「ホンダジェット」、好調な受注で月産6機体制へ


2018-05-15(平成30年) 松尾芳郎

 

2018年4月初めに米国航空宇宙学会[AIAA] (The American Institute of Aeronautics and Astronautics)は、「2018年度財団優秀賞(2018 Foundation Award for Excellence)」にホンダ航空機を選んだと発表した。この賞は、航空宇宙業界で比類のない立派な業績を上げた企業に贈られるもので、「ホンダジェット」が設計、開発、販売の分野で示したビジネスジェット機業界での実績を高く評価したものである。

授賞式は5月2日に首都ワシントンDCにあるロナルド・レーガン(Ronald Reagan) ビル&国際貿易センターで華やかに行われた。

席上ホンダ航空機社長でAIAA会員の藤野道格(みちまさ)氏から「AIAA 2018年度財団優秀賞を受賞するのは大変名誉なことであり、ホンダ航空機の従業員全員に代わって御礼申し上げる。権威あるAIAAからホンダジェットの開発に関わる評価を頂いたことは我々の誇りである」と感謝の意が述べられた。

「ホンダジェット」は、長期間にわたる研究、開発、試験の成果であり、ビジネス航空機の分野に新風をもたらした。主翼上面へのエンジン装着(OTWEM= over the wing engine mount) と云う空気力学上の革新的設計、新しい自然層流(NLF=natural laminar flow)理論の主翼および複合材で作る胴体の機首部分への適用、などに代表される新設計で、顧客に最高の価値を提供している。業界筋の調査では、2017年度では同クラスの機体では最も引渡し数が多かった。

AIAAの「年度財団優秀賞」の制度は1998年に創設されたもので、航空宇宙業界の各分野で世界的に貢献したグループや個人に贈られる。これまでに受賞した団体等には、“NASAラングレー研究センター”、“ボーイング787型旅客機“、

“ロッキード・マーチンF-35第5世代戦闘機”、“カリフォルニア工科大ジェット推進研究所”等が名を連ねている。

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図1:(Honda Aircraft)1997年に藤野道格氏により「ホンダジェット」計画が始動。2001年10月に米国ノースカロライナ州グリーンスボロに研究拠点を設立。2003年に実験機が初飛行。2014年に量産1号機が初飛行。2015年12月にFAAから型式証明を取得。自社開発の[HF120]エンジンを搭載、主翼上面へエンジン配置、層流翼型の採用、複合材製の胴体などの新技術で、性能面で同クラス他機を引き離している。

 

「ホンダジェット」について

「ホンダジェット」は同クラスの小型ジェットに比べ、最も早く、最も高空を飛び、最も静粛で、最も燃費効率の良い機体である。前述したが「ホンダジェット」には多くの革新的技術が組み込まれている。即ち、主翼上面へのエンジン装着(OTWEM)のお陰で空気力学的抵抗が減少し、性能と燃費が著しく改善された。また”OTWEM” 設計の採用で客室内騒音が低くなり、同時に地上での騒音レベルも低減されている。さらに後部胴体にエンジン取付け用構造が不要となったため、客室が広くなり手荷物も沢山搭載できるようになった。その上個室型ラバトリーも設置される。

競合する他の小型ジェットは、多くが金属製胴体を使い後部胴体側面にエンジンを取付ける方式を採っているのに対し、「ホンダジェット」のユニークさは際立っている。すなわち複合材製胴体にすることで軽くなり、表面の平滑さが保たれる。またエンジンの”OTWEM” 配置で、胴体内の利用可能な容積を拡張している。

エンジンはGE-ホンダ・エアロエンジン(GE-Honda Aero Engine) 社が開発した[HF120] 推力2,050 lbsを2基装備する。

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図2:(GE Honda Aero Engine)ホンダ独自開発のターボファン[HF118] を基本に「GE-Honda Aero Engines」が開発、製造する[HF120]エンジン。離陸推力は2,050lbs。

 

フライトデッキ(操縦席)は、最新のホンダ用ガーミン(Garmin) G3000型グラス・コクピットになっている。

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図3:(Honda Aircraft)ガーミン(Garmin)が開発したホンダ専用の[G3000]型アビオニクス。3個の14 inch液晶デイスプレイと2台のタッチスクリーン操作盤で構成され、パイロットが必要とする情報を理解し易い形で示す。

 

こうして「ホンダジェット」は、類い稀な性能、効率、そして価値を顧客に提供している。

世界的な路線網を持ち約260機のジェット旅客機を運用する全日空(ANA) は、このほど「ホンダ航空機」との間で「ホンダジェット」の世界的販売を支援する契約に関わる覚書を締結した。これで、北米およびヨーロッパにある同社の主要ハブ空港から目的地までのチャーター輸送に「ホンダジェット」を使うことが決まった。

