令和5年8月、我国周辺での中露両軍の活動と我国/同盟諸国の対応


2023(令和5年)-09-06 松尾芳郎

令和5年8月、我国周辺における中露両軍および北朝鮮の活動と、我国および同盟諸国の動きに関し各方面から多くの発表があった。今月の注目すべきニュースは次の通り。

(Military threats from Chinese, Russian Forces and North Korea are tensed up in August. Japan and Allies conducted multiple large scale exercises for retaliation. Following were main issues.)

  1. 7月後半に日本海で演習をした中露合同艦隊9隻はその後ベーリング海に進出アラスカ近海で米海軍と対峙、帰路は東京都沖ノ島・沖縄県大東島・宮古海峡経由で東シナ海に退去
  2. 8月6日-19日の間、ロシア海軍情報収集艦、太平洋から津軽海峡経由日本海青森県沖で遊弋、8月19日に津軽海峡を東へ太平洋に進出、8月20日-25日には千葉県犬吠埼の接続水域に侵入・東京湾入口に達し、その後沖合に退去
  3. 8月4日、海自「IPD 23」所属護衛艦「しらぬい」はソロモン諸島ガダルカナル島の首都ホニアラを訪問、同国の海上警察部隊と親善訓練を実施
  4. 8月7日、海自「IPD 23」所属護衛艦「さみだれ」はインドが所有するベンガル湾東部の島アンダマン諸島のポート・ブレア港でインド海軍との親善訓練を実施
  5. 8月10日、海自「IPD 23」所属輸送艦「しもきた」はフランス領ニューカレドニア島周辺で駐留フランス軍と共同訓練「オグリベルニー23-4」を実施
  6. 8月11日-21日の間、海自「IPD 23」所属護衛艦「しらぬい」はオーストラリア・シドニーとその東方海域で日米豪印共同訓練「マラバール2023」に参加
  7. 8月15日、ロシア空軍戦略爆撃機「Tu-95」2機が日本海公海上を6時間に渡って飛行、Su-30およびSu-35戦闘機が護衛
  8. 8月18日、ロシア哨戒機2機、日本海から対馬海峡を経て東シナ海へ進出、往路と同じ経路で日本海へ退去
  9. 8月19日-27日の間、中国軍東部戦区は台湾周辺で海空軍を動員、台湾海峡中間線を超え、また台湾東岸近くに進出、連日台湾に圧力
  10. 8月21日-28日の間、海自ヘリ空母「ひゅうが」は、千島列島東方から関東地方南方海上の海空域で米海軍、カナダ海軍と共同訓練「ノーブル・チヌーク」を実施
  11. 8月24日、海自ヘリ空母「いずも」、護衛艦「さみだれ」は、フィリピン・マニラ周辺の海空域で米海軍、オーストラリア海空軍、フィリピン海軍と共同訓練を実施
  12. 8月25日、海自護衛艦「まや」は、沖縄東方から関東南方の太平洋上で米空母「ロナルド・レーガン」と共同訓練を実施
  13. 8月25日、北朝鮮が偵察衛星打上げを試みたが軌道投入に失敗
  14. 8月25日、中国空軍戦略爆撃機「H-6」2機が東シナ海から宮古海峡経由太平洋に進出南東に向かい、変針、往路と同じ航路で東シナ海に退去
  15. 8月27日-9月13日の間、陸自第11空挺師団・水陸機動団はインドネシア・ジャワ島等で米国、インドネシア、オーストラリア、イギリス、シンガポール各国軍との共同訓練「スーパー・ガルーダ・シールド23」に参加
  16. 8月29日、日・米・韓 3ヶ国海軍ミサイル駆逐艦は東シナ海で弾道ミサイル情報共有訓練を実施

以下時系列に沿って各項目を説明する。

  1. 7月後半に日本海で演習実施した中露合同艦隊9隻はその後ベーリング海に進出アラスカ近海で米海軍と対峙、帰路は東京都沖ノ島・沖縄県大東島・宮古海峡経由で東シナ海に退去

7月18日ー23日

中国海軍5隻とロシア海軍4隻、計9隻は、日本海の島根県隠岐諸島の北400 kmの海域で実弾射撃を含む演習を実施した。これは中国・ロシア海軍が新たな枠組み“日米の戦力分散”を図るため「北方連合2023」と名付けて実施した演習。

