2024-12-4(令和6年) 松尾芳郎
レジェントが作るシーグライダーは、全く新しい海上交通手段で、飛行機のスピードと船の安い運航費を組み合わせた乗り物である。動力は電動モーターで排気ガスは出ない。現用の地上設備を使って旅客や貨物を乗せ、時速180マイル(290 km/hr)で180マイル離れた沿岸部の都市間を飛行する。
(REGENT seagliders are a new maritime vehicle, combine the speed of an airplane with the low operating cost of a boat. It is all electric zero-emission vehicle operated over water and existing coastal facilities to carry people and cargo up to 180 miles distance at speed of 180 miles/hr between coastal city.)
図1:(REGENT Craft) 2024年9月25日、南部フロリダの「アーバンリンク・エア・モビリテイ(UrbanLink Air Mobility)」社は、レジェント製シーグライダーを27機発注した。同社は、2027年からマイアミ(Miami, Florida)とプエルトリコのサンホアン (San Juan, Puerto Rico)を結ぶ路線に使う。
図2:(REGENT Craft)2022年8月シーグライダーの4分の1の模型機が試験飛行に成功している。
レジェントが作るシーグライダーは、乗客12名乗りで速度180 mph、電力の再充電なしで180マイルの都市間を飛行できる。創業者」の一人でCEOのビリー・タルハイマー(Billy Thalheimer)氏は「アーバンリンクがシーグライダーの運航を始めれば、いまは毎日客船で往来している南フロリダとプエルトリコ間の旅行者に、高効率で快適な新しい輸送手段を提供できる。シーグライダーの需要が増えるにつれて新交通機関として認知されるようになり、人々の暮らしが一層向上して行くだろう。」と語っている。
シーグライダーは、海面上を数メートルの高さて飛び、小型プロペラ機より早い速度でボートの運航費用並みのコストで使える海上輸送機である。基本的には、翼の地面効果 (WIG= Wing-in-ground effect)を利用するが、電動モーターとプロペラ、ハイドロ・フォイル(hydrofoils /水中翼)、フライ・バイ・ワイヤ操縦システム(fly-by-wire systems)、など最新のテクノロジーを採用している。いずれも、波高をクリアして飛行し、安全運航を維持し、乗客の快適性を維持するのに必要な技術である。
胴体/艇体の下の前後に付くハイドロ・フォイル(hydrofoils /水中翼)は、波止場や港内を移動する低速時には水面下に沈む。離陸のための高速走行する時は水中翼として働き艇体を水面から浮上させ水の抵抗を減らす。そして巡航時には、水面上10 m以下の高度で主翼の”地面効果(ground-effect) で最大300 km/hr (180 mph)の速度で飛行する。
キャビンは、通常の航空機に比べ、レッグルームが広く、与圧がないので窓は広く、エンジンは電動モーターなので騒音が少なく、地面効果でスムースな乗り心地を得られる。
一般の飛行機で必要な可動部分が少ないので構造が簡単、材料はすべて耐塩害性能に優れた炭素繊維複合材を使うので、運航コスト・整備コストが少ない。
シーグライダーは、法規上は水上船舶に分類され、米国沿岸警備隊/U.S. Coast Guardから証明交付、安全基準、審査を受ける。シーグライダーの原型機は、ロードアイランド州南岸に面するナラガンセット湾(Narragansett Bay)での試験飛行の承認を取得済み。
シーグライダーは、現在ある沿岸部の施設、すなわち米国の都市沿岸に多数あるヨットハーバー施設、日本で言えば逗子マリーナや江ノ島ヨット・ハーバー等に、バッテリーの充電設備を設置するだけで、ほぼそのまま利用できる。充電設備は、増え続けるハイブリッドや電気自動車の需要にも対応できる。
シーグライダーは、2024年10月現在で600機を受注済み、総額90億ドルのバックログになる模様。主な発注企業は次の通り;
- ブリッタリー・フェリーズ(Brittary Ferries) /イギリス海峡最大のフェリー会社
- サザーン・エアウエイズ・エクスプレス(Southern Airways Express) /ニューイングランド、フロリダ、ハワイで運航する代表的な地域航空
- メサ・エアラインズ(Mesa Airlines) /米国最大の地域航空の一つで140機を運航中で年間1500万人を輸送
- オーシャン・フライヤー(Ocean Flyer) /ニュージランドの地域航空
- モクレレ・エアラインズ(Mokulele Airlines) / 1994年創立のハワイの地域航空、208EXグランド・キャラバン11機を運航中
- アーバンリンク・エア・モビリテイ(UrbanLink Air Mobility)/2024年3月フロリダに設立したばかりだが、南部フロリダを中心にエア・タキシー路線を展開中。今年5月にリリウム製7人乗りeVTOLジェット(デンソー製100 kwモーター装備)を20機、10月にエビエーション・エアクラフト製9人乗りAlice電動リージョナル機を10機、9月にレジェント製12人乗りシーグライダーを27機、11月にトラバース・エアロ製250 kg搭載の無人貨物機(ドローン)を40機、それぞれ発注している。
図3:(REGENT Craft)シーグライダーのコクピット。ボートの操縦室に似ているが、はるかに自動化されている。
図4:(REGENT Craft) 沿岸部の都市近郊にあるヨットハーバー/マリーナがほぼそのままシーグライダーの離発着場に使える。
図5:(REGENT Craft)レジェント・シーグライダーは「バイセロイ(Viceroy)」と呼ばれる。乗員2名と乗客12名または貨物1.6 tonを輸送可能。翼幅20 m、全長17.5 m、高さ4.7 m、最大離陸重量7 ton、最高速度290 km/hr、航続距離290 km。電動モーターは出力120 kwを12基装備する(メーカーは不明)。
図6:(REGENT Craft)ロードアイランド (Road Island)州にあるレジェントの工場に搬入されたシーグライダー試作1号機の胴体。2025年に初飛行、2026年か2027年に顧客エアラインに納入開始する予定。
