防衛省、新型電子戦情報収集機の開発に取り組む


2018-05-18(平成30年) 松尾芳郎

2018-05-21改定(図4説明の誤記を訂正)

 

川崎重工(KHI)製の新型輸送機C-2を電子戦情報収集機に改造した試作機が2018年2月6日に航空自衛隊岐阜基地で姿を現した。この試作機はいわゆるELINT/ SIGINT形式の機体である。機首のレドームが大きくなり、垂直尾翼頂部に小さめのフェアリング、前部および後部胴体の頂部、それに胴体側面に大型のフェアリングが付いている。

このC-2改造電子戦情報収集機は、現在空自が使用中のYS-11EBターボプロップ電子情報収集機の後継とされている。装備品の開発製造は2004年(平成16年)から2012年で実施、機体改修は川崎重工が担当して2013年(平成25年)開始し2017年度に完了している。現在は岐阜基地周辺で試験飛行中。防衛装備庁(ATLA= Acquisition, Technology and Logistic Agency)では「次期電波情報収集機」と呼んでいるが、「RC—2」あるいは「C-2EB」などの名前で2019年度までに4機程度を完成、配備する模様だ。

 

(注)ELINT「Electronic Intelligence」、SIGNT「Signal Intelligence」、COMINT 「Communications Intelligence」。いずれも敵の通信、電磁波、信号などの傍受を通じて、諜報活動をする機能をいう。

RC-2 (2)

図1:(Youtube) C-2輸送機を改造した次期電波情報収集機が初飛行に向かうところ。機首のレドームが大きくなり、前部胴体上部、後部胴体上部と側面、胴体尾部、垂直尾翼頂部に各種送受信アンテナを収めるドーム/フェアリングが設けられている。

C-2次期機上電波測定装置機

図2:(防衛装備庁)次期電波情報収集機の測定装置配置の概観。機内容積が大きいので多種多様の測定装置が搭載できる。自動化により少人数の操作員で効率的な情報処理ができる。C-2輸送機は最大離陸重量141 ton、巡航速度890 km/hrで12,000 mの高空を飛ぶ、航続距離は5,700 km。これに対しYS-11EBは離陸重量24 ton、海自のEP-3の最大離陸重量は56 ton、速度、巡航高度、航続距離のいずれの点でも大きな開きがある。

C-2初飛行

図3:(YouTube) 2018-02-06に岐阜基地で初飛行するC-2改造の電子戦情報収集機。

 

今回改修したC-2電子戦情報収集機はC-2輸送機の試作2号機。防衛省の平成17年度事業事後評価報告によると、本機は『高度に自動化したシステムを搭載し、敵が発するあらゆる情報とデータを収集・処理・伝送する。また、機首、胴体上面と側面、垂直尾翼頂部のフェアリング内に各種アンテナを配置し、遠距離から広周波帯信号を捕捉・遮断し、敵目標の方位を探知する能力を持つ』と記されている。

すなわち、本機は敵からの「電磁気信号の収集(collection of electromagnetic signals)」機能だけでなく、電子信号を妨害する「ジャミング(jamming)」機能を併せ持つ「多機能型電子戦機」と解釈できる。

搭載する電子機器システムは、防衛装備庁が三菱電気、東芝、などの協力を得て開発してきた「新電子戦システム」である。同システムには、各種変調方式に対応可能なソフトウエア受信技術、アンテナ配置を最適化し広帯域電波の受信を可能とする技術、低被探知化された敵の信号を短時間で検出する分析処理技術、などを含んでいる。

空自の電子偵察機はYS-11型6機、この内2機がYS-11EAとして電子作戦に、また4機がYS-11EBでELINT機として敵の水上艦、潜水艦からの電波信号、通信の情報収集などに使われている。

海上自衛隊では、P-3C対潜哨戒機が多数(100機前後)配備されているが、一部がEP-3電子偵察機(5機)とOP-3C画像情報収集機(5機)などに改造されている。これらは岩国基地第81航空隊に配備され、主に東支那海方面での中国海軍の活動に対し偵察任務を行なっている。

C-2輸送機は、2017年3月から就役、これまでに13機が発注済み、内10機程が完成、配備されている。将来は30機程度までの調達が予想されている。最大離陸重量141 ton、最大積載量32 ton(2.5G)、巡航速度890 km/hr @ 高度12,200m、航続距離5,700 km (貨物30 ton搭載時)。

空自YS-11EB

図4:(Fly Team/うめやしき氏撮影) 空自YS-11EB電子情報収集機。胴体上下に二つずつのフェアリングがある。巡航速度470 km/hr、最大離陸重量24 ton、乗員数不明、エンジンT64-IHI-10Jエンジン( 3,493hp、2基) 、航続距離2,200 km。小型のため搭載する電波測定装置類は限定されている。

main_ep-3

図5:(海上自衛隊) 海自EP-3 電子情報収集機。速力370 knot / 685 km/hr)、最大離陸重量56 ton、航続距離4,400 km、巡航高度8,600 m、乗員15名、エンジンT-56-IHI-14ターボプロップ4,910 hp x 4基。胴体上下にアンテナ類を入れたフェアリングがある。

