オースタル社、米海軍に「遠征軍用高速輸送艦(EPF)」の14隻目を納入」


2024-1-29(令和6年)松尾芳郎

図1:(US Navy)オースタル社が製造する遠征軍用高速輸送艦は13号艦(EPF-13)まではフライトI (Flight I)、揚陸地点に接岸し艦首のランプから兵員300名以上が上陸する。写真の14号艦「コデイ(Cody EPF-14)」は、負傷兵士に対する「ロール2」相当の緊急手術可能な設備を備えた最初の艦となる。

オースタル社(Austal)のモーバイル造船所(Mobile, Alabama shipyard)は、米海軍の「遠征軍用高速輸送艦(EPF=Expeditionary Fast Transport ship)」の14隻目(EPF-14)を納入した。これは同型艦の最初のフライトII (Flight II)と呼ばれる型で、戦場で負傷した兵士の緊急手術が可能な設備を備えている。

(Constructed at Austal USA’s Mobile, Alabama shipyard, EPF-14 is the first “Flight II Expeditionary Fast Transport(EPF) ship, features enhanced medical facilities that will provide critical combat care in simple and contested environments.)

「フライトII」EPFは、艦内に設置した手術室で野戦病院が行う”ロール2Eクラス“の手術が出来る。

「ロール/Role」とは負傷者の傷の程度に対応する医療設備の順位を示すもので、最も軽い”戦場で仮処置するRole 1“から”大病院の設備が必要なRole 4“まである。この区分は米軍及びNATO軍で使っている。

図1の[EPF-14]コデイ(Cody)は、手術室を2室、医薬品及び輸血剤を常備し、さらに[V-22オスプレイ(Osprey)]輸送機の運用が可能な、米海軍で最初のEPF/遠征軍用高速輸送艦である。

遠征軍用高速輸送艦(EPF=Expeditionary Fast Transport ship)

「遠征軍用高速輸送艦(EPF)」は、最前線で兵員、補給物資、装備車両などを輸送する高速で喫水の浅い輸送艦で、米海軍・海兵隊・陸軍の揚陸を支援する輸送艦。2010年から「オースタルUSA」で建造開始、16隻を建造する予定で、これまでに14隻が造られた。建造中の2隻はいずれも「フライトII」型。

[EPF]はオースタル社が民間用に開発したアルミ合金製の3胴型/カタマラン(catamaran)船をベースにした輸送艦で、戦場での兵員輸送・貨物輸送が出来るよう敏速な行動性能を備えている。

上陸作戦の手段にはスピードの遅い揚陸艦と高速の航空機があるが、[EPF]はそのギャップを埋めるもので、大型揚陸艦が接舷出来ないような小さな漁港や砂浜を使って揚陸作戦ができる。そして、沿岸に停泊して上陸部隊の活動を支援することも出来るし、また民間人の避難・救援活動にも使える。

[EPF]は約1,500 ton、全長103 m、喫水約3.8 m、最高速度43 kts(80 km/hr)、輸送能力600 ton、「風浪階級3(Sea State 3)/やや波がある」の条件下で35 kts(65 km/hr)のスピードで1,200 n.m.(2,200 km)を航行できる。

エンジンはMTU製MTU 20V8000 M71Lデイーゼルエンジン4基を装備する。

民間旅客用座席に揚陸兵員312名が着席・さらに150名を追加が可能、ペイロードは635 ton、揚陸設備の無い小規模港でも重さ67 tonの主力戦車エイブラムス(Abrams)M1A2の揚陸・収容ができる。

[EFP]の艦尾にはヘリコプター離着艦可能な飛行甲板があり、艦首にある揚陸用ランプを展張すれば小規模な港湾や砂浜でも、戦車を含む大型車両の迅速な揚陸/収容が容易に行える。

操艦要員は21名、米海軍は海上輸送軍(U.S. Military Sealift Command / MSC)用として14隻を保有している。航続距離1,200 n.m.とは、グアム〜東京(1,350 n.m.)は直行できないが、グアム〜台湾間の輸送は可能である。

図2: (U.S. Navy)[EFP]は1,500 ton、全長103 mのカタマラン船型、後部甲板はMH-60などヘリコプターの離発艦ができる。写真は[T-EPF-1 スピアヘッド(Speahead)]。

図3:(U.S. Navy photo by Capt. Todd Kutkiewicz)米海軍[USNSミリノケット(Millinocket) T-EFP-3]が2017年11月21日フィリピンのスービックベイ(Subic Bay)に寄港した時の様子。水面の様子から沿岸の浅海域に進入していることが分かる。同艦は米第7艦隊第7駆逐艦隊(Destroyer Squadron 7)に所属している。

オースタル社(Austal)

「オースタル社(Austal)」は、オーストラリアインド洋側「西オーストラリア州(Western Australia)」の「パース(Perth)」近郊「ヘンダーソン(Henderson)」に本社を置く造船会社で、革新的な軍民両用の船舶を製造している。

民間用高速フェリーの製造では、日本「JR九州」、台湾「ブレイブ・ライン(Brave Line)、ドイツ「FRS Helgoline」などから受注、それぞれ納入している。例示すると、日本のJR九州にジェット・フェリー「クイーン・ビートル(Queen Beetle)」、乗客500人乗り、全長83.5 m、速力37 ktsの注文を受け2020年納入済み。

図4:(Austal) JR九州に納入したトリマラン型ジェットフェリー「クイーン・ビートル」。現在福岡〜釜山路線に就航中。

軍用としては、民需用より大型のフリゲート・サイズの高速多目的の輸送艦を開発、納入している。米コーストガード向けに全長110 mの「ヘリテージ(Heritage)」級巡視船、英海軍向けに高速支援艦(High speed Support Vessel)、米海軍向けに沿岸戦闘艦(Littoral Combat Ship)、及び表題の「遠征軍用高速輸送艦(T-EPF)」等を建造している。

西オーストラリア州には近代的な造船所があるが、このほかに米国、フィリピンなどにも造船所があり、米国支社は、メキシコ湾に面したアラバマ州モーバイル(Mobile, Alabama)にあり、米海軍向け、海兵隊向けの船舶はここで製造している。

図5:(Austal USA)アラバマ州モーバイルにある米国オースタル(Austal USA)の造船所。アラバマ州は米国南部にありミシシッピ州とジョージア州に挟まれ、南は大部分がフロリダ州、一部がメキシコ湾岸に面する。モーバイルはここにある。

終わりに

オースタル社は、高速航行が可能な3胴船/トリマラン型船型の技術を持つユニークな造船会社で、世界的規模で活躍している。軍事緊張が高まる台湾、尖閣諸島、沖縄南西諸島、南シナ海スプラトリー諸島などの防衛を考えれば、米海軍のみならず我国の水陸機動団でも早急にEPFと同程度の高速揚陸艦の整備運用が望まれる。

―以上―

本稿作成の参考にした記事は次のとおり。

  • Naval Today January 18, 2024 “Austal has revealed that USNS Cody (EPF-14) has been delivered to the US Navy” by Fatima Bahtic
  • Austal Home pages
  • Austal “Expeditionary Fast Transport (T-EPF)”
  • Austal “Austal-USA Delivers 14th Expeditionary Fast Transport to US Navy”
  • Wikipedia “Spearhead class expeditionary fast transport”
  • Naval Sea Systems Command “Expeditionary Fast Transport (EPF) program summary”