参加艦艇は;―

中国海軍:ルーヤンIII級ミサイル駆逐艦2隻(119および121)、ジャンカイII級フリゲート2隻(542および598)、フチ級補給艦(889)、

ロシア海軍:ウダロイI級駆逐艦2隻(548および564)、ステレグシチーII級フリゲート(337)、ステレグシチー級フリゲート(339)、

7月28日―29日

中露9隻の艦隊に、ロシア海軍ドウブナ級補給艦が同行、さらに中国海軍ドンデイアオ級情報収集艦(796)が加わり、合計11隻の艦隊が宗谷海峡を東進、オホーツク海に入る。

8月6日

オホーツク海から太平洋に進出した中露艦隊11隻は、アラスカ沖アリューシャン列島 (Aleutian Islands) 近くに進出、その周辺海域に接近した。米北方軍は、4隻の駆逐艦とP-8Aポセイドン哨戒機で追跡・監視を行った。これほど大規模な中露艦隊が米国の領海に接近したのは歴史上初めてのことだが、艦隊は米国の領海に侵入することなく離れた。

米北方軍の報道官は、中露艦隊はアラスカ近海の国際水域にとどまり領海侵犯はなかった、と述べるだけで、その規模や正確な位置については明らかにしていない。

ロシア海軍報道は、同艦隊はベーリング海で対潜訓練を実施、対潜ヘリLa-27PLによる爆雷投下訓練も行った、と発表した。

アリューシャン列島は、ロシア・カムチャッカ半島とアラスカ州アラスカ半島の間に点在する14の大きな島と55の小さな島で構成され、大部分はアメリカ領だが、西の端のコマンデル諸島(Commander Islands)のみがロシア領になっている。

米領アリューシャン列島の西端にはアッツ島(Attu)、やや東に離れてキスカ島(Kiska)がある。大東亜戦争時、1942年6月・日本軍が両島を占領した。翌1943年5月に米軍がアッツ島に上陸、我が守備隊2,650名は善戦及ばず月末に玉砕。この結果キスカ島守備は困難と判断、撤収することが決まり、1943年7月29日に救出作戦を実施。これで5,185名守備隊全員の撤退に成功した。作戦は軽巡2隻、駆逐艦6隻で実施され、僅か55分間で全員を収容、7月31日から8月1日にかけて千島列島幌筵島に帰還した。

図1:(Newsweek 2023-8-8)アリューシャン列島の位置。中露艦隊は、オホーツク海から千島列島を通り北太平洋に進出、それからベーリング海に入り対潜演習を実施、アリューシャン列島近くを航行した。

8月15日―17日

米領アリューシャン列島海域を航行した中露艦隊11隻は、その後太平洋を南西に進み、8月15日に東京都沖ノ鳥島付近を通過、同16日に沖縄県沖大東島南を通り、同17日には沖縄本島と宮古島の間、宮古海峡を通過して東シナ海に入り、立ち去った。

図2:(統合幕僚監部)7月18日−23日日本海で演習をした中露艦隊は、オホーツク海・千島列島横断・北太平洋・ベーリング海・アリューシャン列島/アラスカ近海で演習・北太平洋・沖ノ鳥島・沖大東島・宮古海峡を経由、東シナ海に入る。ここで別れたロシア艦隊は3週間以上にわたり7,000 n.m.を航行して8月27日に基地に帰還した(ロシアInterfax通信)。

8月14日

中国国防省は、中国・ロシアの艦隊が日本海・太平洋で行った演習“パトロール”に対して、日本が追跡・監視を行った事について「非常に危険な行為」と非難する談話を発表した。中国国防省は、中露海軍が西太平洋と北太平洋で行った“巡航パトロール”に日本艦艇が近距離で追跡と監視を行ったと指摘、非常に危険で偶発的な事故を起こしかねない、と中止を求めた。ロシアとの連携を誇示し、日本を牽制する狙いがるとみられる。(FNNオンライン)。

2. 8月4日―19日の間、ロシア海軍情報収集艦、太平洋から津軽海峡経由日本海青森県沖で遊弋、8月19日に再び津軽海峡を東へ太平洋に進出、8月20日-25日には千葉県犬吠埼の接続水域に侵入・東京湾入口に達し、その後沖合に退

8月4日夕刻、ロシア海軍ビシニヤ級情報収集艦(208)は、北海道襟裳岬南西から津軽海峡を通過、日本海に向け航行、青森県津軽半島の沖合日本海の接続水域内を南北に遊弋。その後南下、11日には石川県能登半島北の接続水域に侵入、そこから西日本海の向け退去した。

