2024-4-30(令和6年)松尾芳郎
英海軍では、ドローンやミサイルの脅威が高まるのを受けて、対処策として2027年までにレーザー兵器「ドラゴン・ファイヤー(DragonFire)」を艦艇に装備開始することを明らかにした。
(The Royal Navy has revealed its plans to install laser weapon DragonFire on its ships started by 2027 as the need for weapons to counter drone and missile threats grows.)
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図1:(Royal Navy)英国防省は「ドラゴン・ファイヤー(DragonFire)」レーザー兵器(LDEW=laser directed energy weapon)の発射試験に成功した(2024年1月)。右上の火球はレーザー光線が目標をヒットした様子。場所は英本国スコットランド北部のミサイル射撃場。
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図2:(Royal Navy) 英海軍では、2027年就役予定の31型フリゲートから「ドラゴン・ファイヤー」レーザー・ガンを装備する。31型フリゲートは最新の汎用フリゲートで満載排水量5,700 ton、全長138.7 m、10隻を調達する予定。対潜用26型フリゲート8隻と共に英海軍の中核となる。奥に描かれているのはクイーン・エリザベス級空母。
英海軍によると、「ドラゴン・ファイヤー」から発射する高エネルギー・ビームのコストははワンショット当たり10ポンド(約13ドルまたは1,900円)以下という。これで来襲するドローン、ミサイル、有人機を撃墜できる。これに比べ米国や同盟諸国海軍が使用中のミサイル防衛ミサイル「SM-2」は1発当たり200万ドル(3億円)もする。
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図3:(Royal Navy)31型汎用フリゲートに搭載される「ドラゴン・ファイヤー」レーザー・ガン(LDEW)のターレット(砲塔)部分。
英国防省では10年ほど前からレーザー兵器を開発中で、2022年から英本土北部スコットランド(Scotland)沖合の島アウター・ヘブライズ(Outer Hebrides)にあるミサイル射撃場(Deep Sea Range)で試験を続けている。
開発担当の責任者マット・ライダー(Matt Ryder)海軍大佐は「英国海軍は常に最先端技術の採用に積極的で、世界をリードしている。レーザー兵器もその一つで他国に先駆けて実用化する」と話している。
グラント・シャップス (Grant Shapps)国防相は「世界は益々不安定化しており、これに我々は対応を迫られている。危機感を持って対応していかねばならない」と語っている。
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図4:(Royal Navy)「ドラゴン・ファイヤー」レーザー・ガン(LDEW)ターレット。向かって右側の窓(緑色)がレーザー・ビーム発射孔。左の大きい窓は目標を捕捉・追尾する装置「ビーム・デイレクター」。
レーザー兵器(LDEW=laser directed energy weapon)の最大の特徴は、信頼性の高い高出力電源がある限り無限に射撃できる(弾薬に制限がない)点、ただし射程は目標を視認できる範囲に限られる。
一方専門家は欠点として次のような点を指摘している;―
降雨・霧・煙霧の気象状況で「レーザー兵器」の効力は減殺される。また大量の熱を発散するので大きな冷却システムが必要になる。艦船や航空機・車両に搭載する場合は電源/バッテリーの充電が必要になる。移動目標を攻撃する場合には10秒近く照射し続け金属カバーを焼き切る必要がある。
「ドラゴン・ファイヤー(DragonFire)」は、英国防省の国防科学・技術研究所(Dstl= Defense Science and Technology Laboratory)が、MBDA主導のもとでレオナルド(Leonardo)およびキネテイック(QinetiQ)の協力を得て開発した装置。この他にGKN、ArKe、BAE システムズも参加している。
試作機は2022年からアウター・ヘブライズ・ミサイル試験場で、まず空中および海上の目標の追跡試験が行われたが、極めて精度の高い追跡能力を得ることができた。
続いて同年12月から高出力のレーザービームを目標に照射する試験を行い、これにも成功した。今年(2024年)1月には高速で飛行する目標を捕捉・照射する試験を実施した(図1参照)。有効射程距離は未公表だが、あらゆる目視可能なターゲットを迎撃可能とされる。精度は1km先の1ポンド硬貨・直径23 mmを捕捉・照射できる。
2024年4月の国防省発表では、当初の予定では「ドラゴン・ファイヤー」を2032年から英海軍艦艇に搭載し始める予定だったが5年間前倒して2027年から開始する。
またグラント・シャップス国防相は、「ドラゴン・ファイヤー初期型を2027年以前にウクライナに供与出来れば戦局に大きな影響を及ぼす」と語っている。
「ドラゴン・ファイヤー」は、「連続発振レーザー(CW=Continuous Wave)」で一定の出力を連続して発信できるレーザー。光ファイバー(glass fiber)を使いビーム径を絞り精密な照射ができる。光ファイバー単体では出力は弱い(数kw程度)が、10本以上束ねることで50 kwの高出力が得られる。50 kw級高出力レーザー装置の開発はキネテイック(QinetiQ)社が担当している。しかし多数の光ファイバーを揃え、高出力を得るには難しい技術的課題があるが、この解決策は公表されていない。
レーザー兵器には目標を捕捉・追尾するシステムが必要で同じターレット(砲塔)に装備される。捕捉・追尾システムは、電子・光学カメラ(electro-optical camera)と低出力レーザーで構成される。この部分は「ビーム・デイレクター(beam director)」と呼ばれレオナルド(Leonardo)社が担当している。
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図5:(防衛装備庁)「ビーム・デイレクター」の作動原理。防衛装備庁の説明図を引用。
