令和5年12月、我国周辺での中露両軍および北朝鮮の活動と我国/同盟諸国の対応
2024(令和6年)-1-3 松尾芳郎
令和5年12月、我国周辺における中露両軍および北朝鮮の活動と、我国および同盟諸国の動きに関し各方面から多くの発表があった。今月の注目すべきニュースは次の通り。
(Military threats from Chinese, Russian Forces and North Korea are tensed up in December. Japan and Allies conducted multiple large scale exercises for retaliation. Following were main issues.)
以下にこれらニュースを列挙する。太字で記載した項目については後述のように解説をする。
*12月1日発表:11月26日~30日の間、海自護衛艦「きりさめ」は米空母「カール・ビンソン」等と東シナ海および沖縄南方太平洋で各種戦術訓練を実施
*12月1日発表:11月30日、相模湾で海自SH-60Kヘリは米海軍MH-60Rヘリと対潜水艦訓練を実施、(73機運用中のSH-60Kは、今後新型のSH-60Lに更新予定/12月22日発表)
12月4日:中国海軍の情報収集艦とルーヤンII級ミサイル駆逐艦、尖閣諸島および先島諸島周辺を航行
12月6日発表:米海軍「P-8A」ポセイドン哨戒機は台湾海峡を通過、航行の自由作戦を実施
*12月6日配信(Flight Global):米空軍V-22オスプレイ墜落事故を受け、空軍・海軍・海兵隊は運用中の約400機を飛行停止、空自も14機を飛行停止
*12月8日発表:海自護衛艦「いかづち」は米海軍沿海域戦闘艦「ガブリエル・ギフォース」と戦術訓練を実施
12月8日発表:海自補給艦「とわだ」は12月7日九州南方の太平洋上でインド海軍コルベット艦「カドマット」と洋上補給訓練を実施
12月11日発表:海自第3航空隊「P-1」哨戒機をグアム島アンダーセン空軍基地に派遣、周辺海域で対潜訓練を実施
12月12日、15日発表:中国海軍レンハイ級ミサイル駆逐艦東シナ海から対馬海峡を通過、日本海に向かう
*12月12日配信(日経):中国海警局艦艇、南シナ海でフィリピン船舶に連日放水、衝突
*12月13日配信(共同):中国海警局艦艇による“尖閣脅威”、年間最多の336日になる、中国が設置の海上ブイは撤去できず
*12月13日配信(Reuters):台湾接続水域(海岸から44 km以内)に中国軍機複数回接近、1月選挙を前に威嚇、12月26日毛沢東生誕130年で「台湾統一は必ず実現」と習近平演説
*12月14日発表:中国空軍H-6爆撃機2機とロシア空軍Tu-95爆撃機2機が日本海で合流、両軍の戦闘機複数と電子戦機が護衛して日本海および東シナ海の空域で合同演習を実施。これを海上から護衛する形で中国海軍レンハイ級ミサイル駆逐艦(104)が東シナ海-日本海を往復(12日および15日発表)
*12月15日発表:12月14日、青森県西方の日本海空域で、空自第3航空団「F-35A」戦闘機4機は米空軍「F-16」戦闘機7機と「KC-135」空中給油機および米海軍「EA-18G」と戦術訓練を実施
*12月18日発表:12月12日および15日、沖縄周辺の東シナ海および太平洋空域で空自第9航空団「F-15」戦闘機8機は米空軍「F-35A」戦闘機6機、米海軍「EA-18G」電子戦機6機、米海兵隊「F-35B」戦闘機5機と「KC-130」空中給油機2機、と戦術訓練を実施
12月18日発表:ロシア海軍ウダロイI級駆逐艦2隻、いずれも10月8日~9日対馬海峡から東シナ海に入り、同11日に与那国島と西表島の間を抜け太平洋に進出した艦だが、18日に沖縄本島と宮古島の間を北上し、東シナ海に入り、北上、18日に対馬海峡を通過、日本海に入る(12月19日発表)
*12月18日発表:北朝鮮は18日午前8時過ぎ火星18型固体燃料ICBM(大陸間弾道ミサイル)1発を発射、ロフテッド軌道で高度6,000 kmに上昇後北海道奥尻島北西250 kmの海上に落下
