ミッチェル報告“米中戦わば”によると、米空軍は無人機[CCA]を多数投入して対抗


2024-2-24(令和6年) 松尾芳郎

米空軍協会(U.S. Ari Force Association)ミッチェル航空宇宙研究所(Mitchell Institute for Aerospace Studies)は、2024年2月6日に「破壊的な航空攻撃を阻止するには有人機を支援する無人戦闘機(CCA)が必要(The Need for Collaborative Combat Aircraft for Disruptive Air Warfare)」と題する報告書を公表した。「中国が開始する攻撃に対抗するには、比較的低価格の通常性能型無人戦闘機(CCA)を多数投入し、有人機と共同で、あるいは単独で運用するのが最も効果的である」と結論付けている。

(According to a newly published report from AFA’s Mitchel Institute for Aerospace Studies, titled “The Need for Collaborative Combat Aircraft for Disruptive Air Warfare “. Which describes, moderately capable and moderately cost Collaborative Combat Aircraft / CCA would be valuable in a war of western Pacific against China. The CCA could add to existing crewed aircraft or used independently.

この報告書は退役空軍中佐「マークAガンツインガー(Rt’d Col Mark A Gunzinger)」氏、退役空軍大将「ローレンスAスツーツリーン(Lawrence A Stutzrien)」氏、「ビル・スイートマン(Bill Sweetman)の3氏が、民間企業関係者などを含む多数から意見を聴取、取りまとめたもの。以下に概要を記す。

報告書では前提として次のように述べている。すなわち、開戦当初に出動できる米空軍は配備済みの在来型機*のみで機数も限られた戦力なのに対し、中国側の航空機・ミサイルは質量共に増大を続け、戦力格差は急速に拡大しつつある。この情勢のもとで侵攻を食い止めるには「非対象(asymmetric)」戦を行うのがコストvs 効果の点で最も好ましい。

*在来型機とは、F-35、F-22、B-52等を指し、開発中の次世代戦闘機(NGAD)やB-21爆撃機は含まない。

図1:(Lockheed Martin illustration)沖縄諸島・台湾(第1列島線)で中国軍侵攻を迎撃する米空軍の想像図。F-35戦闘機(右)を中心に、C-130輸送機からパレットで投下・発進した無人機「スピード・レーサー(Speed Racer)」(左手前)3機が先陣を務める。中央奥に「RQ-170センチネル(Sentinel)」*無尾翼無人偵察機が描かれている、これは中国軍の動きをデータ・リンクでF-35やCCAに伝える。

*「 RQ-170センチネル」はCIA用に空軍が保有する無人偵察機。ロッキード・マーチン製で「U-2」有人偵察機の更新として2007年以降20~30機が配備中。韓国にしばしば飛来している。翼幅11.6 m、全長4.5 m、エンジンはGarret TFE731またはGE TF-34ターボファン1基。飛行高度15,000 m、滞空時間5〜6時間。

図2:(AFA’s Mitchel Institute)中国軍が台湾・沖縄を含む第1列島線に侵攻を始めた初日での米空軍の対応を示す図。米空軍はB-52爆撃機やF-15、F-22、F-35戦闘機など有人機を出動させ、前方に多数の無人機(CCA-5)を展開し、搭載するJATM空対空ミサイルで中国軍機を攻撃、KJ-500早期警戒管制機などの重要目標を破壊する。

米国防総省の無人機CCAに対する取組み

米航空宇宙軍は2024年度予算で今後5年間でCCA関連の費用として総額58億ドル(8,100億円)、2024年単年度では3億9,200万ドル(550億円)の予算を要求している。

フランク・ケンドール(Frank Kendall)空軍長官は “これで空軍は2029年までに少なくとも1,000機のCCAを調達し、実戦配備する”と語っている。大規模な航空戦力を有する海軍もCCA導入に積極的で、空軍と密接に協力、導入を急いでいる。

米国防総省の内部部局DARPA(国防高等研究計画局)は、10種類の「CCA」を検討している。単価4,000万ドル(60億円)以上で、空対空ミサイルを6発ほど搭載、高性能センサーを装備、第5世代の戦闘機に匹敵する航続距離3,000 km以上ある先進ステルス無人機から、単価1,500万ドル(21億円)以下の簡便な無人機までを研究している。

空軍は2024年(今年)2月初めに、CCA無人機の設計・製造のため次の5社を選定・契約した。すなわち「ボーイング」、「ロッキード・マーチン」、「ノースロップ・グラマン」、「アンデウリ(Anduri)」、「ジェネラル・アトミックス」の5社がそれだ。

