ゼロアビアとMHI RJ、リージョナル機CRJの水素電動化を進める


2023-08-15(令和5年) 松尾芳郎

図1:(MHI RJ Aviation) カナダ・ボンバルデイアは同社開発のリージョナル機「CRJ系列機」について、2020年6月に三菱重工系「MHI RJエビエーション」に、型式証明・製造・販売・サポートに関わる一切の権利を譲渡した。

図2:(ZeroAvia)ゼロアビアはパリ航空ショー(2023年7月19日)でMHI RJ社と共同で、リージョナル機CRJ-700を水素燃料電動エンジン搭載に改造、ゼロ・エミッション化すると発表した。

米英両国に拠点を持つ水素電動航空機の開発企業「ゼロアビア(ZeroAvia)」は、三菱重工の子会社でCRJ-700リージョナル旅客機の型式証明権を保有するMHI RJエビエーション社と協議、CRJ-700のエンジンをゼロアビア製の水素電動エンジンZA 2000RJに換装し、実用化することを決めた。

(ZeroAvia, the British/American hydrogen-electric engine developer, announced it has identified clear application for hydrogen-electric, zero-emission propulsion system for regional jet. A technical study conducted with MHI RJ, Type Certificate holder of Bombardier CRJ-700, for retrofit with ZeroAvia ZA 2000RJ engine to CRJ-700 regional jet.)

両社の技術検討は1年以上続いたが、最初に取組むにはCRJ-700が最適との結論に達した。検討はCRJ 550およびCRJ -900など3機種に対して、最大離陸重量、重心位置、および構造強度上の余裕、などについて行われた。

その結果、CRJ-700の現エンジンGE CF34をZA 2000RJエンジンに換装することで、性能は旅客60名を乗せ約1,000 km飛行できる事が分かった。これは現在の性能を多少下回るが、CRJが就航中の路線のほぼ80 %をカバーできる性能と云う。

後部胴体への水素燃料タンクを設置、水素電動エンジンの取付けに伴う空気抵抗の増加はほぼ無いことが確認された。水素を使うことで運航費が著しく減り整備コストも低減される。このため路線便数を増やしたり、新路線を増やすことが可能になる。

現用のGE CF34ターボファン推力13,800 lbsと同じ推力を出すためZA 2000RJは、原型のZA 2000のファン直径を大きくするか、あるいはギヤード・ファン、またはオープン・ローター形式にすることを検討している。

燃料電池は高温型のHTPEM方式(High Temperature Proton Exchange Membrane fuel cell)を使うことを検討しており、これで2.4 KW/kgの比出力が得られる。ゼロアビアではこれまでにHTPEMスタック方式で2.5 KW/kgの出力を得た実績を持つ。次の段階として、2年以内に3 KW/kgレベルの出力を目指して研究を進めている。これが成功すればCRJ水素電動化に向けた大きなステップとなる。

エンジン開発現況

ゼロアビアは航空業界で最初となる水素電動型のゼロ・エミッション・エンジンの開発に取り組んでいる。ZA- 600とZA-2000がそれだ。併せて水素燃料電池 (Hydrogen Fuel Cell)と空港での水素供給施設についても検討を進めている。

ZA-600エンジンは出力600 KW、9-19席の「DHC-6ツイン・オッター]、「ドルニエ228」、「セスナ208B」などに使用できる。

  •  2023年7月19日、ZA-600・出力600 KWの水素電動エンジンを片翼に搭載したドルニエ(Dornier) 228型機は、英国のコッツウオルド(Cotswold, U.K.)空港で初飛行に成功した。試験飛行は一週間で10回行われ、高度5,000 ft (約1,800 m)、飛行時間23分間を含み、巡航時の航続距離などを調べ、次の長距離飛行試験に備える。最も肝心な燃料電池からの出力安定性については予定を上回る良い成績を獲た。

図3:(ZeroAvia) 2023年7月、ZA-600エンジンを左翼に装着、コッツウオルド(Cotswold, U.K.)空港を飛び立つドルニエ228型機。ドルニエ228型機は19人乗り、PWC製 PT6ターボプロップ付きで軸馬力出力は ZA 600と同じ500-750 KW。