*12月20日発表:北鮮ICBM打上げに対抗し、日米韓3カ国空軍は九州北西の東シナ海北部の空域で米空軍B-1爆撃機2機を中心に戦闘機9機などで戦術訓練を実施
12月22日発表:令和5年度第4回実動対抗演習を大分県日出生台演習場で実施
*12月22日発表:令和5年度米陸軍と陸自第11旅団等は令和6年1月に北海道で実動訓練「ノース・ウインド24」を実施
*12月22日配信(フィリピン空軍):三菱電機製レーダー・システム「FPS-3」1号機をルソン島北部に設置、南シナ海の警戒監視を開始
12月23日配信(Yahoo/JSF)長大な主翼を持つ長距離巡航ミサイル「新対艦・対地誘導弾」開発を促進
12月25日発表:ロシア海軍ステレグシチー級フリゲート、日本海から宗谷海峡を通過、オホーツク海に向け航行
以下に「*」印を付した太字項目の説明をする。
*12月1日発表:11月26日~30日の間、海自護衛艦「きりさめ」は米空母「カール・ビンソン」等と東シナ海および沖縄南方太平洋で各種戦術訓練を実施
11月末26日-30日の期間、海自護衛艦「きりさめ」は米空母「カール・ビンソン(USS Carl Vinson)」、「キッド(USS Kidd)」、「スターレット(USS Sterett)」、「チャールス・ドロウ(USS Charles Drew)」、「ユーコン(USNS Yukon)」と洋上補給を含む各種訓練を実施した。
図1:(海上自衛隊)米海軍「ユーコン」から洋上給油を受ける海自「きりさめ/DD-104」、「きりさめ」は「むらさめ型」の4番艦、6,100 ton、佐世保基地第4護衛隊群第8護衛隊に所属。
*12月1日発表:11月30日、相模湾で海自SH-60Kヘリは米海軍MH-60Rヘリと対潜水艦訓練を実施、(73機運用中のSH-60Kは、今後新型のSH-60Lに更新予定/12月22日発表)
11月30日相模湾空域で海自「SH-60K」哨戒ヘリコプターと米海軍「MH-60R」哨戒ヘリコプターは共同で対潜水艦訓練を行なった。
図2:(海上自衛隊)相模湾上空を飛ぶ米海軍「MH-60R」ヘリ(左)と海自厚木航空基地第51航空隊所属の「SH-60K」ヘリ(右)。
12月22日防衛省発表によると、海自が現在73機運用中の「SH-60K」の後継機となる能力向上型の「SH-60L」の開発が完了、令和6年度(2024年)予算で6機を取得、将来は約80機体制になる予定。単価は80億円程度。
中露海軍の潜水艦の静粛化、高性能化を受けて海自哨戒ヘリの対潜能力向上を図るべく機体構造・搭載機器に大幅な改良を実施。エンジンは「SH-60K」のT700-IHI-401C2・軸馬力2,100 hpが2基で同じだが、トランスミッションを性能向上型に変更、ギアボックスを補強、尾部ローター・ブレードのピッチ角度範囲を拡大し操縦性を向上した。対潜システムは自機の吊下げソナーだけでなく友軍ソナーの信号を同時受信・処理可能となり、探知能力を拡大している。対水上艦探知でも自動船舶識別装置(AIS)や赤外線監視システム(FLIR)を搭載し能力向上をしている。兵装はSH-60Kと同じMk.46、97式各魚雷、AGM-114M対艦ミサイル、に加えて12式魚雷も搭載可能になった。
図3:(防衛省)上が開発完了した海自哨戒ヘリ「SH-60L」/三菱重工製。下の「SH-60K」と外見は余り変わらないが内容は大幅に改良されている。
*12月6日配信(Air & Space Force Magazine):米空軍V-22オスプレイ墜落事故を受け、空軍・海軍・海兵隊は運用中の約400機を飛行停止、空自も14機を飛行停止
米空軍特別任務軍(AFSOC=US Air Force Special Operations Command)配下の第353特別任務航空隊(Air Force 353rd Special Operations Wing)・嘉手納基地に所属するベル・ボーイング製CV-22 オスプレイ(Osprey)が、11月29日に鹿児島県南80 kmにある屋久島近海で墜落、搭乗兵員8名全員が死亡した。
事故を受けて、米軍は12月6日、運用するV-22オスプレイ全てを飛行停止した。空自はV-22を14機運用しているが事故後直ぐ飛行停止措置をとった。
