2023-11-22(令和5年) 松尾芳郎
図1:(SpaceX)テキサス州南部スペースX社の基地「スターベース(Starbase)」で組立て完了し、2回目の打上げを待つスターシップ。
スペースXの次世代超大型ロケット「スターシップ+スーパーヘビー」は、11月18日に第2回目の打上げ試験が行われ、宇宙空間まで上昇に成功したが、失敗に終わった。2段目の分離に成功した直後に1段目スーパーヘビーが爆発、そして分離した2段目スターシップも目標の高度に達する前に爆発して終わった。
(SpaceX’s next generation giant Superheavy rocket launched on its second test flight Nov. 18, a looks like to reach the giant vehicle to space for the first time, but it didn’t. Shortly after second stage separation, the massive Super Heavy exploded, and the Starship second stage also detonated before reaching its target altitude.)
スペースXは2002年にイーロン・マスク(Elon Musk)氏によって設立された企業で、宇宙探査を低価格で行う事を目指し、究極の目標として火星移住を目指している。これまでにファルコン(Falcon)ロケットおよびドラゴン(Dragon)宇宙船で国際宇宙ステーション(ISS)との人員・貨物の往復・輸送任務を遂行し、またスター・リンク衛星網で5,000機以上の小型通信衛星を打ち上げ、全世界にインターネット接続網を設定している。
スペースXは2012年以来ファルコン9の後継機として、超巨大打上げロケットと低地球周回軌道(LEO)にペイロード150 tonを載せる大型宇宙船の開発に力を注いできた。「スーパー・ヘビー(Super Heavy)」と名付けたブースターと宇宙船「スターシップ(Starship)」である。高さは121 mに達し、打上げ後は回収して完全に再使用可能にする。
スーパー・ヘビーとスターシップの組合せは単に低地球周回軌道に貨物・宇宙船を打上げるだけでなく、スターシップを宇宙給油機/タンカーとして使い、軌道上で別のスターシップに燃料補給の役目もする。これでNASAの有人月面着陸アルテミス計画(Artemis program)の重要な役割を担う。そして将来は火星への人類移住を目指している。
スーパーヘビーとスターシップには共通のロケット、強力な「ラプター(Raptor)」エンジンを使う。燃料は液体メタン(liquid methane)と液体酸素(LOX)。離昇時にはスーパーヘビーは全エンジンの推力で上昇、スターシップを分離してから、再着火してゆっくりと降下、発射地点に戻り着陸する。
2023年4月20日に最初のスターシップ打上げ試験が行われた。打上げ後4分後高度39 km辺りで、第1段スーパーヘビーと第2段スターシップの分離が出来なかったため、地上からの指令で空中で爆破、火の玉となってメキシコ湾に墜落した。また打上げ時のロケットが発生する巨大な推力で発射台/launching padが破損、コンクリートの破片が居住地近くまで飛び散った。
FAAはこの事故でスターシップ・システムの飛行停止を指示した。その後スペースXから改修対策が完了した報告を受け2023年11月17日に処分を解除した。
主な対策は、ローンチパッドを強化しロケット噴炎を冷却する水冷設備を取付けて周囲の損傷を防ぐようにした事。第1段・第2段の分離方式を改め、スターシップ側のロケットを分離直前に着火、その推力でスーパーヘビーを分離する「ホット・ステージング(Hot Staging)」方式に改めた点などである。1回目の時は、1段目/スーパーヘビー側のエンジン停止後に慣性で2段目/スターシップを分離する従来の分離方式(traditional staging)だったが、分離しなかった。
FAAの打上げ認可を受けて、11月17日(金曜日)午前8時の打上げを予定したが、スーパーヘビーの頂部にある姿勢制御用グリッド・フィンのアクチュエーターに不具合が見つかり、交換のため予定を翌11月18日土曜日に改めた。
発射時刻の20分ほど前からスーパーヘビーの33台のエンジンとスターシップの6台のエンジンの着火前冷却が開始された。発射時刻の10秒前になると、発射台をロケットの噴煙から守るため発射台下部に大量の水噴射が始まった。4月20日の最初の発射ではこの設備が無かったため、コンクリート構造が破壊し破片が飛び散り、スーパーヘビーのロケット数台が破損し、また地上の燃料タンクの一部も損傷を受けた。
図2:(SpaceX) 発射台/Launching padの冷却用水噴射試験の様子。
図3:(SpaceX) 8月25日行われたスーパーヘビー・ブースター・ロケットの静止試験の様子。これで冷却用水噴射装置の性能が確認された。
図4:(SpaceX)8月25日スーパーヘビー・ブースターの静止試験を頂部から見た写真。降下着陸時の姿勢制御に使う4枚のグリッドフィンが判る。