レジェント・シーグライダーを支援する企業
シーグライダーの実現を期待して多くの企業がれ減とを支援している。
ロッキード・マーチン・ベンチャーキャピタル部門(Lockheed Martin’s Venture Capital Arm)
ピーター・テイール(Peter Thiel)が率いる「テイール財団 ( Thiel Foundation)」
放送・スポーツ界の雄マーク・キューバン・カンパニー(Mark Cuban Companies)
日本からは多数の企業が支援、出資、に参加している;―
- 日本航空は、同社の革新的ベンチャー投資部門[JAL Innovation Fund]が出資、および商品販売担当の[JALUX]が機体の販売代理店契約を締結、これらを支援するため本社部門が、シーグライダーの運航開始に向けた包括的協定を締結している(2023年10月6日)。
- レジェントは日本航空との包括的協定について次のような発表をした(REGENT News June 25, 2024)。
「日本ではシーグライダーに関する関心が、エアライン、船会社、旅行会社、貨物配送会社の間で高まっている。日本は人口の80 %が沿岸部に住んでいて、従来の航空・鉄道・道路の輸送機関を補完する新たな高速輸送としてシーグライダーの導入が期待されている。
- 日本最大の小荷物輸送企業「ヤマト運輸」は昨年シーグライダー開発に投資して、島嶼間の貨物輸送の改善を目標にしている。
- 世界最大の船会社の一つ「三井OSKライン」は、同社のベンチャー投資部門[MOL Switch LLC]経由で今年6月25日にシーグライダー開発に投資を実施、日本周辺の島嶼間輸送のみならず世界各地に散在する沿岸・島嶼区域で高速輸送の実現を進める。日本最大の旅行代理店業「H.I.S」は、[MOL Switch LLC]の投資に参加している。
図7:(REGENT Craft)シーグライダーは、日本の沿岸部全域で年間およそ2,500万人の人々に高速移動の便益を提供できる。これらの人たちは現在主に遅い旅客船で行き来している。
REGENT Craft社とは
ビリー・タルハイマー(Billy Thalheimer)/現CEOおよびマイク・クリンカー(Mike Klinker)/現CTOが共同で2020年末に設立したベンチャー企業。タルハイマー氏は、オーロラ・フライト・サイエンス社で有人電動航空機の開発責任者、MIT航空宇宙学科修士課程卒、小型機操縦免許を持つ。クリンカー氏は、シーグライダーの開発とソフトウエアの開発を担当、2022年にシーグライダー小型模型機の飛行試験に成功した。レジェントに参加する前は、MITリンカーン研究所、オーロラ・フライト・サイエンス社で各種実験航空機の設計、試験を担当。MIT航空宇宙学科修士過程卒、ここでフライト・コントロール・システム研究と複数システム統合研究を習得。ヘリコプター操縦の資格を持つ。
社名「レジェント・クラフト (REGENT Craft )、[Regional Electric Ground Effect Nautical Transport (地域航空用・電動式・地面効果利用・洋上輸送機)の頭文字をとった名前。
REGENTは、ロードアイランド州、北キングスタウン(North Kingstown, RI,)にある。海上交通の新しい交通機関である全電動のシーグライダーを開発している企業。従業員は約100名、多くはMITで訓練を受け、ボーイングの技術者だったエンジニアで占められる。
大手航空会社やフェリー運営会社を含む多数の企業から600機以上、金額にして90億ドル以上を受注している。資金面ではファウンダーズ・ファンド(Founders Fund)、日本航空、ロッキード・マーチンを含む多くの有力企業から9000万ドル以上の出資を得ている。
このうち、ファウンダーズ・ファンド(Founders Fund)は、2005年にサンフランシスコ( San Francisco, Calif.)に設立されたベンチャー企業専門の投資会社。これまでに120億ドルの投資を行ってきた。宇宙ロケット開発で世界一のスペースX、ソフト開発の大手で輸出企業のパレンテイア・テクノロジー、ソーシャル・ネットワークの大手のフェイスブック、など、いずれも「創業者を観る投資」を基本にして、それぞれの創業期に投資を行い、莫大な収益を得てきた。
終わりに
レジェント・シーグライダーの実現が予定通りに進むことを期待したい。これが実現れば、江ノ島や逗子のマリーナから大島、新島はもちろん、八丈島でも直ぐに行ける。期待したい。
―以上―
本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。
- REGENT unveils its Viceroy seaglider design April 14, 2023
- REGENT news May 28, 2024 “”What is a Seaglider? A high speed all-electric maritime vessel”
- REGENT September 25, 2024 “UrbanLink Air Mobility has ordered Seaglider for South Florida and Puerto Rico”
- REGEENT News June 25, 2024 “Blending tradition with innovation: seaglider opportunity in Japan”
- REGENT press release March 22, 2023 “Regent announces Strategic Investment form Lockheed Martin Ventures”
- REGNT News June 25, 2024 “ReGENT announces Strategic Investment forom Mitsui OSL Kines”
- エイチ・アイ・エスPR Times 20224-3-7 “空飛ぶ船電動シーグライダーを開発するREGENT社に出資“
- ヤマトホールデイングスKK 2023-3-29 “水面上を飛行する電動のシーグライダーを開発するRegent Craft Inc へ出資“
- 日本航空KK 2023-10-6 ”JALとRegent Craft、電動シーグライダーの社会実装に向けた提携開始“