米空軍(USAF)はAFSOC用としてCV-22Bを50機ほど保有、米海軍(USN)は、空母輸送用としてCMV-22を数十機、それに海兵隊(USMC)用の兵員・物資輸送用MV-22と合計300機以上を運用している。
次の写真2枚で示すようにオスプレイはテイルト・ローター機で、離着陸はヘリコプターと同じようにローター軸を垂直にして行い、水平飛行はローター軸を水平に変えプロペラとして飛行機と同じように飛行する。
これでV-22はC-130輸送機と同じ速度で飛行、フェリー航続距離は7,000 km以上になる。機体構造の43 %は複合材で作られ3翅ローターは複合材製で収納時は折り畳む構造。
両翼端のRR製T406エンジンは、胴体中央にあるコモン・ギアボックス(クラッチ・システムを内蔵)に駆動軸で連結され、片方が故障した場合は他方で両方のローターを駆動できる。しかしこの状態(単発)ではホバリングはできないので不時着することになる。コモン・ギアボックスが破損した場合は飛行継続は困難となる。
図4:(US Air Force)米空軍のCV-22Bが翼端のエンジン/ローターを垂直にして垂直飛行をしているところ。次図は海兵隊用MV-22Bがエンジン.ローターを水平にして空中給油を受けている写真。
図5:(US Marine Corp)MV-22Bは、乗員3~4名、兵員24名(座席)または32名(床に座る場合)、または貨物9 ton(室内)あるいは外部懸架では6.8 tonを輸送可能。全長17.5 m、翼幅14 m、ローター折畳み時の翼幅5.6 m、最大離陸重量25 ton、エンジンはロールス・ロイスT406-AD-400 ターボシャフト2基・出力は各6,150 HP、ローター直径12 m。最大速度560 km/hr、戦闘行動半径720 km、フェリー航続距離7,600 km。
CV-22オスプレイには次の3機種;―
CV-22B:空軍特別任務軍(AFSOC)用として、主翼内に燃料タンクを増設、地表追従レーダー(AN/APQ-186 terrain-following radar)などを追加装備してある。
MV-22B:海兵隊用で敵地侵攻のため兵員・装備を海軍艦艇や不整地離着陸場から発進可能に改良したモデル。
CMV-22B:海軍用で空母艦載の輸送機、MV-22Bと同じだが主翼内の燃料タンクを増設、通信機能を向上している。
V-22オスプレイの事故は、今回の屋久島事故まで、開発期間に起きた3件を含め全損(hull-loss)事故が16件、犠牲者は53名に達する。
最近の事例では、2023年8月海兵隊のMV-22Bがオーストラリア・ダーウイン(Darwin, Australia)で墜落、3名が死亡。2022年に空軍(AFSOC)のCV-22Bがノルウエーの僻地で非常着陸。この時は乗員は全員無事。また同年には、海兵隊のMV-22Bがノルウエーの事故で4名死亡、南カリフォルニアの事故で5名が犠牲となっている。
これらの事故で米国防総省は3軍のV-22を飛行停止にしたが、2023年2月に原因は複雑な「クラッチ・システムがスリップする故障」として、当該部品を交換して飛行を再開した。
図6:(US Air Force)2022年ノルウエー僻地で非常着陸した空軍(AFSOC)のCV-22Bをバージ/はしけ(Barge)で回収している写真。
防衛省は屋久島沖V-22事故で、11月29日~12月23日で陸海空3自衛隊が捜索・救難活動を実施、米軍の捜索に協力した。参加したのは航空機延50機、艦艇14隻、参加部隊の所属基地は次図の通り。
その後墜落機は米軍によりブラックボックスを含め殆どが回収され岩国基地に搬入されたので、間も無く事故原因が解明されるだろう。
図7:(統合幕僚監部)米空軍(AFSOC)CV-22オスプレイ墜落事故の捜索・救難活動に従事した3自衛隊の所属基地。
*12月8日発表:海自護衛艦「いかづち」は米海軍沿海域戦闘艦「ガブリエル・ギフォース」と南シナ海で戦術訓練を実施
12月6日・7日の両日南シナ海で、海自護衛艦「いかづち/DD 107」は、米海軍沿海域戦闘艦「ガブリエル・ギフォース(USS Gabrielle Giffords/LCS-10)」と戦術訓練を行なった。
