中露軍の脅威に対抗、空自・米豪空軍との共同訓練を一段と強化


2023-08-23(令和5年) 松尾芳郎

図1:(USAF photo by Staff Sgt. Cristian Sullivan) 左のランプに駐機中のB-52爆撃機3機ほいずれも「Global Strike Command /地球規模攻撃軍団」麾下の第2爆撃航空団所属。

図2:(USAF photo by Tech. Sgt. Michael Cossaboom)

図3:(USAF photo by Staff Sgt. Cristian Sullivan)展示訓練/エレファント・ウオークは、米空軍F-35A戦闘機5機を先頭に、フランス空軍ラファエル 戦闘機4機、その後ろにC-130輸送機(空自機を含む)およびA400輸送機の一群、B-52H爆撃機、KC-135空中給油機、C-17グローブマスター輸送機、そして最後部にはA330 MRTT空中給油機、が整列、ゆっくり走行して行われた。

7月19日グアムのアンダーセン・空軍基地(Andersen Air Force Base, Guam)に「インド・太平洋に展開する6カ国の空軍が集結、展示訓練/エレファント・ウオークを行なった。参加したのは、U.S.、U.K.、カナダ、オーストラリア、日本、およびフランスの各国空軍の戦闘機、爆撃機、輸送機、それに給油機など23機。

(Six allies joined in an elephant walk at a Andersen Air Force Base, Guam, on July 19, show casing the international air armada they are currently fielding in the Indo-Pacific. The U.S., U.K., Canada, Australia, Japan, and French all contributed to the 23-plane formation, which included fighters, bombers, transport, and aerial tankers.)

参加したのは米空軍機が主体で、それに各国空軍から少数機ずつが参加した。

米空軍;―

F-35戦闘機5機;ユタ州ヒル空軍基地(Hill Air Force Base, Utah)第419戦闘航空団所属。

B-52爆撃機1機;テキサス州東に隣接するルイジアナ州バークスデール空軍基地(Barksdale Air Force Base, Louisiana)の第2爆撃航空団(2nd Bomb Wing)所属。

KC-135空中給油機2機;ワシントン州フェアチャイルド空軍基地(Fairchild Air Force Base, Washington)第92空中給油航空団(92nd Air Refueling Wing)所属。

C-17輸送機2機;カリフォルニア州トラビス空軍基地(Travis Air force Base, Calif.)第60航空輸送団(60th Air Mobility Wing)所属。

C-130輸送機1機;アーカンソー州リトルロック空軍基地(Little Rock Air Force Base, Arkansas)第19 空輸飛行団(19th Airlift Wing)所属。

同盟国からの参加機;―

フランス空軍;ラファエル戦闘機4機、A400輸送機1機、A330 MRTT空中給油・輸送機1機。

イギリス空軍;A400輸送機1機。

カナダ空軍;C-130J輸送機1機、およびCC-150T輸送機(エアバスA310-300の軍用型)1機。

日本航空自衛隊;C-130H輸送機1機(第1輸送航空隊、第401飛行隊、愛知県小牧基地)

オーストラリア空軍;C-130J輸送機1機。

展示訓練に参加した航空機の多くは太平洋空軍(Pacific Air Command)活動を支援するための演習、すなわち、「航空輸送軍団(AMC=Air Mobility Command)」主催の「モビリテイー・ガーデイアン(Mobility Guardian)23」演習、およびハワイ・ヒッカム(Joint Base Pearl Harbor-Hickam)中心に行われた「ノーザンエッジ(Northern Edge) 23」」演習に参加してきた。これらの演習には米軍および同盟国軍合計で15,000人以上がインド・太平洋各地で参加して行われた。

参加のフランス空軍は、「ペガス23 (PEGASE 23)」と呼ぶ独自の太平洋進出演習を併せて行った。2023年6月25日、フランス南西部のイストレス(Istres)空軍基地を出発した約20機は、途中UAEダフラ(Dhafra)に立ち寄り、以後二手に分かれ出発から11,000 kmを飛行、一つはシンガポール、他はマレーシアに到着した。第1グループは、ラファエル戦闘機6機、A330 MRTT空中給油機3機、A400M輸送機2機、の編成。第2グループは、ラファエル戦闘機4機、A330 MRTT空中給油機2機、A400M輸送機2機の編成。第2グループはマレーシアからすぐに帰国したが、第1グループはそのまま太平洋に進出、72時間飛行して、6月23日にグアム・アンダーセン空軍基地に到着。ここで6機のラファエル戦闘機とその支援輸送機は「ノーザンエッジ」演習に赴き、米・加・豪・日・英・NZ等と共に参加した。