「アンデウリ(Anduri)」は機体や艦艇に搭載するハード・ソフト関連領域の開発にAI (artificial intelligence)を使う独創的技術を得意とする企業である。

「ジェネラル・アトミックス」は早速「ガンビット(Gambit)」(チェスで言う序盤の手)計画を公表、受注に意欲を示している。同社はこれとは別に、空軍研究所(Air Force Research Laboratory)が開発する無人機操縦系統のコア・システム「スカイボーグ(Skyborg)」AIソフトを搭載したCCA「MQ-20 Avenger(アベンジャー)」の飛行試験に成功、開発を続けている。

「スカイボーグ」アルゴリズムは、F-16Dに搭載X-62 VISTAとして空軍テスト・パイロット・スクールで試験飛行を実施済み、さらにクラトス(Kratos)が開発する「XQ-58バルキリー(Valkyrie)」無人機に搭載、検証する。

図3:(General Atomics)ジェネラル・アトミックスが今月CCA無人機として提案した「ガンビット(Gambit)」。「スカイボーグ」アルゴリズムを搭載する。

図3A:(General Atomics)「MQ-20アベンジャー(Avenger)」はGA-ASI社内では「プリデーターC (Predator C)」と呼ばれ、2009年4月に初飛行済み。翼幅23 m、滞空時間は20時間を超える。P&W製推力5,000 lbsエンジン1基を搭載、内部兵装庫に1.5 tonの各種ミサイルを搭載できる。

Kratos XQ-58A Valkyrie on a launcher at the Tech Expo at the 2023 Air, Space & Cyber Conference at National Harbor, Maryland. Mike Tsukamoto/staff

図4:(Kratos/Air & Space Forces Magazine Staff Mike Tsukamoto)2023年9月開催のAFA主催「Air, Space & Cyber Conference」で展示された「クラトス(Kratos) XQ-58Aバルキリー(Valkyrie)」無人機。「スカイボーグ」アルゴリズムを搭載する。

ミッチェル報告書の概要

報告書は、戦闘開始第1日には、F-15、F-35およびF-22等の戦闘機に低価格の”CCA-5”小型無人機を多数参加させ、共同で反撃すべし、と述べている。

想定シナリオ開戦初日;―

初日に投入する無人機は、DARPAが資金を拠出しジェネラル・アトミックスで開発中の「ロング・ショット(Long Shot)」を想定する。「CCA-5」は亜音速無人機で、航続距離1,000 km(650 nm)以上、空対空ミサイル2~3発を携行し、パッシブ索敵レーダーを装備、友軍機からの空中投下で発進する、あるいは地上からブースター・ロケットで発進する。単価が200~1,500万ドル級で最も安価なモデル3種のうちの一つである。

ボーイングB-52H爆撃機3機からそれぞれ10機ずつのCCA-5とF-15EX戦闘機10機からそれぞれ2機ずつの合計50機のCCA-5を発進させる。さらに地上からロケット・ブースターで60機を発進させる。これが戦闘に向かうF-22戦闘機8機とF-35A戦闘機16機合計24機の前方に展開、先陣となり攻撃する。戦闘機とCCA間の通信を援助するためMQ-9リーパー無人機を複数随伴させる。これら戦闘機とCCA-5の編隊はセンサーを駆使し、開戦初期に中国空軍の陜西飛機製KJ-500早期警戒管制機および空中給油機を発見・攻撃(first look, first shot)して排除する。全体的な戦闘指揮のため最新型の早期警戒管制機(AWACS)[E-7]*2機を編隊後方に配置する。

*[E-7]ウエッジテイルAWACSは、「HVAA=high value airborne asset」とも呼ばれ、有人機、無人機に対し戦闘指令・指示をするシステムを装備している。

開戦2日以降;―

2日目以降では、戦術を変更、圧倒的な数を誇る中国空軍の戦闘機群に対処するため、攻撃に参加するCCA無人機をより高性能な[CCA-3]に変更する。[CCA-3]の候補モデルは未だ明示されていない。参加機数は「CCA-5」より少なくなるが、これで敵戦闘機群を攻撃・減勢させ、同時に敵水上艦も攻撃する。CCA-3は亜音速だがF-22やF-35戦闘機と同レベルのステルス性を有し空対空ミサイル6発を装備、先進的なアクテイブ・パッシブ・ターゲッテイング・センサー(advanced active and targeting sensors)を備える。

報告書は、想定シナリオにおいて高価な対抗策は求めていない。超音速、高ステルス性能のCCAの新規開発は不要、としている。高性能を求めれば用意する機数を減らさざるを得ない(マークAガンツインガー(Rt’d Col Mark A Gunzinger)氏談)。