8月19日午前に、再び津軽海峡西に現れ、津軽海峡を東進、太平洋に向け航行。

8月20日から25日にかけて、三陸沖から房総半島沖の接続水域内を航行、千葉県犬吠埼を南西に進み、東京湾入口付近から接続水域を出て南西に進んだ。

8月25日から26日には、東京都御蔵島と八丈島の間を通り27日には鹿児島県種子島沖を南西に進み、反転して、30日には再び八丈島沖を北東に航行した。

情報収集艦(208)が航行した近くには、石川県小松基地、青森県三沢基地、宮城県松島基地、茨城県百里基地、横須賀海軍基地、福岡県築城基地、宮崎県新田原基地など重要施設が連なっており、これらから発出される電子情報を収集していたものと見られる。

図3:(統合幕僚監部)8月25日発表の写真。ロシア海軍の艦艇は、中国艦に比べ汚れが目立つ。

図4:(統合幕僚監部)統幕発表のロシア海軍ビシニヤ級情報収集艦(208)の8月4日から30日までの航跡をまとめて示した図。

3. 8月4日、海自「IPD 23」所属護衛艦「しらぬい」はソロモン諸島ガダルカナル島の首都ホニアラを訪問、同国の海上警察部隊と親善訓練

8月4日、海自令和5年度インド太平洋方面派遣部隊 (IPD 23)所属の護衛艦「しらぬい」はソロモン諸島国・ガダルカナル島にある首都ホニアラを訪問、同国海上警察と親善訓練を実施した。

ガダルカナル (Guadalcanal) 島は、大小100を超える島々からなる英連邦に属する独立国家「ソロモン諸島(Solomon Islands)」の中心の島で首都ホニアラ(Honiara)がある。ガダルカナル島は愛知県ほどの広さで、人口は約6万人、ホニアラは島の北岸にある。

ホニアラ国際空港は、1942年7月に日本軍によって建設された「ルンガ飛行場」がその始まり、同飛行場は完成すると間も無く米軍に奪われ「ヘンダーソン飛行場」となる。ここの争奪戦がガダルカナル攻防戦の始まりで、日米両軍が死闘を繰り返した南太平洋随一の戦跡。

両軍の総力を挙げた戰いは半年ほど続いたが、日本軍は1943年年初までに圧倒的な物量を誇る米軍に屈し、ガダルカナル島の放棄を決めた。そして1943年2月に、数日置きに3回に分けて撤収作戦を敢行、いずれも20隻の駆逐艦が輸送に当たり合計12,000名の将兵の救出に成功した。これは有名なキスカ島撤収作戦の “5,000人の救出に成功”の2倍以上となる規模で、史上最大の島嶼撤退作戦であった。ガダルカナル島激戦での日本軍戦没者は22,000名、うち15,000名は飢餓やマラリアなどで戦病死した人々であった。これに対し米軍の戦死者は約6,800名。

日本軍の勇敢な戦いぶりは今でも地元民に語り継がれており、日本への尊敬につながっている、と言う。

図5:(海上自衛隊)護衛艦「しらぬい」の艦上でソロモン諸島国海上警察部隊に立入検査訓練を実演する海自隊員。

図6:(Wikipedia)ガダルカナル島の地図。日本軍が設営したツラギ飛行場は、米軍に奪われへンダーソン飛行場になり、戦後はホニアラ国際空港となった。ここの争奪を巡って日米が死闘を繰り広げた。ソロモン諸島の北端ブーゲンビル島はパプア・ニューギニアの所属になっている。

図7:(Wikipedia)海自護衛艦「しらぬい(DD-120)」は、「あさひ」型の2番艦として三菱重工長崎造船所で建造2019年2月に就役、第3護衛隊群第7護衛隊に編入、大湊基地が母港。満載排水量6,800 ton、全長151 m、速力30 kts、主な兵装は、62口径5 inch単装砲1門、20 mm CIWS対空機関砲2基、Mk.41 VLS 32セル1基、90式SSM 4連装発射筒2基。艦橋4面にOPY-1多機能レーダーを装備する。主機はハイブリッド推進機関COGLAG方式を護衛艦として初めて採用した。低速・巡航はガスタービン発電機からの電力で電気推進、高速時にはガスタービン直接駆動を併用する。

4. 8月7日、海自「IPD 23」所属護衛艦「さみだれ」はインドが所有するベンガル湾東部のアンダマン諸島のポート・ブレア港でインド海軍との親善訓練を実施

8月2日〜5日の間、海自令和5年度インド太平洋方面派遣部隊 (IPD 23)所属の護衛艦「さみだれ」は、インド領のベンガル湾東部アンダマン・ニコバル諸島(Andaman-Nicobar Islands)・南アンダマン島(South Andaman)にある中心地ポート・ブレア(Port Blair)に寄港、インド軍との親善交流を行った。