7月19日の展示訓練の後、「ペガス23 (PEGASE 23)」参加部隊の一部は7月26-29日の間、宮崎県新田原基地に飛来、空自戦闘機と共同訓練を行なった。

図4:(French Defense Staff)フランス空軍ラファエル戦闘機がA330 MRTT給油兼輸送機から給油を受けている写真。

「モビリテイ・ガーデイアン23 (Mobility Guardian 23)演習」

これは緊迫の度が高まる太平洋地域でAMC (Air Mobility Command /航空輸送軍団)が主催する2週間に及ぶ訓練である。陸軍、海兵隊、空軍、を含む全米軍の活動を支援するため友好7カ国の輸送部隊を含め行われた。これまで「モビリテイ・ガーデイアン」演習は2年ごとに米国内で行われてきたが、今年は初めて太平洋地域で行い、これまでにない最大規模の演習であった。

参加国は豪州、カナダ、フランス、日本、ニュージランド、U.K.および米国で、合計70機の航空機、3,000名の将兵が参加して、7月5日-21日の間ハワイ、グアム、オーストラリア、日本を含む地域で行われた。

訓練の内容は、小さい僻地の飛行場への離着陸、海兵隊への物資輸送、広大な太平洋で行動する際最も重要な空中給油訓練、離島基地へのガソリン補給作戦、離島からの避難・撤退訓練、戦略爆撃機の行動支援等で、これらを短時間で実行し、さらに指揮系統が不調になった場合個々の判断で柔軟に対処する訓練まで行われた。

前インド・太平洋軍副司令官で、2年前にAMC(航空輸送軍団)司令官に就任したマイク・ミニハン(Mike Minihan)中将は「中国の方針・野望を抑止、変更させるため懸命に取組んでいるところだ。取組みが不十分だと、数年以内に中国の攻撃が始まりそうだ。」と述べている。

「ノーザン・エッジ23-2 (Northern Edge 23-2)演習」

Northern Edge演習はインド太平洋軍主催のアラスカを主に行われてきたが、今回は7月2-21日の間ハワイの「パールハーバー・ヒッカム統合基地(Joint Base Pearl Harbor-Hickam)」を中心に行われた。これは統合、多国籍、複数の地域にまたがる実戦を想定した訓練で、参加軍の即応能力の向上のための演習であった。

図5:グアム島アンダーセン空軍基地の全景。滑走路は2本、「06L/24R 」は長さ3,200 m、「06R/24L」は長さ3,400 m、ほぼ南北に並行して配置されている。滑走路の両側には広大なランプ、施設区域がある。展示訓練/エレファント・ウオークは左滑走路で行われた。

図6:グアム島はマリアナ諸島南端の島で、マリアナ諸島およびミクロネシアでは最大の島、面積は550 km、淡路島/590 km2より少し小さい。アンダーセン空軍基地はグアム島北西にあり、中部のアガナ海軍航空基地 (Agana Naval Air Station)とは50 km離れている。西岸のアプラ港(Apra Harbor)海軍基地にはロサンゼルス級攻撃原潜(水中排水量7,000 ton)5隻が常駐している。

空自F-35A戦闘機部隊、グアム・アンダーセン空軍基地および豪テインダル空軍基地・ダーウイン空軍基地へ展開訓練を実施

航空自衛隊は8月14日に「米グアム島のアンダーセン空軍基地(Andersen AFB, Guam)とオーストラリアのノーザン・テリトリー州テインダル空軍基地 (Royal Australian Air Force Base Tindal, Northern Territory) およびダーウイン空軍基地 (RAAF Base Darwin)に、F-35A戦闘機を主体とする部隊を派遣、機動展開訓練を実施する」と発表した。期間は8月21日から9月2日にかけて行われる。

この訓練を通じて、空自機の機動展開能力の向上を図るとともに、同盟国空軍との相互理解を促進し、「自由で開かれたインド太平洋」の実現・維持のための協力の充実を図る、としている。

(余談だが、先の大戦中我が海軍爆撃機部隊はしばしばダーウインを空襲、軍事施設を攻撃をしていた)

東京から展開する基地までの距離は;―

  • 東京-グアム (Tokyo-Guam):約2,500 km (1,350 n.m.)
  • 東京-ダーウイン (Tokyo-Darwin):約5,400 km (2,900 n.m.)

主な空自機の航続距離は;―

  • F-2戦闘機:航続距離4,000 km (2,160 n.m.)、戦闘行動半径830 km (450 n.m.)
  • F-35A戦闘機:航続距離2,200 km (1,200 n.m.)、戦闘行動半径1,240 km (670 n.m.)
  • C-2輸送機:貨物30 ton搭載時の航続距離5,700 km
  • C-130H輸送機:貨物19 ton搭載時の航続距離 3,700 km (2,040 n.m.)