高出力化には、高エネルギー供給が必要であるが、これには現在英国・米国が共同開発中の「フライホイール・エネルギー・貯蔵システム(FESS=Flywheel Energy Storage System)が使われるかもしれない。「FESS」システムは、超高速で回転するローター(フライホイール)に回転エネルギー(rotational energy)としてエネルギーを貯蔵し、必要に応じこれから普通のエネルギーを抽出する装置である。バッテリー・システムに変わる革新的装置として注目されている。米海軍の新型空母「ジェラルド・フォード/CVN-78」の艦載機発射に使う電磁カタパルトの電源として使われる。
ビームを高出力化することで、目標照射時間を短縮できると共に射程距離を伸ばすことができる。
「ドラゴン・ファイヤー」を含むレーザー兵器は英海軍フリゲートだけでなく、英陸軍でも装甲車両に、英空軍でも英国・日本・イタリア共同開発の戦闘機「GCAP」への搭載を検討している。
米国、日本の状況
レーザー兵器/LDEWは、米国、ドイツ、日本、ロシア、中国などでも開発を進めている。米国および我国の事例を簡単に紹介してみよう。
米国;―
ロッキード・マーチン社は、2022年8月18日に同社が開発する出力60 KW+の高エネルギー・レーザー兵器「HELIOS」(high energy laser with integrated optical dazzler and surveillance)を米海軍に納入した、と発表した。「HELIOS」はアーレイバーク級ミサイル駆逐艦「プレブル/Preble/DDG-88」に搭載されイージス・システムのなかで試験運用される。「HELIOS」は、近接防空システムCIWS 20 mm機関砲システムの更新用として、150台のシステムを供給する契約を海軍と締結済みである。
米陸軍は2022年9月15日、ロッキード・マーチン社が開発する出力300 kw級のレーザー・システム「HELSI」を受領したと発表した。また、ボーイングとジェネラル・アトミックス・エレクトロマグネテイック・システム(GA-EMS)社は、簡単なシングル・ビーム・レーザーで300 kw出力の方式で、2021年末に陸軍から受注した。
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図6:(Lockheed Martin)アーレイバーク級ミサイル駆逐艦「プレブルDDG-88」に搭載された「HELIOS」レーザー・ガン。20 mm耐久機関砲システム/CIWSの更新となる予定。
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図7:(GA-EMS/Boeing)米陸軍に納入予定の「GA-EMS/ボーイング」開発のシングルビーム式300 kw級車載式レーザー・システムの想像図。
日本:―
防衛省は2023-11-14防衛装備庁主催の「技術シンポジウム2023」で高出力レーザーシステムの研究成果を発表した。我が国での「高出力レーザ技術の研究」は2010年からスタートし防衛装備庁での所内試験は2016年に終了、実用化に向け防衛企業で試作が進められている。
防衛装備庁との契約で、三菱重工/川崎重工が車両搭載型の試作機を完成している。川崎重工は2018年から研究を開始2023年2月に出力用100kw級レーザー・システムを完成、地上に置いた迫撃砲弾の爆破に成功した。川重システムは10 kwのファイバー・レーザーを10本束ねて100 kw出力を得た。一般的にレーザーの変換効率は30 %程度なので、100 kw出力を維持するには出力300 kw級の電源が必要になる。このため今回納入された川重システム装置は8 x 8 x 40フィート・コンテナ2台分の大きさになる。
三菱重工は、2021年から研究開始、出力10 kw級のレーザー・システムで、1.2 km離れた区域を飛行するドローンの撃墜に成功した。場所は種子島試験場。
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図8:(防衛装備庁)川崎重工が試作した出力100 kw級レーザー・システムの外観。レーザー発射口の背後に見えるのは電源装置。電源をコンパクト化し、車載型として実用化するのが目標。
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図9:(防衛装備庁)川重試作の100 kw級レーザー発射口。
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図10:(防衛装備庁)車載化した出力100 kw級レーザー。システムの想像図。
終わりに
比較的低速で飛来するドローンや巡航ミサイル、有人戦闘機の攻撃に対処する高出力レーザー兵器を紹介した。英海軍が2027年から新型フリゲートに搭載を決めたが、米海軍でもアーレイバーク級ミサイル駆逐艦に搭載、イージス・システムの一環として運用試験を重ねている。我国でも防衛装備庁が中心となり、システムの完成を急いでいる。従来の近接防御用機関砲システムCIWSの後継として、レーザー・ガンLDEWの今後の動向を注目したい。
―以上―
本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。
- NavalToday.com. “DragonFire laser to be installed on UK’s warship by 2027” by Fatima Bahtic
- Leonaldo Home “DragonFire: Laser fire power”
- BBC News 12 April 2024 “DragonFire: UK laser could be used against Russian drone in Ukraine front line” by Ian Casey ad Jonathan Beale
- CNN March 14, 2024 “Air defense for $13 a shot? How lasers could revolutionize the way militaries counter enemy missiles and drones” by Brad Lendon
- 防衛装備庁研究開発事業2023-8-31 “2023年度技術シンポジウム・高出力レーザーシステム“ by 松尾涼人