2回目(11月18日)の発射は、4月20日の時と同様、2段目/スターシップを地球周回軌道近く高度約150 kmに打上げ、ハワイ近海の太平洋に着水させる予定だった。
1段目/スーパーヘビーはスターシップを分離して数分間数台のエンジンを作動させ姿勢を制御しながら、打上げ後7分ほどでメキシコ湾に着水するはずだった。
スターシップはロケットを作動させながら東向きに上昇を続け軌道飛行に近い速度、約17,000 mph (27,400 kph)に速度を上げ、打上げ後約90分でハワイ州近くの太平洋上に着水する予定だった。
今回の試験に使うスーパーヘビーおよびスターシップは、共に海上プラットフォームに着陸するのではなく、海上に着水するので再使用は目的としていない。
2回目打上げの状況
図5:(SpaceX) 2023年11月18日早朝、スターシップは2度目の打上げに挑戦、巨大なスーパーヘビー・ブースターで打上げられ分離に成功、高度150 kmの宇宙空間に到達した。しかし直後に安全装置が働き爆発、メキシコ湾に墜落。
スターシップは、予定通り発射後2分41秒後高度約70 kmで新しく採用した「ホット・ステージング(Hot Staging)」方式で分離に成功、正常に分離、その後自身のエンジンで予定高度に向け上昇した。
スーパーヘビーはスターシップを分離し降下を始めた直後(発射後約8分)に爆発した。
続いてスターシップは上昇中高度150 km辺りで爆発した。スターシップが爆発したのは、予定高度に達する前、つまりエンジンが停止する前に何らかの理由で ”自動飛行停止システム(automated flight termination system)“が作動して爆発した、と見られる。
スペースXでは、ソーシャル・メデアX上で「失敗から学び、成功を得る(success comes from what we lean)」と述べ「スターシップは自身のエンジンで宇宙に向け数分間飛行した」と書き込んでいる。
NASAは、今回の試験はかなりな部分で成功したと判断、数年後の月面有人着陸ミッションの中核としてスターシップ計画を評価している。ビル・ネルソン(Bill Nelson)長官は、今回のスターシップの試験は良い経験になった、再飛行に期待する、と話している。
スペースXのイーロン・マスクCEOは「スターシップは、現在最も多く使われている打上げロケット「ファルコン9」の更新として数年後から宇宙ビジネスに使いたい」、また「FAAの発射許可が得られれば、4週間後のクリスマスまでに3回目の打上げをしたい」と語った。
図6:(SpaceX) 11月28日早朝、打上げられたスターシップ+スーパーヘビーは、全てのエンジンが正常に作動して上昇を続けた
スターシップの分離は、今回は「ホット・ステージング」方式で打上げ後2分41秒後に行われ、スムースに分離に成功したが、しかし直後にスーパーヘビー・ブースターが爆発した。担当技術者は、データを解析して原因を明らかにするが、次回までに関係部品を改良する、と話している。
スターシップは分離後数分は飛行/上昇を続け、目標の高度約250 kmまでの間、地上では通信接続を待ったが発射後8分までテレメター接続ができなかった。計画では2段目のエンジンはこの辺りで停止し、軌道の下を飛び(sub-orbital flight)ハワイ沖で着水する予定だった。
スターシップとの通信は大気圏上限・高度100 kmを超え高度148 kmまでは維持できた。
スペースXの品質技術部長(quality engineering manager)ケイト・タイス(Kate Tice)氏は結論として「前回発射から短期間でスーパーヘビーとスターシップを改良、今回の発射に繋げ、多くの成功を収めることができた。今回は多くのデータを取得できたので次の発射に備えたい」と語っている。
図:7(SpaceX)スターシップがスーパーヘビー・ブースターから分離した時の写真。分離は「ホット・ステージング」方式で分離直前にスターシップ側エンジンを作動させ、ブースターの分離に成功した。写真は、スーパーヘビー側は33台の大気圏内エンジンのうち30台は停止、中心の3台が姿勢制御のため作動中であることを示している。
スターシップ全体像
スペースXスターシップ宇宙船とスーパーヘビー・ロケットを一体として「スターシップ(Starship)と呼んでいる。全部が完全に再使用可能な構造で、乗員と貨物を地球周回軌道、月面、火星、さらに遠方に輸送するシステムである。スターシップは世界一の強力なロケットで150 tonの人員・貨物を打ち上げることができる。
図8:(SpaceX)スターシップは、高さ121 m、直径9 m、ペイロードは100~150 tonを地球周回軌道に打ち上げる。全て再使用可能にする。