これで判るようにダーウインまで無給油で飛べるのはC-2輸送機のみ、他はいずれも途中給油(空中給油)が必要。

今回機動展開する機種は;―

第3航空団三沢基地:F-35A戦闘機4機 (現在の配備数は33機)

第1輸送航空隊小牧基地:C-130H輸送機1機(配備数は13機)、およびKC-767空中給油輸送機1機(配備数は4機)

第2輸送航空隊入間基地:C-2輸送機1機 (配備数は17機)

第3輸送航空隊美保基地:C-2輸送機1機

人員約160名

機動展開飛行の途中、長距離航法訓練と空中給油訓練を実施する。

図7;(航空自衛隊)雪の三沢基地を離陸する空自F-35A戦闘機。現在は第3航空団隷下の第301飛行隊および第302飛行隊・青森県三沢基地に配備されている。2018年1月から配備が始まり、訓練が行われてきたが今年から緊急発進任務についている。これまでに33機が配備済み、これからは石川県小松基地に、またF-35Bは宮崎県新田原基地に配備される。 同型機の配備予定数は、F-35A型が105機、短距離離陸垂直着陸型(STOVL) F-35B型が42機、合計で147機である。

図8:(航空自衛隊)川崎重工製、2017年から配備が始まり鳥取県美保基地・第3輸送航空隊・第403飛行隊に、続いて埼玉県入間基地・第2輸送航空隊・第402飛行隊等に、計17機配備中、22機まで増機する予定。C-2の派生型として、電波情報収集機RC-2 2機が入間基地に配備済み、これとは別に電子装備を増強した「スタンド・オフ電子戦機」が開発中で4機程度配備の予定。また巡航ミサイル発射母機への改造も検討中。

図9:オーストラリア・テインダル空軍基地およびダーウイン空軍基地の位置。いずれもノーザン・テリトリー州ダーウインの近くにある。テインダル基地は長さ2,700 m滑走路「14/32」1本、ダーウイン基地は長さ3,300 m滑走路「11/29」と長さ1,500 m滑走路「18/36」、の2本を備えている。

終わりに

モビリテイ・ガーデイアンを含む今回の演習の特徴は、「長大な距離(tyranny of distance)」との戦いでもあった。東京・ニューヨーク11,000 km (5,800 n.m.)、東京・サンフランシスコ8,300 km (4,500 n.m.)で判るように、米本土からグアム、日本、オーストラリアに展開する航空機は、多くが途中給油を受けながら長時間の飛行の後、それぞれ目的地に到着した。中には米国南部のアーカンソー州リトルロックから44時間の無着陸飛行でフィリピンに進出したC-130J輸送機の例もある。

太平洋北西に位置する我国は、最も近いグアム島でも東京から2,500 km、他の同盟国の基地までの距離はそれ以上遠隔にある。台湾攻撃/沖縄侵攻が生じた場合、空自戦闘機による同盟国所有の周辺基地への迅速な展開は欠かせない。その観点から今回のグアムのアンダーセン基地、オーストラリアのダーウイン基地への機動展開訓練は時宜を得たものと言えよう。願わくば、これからは頻繁にこの類の機動演習を実施、有事対応のための技量向上につなげて欲しい。

―以上―

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

  • Air & Space Forces Magazine July 19, 2023 “PHOTOS: Six Countries Contribute to Impressive Elephant Walk on Guam” by Greg Hadley
  • Air & Space Forces Magazine July 19, 2023 “Mobility Guardian Ditches ‘Easy Button’ to put Airman to the Test in the Pacific” by Chris Gordon
  • Aviation Week July 31-August 13, 2023 “Tyranny of Distance” by Brin Everstine
  • Pacific Air Force June 27, 2023 “PACAF, Joint Force preparing for Northern Edge 23-2, testing command and control in the Pacific region”
  • Aviation News Jul 8, 2023 “Round 2 Cope Thunder ’23 begins” by Martin Sadogdong
  • 乗り物ニュース2023-7-22 “壮観!グアムで日米英豪加仏参加の6カ国エレファントウオーク実施、中露への牽制か?“
  • 航空幕僚監部令和5年8月14日”F-35Aのアメリカ合衆国およびオーストラリア連邦への機動展開訓練の実施について“
  • 乗り物ニュース2023-8-16 “空自のF-35が海外に「ローテーション展開」?豪などで訓練実施へ、C-2輸送機も参加“