米シエラスペース、宇宙輸送機「ドリーム・チェイサー」初号機を完成


2024-1-13(令和6年) 松尾芳郎

図1:(Sierra Space)2023年11月2日、デンバーDenver)の近くコロラド州ルイビル(Louisville, Colorado)にある宇宙企業シエラ・スペース(Sierra Space)社は、革新的なドリーム・チェイサー(Dream Chaser)宇宙機「テナシテイ(Tenacity・粘り強さ)1号機(DC-101)」を完成、従業員全員で祝った。

リフテイング・ボデイ(Lifting Body)は、長い間宇宙基地との往復に最適な形状だと考えられてきたが、シエラ・スペースが作る「ドリーム・チェイサー(Dream Chaser)」宇宙機で今年初めて実証する。「ドリーム・チェイサー」は、幅広の胴体と上半角の大きい主翼(canted wing)を備えるリフテイング・ボデイ。スペース・シャトル(Space Shuttle)と同じようにロケットを噴射して飛行し、水平の姿勢で滑走路に着陸する。しかし「ドリーム・チェイサー」はずっと小型なので、多種類のロケットで打上げが可能、滑走路も8000 ft (2,400 m )の長さで十分着陸できる。

( The lifting body concept, long considered a vehicle for routine access to orbital space-stations, will have a chance to prove by Sierra Space’s Dream Chaser launches in 2024. Its wide body and canted wings generates lift, the rocket vehicle is designed to land horizontally like the space shuttle. Due to its smaller size, launched on various type lift rockets and land shorter runway as 8,000 feet.)

スペース・シャトルは1981年初飛行後2011年7月まで135回飛行して退役した。

図2:(Sierra Space)DC-100型無人宇宙機「ドリーム・チェイサー(Dream Chaser)」1号機は、NASA国際宇宙ステーション(ISS)への貨物輸送、返却、廃棄サービスを予定。「ドリーム・チェイサー」は、主構造に炭素繊維複合材を使い、新開発の可変推力スラスターで宇宙空間で機敏に操縦でき、空港ランウエイには1.5 g未満のgで安全に着陸する。

図3:(Sierra Space)「DC-100」無人宇宙機に接続する「シューテイング・スター貨物モジュール(shooting Star Cargo Module)」は長さ5 m、ここに与圧・非与圧貨物合計で最大約6 tonを搭載、地球周回低軌道(LEO)に配送できる。「貨物モジュール」はISSへの貨物輸送に使い、復路では廃棄物を搭載、再突入前に切り離し廃棄する。

図4:(Sierra Space)「DC-100」の尾部中央の後部ハッチに取付けた「シューテイング・スター貨物モジュール」の想像図。「貨物モジュール」のソーラー・パネルは軌道上で展張される。

図5:(Sierra Space)ISSへの貨物輸送を終え大気圏再突入し降下する「DC-101」の想像図。胴体後部に垂直尾翼1枚と両側に主翼/canted wingが描かれている。全長9 m、翼幅7 m、重さ9 ton。尾部に「貨物モジュール」を結合するハッチがあり、その左右に「ボルテックス・ロケット」エンジン2基を装備する。「ドリーム・チェイサー」は着陸後24時間以内に再使用可能に作られている。

図6:(Sierra Space)「ドリーム・チェイサー」は、リフテイング・ボデイ(Lifting Body)形状で、試作機は2017年にヘリコプターから高度約4,000 mで切り離されNASAアームストロング飛行研究センター(Armstrong Flight Research Center, Edwards, Calif.)に向けて降下、安全にに着陸できることを証明済み。

図1で説明したように、2023年11月2日、デンバーDenver)近くのコロラド州ルイビル(Louisville, Colorado)にあるベンチャー企業シエラ・スペース(Sierra Space)社は、革新的なドリーム・チェイサー(Dream Chaser)宇宙機「テナシテイ(Tenacity・粘り強さ)1号機「DC-101」を完成した。同機は直ぐに梱包され、NASAのニール・アームストロング試験設備(Neil A. Armstrong Test Facility, Sandusky, Ohio)に送られ“環境試験(environmental testing)”を実施している。そして今年4月にフロリダ州のケネデイ宇宙基地から国際宇宙ステーション(ISS)に向けて打上げられる。これはNASAの「民間輸送契約2号(Commercial Resupply Services 2)」で7回の貨物輸送契約の最初となるもので、各フライトで5 tonの貨物を輸送する。内訳は3 tonが与圧室内、2 tonを非与圧室に搭載する。

「ドリーム・チェイサー」のエンジン;―

「ドリーム・チェイサー」のエンジンは、オービテック(Orbitec)社が開発した「ボルテックス(Vortex)」ロケットを改良した2台、後部ハッチ左右に取付ける。

燃料はプロパン(propane)やケロシン(RP-1)、酸化剤はニトラウス・オキサイド(Nitrous oxide)を使う。ニトラウス・オキサイド(N2O)は“笑気ガス”と言い、常温では不燃性、無毒、無害だが高温では強力な酸化剤となる。