 

アビエーション・ウイーク誌は5月11日の電子版で「日本が新しい電子戦情報収集機の取得を目指す(Japan Looking for Electronic-Intelligence Aircraft)」と題するBradley Perrett氏の記事を報じた。以下はその大要である。

 

防衛省は新しい情報収集と電子戦航空機の取得に関して空自用と海自用の2つの要求提案を業界に示している。注目されるのは三菱航空機が作るリージョナルジェット機MRJが有力候補の一つとされる点である。

海自の要件は情報収集(intelligence gathering)で、現在使用中のP-3C哨戒機改造のEP-3およびOP-3の後継機となる。

海自が使用中のP-3Cは、最新の川崎重工(KHI)製P-1哨戒機に更新中だが、KHIではこのP-1を新しい「電子戦情報収集機」の候補に推奨している。

しかし、最新型の電子戦情報機器は小型化され少人数で操作可能となっているので、強力なエンジンを備える大型ビジネスジェット機に搭載するのが今では世界的な趨勢となっている。KHI製P—1哨戒機は、4発ターボファン、全長38m、翼幅35.4 m、最大離陸重量79.7 ton、乗員13名、航続距離8,000 kmであるため、若干大きすぎる感が否めない。

日本には国産のビジネスジェットはないが、MRJは電子戦情報収集機として活用可能と考えられている。MRJの小型版MRJ70は大型ビジネスジェットとほぼ同じサイズで、2020年(平成32年)中頃には就航開始の予定なので、2022年度から運用開始を目指す海自用の新「電子戦情報収集機」の改造母機として好都合である。

MRJ70は、最高巡航高度11,900 m(39,000 ft)なので、大型ビジネスジェットほど高くは飛べないが、巡航高度8,600 mのP-3Cよりも高空を飛べる。高空を飛ぶことで微弱な信号を受信できる利点がある。MRJは、最近電子戦機として使われ始めたボンバルデイア機やガルフストリーム機より速度で劣る(MRJの速度はM 0.78 / 956 km/hr) が、速度685 km/hrのP-3Cよりも高速で飛べる。ただしMRJを軍用として使うには、電力を増やす必要がある。

海自では現在OP-3Cを5機、EP-3を5機使っている。OP-3Cには電子光学センサー(E/Oセンサー)が搭載され、またEP-3Cには通信情報を受信する各種アンテナが装備されている。

防衛装備庁は、できるだけ国産の装備品を多く使う「多機能型電子戦機(multifunction electronic-warfare aircraft)」の実現を目指し、国内メーカーに提案を求めている。

MRJ70

MRJ70 Spec

図6:(Mitsubishi Aircraft) 海自用新「電子戦情報収集機」に考えられている三菱航空機MRJ70型機。MRJ70 LR型が基本になると想定される。

 

日本国内には各種電子戦機器の開発、製造に経験のあるメーカーが多くあり、防衛装備庁はそれらの参加を期待している。電子戦機器の主契約の候補には前述のように東芝、三菱電気などがある。海自用MRJ70改造の「多機能型電子戦機」には、現在試験飛行中の空自用「C-2電子戦情報収集機」に搭載する電子機器と同じ機能で、さらに小型化された装置が使われることになりそうだ。

 

最後に、ビジネスジェットを改造して電子戦情報収集機とした英空軍の例を紹介しておこう。

B=R センチネル

図7:(Bombardier Raytheon)英国空軍が戦闘空域および対地監視機(airborne battlefield and ground surveillance aircraft)として採用しているレイセオン・センチネル(Raytheon Sentinel)は、ボンバルデイア・グローバル・エクスプレス(Bombardier Global Express)ビジネスジェットを母機として改造した「電子戦情報収集機」。英国空軍は2008年から導入、5機を保有している。

レイセオン・センチネルは、全長30.3 m , 最大離陸重量42.4 ton、巡航速度Mach 0.85 / 487 kt / 902 km/hr、航続距離9,250 km。

 

—以上—

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

Aviation Week Network 2018-05-11 “Japan Looking for Electronic Intelligence Aircraft” by Bradley Perrett

Defense News com. 2018/02/07 “Images reveal progresss on Japan’s C-2 Intelligence Gathering variant” by Mike Yeo

Above top Swcret Feb, 07, 2018 “ELINT/SIGNIT C-2 breaks cover in Japan”

防衛省平成17年度事後の事業評価 政策評価書一覧7番「将来電子測定器搭載システムの研究」

防衛装備庁技術シンポジウム2015 航空編