官クリス・スミス(Chris Smith)准将、日本海上自衛艦隊司令官齋藤聡海将、韓国海軍司令官キム・ミョン・ソー[金明秀海軍中将](Kim Myung-soo)、米第7艦隊司令官カール・トーマス(Lark Thomas)中将、の各氏。

この会議は「2023年次艦隊司令官会議 (FCRT 2023 =Fleet Commanders’ Roundtable Discussion)」で、昨年はオーストラリア・シドニー(Sidney)で行われた。討議内容は、共同訓練、航行の自由作戦、海上交通基本法、で、各國は今後一層連携を強化して、東アジアの事態に対処する事を約束して散会した。

図40:U.S. Navy 7th Fleet Photo)韓国海軍「閑山島(ATH-81)」のヘリ格納甲板に集まった各國海軍司令官。

図41:(韓国海軍/Wikipedia)韓国海軍ヘリコプター訓練艦「閑山島/ハンサンド(Hansando(ATH-81))」は、満載排水量4,300 ton、全長142 m、幅25 m、速力24 kts、ハンガーとヘリパッドを備える。2021年4月の就役。

  • 中国海軍、075型強襲揚陸艦・071型ドック型揚陸艦・戦車揚陸艦を大量建造中。

中国は、「失われた領土」とみなす台湾、尖閣諸島、沖縄、南シナ海の島々などの占有を目指し、「力による現状変更の試み」を強めてきた。1080年に海南島で海軍陸戦第1旅団が設立され、2017年には大幅に増強されて8個旅団4万人規模に膨張している。そして新型の水陸両用先頭車105 mm砲搭載のZTQ-15を多数装備する様になった。

これの上陸支援をするため海軍は各種揚陸艦の整備・建造を進めている。主力となるのは071型揚陸艦、2万トンでウエルドックから水陸両用戦闘車やエアクッション艇を発進させる。また2021年には4万トンの075型強襲揚陸艦「海南」を含む3隻が就役している。そしてこれら大型揚陸艦の活動を補完する4,000トン級の戦車揚陸艦30隻を配備している。

2025年ごろには強襲揚陸艦が12隻に増えると言う情報もある。

  • 075型強襲揚陸艦

071型を強化した強襲揚陸艦(LHD)で、満載排水量47,000 ton、全長237 m、速力22 kts。輸送ヘリコプター「Z-8J」22機、攻撃ヘリWZ-10またはZ-19を8機、合計30機を搭載運用する。アメリカ海軍ワスプ級強襲揚陸艦と同様矩形の全通飛行甲板と右舷のアイランド型艦橋を持つ。飛行甲板の下はヘリコプター格納庫、その下は貨物室・ウエルドックがある。揚陸兵員約1,600名、水陸徴用者多数、726A型エアクッション艇2隻を搭載する。2021年4月から就役開始、現在3隻「海南(Hainan) 31」、「広西(Guangxi)32」、「安徽(Anhui)33」が就役、さらに5隻の建造を予定している。

図42:(China Military.com/Photo by Qiao Chenxi)中国南部戦区所属の075型強襲揚陸艦「海南(Hainan) 31」、2021年4月に就役、満載排水量47,000 ton、へり30機を搭載、兵員1,600名を揚陸できる。同型艦「広西(Guangxi)32」、「安徽(Anhui)33」の2隻が就役済み。

  • 071型揚陸艦

「071型」は、ドック型輸送揚陸艦(LPD)で、エアクッション揚陸艇4隻と輸送ヘリコプター4機を搭載・運用する。満載排水量は25,000 ton、全長210 m、ウエルドックは長さ140 mで、ここに726型エアクッション艇4隻を収容する。艦橋の後方にはヘリコプター甲板で、Z-8輸送へり2~4機を搭載する。揚陸兵員約700名、装甲車両15~20輌を輸送・揚陸できる。同型艦は、「崑崙山(Kunlunshan 998)・2007年就役から「祁連山 (Qilianshan 985)・2019年就役、まで8隻ある。

図43:( Wikipedia)「071型」ドック型揚陸艦の3番艦「長白山(Changbaishan) 989」。2012年の就役。

  • 戦車揚陸艦

2003年から就役を開始した072A型戦車揚陸艦「玉亭I型」の改良型で、輸送能力は戦車10輌と兵員250名を揚陸させる能力がある。ビーチングを基本とする戦車揚陸艦(LST)である。満載排水量4,800 ton、全長120 m、全幅16.4 m、後部にはヘリ発着甲板、艦首にはバウドアがあり、内部の折り畳み式ランプから揚陸部隊を上陸させる。同種の戦車揚陸艦は「玉亭i型」、「玉亭ii型」など各種で約30隻が完成・配備されている。

図44:(China military.com/Photo by Zhang Leiyun) 4月13日戦車揚陸艦2隻が福建省沿岸で上陸演習を実施している様子。

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