図8:(USN 7th Fleet)沿海域戦闘艦「ガブリエル・ギフォース(USS Gabrielle Giffords/LCS-10)」から見た海自「いかづち」。「いかづち/DD-107」は「むらさめ」級護衛艦9隻中の7番艦で2001年就役、満載排水量6,200 ton、全長151 m、速力30 kts、兵装は76 mm単装砲、CIWS対空機関砲2基、Mk.41 mod.9 VLS/16セル1基など。SH-60K哨戒ヘリ1機を搭載。
図9:(海上自衛隊)海自護衛艦「いかづち」艦上から米海軍沿海域戦闘艦「ガブリエル・ギフォース」を撮影。
図10:(US Navy Photo by Mass Communication Specialist 2nd Class Brenton Poyser)南シナ海で2020年6月撮影の「ガブリエル・ギホース/LCS-10」。就役している「インデペンデンス(Independence)級」沿海域戦闘艦15隻中の1隻で2017年就役。満載排水量3,400 ton、全長127 m、エンジンはGE LM 2500ガスタービン2基およびドイツMTU 20V 8000デイーゼル・エンジン2基、ウオータージェット推進で速力は44 kts。船体はトリマラン/3胴型、兵装は艦首にBAE製Mk 110 57 mm機関砲、SeaRAM対空ミサイルなどを備える。搭載航空機はMH-60 R/Sヘリ1機とMQ-8B/Cファイヤスカウト無人ヘリ2機。
*12月12日配信(日経その他):中国海警局艦艇、南シナ海でフィリピン船舶に連日放水、衝突
フィリピン沿岸警備隊(PCG)によると、12月9日に南シナ海で中国が実効支配するスカボロー諸島(中沙諸島)のスカボロー礁海域で漁船に補給物資を運ぶフィリピン船に対し中国海警局艦艇が8回にわたって放水攻撃をした。
また翌10日には南のスプラトリー諸島(南沙諸島)のアユンギン礁(中国名:仁愛礁)近海で、駐屯するフィリピン軍に物資を運んでいた補給船と護衛するPCG巡視船など3隻に、中国海警局艦艇が放水、1隻に体当たりをした。これで放水を受けた船1隻がエンジンを損傷、航行不能となった。
マルコス大統領は10日夜「我が国の海域に不法侵入し違法かつ攻撃的な行動」だとして中国を非難した。これに対し中国海警局は「中国側の活動は合法。責任は全てフィリピン側にある」と改めて当該海域の領有権を主張した。
中沙諸島、南沙諸島の海域は、2016年の国連仲裁裁判所の裁定でフィリピンの排他的経済水域(EEZ)と認定されている。
これより先12月3日に、フィリピン当局はパラワン島西300 kmの南沙諸島(スプラトリー諸島)海域/フィリピンEEZ内で、135隻を超える中国船が集結・停泊しているのを発見。いずれにも中国民兵が乗船しており、フィリピン沿岸警備隊は巡視船を派遣し退去を求めたが中国側は無視している。
南シナ海でのフリピン-中国間の緊張の高まりを受けて、日本政府は、11月5日、日本の資金で最新の「くにがみ」型大型巡視船5隻(2隻引渡済)を追加供与すると発表した。これまでに小型巡視船12隻を供与してきた実績があり、今回の決定はこれに続く円借款による供与となる。
「くにがみ」型巡視船は「多目的対応船(MRRV=Multi-role response Vessel)」で、全長96.6 m、幅11.5 m、総トン数2,260 ton、最大速力24 kts、兵装は20 mm多銃身機銃1基、30 mm単装機関砲1基、ヘリコプター搭載可能、無人潜水艇を搭載・運用できる。
図11:(PCG)12月9日スカボロー礁付近でフィリピン船に放水銃を浴びせる中国海警局艦艇。
図12:(PCG)12月10日スプラトリー諸島海域で、フィリピン補給船に体当たりをする中国海警局艦艇。
図13:(PCG/NHKニュース)12月3日、フィリピンEEZ内のスプラトリー諸島海域に侵入、停泊している135隻以上の中国船群。
図14:(日経)緊張が続くスカボロー諸島(中沙諸島)およびスプラトリー諸島(南沙諸島)の位置概要。