アンダマン・ニコバル諸島はインド洋の戦略的要衝、これまでインド政府は外国人の入境を制限し、中国が軍事基地を建設する「真珠の首飾り構想」に警戒を強めてきた。日本はインド政府に協力し、JICA経由で総工費40億円を無償供与、大型蓄電設備を含む太陽光発電施設の建設を2021年から開始、2023年までに完成させる。今回の護衛艦「さみだれ」の訪問はこれを補完するもので日印親善の強化を狙ったものである。

図8:(海上自衛隊)「さみだれ」の前甲板上で、インド軍アンダマン・ニコバル・コマンド司令官 (Air Marshal Saju Balakrishnan)と記念撮影をした。「さみだれ/DD-106」は、IHI東京第1工場で建造、2000年3月に就役。現在は第4護衛隊群・第4護衛隊に所属、呉が母港。「むらさめ」型護衛艦9隻中の6番艦。満載排水量6,200 ton、速力30 kts、62口径76 mm単装砲1門、Mk48 VLS 1基 (16セル)とMk 41 VLS 1基 (16セル)を備える。

図9:アンダマン諸島の位置。大小300程の島々で構成される。ポート・ブレアは南アンダマン島にあり、同諸島の中心都市。17~18世紀中はイギリスの領地で政治犯の流刑地として使われていた。1942年3月に日本軍が占領、1945年8月まで駐留。敗戦後は英領、そしてインド独立でインド領となる。

5. 8月10日、海自「IPD 23」所属輸送艦「しもきた」はフランス領ニューカレドニア島周辺で駐留フランス軍と共同訓練「オグリベルニー23-4」を実施

8月10日、海自令和5年度インド太平洋方面派遣部隊 (IPD 23)所属の輸送艦「しもきた」は、南太平洋フランス領ニューカレドニア駐留フランス軍哨戒艦「オーガスト・ベネビッグ (Auguste Benebig)」とニューカレドニア周辺海域で共同訓練「オグリベルニー23-4 (Oguri-Verny 23-4)」を行なった。訓練終了後「しもきた」は11日から14日の間、同島ヌメア港 (Noumea)に親善寄港した。

図10:(産経新聞)ニューカレドニア(New Caledonia)はフランス語でグランドテール (Grande Terre/本土)島を中心とするロイヤルテイ諸島にある。ニッケル鉱山の島として有名。18~19世紀は重罪犯の流刑地として使われた。ニッケル採掘が始まると日本人の移住が始まり1945年ごろには1,200人が在留していたが、開戦後は敵性人として強制送還・移住あるいは捕虜として収容された。ソロモン諸島で日米が戦った時期は米軍基地として使われた。戦後は、中国が支援する独立運動が盛んになったが、数次にわたる住民投票でいずれも否決され、フランス領として存続している。人口は30万人弱。

図11:(海上自衛隊)海自輸送艦「しもきた」から撮影したニューカレドニア駐留フランス軍哨戒艦(Offshore Patrol Boat)「オーガスト・ベネビッグ (Auguste Benebig)」。排水量1,300 ton、全長80 m、2022年就役の新造艦。

図12:(海上自衛隊)輸送艦「しもきた/LST-4002」は「おおすみ」級の2番艦、三井造船玉野事業所で建造、2002年就役、呉基地第1輸送隊に所属。満載排水量14,000 ton、全長178 m、速力22 kts。艦後部ウエルドックには輸送用ホーバークラフト(LCAC)2隻を搭載、全通飛行甲板はCH-47大型ヘリやV-22オスプレイが離着艦可能、係留もできる。輸送能力は、陸自兵員330名、大型トラック65輌、90式戦車(重量50 ton)18輌。

6. 8月11日-21日の間、海自「IPD 23」所属護衛艦「しらぬい」はオーストラリア・シドニーとその東方海域で日米豪印共同訓練「マラバール2023」に参加

8月11日〜21日の間、海自令和5年度インド太平洋方面派遣部隊 (IPD 23)所属の護衛艦「しらぬい」は、シドニーおよびオーストラリア東方の海空域で米海軍、インド海軍、およびオーストラリア海空軍と相互運用性の向上のため共同訓練「マラバール2023 (Malabar 2023)」を実施した。