  •  2023年8月2日、アフリカ北西の大西洋上、7つの島から成るスペイン領カナリア諸島 (Canary Islands)のスタートアップ企業スルカー・エアラインズ(Surcar Airlines)は、DHC (De Ha Havilland of Canada)製のDHC-6ツイン・オッター (Twin Otter)水上機をZA-600エンジン付きに改造、観光飛行ビジネスを始めると発表した。スルカーはデンマークの航空会社ノルデイック・シープレーン(Nordic Seaplane)などが出資する企業で、当初は従来型DHC-6で運航を始めるが、ZA-600エンジンが得られ次第換装してエミッション・フリーの運用を目指す。

原型のDHC-6は、デハビランド・カナダが1966-1988年に844機を製造、その後バイキング・エア(Viking Air)がプログラムを譲渡、ここが2008年から「DHC-6シリーズ400」としてこれまで140機以上を生産している。3車輪式陸上機とフロート付き水上機DHC-6シリーズ400Sがある。

DHC-6 シリーズ400は客席19席、全長15.8 m、翼幅19.8 m、最大離陸重量5.67 ton、エンジンはPWC PT6A-34ターボプロップ出力750馬力(559KW)巡航速度337 km/hr。

図4:(ZeroAvia)カナリア諸島のスルカー・エアラインズは、DHC-6ツイン・オッター水上機にZA-600エンジンを搭載、運航すると発表した(2023-08-2)。図はその想像図。

ZA-2000エンジンは、出力はモジュラー化して2.0-5.4 KW、40-80席級の「DHC Dash 8  Q400」や「ATR 42/72」に搭載可能。

  • ゼロアビアは、2023年5月1日アラスカ航空(Alaska Airlines)からリージョナル旅客機「DHC Dash 8 Q400」の1機の提供を受け、同社のペインフィールド(Pain Field, WA.)ハンガーに搬入、ZA-2000エンジンの装着とそれに伴う改修を開始すると発表した。ZA-2000を左翼に取付け右にはP&W製PW150Aエンジンをそのまま残す。改修完了後2024に初飛行する予定。

この発表の際に、出力1.8 MWのZA-2000の試作型「 ハイパーコア・モジュラー・電動モーター・システム (HyperCore modular electric motor system)」と名付けたエンジンを併せて公開した。これを「ハイパートラック(HyperTruck)」と呼ぶ地上運転装置に取付けてプロペラを回しその推進力で地上走行をして見せた。

これには後述する「HTPEM」燃料電池が使われた。

アラスカ航空は「Dash 8 Q400」を54機運航していたが、今年全機を100 %子会社のホライゾン・エア(Horizon Air)」に移管、ここがシアトル・シータック(SeaTac)空港を拠点に運航している。アラスカ航空はゼロアビアと50機の「Dash 8 Q400」をZA-2000エンジン付きに改修する契約を締結した。

図5:(Alaska Airlines)ゼロアビアのペインフィールド・ハンガーで改修が始まったアラスカ航空提供の「DHC Dash 8 Q400」リージョナル旅客機。ZA-2000は左翼に取付ける。

図6:(Alaska Airlines)ペインフィールドで、地上走行試験をするZA-2000試作エンジン。プロペラとエンジン取付マウントは、現用のPWC PW150A、出力5,000軸馬力、をそのまま使っている。

ZA-2000RJエンジンは、出力はモジュラー化をさらに進めて5-10 MW、本題の40-90席級の「CRJ」系列機に搭載する。

エンジンの概要

水素燃料電池 (Hydrogen fuel cell)から電力を取り出し、それで電動モーターを回し、その力でプロペラを駆動し推進力を得るのが、ゼロアビア・エンジンの基本。構成を次図に示す。

図7:(ZeroAvia) ZA-600およびZA-2000エンジンの基本構成。「水素電力発生システム/[PGS=hydrogen Power Generation System]すなわち水素燃料電池で生じた電力で「電動モーター2基を廻し「電動推進システム(EPS=Electric Propulsion System)」および「ギアボックス」を介してプロペラ推力を得る。発生した熱は熱交換器で期待システムに利用・廃棄する。「ギアボックス」は、各種システムの動力源になる。

図に記載のないシステムは次の2つ。

  • 水素管理システム(Hydrogen Management System):水素タンクとセンサー類を含む。
  • 出力配分システム (PDS=Power Distribution System):[PGS]から[EPS]へ安定した電力を供給、機体のバッテリーの充電と機体電気システム管理するシステム。

