次世代ステルス爆撃機、[B-21レイダー]初飛行に成功


2023-11-15(令和5年) 松尾芳郎

B-21 レイダー(Raider)爆撃機はノースロップ・グラマン(Northrop Grumman)社が開発中のハイテク新型機で、旧式化した米空軍爆撃機を更新し、将来の米空軍のバックボーンとなる。B-21は、航続距離が長く、高い抗堪性を備え、通常および核弾頭付きミサイル各種を搭載、これで米国および同盟国に対する脅威を排除する。

(The B-21 Raider is a new high-tech stealth bomber being developed by Northrop Grumman, to replace the U.S. Ari force’s aging bomber fleet. Designed to be long-range, highly survivable and capable of carrying conventional and nuclear munitions, supporting national security and assuring nation’s allies.)

図1:(U.S. Air Force)2022年12月2日、ノースロップ・グラマン社パームデイル(Palmdale, California)工場で公開されたB-21レイダー(Raider)爆撃機。各種弾頭付きミサイルを搭載するステルス侵攻爆撃機(penetrating strike stealth bomber)で、空軍の“全世界攻撃軍(Air Force Global Strike Command)に配属される。少なくとも100機製する造予定、単価は2022年価格で6億3,900万ドル(約90億円)。

2023年7月31日、米空軍長官チャールス・Q・ブラウンJr(Charles Q Brown Jr.)将軍とノースロップ・グラマンは、パームデイル工場で行われた「航空宇宙軍協会(Air & Space Force Association)」の「Air, Space & Cyber Conference」主催の会議でB-21 レイダーの新しい写真2枚を公表した。

図2:(U.S. Ari Force)B-2スピリット爆撃機に比べ、B-21のエンジン空気取入口は薄く、ランデイングギアのドアは簡単になっている。

図3:(U.S. Air Force)B-21エンジン試運転中の写真。B-2スピリット爆撃機やX-47B無人艦載機(UCAV)と良く似た形、つまりドーム型のセンター・ボデイ、機首は長く前部はわずかに垂れ下がり失速防止に有効な形、鋭く尖った翼前縁部分、を採用している。この形でレーダー反射を極力抑えている。

全体の形:

B-21レイダーの形状は発表されていないが、エビエーション・ウイーク電子版が発表済みの各種写真、ビデオなどから推定した姿を紹介している。これによるとB-21レイダーはB-2スピリットと似た無尾翼機だがずっと小型。翼幅はB-2の52 mに対しB-21は40 mほど、空虚重量はほぼ半分、平面形は、マッハ0.8以上で効率的に飛べる無尾翼型、そこに複雑なエンジン空気取入口と排気口、そして大きなウエポン・ベイが納まるようにしてある。

図4:(Aviation Week.com /Giuseppe Picarella-The Cutaway Company.com)ジュセッペ・ピカレラ氏が作成した図を日本語で加筆したもの。左にB-2、右にB-21をそれぞれ半分ずつ表示比較した図。

任務:

B-21レイダーは、通常あるいは核弾頭付きミサイル各種を搭載し、(低空で)敵地奥深くに進入、目標を攻撃・破壊するのが任務である。

特徴:

B-21レイダーは、B-2やB-52が搭載している「情報・監視・偵察 (ISR=Intelligence, Surveillance and Reconnaissance)」機能、電子攻撃能力、通信機能等、を改良して搭載している。そして、有人/無人の友軍機との共同で攻撃作戦が可能、遠距離からのスタンド・オフ攻撃ができるのは勿論、世界中どこへでも敵の防空網を突破して目標に接近、近距離から直接攻撃もできる。現在空軍が運用する爆撃機(B-1、B-2、B-52)のほぼ90 %は、目標の近距離に接近し直接攻撃できる能力はない。唯一「B-2」だけが備えている。

B-21は柔軟なソフトで作られた機体で、先進製造手法とデジタル設計手法を多用して開発され、開発の途中で遭遇するリスクを最小限に抑えている。

システム設計には、いわゆるオープン・アーキテクチャーを採用し、これで必要に応じ迅速なアップグレードが可能になっている。

従来の航空機の性能向上には、長期間の準備と大規模な改修が必要だったが、B-21の場合は、オープン・アーキテクチャー設計のおかげで新技術、機能追加、新兵装、等の要件に対して継ぎ目なく対応できる。これでB-21は今後数十年間にわたり次々に現れる新しい脅威に対して迅速に改良される。

