2018-04-26(平成30年) 松尾芳郎
防衛省統合幕僚監部の発表「4月20日 中国海軍艦艇の動向について」によると、4月20日(金)午前10時半頃、佐世保基地第13護衛隊所属「さわぎり」、同第5護衛隊所属「あきずき」、及び那覇基地第5航空群所属P-3C哨戒機が、与那国島の南約350 kmの海域を東に進む中国艦隊を発見、監視、追尾した。
図1:(海上自衛隊)護衛艦「あきずき」艦番号DD-115は2012年就役、同型艦4隻の1番艦。基準排水量5,100 ton、満載排水量6,800 ton、Mk 41 VLS 32セル型(垂直発射装置)を備え、レーダーはFCS-3A多機能型で艦橋4面にアンテナが見える。対潜水艦用として新しいOQQ-22統合ソナー・システムを備える。全体的に装備の新型化し、強力な僚艦防空能力を持つ。
中国艦隊の構成は次の7隻。
クズネツオフ級空母「遼寧」艦番号16
ルーヤンIII(旅洋III)級ミサイル駆逐艦「合肥(Hefei)」艦番号154
ルーヤンII(旅洋II)級ミサイル駆逐艦「長春(Changchun)」艦番号150
ルーヤンII(旅洋II)級ミサイル駆逐艦「鄭州(Zhengzhou)」艦番号151
ルーヤンII(旅洋II)級ミサイル駆逐艦「済南(Jinan)」艦番号152
ジャンカイII(江凱II)級フリゲート「煙台(Yantai)」艦番号538
ジャンカイII(江凱II)級フリゲート「臨析(Linyi)」艦番号547
同日11時頃、同艦隊の空母「遼寧」から複数の艦載戦闘機「J-15」が離着艦訓練を行うのを確認した。
続いて公表された「4月21日 中国海軍艦艇の動向について」によると、同じ7隻からなる中国艦隊は、4月21日(土)午前7時頃、宮古島の東120 kmの海域を太平洋から北西に向け航行し宮古海峡を通過、東支那海に入ったのを確認した。
これを裏付けるニュースが中国軍からも発表された。中国軍の英字ニュース「China Military Online.com 2018-04-23」では「西太平洋上で空母演習を実施(Carrier leads exercise in west Pacific)」と題して、空母艦隊の動向を発表した。以下はその大要;—
中国海軍空母「遼寧」が率いる艦隊が20日と21日に、西太平洋上で初めての大規模な艦隊演習を実施した。「遼寧」、ミサイル駆逐艦数隻、ミサイル・フリゲート数隻、さらに航空機数十機が加わって、バシー海峡東側の海域で敵味方に分かれて戦闘演習を行なった。
「遼寧」と随伴する艦からなる機動部隊が攻撃側に、旅洋II級ミサイル駆逐艦「済南」、「長春」が迎撃側として対応した。
「遼寧」はこの1ヶ月間大変多忙で、中国東部の山東省にある青島基地を出港して、4月12日には海南島南部三亜沖で行われた中国海軍最大の観艦式に参加した。それから南支那海で、数次にわたる対空訓練、対艦訓練、対潜訓練、さらに対地攻撃訓練を実施した。
これらの訓練を通じて「遼寧」機動部隊の戦闘能力は著しく向上し、特にパイロットの夜間離発着の技量向上には素晴らしいものがあった。
さらに遼寧省大連の造船所で建造中だった2隻目の国産空母が完成し、間も無く試験航海を始める。この新空母は排水量50,000 tonで通常動力型、「遼寧」と同じく発艦用スキージャンプを備えている。新空母も同じく「J-15」戦闘機を始め各種航空機を数十機搭載する。
今回の「遼寧」を含む機動部隊の行動は、南支那海の領有権と台湾の武力統一を目指す中国政府の国際社会に対する威嚇に他ならない。台湾侵攻の場合は、それにつながる我国南西諸島へ侵攻も同時に行われるのは確実で、我国としては一層の防衛力強化が望まれる。
以下統幕公表の写真、中国軍発表写真等のうち、鮮明なものを選び掲載する。
図2:(統合幕僚監部とChina Military comの情報から作成)空母「遼寧」を含む艦隊の経路。4月はじめに青島を出港、海南島三亜沖の観艦式に参加、南支那海で訓練、4月20日、21日に与那国島南の海域で演習、宮古海峡を通過した。中国海軍の練度は日に日に向上し、将来は米海軍に比肩する水準にすることを目標にしている。
図3:(China Net)4月12日、中国海軍は空母「遼寧」を含む48隻の艦艇と航空機76機の規模で、これまでで最大の観艦式を海南島三亜沖で実施した。この観艦式は、実戦を模して習近平主席を含む全員が戦闘服を着用して行われた。これは数日前にフィリピン近海で米空母「ルーズベルト」がF-18戦闘機の離発着訓練をしたことに対抗するためと云う。
