太陽系外縁にあるカイパーベルトは、想像より大きい ―冥王星探査機ニューホライゾンズの成果―


2024-3-2(令和6年)松尾芳郎

NASAのニューホライゾンズ探査機は2015年に冥王星に接近、現在はカイパーベルトの最も遠方を通過中で、宇宙塵の嵐(cosmic dust storm)の中にいる。この宇宙塵の存在は、これまで想像していた太陽系の外縁がさらに遠方に広がっていることを示している。

(NASA’s New Horizons mission, which encountered Pluto in 2015 is now flying through the deepest depth of the Kuiper Belt, is encountering a cosmic dust storm that hints there may be more going on in the outermost reaches of the solar system than we thought.)

宇宙空間はミクロン(μ)単位の微細な粒子/宇宙塵(cosmic dust)で満ちている。46億年前の太陽系創成期にはそれらがお互い衝突を繰り返して惑星(Planet)が誕生した。惑星の大きさまでに成長し損ねた宇宙塵は、小惑星(Asteroid)や彗星(comet)になった。これらにもなれず太陽系内を漂う宇宙塵は「黄道光(Zodiacal light)」となり、怪しげな光となって我々の目に映る。

図1:(NASA)2006年1月に打上げたニューホライゾンズ(New Horizons)は、カイパーベルトで最もよく知られた冥王星(Pluto)に接近、撮影する探査機だった。予定通り2015年7月に冥王星近傍に到着・撮影、今はカイパーベルトの最も外側を飛び続けている。

図2:(NASA/Johns Hopkins APL/SwRI) 2024-2-24現在の「ニューホライゾンズ」の位置。地球から約60 AU (1 AUは地球太陽間の距離でほぼ1億5000km) 、つまり地球から9,000km離れた空間を通過中である。途中カイパーベルト天体(KBO)の「冥王星(Pluto)」と「アロコス(Arrokoth)」に接近、撮影した。

カイパーベルトは、「カイパー・エッジウオース・ベルト(Kuiper-Edgeworth Belt)」とも呼ばれ、天文学者ジェラルド・カイパー(Gerard Kuiper)とケネス・エッジウオース(Kenneth Edgeworth)の二人が、個別に存在を予言した太陽系外縁にある小惑星の集団。1992年にハワイ大学の天文学者が、冥王星より遠くにある最初の「カイパーベルト天体(KBO=Kuiper Belt Object)を発見した。以来数千個のKBOが発見されている。

「冥王星」は長い間太陽系9番目の惑星(planet)に分類されていたが、国際天文学会の決定で2006年からカイパーベルトに属する「小惑星(dwarf planet)」に分類されている。

カイパーベルトの外縁には、KBO小天体が集団で散在している。これは太陽の引力と海王星の引力が影響したためと考えられている。この円盤は太陽系の円盤からかなり傾いて、太陽から数百 AU*ほどの範囲に広がっている。

  • AU=Astronomical Unit (天文単位)は太陽-地球間の距離で1 AUは約1億5000万km である。

カイパーベルト円盤の外側には、太陽から1光年*以上の距離に球形に広がる氷の小天体の集団「オールトの雲(Oort Cloud)」がある。オールトの雲の小天体は直接観測することはできないが、天文学者はここから飛来する彗星(comet)の軌道を計算することでその存在を推定している。

*光年とは、秒速30万kmの光が1年間かかって進む距離で、約9.5兆kmに相当する。

今ではニューホライゾンズの新しい観測結果で、これら太陽系の最も外側の状況を実際に確認出来つつある。

図3:(NASA/Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory/ Southwest Research Institute)ニューホライゾンズが20157月、約8,000 kmの距離から撮影した最初のカイパーベルト天体(KBO)冥王星(Pluto)。冥王星はKBO最大の一つで200年の周期で太陽を回っている。冥王星の太陽周回軌道は「図1」、「図4」に黄色で示したが、他の太陽系惑星軌道面よりかなり傾斜した楕円軌道で、太陽からの距離は最も近付いた点で30 AU、最も離れた点で50 AUになる。冥王星から地球に電波/光が届くのに4時間25分かかる。直径は約1,200 km

ニューホライゾンズは、現在冥王星(Pluto)からはるかに遠ざかり、初めて星々の間に漂う宇宙塵(cosmic dust)の中を航行している。従って観測結果は全てが新発見につながっていると言って良い。

2019年元旦には、ニューホライゾンズは小さいKBO (カイパーベルト天体)「アロコス(Arrokoth)」/太陽からの距離43.5 AUに接近、撮影した。その後ニューホライゾンズは2021年4月に太陽からの距離58.25 AUあたりを通過し、現在は58.25 AUの位置にある。これまでの5年間でニューホライゾンズは、カイパーベルトを通過したものと思われる。カイパーベルト天体(KBO)はお互い数百万km離れているので、探査機からは視認できない。カイパーベルトを通過したらしいと見られるのは、宇宙塵(interplanetary dust)の観測数量が減っていることで推測できる。