B-21レイダーの開発は、空軍長官(Secretary of Air Force)と国防調達・維持担当次官(Under Secretary of Defense for Acquisition and Sustainment)の下部組織である「空軍緊急能力(開発)局 (Air Force RCO=Rapid Capability Office)」が担当・指導している。

「空軍緊急能力(開発)局 (RCO)」は、B-21の各システムには基本的に実証済みのサブ・システム技術を使うことを要件とした。これに基づきノースロップ・グラマンは、自身が開発したB-2爆撃機およびX-47B 無人艦載機(UCAV=Uncrewed Combat Air Vehicle)で実証済みの技術を多く採用している。

実証済みの技術には、既述の「鋭く尖った翼前縁」、「丸みを帯びたセンター・ボデイ」、「長いわずかに垂れ下がった機首部分」と、それに「翼後縁やエンジン/空気取り入れ口・排気口の切込みの数を少なく」、翼後縁は「レーダー反射低減材(RAM=radar-absorption material)を使用」、などが含まれている。

エンジンは、プラット&ホイットニー製PW9000ターボ・ファン2基で、これをセンター・ボデイの両側に装備する“曲がりくねった(serpentine)”空気取入れ口と排気口の間に取付けている。

PW9000は、エアバスA320系列旅客機に多く装備されているPW1000Gギヤード・ターボファンを軍用にしたエンジンで、ファン駆動の減速ギヤを外し、ファンを低圧タービンから直接駆動する方式に改め、ファン・バイ・パス比を[4 : 1]とし、推力を3万lbsにしたエンジンである。

B-2スピリットは、低バイパス比のGE製F118-GE-100アフト・バーナー無しターボファン推力19,000 lbsを4基搭載している。これは当時(1981年)の設計ソフト/CFDでは、曲がりくねった空気取り入れ口では高バイパス比エンジンの場合、空気流の剥がれ・乱れの影響が大きく出やすい、従って低バイパス比エンジンが好ましい、と判断されたためだ。しかし新しい3-Dソフトではこの問題が解明され、例えば他社が2005年以降の試作無人機として提案した案では高バイパス比GE製CF34を選んでいる。

高バイパス比エンジンは、燃料消費率が戦闘機用低バイパス比のGE製F118に比べはるかに良くなるので航続距離が伸びる、また排気ガスが低温・低速になるので、赤外線放射が少なくなり探知され難い、さらに排気ガスに晒される部分の材料に複合材が使える。

図5:(Pratt & Whitney)PW9000高バイパス比ファン・エンジン。P&Wは2010年から民間用のPW1000Gギヤード・ファンの軍用化の検討を始めた。最初は推力15,000 lbsを、無人偵察機RQ-4グローバルホークのRR製AE3007の更新として提案したが不採用。そこで推力を30,000 lbsに増やし、燃費を現在のF100より18 %改善してF-15やF-16戦闘機用にと提案するがこれも不首尾に終わった。これが後にB-21用エンジンとして採用された。

開発の経緯:

空軍は、2015年10月27日にノースロップ・グラマンとB-21開発契約を締結した。ノースロップ・グラマンは協力企業として、プラット&ホイットニー(Pratt & Whitney)、ジャニキ・インダストリーズ(Janicki Industries)、コリンズ・エアロスペース(Collins Aerospace)、GKNエアロスペース(GKN Aerospace)、BAEシステムズ(BAE Systems)、およびスピリット・エアロシステムズ(Spirit Aerosystems)の各社を選定した。これらに加えて合計400の企業がサプライヤーとして参加、B-21プロジェクト全体では8,000の人々がチームに参加することになる。

B-21の内部システムにも多くの既存システムが使われている。BAEシステムズによると同社がロッキード・マーチン製F-35戦闘機用に製作・搭載しているASQ-239電子戦闘システム(electronics warfare system)の派生型がB-21に搭載される。

ノースロップ・グラマンがB-21開発契約企業として選ばれたのは、ステルス長距離爆撃機「B-2スピリット(Spirit)」を開発・製造した経験を持つ世界一のステルス技術を有するため。同社は、ロッキード・マーチンが作るF-35戦闘機ではパートナーとしてステルス技術の組込みで参画しているし、最新型RQ-4グローバルホーク無人偵察機やX-47B無人艦載機でも主契約企業として開発を行っている。