ミッチェル研究所の幹部は、今回の報告書で更なる検討が必要な項目があることを認めている。すなわち、CCAが装備する自律性(Autonomy)の信頼性は十分か、有人機とCCA間の相互通信システムに組込む耐妨害電波機能は大丈夫か、および、友人機/CCAシステムに対する戦術的支援は十分か、の諸点に関する検討が必要である。さらに、中国は2020年代末において、米国と同じレベルのCCA無人機を持っていないと仮定している。

以下にミッチェル報告書に記載されている両軍の主要兵装につき簡単に紹介する;―

JATM空対空ミサイル

対中国戦が始まる220年代末には、米空軍に新型の空対空ミサイル[JATM]が十分な数配備される。

「AIM-260 Joint Advanced Tactical Missile (JATM)/統合先進型戦術ミサイル」は、30年前から配備されている「AIM-120 AMRAAM (アムラーム)」空対空ミサイルほぼ同じサイズだが、スピードはマッハ5、射程は200 kmをかなり超える。2020年および2021年に試射に成功、2024年から実戦配備が始まる。性能は中国がAMRAAMを模して作っているPL-15ミサイルをはるかに凌駕する。ロッキード・マーチン製。

図5:(Lockheed Martin /US Air Force/Air & Space Forces Magazine)「CCA」無人機が携行する[JATM]空対空ミサイル。AIM-120 AMRAAMは;直径17.8 cm、長さ3.65 m、重量153 kg、射程105 km。 JATMの寸法、重量はAIM-120とほぼ同じだが有効射程は200 kmを超える。

中国軍KJ-500 早期警戒管制機

中国空軍が実施する台湾・沖縄侵攻作戦で、空軍、ロケット軍、海軍の総合戦闘指揮にあたるのがKJ-500早期警戒管制機である。円盤型レドームは西側諸国が使う「E-3セントリー」やその派生型と同じだが、「E-3」のAPYセンサーの10秒周期でアンテナを回転させる方式とは異なり、3基のAESAレーダーを固定配置し360度全周を常時監視・索敵できる。報告書では、総合性能では[KJ-500]が西側の[E-3]AWACSに勝るかも?と警戒している。

次図にある略称を説明すると;―

ESM:電子支援対策(Electronic Support Measures)、敵が利用する電磁スペクトルについての情報を集める活動でパッシブ受信探知、30 MHz~50 GHzの範囲を探索する。

ELINT:電子諜報(Electronic Intelligence)、敵のレーダー波、ミサイル誘導電波などを傍受して得られる情報を集める電波情報収集装置を云う。

図6:(Wikipedia)[KJ-500]は、中国空軍の第3世代早期警戒管制機(AEW&C)、陜西飛機工業がY-9輸送機をベースに開発した。空軍型KJ-500と海軍用KJ-500H合計で50機以上が配備されている。航続距離5,700 km、離陸重量77 ton、レーダー探知距離470 km、同時追尾可能な機数は60~100目標。注目すべきは、電子装備の90 %が国産化され、核心となるレーダーや情報関連装備は100 %国産化している点だ。

「E-7ウエッジテイル」早期警戒管制機

最初に採用、配備したのはオーストラリア空軍で2009年11月から2012年6月に6機を導入した。続いてトルコが2014年から4機、韓国が2011年から4機、イギリスが2023年から5機を導入中。アメリカ空軍は2025年から26機を導入すべく発注済み、NATO空軍は2031年以降6機を購入予定。

図7:(Boeing)米空軍は、50年近く使ってきた「E-3セントリー(Sentry)」AWACS早期警戒管制機の更新として「E-7ウエッジテイル(Wedgetail)」26機を総額12億ドルで2027年~2032年に納入する契約をボーイングと締結した(2023-3-24)。[E-3]は直径10 mのレドーム内にノースロップ・グラマン製のAPYセンサーを納め、これを10秒周期で回転、目標を探知する方式。[E-7]は、センサーを電子的にスキャンする「マルチロール・エレクトロニカリー・スキャンド・アレイ(MESA= Multirole Electronically Scanned Array)」に変更、切れ目なく目標をスキャンできる(ノースロップ・グラマン製)。[E-7]は同時に敵が発するレーダーや電子信号探知も可能。機体はボーイング737-700、主翼は同-800をベースにしている。写真はオーストラリア空軍用。乗員8~12名、最大離陸重量77.6 ton、航続距離6,500 km、エンジンCFM56-7推力27,300 lbsを2基。

「スピード・レーサー」無人機

SPEED RACER /スピード・レーサーとは「Small, Penetrating, Expendable Decoy Radically Affordable Compact Extended Range 」の頭文字である。「小型、侵攻用、使い捨てデコイ、低価格コンパクト、長航続距離」の意味。