参加したのは;―

海上自衛隊:護衛艦「しらぬい/DD-120」、特別警備隊、

米海軍:ミサイル駆逐艦「ラファエル・ベラルタ (USS Rafael Peralta /DDG-115)」、補給艦「ラパパノック (USNS Rappahannock /T-AO-204)」、潜水艦、P-8A哨戒機、特殊作戦部隊、

インド海軍:駆逐艦「カルカッタ (INS Korkata /D 63)」、フリゲート「サヒヤドリ(INS Sahyadri /F 49)」、

オーストラリア海軍:駆逐艦「ブリスベン (HMAS Brisbane /DDG-41)」、揚陸艦「チャールズ (HMAS Charles /L 100)」、潜水艦、特殊作戦部隊、

オーストラリア空軍:P-8A哨戒機、F-35A戦闘機、

図13:(Royal Australian Navy Photo)4ヶ国共同訓練「マラバール2023」に参加するためシドニー港に入る各國艦艇。手前からインド海軍「サヒヤドリ」、日本海自「しらぬい」、インド海軍「カルカッタ」、その奥はオーストラリア海軍「ブリスベーン」。

7.8月15日、ロシア空軍戦略爆撃機「Tu-95」2機が日本海公海上を6時間に渡って飛行、Su-30およびSu-35戦闘機が護衛

ロシア国防省は15日、長距離戦略爆撃機Tu-95 2機が日本海の公海上を6時間に渡って飛行したと発表した。この飛行にはSu-30およびSu-35戦闘機が護衛として随伴した。飛行は国際規約を守って実施された。本飛行について我国防衛省は言及していない。

ツポレフ (Tupolev) Tu-95戦略爆撃機は1952年初飛行、実戦部隊への配備は1956年から、1952-1993年間で多数製造されたが大半が廃棄され現存数は50~60機程度。エンジンはクズネツオフ(Kuznetsov)NK-12ターボプロップ 4基で、これで二重反転プロペラを回す。主翼は35度の後退角付き。最大15 tonの各種巡航ミサイルなど兵装を搭載、無給油で10,000 km以上飛行できる。最新の改良型は「Tu-95MSM」で、レーダーを含む電子装備品と目標探知システムを近代化し、プロペラをAV-60Tに換装・振動を半減するなど改良を加え、2020年から配備が始まっている。ロシア空軍で配備中のTu-95MSは2020年現在で55機とされる。

図14:(Wikipedia)Tu-95MSは、乗員6~7名、全長46.2 m、翼幅50.1 m、最大離陸重量188 ton、エンジンはクズネツオフ(Kuznetsov)NK-12ターボプロップ軸馬力15,000 hp 4基、プロペラは8翅2重反転定速式。最大速度は925 km/hr、つまり世界最速のプロペラ機ということになる。

8. 8月18日、ロシア哨戒機2機、日本海から対馬海峡を経て東シナ海へ進出、往路と同じ経路で日本海へ戻る

8月18日、ロシアの哨戒機「IL-38」2機が日本海から対馬海峡を通過して東シナ海に入り、その後反転して対馬海峡を通過、日本海に向け立ち去った。

図15:(統合幕僚監部)IL-38哨戒機は、ターボプロップ4発のIL-18旅客機を対潜哨戒機にした機体。主翼の位置を3 m前に移動、機首下部にレドーム、尾部にMADが取り付けられた。1967年~1972年の間量産されロシア海軍に配備中。60機ほどが生産された。インド海軍がIL-38SD型5機を購入・運用している。全長39.6 m、翼幅37.4 m、全備重量63.5 ton、速度650 km/hr、航続距離7,500 km、ソノブイ、魚雷、ミサイル等を9 ton搭載する。

図16:(統合幕僚監部)IL-38N型哨戒機。インド海軍向け改良型「IL-38SD」と同じく機首頂部にノベラP-38海上探知システムを搭載している。ノベラ(Novella) P-38システムは探知距離80 kmで水上・水中目標32個を同時追跡できるという。ロシア海軍はIL-38Nを8機保有している。

図17:(統合幕僚監部)8月18日、2機のロシア海軍哨戒機IL-38が飛行した航路。

9. 8月19日-27日の間、中国軍東部戦区は台湾周辺で海空軍を動員、台湾海峡中間線を超え、また台湾東岸近くに進出、連日台湾に圧力を加えた

8月19日、中国軍は、台湾の頼清徳副総統が南米パラグアイ訪問に際し米国に立ち寄ったのに反対して、台湾周辺で演習を実施した。中国軍東部戦区は、19日に台湾北部と南西部で制海権と制空権を奪う演習を実施した、と発表した。台湾国防部は、19日午前10時以降、台湾周辺で中国軍機42機と艦艇8隻が活動し、そのうち26機が台湾海峡中間線を超え台湾側に侵入した、と発表した。