次にノースロップ・グラマンが開発したこれらの機種の概要を見てみよう。

B-2 スピリット(Spirit)ステルス爆撃機

B-2は、厳重な敵防空システムを突破して目標を攻撃できるステルス戦略爆撃機である。ノースロップ・グラマンが1981年10月に受注し、1989年初飛行、1997年から配備開始、1987年-2000年の間21機が製造され配備されている。GPS誘導の230 kg通常爆弾Mk 82 JDAMなら80発、重量1,100 kg の核爆弾B83なら16発を搭載できる。あるいは大型の空対地スタンドオフ・ミサイルを胴体内に収納できる。開発費が嵩み1997年価格で単価21億ドル(約2,500億円)を超えた。このため132機導入の計画が21機で打ち切りとなった。事故で1機が失われたので現在は20機が「全世界攻撃軍(Air Force Global Strike Command)」、「航空戦闘軍(Air Combat Command)」、「エア・ナショナル・ガード(Air National Guard)」等に分散配備されている。空軍では、2032年までにB-21レイダーの配備が進めばB-2スピリットは順次退役させる。

図6:(U.S. Air Force)  B-2スピリットは、乗員2名、翼幅52.4 m、全長21 m、最大離陸重量170.6 ton、エンジンはF118-GE-100アフト・バーナ無しターボファン推力17,300 lbsを4基装備する。最大速度は、高度4万ftで1,010 km/hr 、海面上でマッハ0.95、巡航速度は高度4万ftで900 km/hr、航続距離は11,000 km。

RQ-4グローバルホーク(Global Hawk)無人偵察機

RQ-4グローバルホークは、旧ライアン航空機(Ryan Aeronautical)が開発した無人偵察機、後に「ノースロップ・グラマン」に統合され現在に至る。初飛行は1998年、2003年8月に量産型が完成、2006年からは改良型のBlock 20 /RQ-4B、その後Block 30、Block40と改良され生産が続いた。しかしステルス性の欠如などのため中国軍の脅威に対抗できないとされ、空軍では2027年に退役させる方針。

機体は、全長13.5 m、翼幅は長大で35.4 m、最大離陸重量12 tonプラス、エンジンはRolls Royce F-137-RR-100 ターボファン推力約8,000 lbsを1基。

RQ-4は、高高度・長時間滞空可能な無人機(HALE UAV=High-Altitude Long Endurance Unmanned Air Vehicle)であり、情報・監視・偵察 (ISR=Intelligence, Surveillance and Reconnaissance)機能遂行のための各種センサー(合成開口レーダー、電子光学・赤外線センサー等)を装備している。

速度は310 Knots (570 km/hr)、航続距離は8,700 nm (16,000 km)、遠隔操縦要員は3名(LRE pilot, MCE pilot, sensor operator)。

図7:(Northrop Grumman)ノースロップ・グラマンRQ-4Bグローバル・ホーク。航空自衛隊向け1号機(写真)は、2022年3月10日カリフォルニア州パームデイルを離陸し、無着陸で18時間40分後の3月12日に三沢基地に到着した。空自では2022年末までに3機を受領、青森県三沢基地に偵察航空隊が新編され、運用が始まっている。

X-47B試作無人艦載機(UCAV)

ノースロップ・グラマン社開発のX-47Bは、試作無人戦闘機(UCAV=Unmanned Combat Aerial Vehicle)で、空母艦載機とするのが目的だった。2011年に初飛行、2015年までに2機が作られ、空母艦載機としての離発着試験を完了した。この間、無人空中給油機として改造・試験や、偵察機としてISR任務用電子機器を搭載して試験が行われた。海軍では開発中止を検討したが、考えを変え将来の開発続行に備えて現在はノールロップ・グラマンのパームデイル工場に保管している。

国防先進研究計画局(DARPA=Defense Advanced ResarchAgency)のプロジェクト「J-UCASログラム」の一つとしてノースロップ・グラマンが始めた試作機開発であった。

図8:(DARPA/U.S. Navy)空母から発進するX-47B。空母「ハリー・トルーマン(CVN-75)」、「ジョージ・H.W.ブッシュ(CVN-77)」、「セオドール・ルーズベルト(CVN-71)」で離発着を含む運用試験が行われた。主翼は折畳式で翼幅は19 m、折畳時は9.4 m。全長11.6 m、最大離陸重量20 ton、巡航速度マッハ0.9、エンジンはPW F100-220Uターボファン推力15,000 lbs、バイパス比0.7 : 1。