ANAは総合商社「双日」と組み「ANA Business Jet」社を設立、2018年秋から「ホンダジェット」を使うサービスを開始する。最初はロスアンゼルス空港、続いてシカゴ空港、それからホノルルと順次サービス範囲を広げる予定だ。「ホンダ航空機」は、ANAのチャーター便計画を全面的に支援し、特に辺鄙なローカル空港での必要なサービスについて助言することになる。

ANAホールデイングスの片野沢真哉社長は次のように述べている;—「ホンダとの戦略的な提携は、ANAにとってはビジネスジェットを使うという新しい試みであり、日本発のビジネス顧客に、それぞれの目的地まで支障なく案内するサービスを提供するものである」。

一方ホンダの藤野社長は「ANAがホンダジェットを、同社旅客をハブ空港から目的のローカル空港まで輸送するのに「ホンダジェット」を採用してくれたことを誇りに思う。我々は期待に応え、高速で、効率よく、快適なサービスを提供する。またANAの協力で新しいビジネスジェットの市場が拡大することを期待している」と話している。

 

「ホンダジェット」の生産について

競合他社に比べ好調な受注状況を反映して「ホンダ航空機」では昨年の月産4機から今年(2018)には月産5機に、そして2019年末までには6機体制に生産を引き上げる。これは従業員の数を現在の1,700-1,800人(うち組立担当は600人の水準)に据え置いたまま、習熟度の向上で対処するという。

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図4:ノースカロライナ州グリーンスボロ空港隣接地にある「ホンダ航空機」の工場。月産最大6-7機を想定して建設された。

 

「ホンダジェット」はこれまで83機が顧客に引渡されているが、約8割が米国内である。今は米国外への販路を拡大中で米国内での割合は下がりつつかる。最近フランスと中国でチャーター運営会社から受注に成功した。

中国でのビジネスジェットの販売はこれまで大企業相手の大型機に限定されていた。これからは単価5億円程度の「ホンダジェット」クラスの小型機が富裕層を中心に増えると予想される。「ホンダ航空機」では2018年1月に中国甲州市白雲空港内に販売、サービス拠点「Honda China」を開設しここを中心として、香港、マカオを含む中国全土での販売を行うことになった。

フランスではエアタクシー・サービスを手掛ける「ウイジェット(Wijet)」社が最初の大型顧客となる。2018年2月に16機の確定注文の契約を行った。公示価格で総額7,800万ドル(約85億円)、引渡し開始は同年3月からで18ヶ月で完了する。

と言ったことで「ホンダジェット」の引渡しは、2016年年末に1号機を納入しで以来2017年中に43機の引渡しを終えている。これは直接の競合相手であるセスナ・サイテイションCitation) M2の39機、およびエンブラエル・フェノム(Phenom) 100の18機より多い。

「ホンダジェット」と「フェノム100」は共に離陸重量4.8 tonで同じ、「サイテイションM2は100 kg重いだけである。

比較

図5:競合する3機種の諸元比較表。

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図6:(Honda Aircraft)ホンダ航空機が市場に送り出した初のジェット機が「ホンダジェットHA-420」。このクラスでの引渡しが2017年に1位となったことは喜ばしいが、競合他社は他に多種類の機種を揃えているのであまり威張れない。

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図7:(Cessna Textron) セスナ・サイテイションM2の写真。セスナは双発ビジネスジェットを9機種も用意していて、大小合わせたビジネスジェット機の市場で圧倒的な強さを誇る。サイテイションM2はその中で最も小型の機体。

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図8:(Embraer) エンブラエル・フェノム100の写真。エンブラエルはフェノム100より大型6-10人乗りのフェノム300およびレガシー(Legacy)系列機を用意している。フェノム300は2015年から2017年までの3年間、軽量ビジネスジェット機売上で世界1になった。

 

「ホンダ航空機」について

「ホンダ航空機」は、米国ホンダ・モーターズが100%出資する会社で、2006年に米国東部ノースカロライナ(North Carolina)州中部にあるグリーンスボロ(Greensboro)に設立された。ここでホンダ・モーターズの創立者本田宗一郎氏が生涯抱いていた夢“飛行機の製造”への進出が開始されたのである。

 

—以上—

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

Honda Aircraft News 04. 02. 2018 “Honda Aircraft Company will receive the 2018 Amerikcan Institute of Aeronautics and Astoronautics Foundation Award for Excellence”

Aviation Week May 7-20“HondaJet Output Moving to Six Aircraft a Month”by Bradley Perrett

Aviation Week Com “Honda Receives AIAA Foundation Award for Excellence”by

TokyoExpress 2014-01-01 “ホンダジェット[HF120]エンジンの型式証明取得“

TokyoExpress 2016-06-12 “ホンダジェットHA-420の現状(その1)はじめに“

同(その2)採用した革新的技術

同(その3)GE-Honda HF 120エンジン

同(その4)パイロット・リポート