オービテック(Orbitec)社/Orbital Technologies Corp.は、100%子会社のシエラ・ネバダ社(SNC=Sierra Nevada Corp.)で、推力30,000 lbs (13.6 ton)級のロケットエンジンを作っている。これはボルテックス・ロケット(vortex rocket)方式のエンジンである。

通常のロケットは、小型から大型打上げ機を含めほぼ全てが、ノズル外周に超低温の液体燃料を通して冷却する方式を採用している。しかしボルテックス・ロケットは、酸化剤を燃焼室の底部から壁に沿い螺旋状(アウター・ボルテックス/outer vortex)に送り込み、上部から噴射される燃料と中心部(インナー・ボルテックス/inner vortex)で混合し燃焼させる方式である。

高温となった燃焼ガスはノズル中心部を通り排出されて推力を生じる。燃焼は中心部(インナー・ボルテックス)で行われ、ノズル内面は、アウター・ボルテックスの冷たい層により燃焼による高温から保護される。これでノズルが受ける熱は輻射熱だけとなりノズル外周を流れる酸化剤で冷却できるので、材料も炭素繊維複合材で作ることができる。

これで「ドリーム・チェイサー」は着陸してランウエイ上に停止すると、直ぐに地上支援員が耐熱服なしで機体に触れ作業に取り掛かることができる。

図7:左は一般的なロケットの構成を示す図、右は「ドリーム・チェイサー」用の「ボルテックス・ロケット」の原理図。

「DC-101」の構造;―

図2で示すように「DC-101」の主翼は、ペイロード室内に収納するため折畳み、地球周回軌道で展張する。同様にランデイングギアも収納して打上げられ、帰還時、大気圏再突入し十分減速してから展張される。折畳み収納された主翼は、図4、図5に示すように複雑な機構(バナナ・トラック)を通り展張されされるが、再突入時には継ぎ目のシール面の完全さが問題になる。シール面のギャップの有無はISS到着時に宇宙飛行士の船外活動で検査する。

「DC-100」は、15回のISS往復飛行が出来る様作られているが、1号機「DC-101」で3~4回まで行い、4~5回目からは2号機「DC-102」を使う予定。

「膨張式居住モジュール」;―

シェラ・スペースは7回のISS向け無人貨物輸送に続いて、ブルー・オリジン社と共同開発中の「膨張式居住モジュール(inflatable habitats module)」の輸送契約の受注も目指している。

「膨張式居住モジュール(inflatable habitats module)」は、打上げ時は小さく折り畳み、ロケットのペイロード・フェアリング内に搭載、軌道に到着してから膨らまして居住空間を造るというアイデア。素材は、軌道上で内圧が加わると硬化する縫製に適した生地“ベクトラン”を使う。シエラ・スペースでは、小型の試験品で応力試験を5回実施済み、次回は18倍の大きさで膨張した時の体積300 m3になるモジュールを試験する予定。

図8:(Sierra Space)「膨張式居住モジュール」の収縮した状態。

図9:(Sierra Space)宇宙ステーションで供用予定の「膨張式居住モジュール」は、膨らました状態では、高さ20.5 ft (6 m 25 cm)、直径27 ft(8 m 24 cm),、体積10,000 立方ft (350立方m)になる。

「DC-101」の今後の予定;―

ドリーム・チェイサー1号機「DC-101」はサンダスキイ(Sandusky, Ohio)のNASAアームストロング試験場で、その前に到着済みの「貨物モジュール」と結合される。全体で高さ/長さが55 ft (約17 m)になる。結合する前に「DC-101」と「貨物モジュール」は個別に、電磁気相互干渉と適合性(electromagnetic interference and compatibility)の評価を行い、さらに吸音性(acoustic)、耐熱性(thermal vacuum)、振動(vibration)の試験を行う。全てが完了し一体に組立てた後ケネデイ宇宙基地に送られ、ULA (United Launch Alliance)の「バルカン・セントール(Vulcan Centaur)」2段ロケットに取付けられる。

「バルカン・セントール」打上げロケット;―

「バルカン・セントール(Vulcan Centaur)」は、これまでの打上げロケット「アトラスV」と「デルタIV」の後継機としてULAが開発したロケットで、1段目は「ブルー・オリジン(Blue Origin)」製のBE-4ロケットを4基、2段目は「セントールV」でロケットダイン製「RL-10C」ロケットを2基装備する。さらに必要に応じブースターを最大6基まで取付けることができる。

「バルカン・セントール」1号機「VC2S」は今年(2024年)1月8日に、ケープ・カナベラル空軍基地から、ベンチャー企業「アストロボテイック(Astrobotic)」が作る月着陸機「ペルグリン・ランダー(Peregrine Lander)」を搭載、打上げには成功した。しかし、「ペルグリン」から燃料が漏れたため月への正常な着陸は不能となった。