B-21の開発現況:

2018年に、B-21プログラムは、兵装システムとして開発続行を承認する「初期設計審査(Critical Design Review)」に合格した。

2019年に、空軍はB-21の「配備先選定作業(Strategic Basing Process)」を行い、3ヶ所の基地を選定した。「サウスダコタ州エリスウオース空軍基地(Ellisworth Air Force Base, South Dakota)、「ミゾーリ州ウイットマン空軍基地(Whiteman Air Force Base, Missouri)」、「「テキサス州デイス空軍基地(Dyess Air Force Base, Texas)」の各基地が選ばれた。

2021年に、「サウスダコタ州エリスウオース空軍基地」が政府の環境審査に合格したので、ここがB-21レイダーの最初の基地兼訓練センターとなる。

カリフォルニア州エドワーズ空軍基地(Edwards Air Force Base, Calif.)に「空軍試験センター(Air Force Test Center)」があるが、ここがエリスウオース空軍基地のB-21訓練センターを支援すると共に、オクラホマ州テインカー空軍基地(Tinker Air Force Base, Oklahoma)にある「空軍維持センター(Air Force Sustainment Center)」を助け、B-21の整備・補給活動をする。

B-21「レイダー(Raider)」の名前は、第二次大戦中の1942年4月18日に米陸軍航空隊のB-25爆撃機部隊 (16機)が空母ホーネットから発進、日本本土に奇襲攻撃を行ったが、その時の “ドウリットルの襲撃(Doolittle Raiders)”に因んで付けられた。指揮官はジミー・ドウリットル (Jimmy Doulittle)陸軍中佐。この奇襲/Raidを受けた日本は、その後の戦略修正を迫られたのはよく知られた事実である。また「B-21」の「21」は米国にとり21世紀最初の爆撃機と云う意味で名付けられた。

B-21の特性・諸元:

配属先(Lead Command):空軍全世界攻撃軍(Air Force Global Strike Command)

配備機数(Inventory):最小限100機、某国防専門家は200機が必要と主張ている。

平均単価(APUC=Average Unit Procurement Cost):2022年価格で6億9,200万ドル(約90億円)

ここで[APUC]とは、飛行可能な状態の航空機、支援器材、訓練、予備部品、機体改修に関わる費用、等全てを合算し、これを100で割った金額である。

配備予定(Operational):2020年台半ば

B-21の初飛行:

図9:(Reuters / David Swanson Nov. 10, 2023) 米空軍B-21 レイダー爆撃機が、11月10日早朝6時51分、カリフォルニア州パームデイル空軍基地(Palmdale, Calif. AFB)空軍第42施設(Air Force Plant 42)にあるノースロップ・グラマン工場の滑走路から離陸、初飛行に成功した。これは試作機6機のうちの初号機である。

終わりに

米空軍ステルス戦力爆撃B-2の単価21億ドルに対し、大きさは半分ながら同等以上の能力を持つB-21ライダーは6億9000万ドル、開発年代の差が30年あり、その間にデジタル技術化が進み設計手法、製造手法の進歩があったにせよ単価が3分の1以下に低減されたのは驚くべきことである。

すでに初号機の初飛行が終わり、6機が空軍に引渡し済み、このまま進めば、2020年台半ば迄に配備が始まるのは間違いない。

空軍では、B-1およびB-2を退役させ、100機のB-21で更新することを目指している。B-1の運航コストは一時間あたり6万ドル、B-2の運航コストは6万5千ドルかかっている。

―以上―

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

  • Air Force Fact Sheet “B-21 Raider”
  • Northrop Grumman “B-21 Raider”
  • Air & Space Forces Magazine September 12, 2023 “CSAF Shows off New Images of the B-21, Raider begins Engine Runs”
  • Aviation Week October 11, 2023 “The B-21 Raider: Designed for Low Risk” by Bill Sweetman
  • Air & Space Forces Magazine Nov. 2, 2023 “Another New B-21 Photo shows Mysterious Vertical Features” by John A Tirpak
  • Flight Global.com 25 February 2010 “Pratt & Whitney lifts wraps on PW9000 future military engine” By Stephen Trimble
  • Reuters November 12, 2023 “US Air force’s new B-21 Rider “flying wing” bomber taikes first flight” by Mike Stone and David Swanson