水素を動力源とする利点

リチウム・イオン電池に比べ水素燃料電池はエネルギー密度が15-50倍も大きい。

水素燃料電池は燃焼エンジン・システムに比べ2-3倍効率が良い。そして運転温度がずっと低いため運用費用が格段に少なくて済む。

水素燃料電池の仕組み

燃料電池は、普通の電池と同じように電気化学反応で分子に蓄えた電気をエネルギーを取り出す装置だが、普通の電池と違い電気を蓄える装置ではない。燃料電池は「陽極(an anode)」と「陰極(a cathode)」の2極と、それを分ける「電解質膜(electrolyte membrane)」で構成されている。

次のように作動する。

  • 水素(H2)を陽極から燃料電池に入れる。水素原子は触媒により電子(e=electrons)と陽子(H+=protons)に分かれる。一方大気中からの酸素(O2)は陰極を通じて電池に入る。
  • 正の電荷を帯びた陽子( H)は多孔質の「電解質膜」を通り陰極に移動する。負の電荷を帯びた電子 ( e-)は電池から外に流れて電流を生じる。この電流を電力として利用する。
  • 陰極では、水素から分かれた陽子(H+)と酸素(O2)が結合して水(H2O)ができる。

ゼロアビアが開発中の「HTPEM (High Temperature Proton Exchange Membrane /高温PEMプロトン交換膜あるいは高温固体高分子電解質膜)」技術とは、燃料電池セルの主要部分である膜/電極接合体(MEA=Membrane Electrode Assembly)、次図で「電解質膜」と書いてある部分に使われる技術を云う。

HTPEM燃料電池のセル(電池1個のこと)の運転温度は140-180度Cなので、膜は耐熱性の高い素材で作る必要がある。出力を高めるために、セルを多数連結し「スタック」にする。

ゼロアビアU.K.は、出力レベル2.5 KW/kgのセルを連結・加圧する20 KW出力の HTPEMスタック・モジュールを製作、出力試験に成功した。これで2年後には比出力「3 KW/kgセル・スタック」制作への道が拓けた。試験は社内だけでなく米エネルギー省 (U.S. Department of Energy)付の属研究所でも実施、確認されている。

比出力3 KW/kgの「HYPEM燃料電池スタック」は、CRJに搭載する「ZA 2000RJ」エンジンに欠かせない技術である。

ドルニエ228(19席型)に取付けて飛行試験中の「ZA-600」エンジンには低温PEM (LTPEM) 燃料電池システムが使われている。

図8:(Airbus) 水素燃料電池の原理。白い球は水素原子から分離した陽子(H+)、赤い球は酸素原子(O)を示す。両者が結合し排出物として水(H2O)が生じる。

CRJ シリーズ機

図9:(Bombardier)「ルフトハンザ・リージョナル(Lufthansa Regional)社が使用中のCRJ-700(上)とCRJ-900(下)。胴体長さは各々32.3 mと36.2 m。

CRJシリーズ機はカナダのボンバルデイア(Bombardier)社が開発・製造したリージョナル機で、1992年からルフトハンザ航空で就航を開始した。系列機として1992年にCRJ-100/200、1999年にCRJ-700、がそれぞれ導入された。2020年6月に三菱重工系列の米国法人「MHI RJエビエーション」がCRJプログラムを買収、その後ボンバルデイアは受注残機体の生産を2020年12月に完了して撤退した。以後は「MHI RJ」社が型式証明権利を含め整備・オーバーホール・修理(MRO=Maintenance, Repair and Overhaul)業務を引き継いでいる。

CRJは世界で最も成功したリージョナル機で、生産終了の2020年末までに各機種合わせて約1,900機が生産された。最後の生産機はCRJ-900型、2021年2月にユタ州のリージョナル航空スカイ・ウエスト(SkyWest Airlines)に引き渡された。

1,900機の内訳は、50席級のCRF-100/200が約1,000機、70席級のCRJ-700が346機、90席級のCRJ-900/1000が550機となっている。

ボンバルデイアは、2018年11月に事業見直しの一環として、自社開発の小型旅客機Cシリーズ(C-Series)をエアバスに売却した。エアバスはA220-100と改称し、A320neoを補完する重要な機種として増産を続けている。

またボンバルデイアは、デハビランド・カナダ(DHC)が1988年にボーイングに売却したDHC-Dash 8プログラムを、1992年にボーイングから購入、改良しながらDHC-Dash 8 を製造し続けた。そして2019年になると、前述のバイキング・エアの子会社ロングビュー・エビエーション(Longview Aviation Capital)に売却・ここが「DHC」のブランドを復活、ここが「デハビランド・カナダ(DHC)」として活動を続けている。Dash 8はPWC製PW100ターボプロップ2基搭載、50席級の-300、80席級の-400が1,300機ほど製造されている。Qシリーズとは1997年以降アクテイブ・ノイズ・コントロール(active noise control)を採用した機体の名称である。