8月25日午前7時から翌26日にかけて、戦闘機、爆撃機、早期警戒機、ドローン、計32機が台湾周辺に現れ、そのうち20機が台湾海峡中間線を超えたり、台湾の南西や南東それに北東部の防空識別圏に侵入した。同時に中国海軍艦艇9隻が台湾周辺を航行し、台湾側に圧力を加えた。この中には、偵察・攻撃型無人機「BZK005」と大型無人機「TB001」が、台湾北東部に隣接する沖縄県与那国島との間を飛行、台湾南東部空域に進出し往復した。台湾軍は空軍・海軍が緊急発進、監視に当たった。

我国統合幕僚監部発表によると、8月25日午前から午後にかけて、偵察型無人機「BZK 005」と大型無人機(機種不詳)が与那国島と台湾の間を通過、太平洋に出、台湾東太平洋上を飛行して、往路と同じ経路で東シナ海に戻った。

また、統合幕僚監部8月28日発表では、偵察型無人機「BZK 005」1機が再び与那国島―台湾の間を通過、太平洋上で旋回、その後バシー海峡方面に向かった。

図18:(統合幕僚監部)8月25日昼頃、中国軍の偵察型無人機「BZK 005」と大型無人機(台湾発表は「TB 001」)の2機が飛行した経路。

図19:(統合幕僚監部)8月25日、空自機が撮影した偵察型無人機「BZK 005」。機首上面の膨らみは衛星通信アンテナ、機種下部にはEO/IRセンサー(電子・光学/赤外線センサー)を装備、単発ピストンエンジンで推進式プロペラを回す。翼幅18 m、最大離陸重量1.2 ton、航続時間40時間、速度220 km/hr。

図20:(航空自衛隊)空自機が以前撮影した大型無人機「TB 001」。台湾発表では8月25日飛来した無人機のうち1機は本機だとしている。前述の「BZK 005」より大型、翼幅20 m、最大離陸重量2.8 ton、双胴・双発で最大離陸重量2.8 ton、航続距離6,000 km、航続時間35時間、ペイロード1.2 tonで誘導爆弾、巡航ミサイル等をを翼下面のハードポイントに装備可能。

10.   8月21日-28日の間、海自ヘリ空母「ひゅうが」は、千島列島東方から関東地方南方海上の海空域で米海軍、カナダ海軍と共同訓練「ノーブル・チヌーク」を実施

8月21日-28日の間、千島列島東方から関東地方南方の太平洋上の海空域で、海上自衛隊、米海軍、およびカナダ海軍は共同訓練「ノーブル・チヌーク(Noble Chinook)」を実施した。参加したのは;―

海上自衛隊:ヘリ空母「ひゅうが (DDH 181)」

米海軍:ミサイル駆逐艦「ベンフォード (USS Benfold /DDG 65)」

カナダ海軍:フリゲート「オタワ (HMCS Ottawa/FFH 341)」、「バンクーバー (HMCS Vancouver/FFH 331) 」、補給艦「アステリクス (MV Asterix)」

共同訓練終了後、28日にカナダ海軍のフリゲート「オタワ」など3隻は横須賀基地に寄港した。このうち「オタワ」は9月1日に出航、「航行の自由作戦」実行のため台湾海峡に向かう。

「オタワ (HMCS Ottawa /FFH 341)」は「ハリファックス(Halifax)」級フリゲート12隻の12番艦、1996年就役、満載排水量5,000 ton、全長134 m、速力30 kts、後部甲板はヘリ発着用、対潜魚雷Mk 46を24基、対艦ミサイル・ハープーン4連装発射筒2基などを装備する。

図21:(産経新聞 photo by田中靖人)8月28日横須賀軍港に接岸したカナダ海軍フリゲート「オタワ」(左)と「バンクーバー」(右)。「オタワ」は9月1日出航、台湾海峡通過に向かう。

11. 8月24日、海自ヘリ空母「いずも」、護衛艦「さみだれ」は、フィリピン・マニラ周辺の海空域で米海軍、オーストラリア海空軍、フィリピン海軍と共同訓練を実施

8月24日マニラ周辺の海空域で、海自令和5年度インド太平洋方面派遣部隊 (IPD 23)所属のヘリ空母「いずも(DDH-183)」および護衛艦「さみだれ(DD-106)」は、米海軍沿海域戦闘艦「モービル(USS Mobile/LCS-26)」、オーストラリア海軍強襲揚陸艦「キャンベラ(HMAS Canberra /LHD-02)」およびフリゲート「アンザック(HMAS Anzac/FFH-150)」、オーストラリア空軍戦闘機「F-35A」、それにフィリピン海軍揚陸艦「ダバオ・デル・スール(BRP Davao del Sur /LD-602)」と共同訓練を行なった。「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて相互の連携を強化するために実施した。