図9:(SpaceX) スターシップ(Starship)宇宙船はスターシップ・システムの2段目で、人員輸送用、貨物輸送用、宇宙給油用タンカー等数種を開発中で、これらを地球周回軌道、月面、火星、さらにその遠方への輸送用に当てる。地球上で遠隔地を結ぶ飛行にも使う予定。高さ50 m、直径9 m、搭載燃料は1,200 ton、推力は1.500 ton、ペイロードは100~150 ton。大気圏再突入に備えて船体のほぼ半分は黒色の耐熱材パネルで覆っている。耐熱パネルはシリカ製6角形で全部で18,000枚、1,400度Cに耐えられる。右はスターシップのエンジン配置図、大きい円は真空用のラプター・バキューム(RVac=Raptor Vacuum)、小さい円は大気圏用ラプター・エンジンを示す。分離時にはラプター・バキューム3台を噴射してスーパーヘビーと分離する。大気圏用エンジンは、主に大気圏再突入・降下着陸時に使用する。
図10:(SpaceX) スーパーヘビー(Super Heavy)は、第1段/ブースターで、スターシップ打上げシステムである。全高71 m、直径 9 m。33台のラプター(Rapor)エンジンを装備し、燃料は液体メタン(CH4=liquid methane)と液体酸素(LOX)を使う。再使用可能で、打上げ後は地球大気圏に再突入し発射地点に帰還する。搭載燃料は3,400 ton、離昇推力は7,590 ton 、大気圏降下と着陸姿勢制御は、中側のジンバル操作付きラプター23台と頂部のグリッド・フィン(grid fin) 4枚で行う。外周の20台のエンジンは固定式、ジンバルはない。グリッド・フィンの上は第2段スターシップとの接続リング部で、分離時のロケット噴炎を逃すよう多数の隙間・網の目構造である。
図11:(SpaceX) スターシップのラプター・エンジン(Raptor Engines)は、液体メタン (CH4)と液体酸素 (LOX)を燃料とする「2段燃焼サイクル (Full-flow staged combustion cycle)」のロケット。スペースX社の主力ロケット「ファルコン9」の「マーリン(merlin)」エンジンの2倍の推力を出す。スターシップ宇宙船には、大気圏内用のラプター・エンジン3台と真空用のラプター・バキューム(RVac=Raptor Vacuum) エンジン3台、合計6台が使われる。RVacエンジンは宇宙の真空中で使うのでスカートが大きい(直径2.4 m)。写真の大気圏用ラプター・エンジンは、スカート直径1.3 m、高さは3.1 m、推力は230 ton。=
終わりに
4月20日の最初のスターシップ打上げは、1段目2段目の分離ができす爆破処理され、発射台/launching padが大破すると言う結果だった。この時はイーロン・マスクCEOは2ヶ月後に再挑戦すると言っていたが、FAAの認可が遅れ11月15日なったことで2回面試験が遅れた。
11月18日の2回目のスターシップ打上げは、新しい分離方式の採用で順調に分離、高度150 kmの宇宙空間まで上昇することに成功したが「自動飛行停止システム」が作動して爆発した。改良した発射台は、発射時の噴煙に耐え十分な強度があることを証明した。しかしスーパーヘビーは分離直後に爆発した。
マスクCEOは11月20日の”X”で次のようにコメントしている。「3回目の試験は4週間以内に実施できるだろう。技術的な問題点はそれまでに修復し、FAAが2回目の問題点を検証し、その対策を承認して飛行再開を認めてくれれば、年内にも試験したい」。
スペースXは、NASAアルテミス計画もあり、開発を急ぎたい考えだ。試験飛行に備え現在3基のスターシップが最終組立段階にあり、次回発射に備えている。
―以上―
本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。
- Space.com November 18, 2023 “SpaceX Starship megarocket launches on 2nd-ever test flight, explodes in ‘rapid unscheduled disassembly’ by Josh Dinner
- Space.com November 18, 2023 “SpaceX Starship launches on 2nd test flight, explodes” by Josh Dinner
- Space.com November 18, 2023 “See amazing photos and videos of SpaceX Starship launch”
- Space.com November 18, 2023 “SpaceX’s 2nd Starship launch test looks amazing in these stunning photos and videos by Tariq Malik
- Reuters November 19, 2023 “SpaceX second Starship launch test looks failed minutes after reaching space” by Joe Skipper and Joey Roulette
- Space.com November 20, 2023 “SpaceX’s Starship should be ready to fly again before Christmas, Elon Musk says” by Mike Wall
- TokyoExpress 2022-02-20 “スペースX、スターシップ・スーパーヘビーの打上げ近ずく“