ニューホライゾンズには宇宙塵測定装置(SDC=Student Dust Counter)があり、これで受感する宇宙塵の数が減少したことでカイパーベルトを通過しつつあると判定した、という事だ。

宇宙塵測定装置(SDC)はニューホライゾンズの進行方向の面に取付けられている。SDCは14.2 cm x 6.5 cm、厚さ28μのプラスチック・フィルム14枚で構成され、うち12枚が宇宙空間に露出し宇宙塵(dust)を検知する。残りの2枚はシールを被せ基準として使われる。塵の粒子がフィルムに衝突すると電気信号に変換され検知される仕組みだ。

[SDC=Student Dust Counter]の名称のいわれはほぼ次のとおり。

1930年3月14日、イギリス・オックスフォードの自宅で朝食中の11歳の少女ベネシア・バーニー(Venetia Burney)が、祖父から海王星(Neptune)の外側に新しい「惑星X」が見つかったと教わった。彼女はすぐに名前は惑星Xではなく「プルート(Pluto/冥王星)」がふさわしいと祖父に話した。ローマ神話で「プルート(Pluto/冥王星)」は海王星(Neptune)の兄に当るだけでなく地下の世界に君臨する神とされていた。孫娘の遺憾になるほどと感じた祖父(オックスフォード大学教授)が、これを関係機関に提案し他結果「プルート(Pluto/冥王星)」の名が天文学上の正式名となった。これで宇宙塵測定装置に「ベネシア・バーニー生徒(Venetia Burney Student )」の名前が冠せられ[SDC=Student Dust Counter]となった、という。

これからニューホライゾンズは、“宇宙空間のプラズマ”、“宇宙塵やガス”、“他のカイパーベルト天体(KBO)”の観測をすることになる。ハワイにある世界最大級の天体望遠鏡「すばる」の観測で、カイパーベルトを通過したと見られるニューホライゾンズの位置のさらに外側には30個以上のKBOが存在することがが判っている。このことからカイパーベルトは知られているリング状( 外径50 AU)の外側にもう一つのベルト(80 AU付近)があるかも知れないと言われている。

ニューホライゾンズには2040年代を航行するのに十分な燃料とパワーを持っているので太陽から100 AU辺りまで飛行することになろう。この間ずっと搭載するSDCは宇宙塵の疎密を記録し続け、太陽系外縁の状況を明らかにしてくれるだろう。

図4:(NASA/JHUAPL/SwRI)ニューホライゾンズの位置は、カイパーベルト外縁・太陽から50 AUの距離を通過したところ。これまでにこの距離を通過した探査機は4機しかない。50 AUの距離では、ニューホライゾンズから地球まで電波()が届くのに6時間半かかる。現在最も遠くにいるボエジャー1(Voyager 1)は、およそ100 AUあたりを通過中である。

ニューホライゾンズの動力源は「RTG」と呼ぶラジオアイソトープ・熱発電機(radioisotope thermoelectric generator/放射性同位体熱電気転換器)が搭載されている。これはプルトニウム(plutonium)238同位元素*の崩壊熱で発電する装置で型式は「GPHS-RTG」、カッシーニ・ミッション(土星探査機)用に予備として作られたものを使っている。打上げ時には[238 Pu]のペレット9.75 kgを搭載していた。

探査機にはこれらKBOに接近するに十分な燃料が残っている。2030年ごろに100 AUに到達するが、その頃にはかなり弱っているがまだ使える。

*プルトニウム238同位元素は[238 Pu]と表示し、原子核崩壊で生じる熱で電力を発生する。[238 Pu]の半減期は87.7 年。

打上げ時のの出力は246 wattだったが、年率3.5 wattで減衰しているので、冥王星到着時には202 watt、2019年1月「アロコス」到着時には190 wattに落ちている。

搭載計測機器について簡単に紹介する;―

・LORRI :Long- Range Reconnaissance Imager/長距離偵察映像撮影器

・SWAP :Solar Wind Around Pluto/冥王星周辺の太陽風測定装置

・PEPSSI :Pluto Energetic Particle Spectrometer Science Investigation/冥王星からのプラズマ・高エネルギー粒子測定装置

・Alice :Alice/紫外線撮像分光分析装置

・Ralph Telescope :金赤外線・可視光戦撮影用カメラ、直径75 mmレンズ

・Student Dust Counter :Venetia Burney Student Dust Counter/ベネシア・バーニー・スチューデント・カウンター(宇宙塵測定装置)、本体裏側にあり図では見えない