訓練終了後8月25日-31日の間、海自「いずも」と「さみだれ」はマニラに寄港した。

今回の訓練実施は、中国が南シナ海で南沙諸島や西沙諸島の領有化を進めフィリピンの領土を侵害していることが背景にある。フィリッピンは米軍が駐留可能な基地の拡充を決定した。南シナ海の秩序を維持するため、この訓練を通じて我国・オーストラリア・米軍はフィリピンを支援、連携を強化する構えを示したもの。参加した海自ヘリ空母「いずも」、米海軍沿海域戦闘艦「モービル」、オーストラリア海軍強襲揚陸艦「キャンベラ」、それにフィリピン海軍輸送揚陸艦「ダバオ・デル・スール」、いずれも最新の揚陸機能を備えた艦で、島嶼防衛の決意を改めて示した演習だったと言える。

図22:(海上自衛隊)マニラ周辺で共同訓練をした海自ヘリ空母「いずも/DDH-183」26,000 ton、と護衛艦「さみだれ/DD-106」

図23:(USN)米海軍沿海域戦闘艦「モービル(USS Mobile/LCS-26)」は「インデペンデンス(Independence)」級沿海域戦闘艦の13番艦。アウストラル社製で2021年5月就役。3胴型/トリマラン(trimaran)で、満載排水量3,100 ton、全長127 m、速力40 kts、兵装は57 mm 機関砲1門、12.7 mm機関砲4門、シーラム(SeaRAM) 11連装対空ミサイル1基、後部甲板にMH-60R/Sヘリコプター2機を搭載する。

図24:(Wikipedia)オーストラリア海軍強襲揚陸艦「キャンベラ(HMAS Canberra /LHD-02)」は、スペインのナバニシア(Navanitia)が艦体を建造、オーストラリアに回航し、BAEシステムスの手で完成した艦。2014年に就役、満載排水量27,500 ton、全長231 m、速力20 kts以上、同型艦「アデレード(HMAS Adelaide/L 01)がある。約1,000名の揚陸兵員と付属戦闘車両・装備を輸送できる。飛行甲板は、標準型ヘリなら6機、CH-47大型ヘリなら4機を同時に運用可能。艦尾ウエルデッキにはエアクッション揚陸艇LCCを4隻搭載する。

図25:(フィリピン海軍)フィリピン海軍輸送揚陸艦「ダバオ・デル・スール/LD-602」は満載排水量11,600トン、全長123 m。同級には「ターラック」がある。

図26:(海上自衛隊)8月24日マニラ近海で、海自ヘリ空母「いずも」がオーストラリア海軍フリゲート「アンザック」に洋上給油をしているところ。

12. 8月25日、海自護衛艦「まや」は、沖縄東方から関東南方の太平洋上で米空母「ロナルド・レーガン」と共同訓練を実施

8月21日-25日、海自ミサイル駆逐艦(通称イージス艦)「まや/DDG 179」は、沖縄東方から関東南方の太平洋上で米海軍空母「ロナルド・レーガン」と搭載ヘリのクロスデッキ離着艦を含む共同訓練を実施した。

図27:(海上自衛隊)ミサイル駆逐艦「まや/DDG 179」はJMU磯子工場で建造、2020年就役、横須賀基地第1護衛隊群第1護衛隊に所属、同級艦は「はぐろ/DDG 180」がある。満載排水量10,250 ton、全長170 m、速力30 kts以上、主機はCOGLAS方式、すなわちガスタービンエレクトリック・ガスタービン複合推進方式(Combined Gas turbine electric And Gas turbine)で、低速・巡航時はガスタービン発電で電気推進、高速時は別のガスタービンで機械駆動を併用し、出力を増大する。主砲は62口径5 inch単装砲、ミサイルは、Mk.41 VLS 96セルにSM-2、SM-3を搭載。対地・対艦ミサイルは4連装発射筒2基を備える。