2024年4月には「ドリーム・チェイサー」1号機を乗せて「バルカン・セントール」2号機「VC4L」が打上げられる。このミッションは国際宇宙ステーション(ISS)が周回する低地球周回軌道(LEO)、高度407 km、傾斜角51.6度に打上げられる。

図10:(United Launch Alliance)「バルカン・セントール」の初号機「VC2S」。全高61.6 m、直径5.4 m、重量546.7 ton。低地球周回軌道(LEO)までのペイロードは27.2 ton。1段目:BE-4ロケット2基(推力4,900 kN )、2段目:RL-10C(推力212 kN)。

図11:(United Launch Alliance) 「バルカン・セントール」の構造。打上げ目的に応じ「ソリッド・ロケット・ブースター(SRB=solid rocket booster)」はゼロから6本まで取付けられる。図の「ペイロード」には月着陸機「ペルグリン・ランダー」が描かれているが、2号機ではここに「ドリーム・チェイサー」が搭載される。

図12:(United Launch Alliance) 「バルカン・セントール」ロケットの型式表示。「ペルグリン」打上げには「VC2S」が使われた。「ドリーム・チェイサー」打上げにはブースターが4本でペイロード室の長い「VC4L」が使われる。

「DC-200」;―

「シエラスペース」は、無人宇宙機「DC-100」に続いて有人宇宙機「ドリーム・チェイサーDC-200」の開発に取組み中で5年後にISSへの有人輸送を始めたいとしている。「DC-200」は「DC-100」より40 %大型になるので可変主翼を廃し、固定翼で垂直尾翼2枚を持つ構造となる。米空軍の無人宇宙機「X-37B」と似た固形式になる。尾部中央には貨物モジュール接続用ハッチ、その両脇にはロケット・エンジン4基ずつが装備される。固定翼のため「アトラスV」打上げロケットのフェアリング内には収まらないので2段目の頂部に直接取付けて発射される。

さらに大型化した「DC-300」は有人・無人兼用の宇宙機で、空軍研究所「Air Force Research Laboratory」が米輸送軍(US Transportation Command)用にロケット輸送研究の一つとして検討中である。地球上のあらゆる2地点を結ぶのに、速度マッハ4~25で飛べば3時間もあれば十分到達できる。

この研究はCRADAと呼ばれ、すでにSpaceX、Blue Origin、など数社が参加している。

図13:(Sierra Space)「DC-200」有人宇宙機は国際宇宙ステーション(ISS)や他の地球周回低軌道(LEO)上にある目的地に乗員を輸送するのに使う。2027年ごろの完成を目指す。

図14:(Sierra Nevada Space Systems)「DC-200」有人宇宙機は「アトラスV」ペイロード室に直接取付け発射される。図は想像図。

「X-37」無人宇宙機;―

「X-37」は、1999年にNASAのプロジェクトで始まり、2004年に米国防総省に移管された再使用可能型宇宙機計画。初飛行は「アトラスV」で2010年4月に打上げ、同年12月に無事帰還した。最新の打上げは6回目で、2020年5月で2022年11月に帰還。2機製造され、大気圏内滑空試験機を「X-37A」、軌道飛行試験機を「X-37B」と呼ぶ。

図16:(US Space Force, photo by Staff Sgt. Adam Shanks)2022年11月12日、909日間の飛行を終えフロリダ州メリット島にあるNASAシャトル着陸場に帰還した「X-37B」。全長8.9 m、翼幅4.5 m、重量約5 ton。

日本航空、「大分県・Sierra Space・兼松KK」による「ドリーム・チェイサー活用検討」に参画;―

2022年12月12日、「大分県・Sierra Space・兼松KK」による「ドリーム・チェイサー活用に向けたパートナーシップ」に日本航空(JAL)が新たに参画した、と4社から発表があった。これによると、有人/無人宇宙機「ドリーム・チェイサー」のアジア拠点として大分空港の活用を目指し、安全性・環境適合性・経済波及効果など、具体的検討を開始した。

図17:(国土交通省)大分県国東市にある大分空港3,000 m級ランウエイ。2022年2月、兼松商事はシエラ・スペースと「ドリーム・チェイサー」の着陸空港として検討に着手。2022年12月には日本航空がこれに参画し、ドリーム・チェイサー」のアジア拠点として活用を目指す。

―以上―

本稿作成の参考にした記事は次の通り。

  • Sierra Space Home “DC-1000 Dream Chaser Commercial Space Plane”
  • Aviation Week January 16-29, 2023 “Bigger Future” by Guy Norris
  • Aviation Week November 13-26, 2023 “Tenacity on Test” by Guy Norris
  • NASA Dec. 15, 2023 “Sierra Space’s Dream Chaser New Station Resupply Spacecraft for NASA” by Leah D. Cheshier
  • UchuBiz 2023-11-08 “Sierra Space、宇宙往還機「Dream Caser」初号機完成-NASA施設で試験へ“by 佐藤信彦
  • SNC 11/10/2015 “SNC’s ORBITEC family or Vortex engines” by Chris Bergin