図15:(海上保安庁)フィリピン沿岸警備隊(PCG)向けの多目的対応船「くにがみ」型1番船2,260 ton「MRRV-9701テレサ・マグバヌア」は、2022年5月就役済み。合計5隻が供与される。
*12月31配信(共同):中国海警局艦艇による“尖閣脅威”、年間最多の352日になる、中国が設置の海上ブイは撤去できず
12月31日で、中国海警局の艦艇が尖閣諸島周辺海域/EEEZや領海に侵入・航行した日数は352日に達し、2012年の尖閣国有化宣言以降の最多を更新した。
12月9日には中国軍シンクタンク「軍事科学院」の元副院長何雷陸軍中将は共同通信に対し「尖閣諸島を巡り戦争を望まないが恐れない」と明言、領有権奪取の強い意志を明らかにした。
活動する海警局艦艇は「第2海軍化」が進み、船体が著しく大型化し1,000 ton以上の船は2014年以降増加25隻以上に達した模様。今では海保のそれを2倍以上引き離している。装備面でも76 mm砲を装備するなど強化され、質量共に日本を脅かしている。
このうち22隻は中国海軍065型コルベット「江島型(ジャンダオ)」を転用して「1100」系列艦として使用中。065型コルベットの海警型は、満載排水量1,500 ton、全長89 m、速力25 kts、76 mm単装砲を備えるが、YJ-83対地・対艦ミサイルなどは撤去している。
また、12月14日付け香港紙によると「054A」型(ジャンカイ/江凱II級)フリゲート約4,000 tonを海警化し「3306」とした。
こうして海警局艦艇の尖閣周辺での活動は、ここ5年連続して年間330日を超え、2021年2月には海警法を改正し「武器使用を認める」としている。
こうした中国側の強硬な姿勢に屈してか、岸田政権は、尖閣諸島EEZ内に中国が設置したブイの撤去にも踏み切れず外交ルートで抗議するだけとなった。中国側は抗議をせせら笑っているだろう。中国への「融和的姿勢」が目立つ政権では、危機発生に対応できるのか。
図16:(海上保安庁)尖閣諸島接続水域内を航行する中国海警局艦。056型コルベットを海警用にした「1108」号、前甲板に76 mm砲が見えいる。
*12月13日配信(Reuters):台湾接続水域(海岸から44 km以内)に中国軍機が複数回接近、1月の選挙を前に「威嚇」。習近平は12月26日の毛沢東生誕130年で「台湾統一は必ず実現」と演説
台湾安全保障当局は、先月(11月)中国軍は台湾海岸の接続水域に4回侵入を試みたがいずれも台湾軍が阻止した、と発表した。2024年1月の台湾総統選と立法院委員選挙を前に、台湾国民を「威嚇」する中国の活動が活発化している。台湾政府によると「中国軍の動きは多面的な選挙干渉活動」の一環で、このほかに台湾立法院委員の中国への招待旅行や台湾農海産物の輸入に関わる様々な制限、さらにはAI手法を使った偽情報の拡散など、様々な手段で攻撃が行われている。中国は、対中強硬路線を採る民主進歩党(民進党)の頼清徳候補の当選を何としても阻止したい考えだ。
11月の接続水域侵入未遂事件は「台湾軍の反応を試す訓練」と見られる。11月には、中国軍気球が台湾海峡中間線を越え台湾に飛来した件が2回、台湾の東西の海岸の接続水域に中国海洋調査船が接近した件、台湾南部の領海内に中国(民間と言っている)タグボートが侵入した件、などが報じられている。
中国は12月26日に毛沢東生誕130年を迎えた。習近平主席は北京市内で演説し「台湾統一を必ず実現する。いかなる方法であれ、台湾を中国から分裂させることを断固阻止する」と言明した。習近平は最高指導部幹部7名と共に天安門広場の毛沢東主席記念堂に参拝、その後人民大会堂で毛沢東について「中国の偉大な愛国者、民族の英雄」と称え「その遺志を継いで台湾統一を成就する」と語った。
*12月14日発表:中国空軍H-6爆撃機2機とロシア空軍Tu-95爆撃機2機が日本海で合流、両軍の戦闘機複数と電子戦機が護衛して日本海および東シナ海の空域で合同演習を実施。これを海上から護衛する形で中国海軍レンハイ級ミサイル駆逐艦(104)が東シナ海-日本海を往復(12日および15日発表)