本題の「MHI RJエビエーション」はCRJ-700を50席型にした機体CRJ-550を、新工場をミラベル・モントリオール(Mirabel, Montreal, Quebec)に建設して生産再開を検討中と云われる。

図10:(Wikipedia)CRIシリーズの比較表。

ゼロアビア(ZerAvia)

ゼロアビアは英国と米国に拠点のある2国企業である。

英国は、シレンセスター・ケンブル・コッツワールド空港(Cotsworld Airport, Kemble, Cirencester, England)のC2ハンガー、およびオフィスはロンドン(Eastbourne Terrace, London)にある。

米国は、カリフォルニア州ホリスター(90 Skylane Dr. Hangar 1, Hollister, CA)、およびワシントン州エベレット(3102 100th St SW, Building C5, Everett, WA)にある。

目標は水素電動エンジンをあらゆる航空機に装着すること。従業員は250名、増え続けている。最初の目標は2025年迄に9-19席級の小型機に装備、500 km (300 mile)を飛べるようにする。次に2027年迄に40-80席級のリージョナル機に装備、1100 km (700 mile)を飛べるようにする。

MHI RJ Aviation

三菱重工は2023年3月にリージョナル機三菱スペースジェットの開発を担当していた「三菱スペースジェット」を解散したが、宇宙航空部門は存続・活動を続けている。その一つがMHI RJ Aviation、本社はカナダ航空技術の中心地、モントリオール(Montreal)にある。ここにサービス・センター、サポート・オフィス、部品デポ、を置いている。配下に「MHI RJ Aviation ULC (カナダ)」、「MHI RJ Aviation Inc. Bridgeport (West Virginia, USA)」、「MHI RJ Aviation GmbH (Munchen, Germany)」の3社があり、CRJのサポートを担当している。ヨーロッパではCRJなどリージョナル機1,300機が使われており、その支援を業務としている。

終わりに

今日8月15日は78回目の「敗戦の日」。先の大戦、大東亜戦争は航空の戦いであった。航空技術に劣る我国は奮戦の甲斐なく米英の前に屈したのである。爾来、国民の努力で航空技術は次第に向上してきたが未だ米英の域に達していない。この中にあってMHI RJ社の活動は我々にとり一筋の灯と映る。

ゼロアビアがZA 2000RJの開発に成功し、これを装備したMHI RJの[CRJ-700]が世界各地のリージョナル路線で就航する日を待ちたい。本文で述べたように、核心となる高出力水素燃料電池の開発を含め順調に進んでいる。計画通り2027年の実現を期待したい。

水素燃料電池電動エンジン開発に取組んでいるのはゼロアビアだけではない。米国のユニバーサル・ハイドロジェンは、今年7月に水素燃料電池電動エンジン付きのDHC Dash 8 300を使い モハベ(Mojave Air & Space Center, WA)で飛行試験を実施した。またオランダのコンシャス・エアロスペース(Conscious Aerospace)は、政府の支援を受け、DHC Dash 8-300に出力2 MWの水素燃料電池電動エンジン「HAPPS 2100」を装着、2028年の飛行開始を目指している。これらについては後日検討する。

―以上―

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

  • Aviation Week July 2023, MRO12 “Hydrogen Advances” by Graham Warwick
  • ZeroAvia June 19, 2023 “ZeroAvia forges path to Hydrogen-Electric Regional Jets with MHI RJ”
  • ZeroAvia May 25, 2022 “ZeroAvia Advances Regional Jet Plans; Strikes New Agreement with  MHI RJ”
  • MHI RJ May 25, 2022 “ZeroAvia Advances Regional Jet Plans; Strikes New Agreement with MHI RJ”
  • Composites World 5/30/2022 “New agreement with MHI RJ helps ZeroAvia hydrogen-electric regional jet plans gain ground” by Grace Nehls
  • Aerotime HUB 2023/6/19 “ZeroAvia and MHI RJ launch groundbreaking hydrogen-electric aircraft project” by Emilia Stankeviciute
  • Aviation Wire 2020-6-1 “三菱重工、CRJ新会社「MHI RJ」発足、ボンバルデイアから買収完了” by Tadayuki YOSHIKAWA
  • WING 2022-10-03 “MHI RJ、事業多角化で狭胴機整備展開を視野に“