F-35戦闘機を支援する「スピード・レーサー」無人機は2021年に開発が公表された。ロッキード・マーチン社「スカンク・ワークス(Skunk Works)」が開発する折り畳み式後退翼と3枚尾翼を持つ無人機。公開ビデオでは、ビーチクラフトB-1900双発ビジネス機(軍用名C-12 Huron)から投下・発進する様子を写っている。エンジンはミサイルエンジン製造企業「クラトス・タービン・テクノロジー(KTT= Kratos Turbine Technologies)」製。

「スピード・レーサー」は、米国および同盟諸国の戦闘機と広く協力可能なCCAとするのが目標:具体的には;―

  • 有人機の生存性を高めること
  • ネットワーク・センサーの探索距離を延伸すること
  • 効果的な戦闘決断に必要な情報を早急に提供できること

「スピード・レーサー」の開発費は1億ドル、単価は200万ドル以下にするのが目標。

図8:(Lockheed Martin illustration) F-35戦闘機と編隊を組む「スピード・レーサー」無人機。

図9:(Lockheed Martin’s Introducing the Distributed Team Youtube)F-35戦闘機とその両翼下面ハード・ポイントに取付けた「スピード・レーサー」の想像図。F-35は単価1億ドル(140億円)、離陸重量31 ton、翼幅10.7 m。これに比べ「スピード・レーサー」はかなり小型だがCCA-5「ロング・ショット」よりは大きい。

図10:(Lockheed Martin Project Carrera Youtube)2022-9-14公表のYoutubeに描かれた「スピード・レイサー」想像図。

図11:(DARPA/Aviation Week) DARPA(国防高等研究開発局)が検討する小型無人機「ロング・ショット(Long Shot)」の想像図。「ロング・ショット」計画に参加したのは「General Atomics」、「Lockheed Martin」、「Northrop Grumman」の3社。

図12:(General Atomics)DARPAは「ロング・ショット」プログラムのフェイズIIIは、「ジェネラル・アトミックス(General Atmics)」提案のドローンを選定した(2023年6月)。契約額は9,400万ドル。これには標的への空対空ミサイルの発射試験を含む。空軍・海軍の第4世代の戦闘機(F-15、F-16、F-18等)や爆撃機から発射され、遠距離を飛行する敵機を空対空ミサイル(AIM-120 AMRAAM等)で攻撃・撃破する。これで有人戦闘機・爆撃機が受ける脅威を軽減し、戦闘能力を著しく向上させる。

終わりに

今年2月6日に公表された米空軍協会(Air Force Association)ミッチェル研究所の報告書「米中戦わば」の概要を紹介した。2029年ごろ開始と予想される中国軍の第1列島線への侵攻作戦は、我が国にとっての存亡の危機になる。米国はこれを直視、費用効果を高めるべく各種無人機を整備することで対応を進めている。我国の対応はどうか?政治、マスコミ、一般国民の関心はもっぱら国内問題に集まり外敵の脅威には見て見ぬふりをする。人は誰しも嫌なもの怖いものには目を瞑り忘れたい心情になる。しかし国家となれば別、米国の保護に頼らず、正面から対処し国民の生命・財産を守る行動を採るのが義務である。

ロシアの侵攻2年目を迎えるウクライナは、戦局を挽回すべく無人機の大量生産(百万機規模?)を目論んでいる。見習ったほうがいい。

―以上―

本稿作成の参考にした主な記事は次のとおり。

  • Air & Space Forces Magazine Aug. 16, 2022 “Wildly Successful Skyborg will become program of record but won’t stop developing S&T” by Greg Hadley
  • Air & Space Forces Magazine Oct. 16, 2023 “Air Force test enterprise gears up for the challenge of CCAs” by John A. Tirpak
  • Air & Space Forces Magazine January 25, 2024 “The 5 Firms selected to build the Air Force’s Fleet of Autonomous CCA” by John A. Tirpak
  • Air & Space Forces Magazine February 6, 2024 “New Rreport: Wargames Show CCA could have huge influence in a Pacific War” by John A. Tirpak
  • Aviation Week February 8, 2024 “In Private Wargame,  Low-cost CCAs prove Most Popular” By Steve Trimble
  • Aviation Week February 26, 2021 “Skunk Works Reveals Speed Racer Configuration” by Steve Trimble
  • DARPA “LonShot” by Col. John Casey
  • Breaking DEFENSE September 7, 2023 “General Atomics LongShot drone for DARPA to start flight tests in December”
  • Defense News Mar 24, 2023 “The ability to Stare’ : Why the US Air Force is eager to get the E-7” by Stephan Losey