12月14日午前から午後にかけて、東シナ海から日本海に飛来した中国空軍H-6爆撃機2機が、日本海でロシア空軍Tu-95爆撃機2機と合流、その後東シナ海に向け長距離共同飛行を行った。これら4機の共同飛行にはロシア空軍戦闘機2機が護衛に当たり、東シナ機上空では中国空軍J-16戦闘機2機と同じく戦闘機3機が合流・護衛して飛行した。また、中国H-6爆撃機東シナ海から対馬海峡を通り日本海に入る際には、中国軍のY-9電子戦機と戦闘機2機が随伴した。
さらにロシア軍Tu-95爆撃機が東シナ海から対馬海峡を通過日本海に入る際にはロシア軍Su-35戦闘機2機が同行、さらにロシアのTu-142哨戒機1機が日本海上空で警戒に当たっていた。
また、この中露両軍爆撃機部隊の飛行を支援するため、中国海軍はレンハイ(南昌)級ミサイル駆逐艦「無錫(104)」を11日及び12日に日本海に派遣、15日には東シナ海に移動、行動させた。
これら中露軍の活動に対し、統合幕僚監部は航空自衛隊西部航空方面隊などから戦闘機を緊急発進させ、不測の事態に備えた。西部航空方面隊には宮崎県新田原基地の第5航空団、福岡県築城基地の第8航空団があり、それぞれF-15J戦闘機1個飛行隊とF-2戦闘機2個飛行隊を配備している。
Tu-95爆撃機2機・H-6爆撃機2機を中心に中露両軍の17機が日本海・東シナ海を飛行するのは、初めてのことで我国に対し何時でも攻撃できるぞ、とする明白な「威嚇」である。
図17:(統合幕僚監部)12月14日、中国空軍H-6爆撃機ロシア空軍Tu-95爆撃機を中心とする17機が往復飛行した経路。日本海能登半島北から東シナ海尖閣諸島北までの空域を飛行した。
図18:(統合幕僚監部)「H-6」は、ロシアTu-16爆撃機を西安航空機で国産化した機体。H-6K、H-6H、H-6M、H-6Nなどが配備されている。我国周辺にはH-6K、H-6M、それから最新のH-6Nが現れる。H-6Kは兵装搭載量が9 tonから12 tonに増え、機番が5桁表示になり、翼下面に巡航ミサイルCJ-10Aを6発搭載する。
図19:(統合幕僚監部)ロシア製輸送機An-12Bを基に中国はY-8輸送機を開発、1981年から約100機を製造。これをベースに早期警戒機、哨戒機、電子戦機などの派生型が作られた。その一つが「高新1号」と呼ばれるY-8CB電子戦情報収集機。これを改良し、垂直尾翼頂部のアンテナと前部胴体側面に大きなフェアリングを追加したのが「高新3号」Y-8G電子戦機。エンジンはWJ-6ターボプロップ4,250 hp x 4基、航続距離5,600 km。
図20:(統合幕僚監部)ツポレフ (Tupolev) Tu-95戦略爆撃機は1952-1993年間で製造、多くが退役し現存は55機。エンジンはクズネツオフNK-12ターボプロップ 4基、二重反転プロペラを装備、主翼は35度後退角。最大15 tonの核弾頭付を含む各種巡航ミサイルなどを搭載、無給油で10,000 km以上飛べる。最新型は「Tu-95MSM」、レーダーを含む電子装備品と目標探知システムを近代化し、プロペラをAV-60Tに換装・振動を半減するなどして、2020年から配備が開始。乗員6~7名、全長46.2 m、翼幅50.1 m、最大離陸重量188 ton、速度925 km/hr、世界最大・最速のプロペラ機。
図21:(統合幕僚監部)ツポレフ(Tupolev) [Tu-142]対潜哨戒機は、[Tu-95]戦略爆撃機を基に対潜哨戒機にした機体。1968からクビシェフ・エビエーション、1975年以降1994年はタガンログ(Taganrog)機械製作所で製造。対潜装備搭載のため胴体前部を1.7 m延長、ランデイング・ギアを強化、アビオニクス、兵装を近代化。最新型は[Tu-142MZ]で航続距離が伸び最新のアビオニクスを搭載し1970年から配備中。この他に[Tu-142MK] / 新レーダー[Korshun]を搭載、[Tu-142MR] / 潜航中の原潜との通信機能向上型、があり、3機種で24機を使用中。
図22:(統合幕僚監部)「J-16」はロシア製Su-30MK2を基に瀋陽航空機が改良・製造中の戦闘機、250機ほどを運用している。最大離陸重量35 ton、作戦行動半径1,500 km。