・REX :Radio Science Experiment/直径2.1 mの大型デイッシュ・アンテナ面にある通信安定性確保のための小型水晶発振器

図5:(NASA/Wikipedia)ニューホライゾンズの外観と主要機器の位置を示す図。本体は厚さ76 cmの3角形構造で骨組みはアルミ合金パイプで作られている。直径2.1 mの大型デッシュ・アンテナ[REX]が着く面を“前”と呼ぶ。“裏”面は図では見えないが、打上げロケットに固定するアダプター・リングおよび宇宙塵検知用の[SDC= Student Dust Counter]がある。3角形の先端には黒い筒状の動力源[RTG]が付く。姿勢制御用に16個のヒドラジン(hydrazine monopropellant)燃料スラスターが付く、推力4.4 Nのスラスター4本は進路変更用、推力0.9 N12本は予備用である。

直径2.1 mの大型デッシュ・アンテナはXバンド使用で地球との通信用。通信速度は、木星近傍からは38 k bits/秒、冥王星からは1 k bit/秒に落ちている。

図6:(NASA/JHUAPL/SwRI)冥王星近傍を通過、カイパーベルトを飛び続けるニューホライゾンズ探査機の想像図。燃料を含めた打ち上げ時の重量は474kg、冥王星などの組成、温度、近接撮影などのための計測機器7種類を搭載する。通信機器や計測機器の電源にはプルトニウム238の崩壊熱を利用する「ラジオアイソトープ・熱発電装置(RTG=radioisotope thermoelectric generator)」の電力(200 watts)を使う。図の左に伸びている黒い筒状がRTG。

図7:(NASA/Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory/Southwest Research Institute/National Optical Astronomy Observatory)ニューホライゾンズが201911日にカイパーベルト天体(KBO=Kuiper Belt Object) “2014 MU69”3,500 kmの距離から撮影した。雪だるまの形をした天体で、大きさは長さ34 km、幅10 km、後に「アロコス(Arrokoth)」と名付けられた。太陽からの距離は43.4 AU。二つの小天体が同じ軌道で周り、ゆっくりと合体したと思われる。

天文学者は、我々太陽系の周りには無数の氷の小片からなる巨大な球形をした「オールトの雲(Oort Cloud)」が存在する、と予想している。これら氷塊は微細なものから山のように大きいものまで、その数は数十兆個以上にもなる。

オールトの雲は、冥王星などが存在するカイパーベルト(Kuiper Belt)のはるか外側にある。太陽系の惑星はほぼ平らな円盤上を周回しているのに対し、オールトの雲は彗星で代表されるような大小様々な氷塊で構成され、巨大な球形をして太陽系全体を包み込んでいる。

地球近くに来る彗星は太陽を200年以上の周期で回っていて、そのほとんどがオールトの雲からやってくる。例えば「C/2013 A1 Siding Spring (シデイング・スプリング)」と名付けた彗星は2014年3月に火星に最接近した後太陽系外縁に向け飛び去り、故郷のオールトの雲に戻りつつある。そして再び太陽系内部に戻ってくるのは74万年後と予想されている。

カイパーベルト天体である冥王星は「図3」で説明したように太陽から近い点で30 AU、遠い点で50 AUの距離にある。しかしオールトの雲の内側の縁は太陽から2,000 AUから5,000AUにあると推定される。オールトの雲の外縁ははるかに遠く太陽から1万AU~10万AUに達しているらしい。これは太陽から最も近い恒星までの距離の4分の1〜半分に相当する。

図8:(NASA Science)「オールトの雲」推定される広がりは、太陽系から、内側では2,000AU〜5,000 AU、外側は1万AU〜10万AUと考えられている。カイパーベルト外縁は直径50 AU、その外側にもう一つのカイパーベルト(80 AU付近)の存在が取り沙汰されている。

―以上―

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

  • NASA Science “New Horizons”
  • NASA Science “Oort Cloud”
  • Space.com. Feb. 23, 2024 “The Kuiper belt could be way bigger than we thought” by Keith Cooper
  • Space.com Oct. 03 2023 “ NASA extend New Horizons mission through late 2020s” by Mike Wall
  • Space.com April 16, 2021 “NASA’s  New Horizons probe reaches rare distance, looks out to farthest Voyager” by Robert _z. Peariman
  • Space.com Nov. 13, 2019 “Meet Arrokoth: Ultrma Thule, the most Distant Object ever Explored, has a New Name” by Mike Wall
  • TokyoExpress 2017-08-11 “NASA探査機ニューホライゾンズ、カイパーベルトの新目標へ“ 他