図28:(海上自衛隊)「まや」に着艦する米空母「ロナルド・レーガン」の搭載ヘリコプター「MH-60S」

13. 8月25日、北朝鮮が偵察衛星打上げを試みたが軌道投入に失敗

北朝鮮は8月24日3時51分、西部沿岸の東倉里から偵察衛星と搭載した弾道ミサイルを発射した。

3時58分、第1段は朝鮮半島の西300 kmの黄海上に落下、

3時59分、2段目は朝鮮半島南西350 kmの東シナ海に落下、

4時ごろ、沖縄本島と宮古島の間の上空を通過、

4時5分ごろ、フィリピンの東約600 kmの太平洋上に落下、

いずれも予告落下地点から外れた区域に落下した。衛星の地球周回軌道への豆乳は確認できず、衛星打ち上げには失敗した。

北朝鮮の偵察衛星打上げは去る5月の1回目の失敗に続いて2回目の失敗となる。

図29:(防衛省)北朝鮮偵察衛星打上げ時の航跡

北朝鮮は8月30日23時、西岸から弾道ミサイル2発を北東方面に向け発射した。落下地点はいずれも朝鮮半島東海岸付近で我国EEZ外であった。

23時38分発射:高度50 km、射程350 km

23時46分発射:高度50 km、射程400 km

14. 8月25日、中国空軍戦略爆撃機「H-6」2機が東シナ海から宮古海峡経由太平洋に進出南東に向かい、変針、往路と同じ航路で東シナ海に退去

8月25日午前、中国軍戦略爆撃機「H-6」2機が東シナ海から沖縄本島と宮古島の間を通過して太平洋へ進出、南東に飛行し反転、航路と同じ経路で東シナ海に退去した。

図30:(統合幕僚監部)8月25日、中国空軍戦略爆撃機2機の飛行経路。

図31:(統合幕僚監部)「H-6」は、ロシアTu-16爆撃機を西安航空機で国産化した機体。H-6H、H-6K、H-6M、H-6Nなど各型がある。我国周辺にはH-6K、H-6M、それから最新のH-6Nが出現する。H-6Kからは兵装搭載量がそれまでの9 tonから12 tonに増え、機番が5桁表示になり、翼下面に巡航ミサイルCJ-10Aを6発搭載可能。写真は「9115」号機。

図32:(統合幕僚監部)同「53」号機。

15. 8月27日-9月13日の間、陸自第11空挺師団・水陸機動団はインドネシア・ジャワ島等で米国、インドネシア、オーストラリア、イギリス、シンガポール各国軍との共同訓練「スーパー・ガルーダ・シールド23」に参加

8月27日-9月13日の間、陸自第1空挺団・水陸機動団等は、米軍、インドネシア軍、オーストラリア軍、イギリス軍、シンガポール軍が行う実動訓練「スーパー・ガルーダ・シールド23 (Super Garuda Shield 23)」に参加、島嶼奪回のための空挺作戦、水陸両用作戦の訓練を行う。参加兵員は6カ国合計で約6,000名。参加部隊は;―

陸上自衛隊:第1空挺団(160名)、水陸機動団、

米軍:第25歩兵師団、第11空挺団、第31海兵機動展開隊、

インドネシア軍:第2師団、

オーストラリア軍:第9師団、

イギリス軍:第16空中強襲旅団、

シンガポール軍:緊急即応連隊GUARDS,

特徴は、海自厚木基地から長距離の空中機動を含む演習となったこと、水陸機動団が友好国軍と共同で空挺作戦と連携した強襲上陸訓練を行うこと、および、共同攻撃戦闘訓練を実弾射撃/爆撃で実施すること、が挙げられる。

16. 8月29日、日・米・韓 3ヶ国海軍ミサイル駆逐艦は東シナ海で弾道ミサイル情報共有訓練を実施

8月29日、海自ミサイル駆逐艦「はぐろ/DDG 180」は東シナ海において、米海軍ミサイル駆逐艦「ベンフォールド/Benfold ・DDG 65 」、韓国海軍ミサイル駆逐艦「ユルゴク・イ・イ(栗谷李珥) /DDG 993」の3隻で弾道ミサイル情報共有訓練を含む各種訓練を行なった。これは北朝鮮が弾道ミサイル発射を繰り返す中、これに対処するために行ったもの。

米海軍ミサイル駆逐艦「ベンフォールド/USS Benfold /DDG 65 」は、「アーレイ・バーク」級(70隻以上)の15番艦だが、イージス・システムBMD3.6.1搭載の改修済みでミサイル防衛対応艦となっている。

図33:(統合幕僚監部)東シナ海で弾道ミサイル情報共有訓練をする海自ミサイル駆逐艦「はぐろ/DDG 189」艦内(右)と3ヶ国ミサイル駆逐艦の訓練(左)

―以上―