図23:(統合幕僚監部)レンハイ(南昌)級ミサイル駆逐艦は満載排水量13,000 ton、全長180 m、対空・対地ミサイル発射用VLSは64+48セル、合計112セルを装備する。日米のイージス駆逐艦より一回り大きい。「無錫(104)」は同型艦8隻中の7番艦。
*12月15日発表:12月14日、青森県西方の日本海空域で、空自第3航空団「F-35A」戦闘機4機は米空軍「F-16」戦闘機7機と「KC-135」空中給油機および米海軍「EA-18G」と戦術訓練を実施
中露両軍の爆撃機を含む17機が日本海・東シナ海で演習を行った当日の12月14日に、空自と米空軍及び米海軍航空部隊は青森県西の日本海上空で戦闘訓練を実施した。中露軍爆撃機の演習を牽制した動きと思われる。
空自から三沢基地第3航空団F-35A戦闘機4機が初参加、米空軍からは三沢基地第35戦闘航空団所属のF-16C/D戦闘機7機とKC-135空中給油機1機、それに米海軍からEA-18G電子戦機2機、の合計13機。
空自第3航空団には第301飛行隊、第302飛行隊があり、いずれも我国初のF-35A配属部隊である。
図24:(乗りものニュース細谷泰正氏撮影)米第35戦闘航空団のF-16C、尾翼の「WW」記号は[wild weasel野生のイタチ]の略、F-16は優れた電子戦機器を搭載、敵地深く侵入行動できるのでこの名前が付けられた。
*12月18日発表:12月12日および15日、沖縄周辺の東シナ海および太平洋空域で空自第9航空団「F-15」戦闘機8機は米空軍「F-35A」戦闘機6機、米海軍「EA-18G」電子戦機6機、米海兵隊「F-35B」戦闘機5機と「KC-130」空中給油機2機、と戦術訓練を実施
12月14日の中露爆撃機演習を挟んで12日と15日の両日、日米両空軍は沖縄周辺の東シナ海を含む空域で、各機種合わせて27機の大群が各種戦術訓練を行った。参加したのは;―
空自:那覇基地第9航空団のF-15J戦闘機8機
米空軍:F-35A戦闘機6機
米海軍:EA18G電子戦機6機
海兵隊:F-35B戦闘機5機及びKC-130空中給油機2機
この演習を通じて、日米空軍は常時不測の事態に対処できる体制にあることを内外に示した。
*12月18日発表:北朝鮮は18日午前8時過ぎ火星18型固体燃料ICBM(大陸間弾道ミサイル)1発を発射、ロフテッド軌道で高度6,000 kmに上昇後北海道・奥尻島北西250 kmの海上に落下した。
北朝鮮は12月18日8時24分平壌近郊から「火星18」と見られる固体燃料式弾道ミサイル1発を発射した。弾道ミサイルはロフテッド軌道をとり高度6,000 kmまで上昇し、発車後73分過ぎに1,000 km離れた北海道奥尻島北西250 kmの我国EEZ外に落下した。
防衛省は、弾頭の重さによっては射程は15,000 kmに達し北米全域が射程に入るとしている。北朝鮮がICBMを発射したのは今年(2023)7月12日以来で、今回は15回目になる。
図25:(NHK/朝鮮中央TV)12月18日発射の写真がないので、代わりに7月12日発射の「火星18」の写真を掲載する。
*12月20日発表:北鮮ICBM打上げに対抗して、日米韓3カ国空軍は九州北西の東シナ海北部の空域で米空軍B-1爆撃機2機を中心に戦闘機9機などで戦術訓練を実施
12月18日の北朝鮮ICBM打上げに対抗して12月20日に、日米韓3カ国空軍は、九州北西の東シナ海空域で米空軍B-1爆撃機2機を中心に3カ国戦闘機9機が参加して北朝鮮に対する反撃演習を行った。北朝鮮が無謀な攻撃を開始すれば、3カ国は「B-1B」爆撃機を先頭に直ちに反撃し決して容赦しないという姿勢を示したもの。
参加したのは;―
米空軍:全世界攻撃軍(Global Strike Command)配下第8空軍(8th Air Force)/サウスダコタ州エルスウオース基地(Ellsworth AFB, South Dakota) 所属の第28爆撃航空団(28BW=28th Bomb Wing)「B-1Bランサー(Lancer)」爆撃機2機および第35戦闘航空団の「F-16」戦闘機(三沢基地)3機