図4:(統合幕僚監部)ソ連で「ワリヤーグ」として1988年に進水して放置されていた未完成空母を1998年に入手、大連に回航して工事を再開、2012年に完成させ就役した。基準排水量53,000 ton、満載排水量67,500 ton、速力30 kt、搭載機数はJ-15戦闘機18機とヘリコプター若干とされる。
図5:(China Net)与那国島南方350 km付近の西太平洋上を航行する空母「遼寧」。飛行甲板にはJ-15戦闘機が見える。発艦は、カタパルトがないため勾配14度のスキージャンプ甲板を使う方式、着艦には角度7度のアングルド・デッキで行い、4条のアレステイング・ワイヤに引っ掛けて停止する。
図6:(統合幕僚監部)「旅洋型」駆逐艦は、「旅洋I型:広州級(052B型)」、「旅洋II型:蘭州級(052C型)」、「旅洋III型:昆明級(052D型)」に大別される。「旅洋I型」は試作で2隻のみ。「旅洋II型」は中国版イージス艦と呼ばれ僚艦防空能力を持つ、6連装回転式VLSを8基搭載し、6隻が建造された。
「旅洋III型」は最新モデル;— 対艦ミサイルを含む各種ミサイルに対応できるMk.41 VLSに似た垂直発射装置を、前部に32セル、後部に32セル、合計64セル備えている。電子装備は、艦橋4面に貼り付けられた346A型多機能レーダーを始め、戦闘システムや火器管制システムなどに新開発の装備が搭載されている。消息筋によると2018年初めまでに18隻が製造中で、うち13隻が就役済み。写真の「合肥」は3番艦で2015年から南海艦隊に所属中。満載排水量7,500 ton、速力29 kt、航続距離4,500 nmとされる。
図7:(統合幕僚監部)2004年に就役した「蘭州」級の3番艦「長春」で2013年就役。中国初の僚艦防空艦で、艦橋4面に中国製346型多機能レーダーを備える、探知距離は450 km。6セル型VLS6基を前部甲板、2基を後部甲板に備え、HQ-9A長射程対空ミサイルを収納している。HQ-9Aは射程6-120 km、射高30 km、速度マッハ6.0と言われる。対艦ミサイルはYJ-62型4連装発射機2基、ヘリ格納庫前方に装備している。YJ-62型は速度マッハ0.9、射程280 km。
図8:(統合幕僚監部)「鄭州」は「蘭州」級の4番艦で2013年末に就役、東海艦隊に所属している。
図9:(統合幕僚監部)「済南」は「蘭州」級の5番艦で2014年末に就役、東海艦隊に所属している。
図10:(統合幕僚監部)「江凱II」級フリゲートは「054A」型とも呼ばれ、試作フリゲート「江凱I」級を改良した艦で、満載排水量は4,000〜4,500 tonの大型艦である。速度28 kt、航続距離は3,800 kmに達する。前甲板にはMk.41に似た32セルのVLSを備え、HQ-16対空ミサイル(紅旗16)を収めている。HQ-16は、射程25〜42 km、射高17 km、速度マッハ4、特に超低空で飛来する目標への迎撃能力を重視したミサイル。この装備で「江凱II」級は僚艦防空能力を備えるフリゲートとなった。1番艦「舟山」2008年就役以来25隻が建造され、写真の「煙台」は9番艦、2011年の就役である。
図11:(統合幕僚監部)写真の「臨析」は13番艦、2012年就役である。
図12:(China Net)「遼寧」に着艦するJ-15戦闘機、尾部からアレステイング・フックが下がり、甲板上にはアレステイング・ワイヤが見える。[J-15]戦闘機は、ウクライナに放置されたロシア製SU-33の試作型「T-10K-3」を2001年頃入手、これを基にリバース・エンジニアリングで、瀋陽航空機と601研究所が開発した艦上戦闘機。2009年頃に初飛行、2013年から量産が始まったが、生産機数は20機を超えるに止まる。エンジンはロシア製AL-31F、アビオニクスは中国製「J-11B」戦闘機のそれをベースにしている。原型の「SU-33」では、スキージャンプ発艦の場合、最大離陸重量が通常の33 tonから30 tonに制限され、燃料と搭載兵装を減らす必要がある。
図13:(China Net) 「遼寧」艦上で「J-15」戦闘機にPL-12と思われる空対空ミサイルを搭載している様子。「J-15」には、空対空ミサイル「PL-12」を始め、対地攻撃用500 kg爆弾、対艦攻撃用YJ83Kミサイル、など各種兵装を8 tonまで積めるという。
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