航空自衛隊:第8航空団(築城基地)所属の「F-2」戦闘機4機
韓国空軍:「F-15」戦闘機2機
図26:(USAF Photo)翼を展張し上昇する「B-1B」爆撃機。可変後退翼、B-2A、B-52Hと共に全世界攻撃軍(GSC)を構成する。45機が配備中。乗員4名、全長45 m、翼幅42 m・展張時、高速飛行時は24 m。最大離陸重量216 ton、エンジンはF101-GE-102アフトバーナ付き推力30,000 lbsを4基。各種ミサイルなど含む兵装23 tonを搭載、戦闘行動半径5,500 km。最大速度は高空ではマッハ1.25、低空ではマッハ0.85で長距離飛行が可能。2025年以降は新しいB-21に更新される。
図27:(統合幕僚監部)北朝鮮のICBM発射から2日後、直ちに韓国済州島の西の東シナ海空域で「B-1B」爆撃機を中心日米韓3カ国戦闘機が演習を実施。米軍がこの空域にB-1Bを派遣したのはこれで13回目となる。当該B-1B爆撃機は演習後直ぐエルスウオース基地に帰還した。
*12月22日発表:令和5年度米陸軍と陸自第11旅団等は令和6年1月に北海道で実動訓練「ノース・ウインド24」を実施
陸自第11旅団第28普通科連隊(函館駐屯地)/96式装輪装甲車を装備、は、1月22日〜31日の間北海道各地の演習場で、米陸軍第11空挺師団・第2-11空挺旅団第1-501歩兵大隊と共同演習を行う。
今回の演習は「ノース・ウインド24(North Wind 24)」の名称で9年振りに開催する積雪寒冷地における日米共同訓練。米陸軍から参加する第11空挺師団(11th Airborne Div.)は、2022年に再編成され、第1および第2空挺旅団(歩兵旅団戦闘団で構成される。第2空挺旅団はアラスカ州エレメンドルフ・リチャードソン統合基地(Joint Base Elemendorf-Richardson)に駐屯する寒冷地部隊。
今回の演習は、両軍で寒冷地戦闘の基本的行動を訓練し、可能性のあるロシア軍による北海道侵攻を想定、備えるための演習である。
ロシア政府は、これに対し「日米両国がロシア領千島列島や樺太侵攻を目指す演習だ、中止を求める」と抗議声明を出した。
図28:(陸上自衛隊)「96式装輪装甲車」/小松製作所製は40 mm自動擲弾筒などを備え、乗員2名兵員を収容、最高速度100 km/hr、重さ14.5 ton、380両以上が配備されている。
*12月22日配信(フィリピン空軍):三菱電機製レーダー・システム「FPS-3」1号機をルソン島北部に設置、南シナ海の警戒監視を開始
フィリピン空軍は、新しい日本製対空監視レーダー・システムの受領式典を実施した、と発表した(2023年12月20日)。これは我国最初の完成装備品輸出となるもので、三菱電機がフィリピン国防省から2020年に受注した対空監視レーダー4基のうちの1号機。受注したのは固定式レーダー「FPS 3」が3基と移動式レーダー「TPSP 14」が1基。
固定式「FPS 3」:空自が1999年までに全国7箇所に設置した警戒管制レーダー装置、大型固定3次元レーダーで、2008-2009年に改修して「FPS-3改」となる。監視範囲は約450 kmと言われ、ルソン島北部に設置することで南シナ海の半分近くを監視できる。アンテナには多数の半導体送受信素子で構成するアクテイブ・フェイズドアレイ・アンテナ(Active phased array antenna)を採用、遠距離用と近距離用をドーム内に設置している。
移動式「TPSP 14」:陸自が師団・旅団の野戦防空用センサーとして高射大隊に配備する車載レーダー、探知距離は300 km以上とされる。
図29:(防衛装備庁)三菱電機がフイリピン空軍に納入、ルソン島北部の基地に設置した「FPS-3」レーダー。
図30:(防衛省)ドーム内に設置されている「FPS-3」レーダーの遠距離用3次元レーダー・アンテナ、多数の送受信素子(T/R unit)で作られている。
図31:(防衛省)「TPSP 14」移動式管制レーダー装置。
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