2021- 5- 5 (令和3年) 小林 哲也
脱炭素社会を目指す世界的な動きの中で、国際民間航空機構(ICAO;International Civil Aviation Organization)は2010年にカーボン・ニュートラル・グロース2020(CNG2020)を発表し、二酸化炭素(CO2)削減目標として2050年までに、燃料効率を毎年2%改善し、2020年以降、国際航空からのCO2排出を増さないことを掲げました。目標達成には、航空機の電動化が必須であり、大容量リチウム・イオン・バッテリーの開発が行われています。しかし、そのバッテリー技術だけでは、リージョナル航空機(50~100人乗り)クラスの航空機を飛ばすことは難しく、水素燃料電池や水素エンジンなど、水素エネルギーを使った航空機の実用化が必要となってきています。水素エネルギーを利用した航空機の開発は、かなり古くから行われてきていますので、その歴史と現状について纏めてみたいと思います。
1.航空機への水素エネルギーの利用形態
航空機への水素利用形態としては、水素燃料電池、水素タービン・エンジン、水素合成燃料の3つが考えられていますが、小型機には水素燃料電池、中型/大型の航空機については、水素を直接燃焼する水素タービン・エンジンや、燃料電池とのハイブリッド式がCO2削減効果を考慮すると現実的ではないかと考えられています。
- 水素燃料電池
水素燃料電池は、電動航空機(ジェネアビ用小型機、垂直離着陸機)やドローンの電源、大型航空機の補助動力装置(APU)や緊急用バッテリーとしての利用が研究されています(図-1参照)。なお、一部のドローンでは、水素燃料電池は、既に商用化され、エアバス社などは、民間航空機向けにパラレル・ハイブリッド機の電源として検討されています。さらに将来的には超電導推進システムへの適用も研究されています。CO2の削減効果としては75-90%と最も大きいものです。
図-1(IHIエアロスペース社資料) B737-800後部貨物室に搭載しIHIが補助動力用として開発中の燃料電池
参考までに燃料電池は、水の電気分解の逆の反応で電気を得る仕組みです。(図-2参照)
図-2 燃料電池の原理
現在開発されている燃料電池には、リン酸型、溶融炭酸塩型、固体酸化物型、アルカリ水溶液型、固体高分子型の 5種類があります。(表-1参照)
航空機に適用される燃料電池としては、プロトン交換膜(PEM;Proton Exchange Membrane)型固体高分子形(PEFC;Proton Exchange Membrane Fuel Cell)です。
表-1 燃料電池の種類
- 水素タービン・エンジン
水素タービン・エンジンは民間航空機や軍用機の推進機関として、既に1950年代末頃から研究がされていますが、未だ航空機用としては実用化には至っていません。従来の航空機用タービン・エンジンの燃焼器や燃料システムの改修が必要ですが、既に、最近川崎重工業が地上用発電用のタービンとして、水素タービン・エンジンを実用化しています(図-3参照)。CO2の削減効果は50-75%(エアバスでは55-60%)と見込まれています。
図-3 (KHI資料) 川崎重工が開発した水素ガス6割混合ガス地上用ガスタービン
- 水素合成燃料
水素ブレンドの合成燃料は、既存航空機用燃料の代替として研究されており、水を電気分解した水素(H2)を、触媒反応で二酸化炭素(CO2)と合成させた液体の炭化水素鎖(燃料)のことです。(図-4参照)
再生可能エネルギーを利用して生成し、CO2の削減効果は30-60%と3つの形態の中では最も小さいものです。
図-4 (NEDO資料) 二酸化炭素と水素から液体航空燃料(炭化水素)を合成する手法
2.水素エネルギー推進航空機開発の歴史
A. 初期の水素航空機の研究プロジェクト(1950年代末~1980年代末)
初期の水素航空機の代表的な研究プロジェクトとして、以下のものがあげられます。
(1) 米国航空諮問会議Martin B-57Bプロジェクト「Bee」:水素タービン
(水素とジェット燃料混合)
1957年初めに、当時の米国航空諮問会議ルイス飛行調査研究所(National Advisory Committee for Aeronautics Lewis Flight Research Institute)が実施。マーチン(Martin)B-57Bの左翼チップタンクに液体水素、右翼チップタンクに圧縮ヘリウムを貯蔵、ジェット燃料(JP4)と水素ガスの混合燃料を適用。ヘリウムは液体水素を強制的に左翼エンジンに熱交換器を介して供給するためのもので、気化させて水素燃料向けに改修されたエンジンに噴射されました。ジェット燃料では飛行できない高高度偵察機開発を目指したもので、従来機より3,000-4,500m高い飛行が可能であることを確認、液体水素製造施設も建設しました。しかし、このプロジェクトは水素エンジンの基礎的な研究プロジェクトで終わりました。(図-5参照)
図-5 改造されたマーチンB-57B(資料)
(注);米国航空諮問会議(NACA; National Advisory Committee for Aeronautics)は後に、米国航空宇宙局(NASA; National Aeronautics and Space Administration)に改編。
(2) ロッキード社/米国航空宇宙局による水素航空機研究:水素タービン(水素100%)
1970年代前半の石油危機から、将来の化石燃料の供給への危惧から、米国航空宇宙局(NASA)は1974年に水素航空機の研究を開始しました。研究は米国航空宇宙局(NASA)のラングレー研究センター(Langley Research Center)が中心となり、ロッキード社に研究委託がなされました。
1975年1月に発表された「長距離用亜音速航空機への水素燃料適用の研究;Study of the application of Hydrogen Fuel to Long-Range Subsonic Transport Aircraft」では、水素航空機の複数のコンフィギュレーションが検討され、水素タンクを機内に装備するインターナル型と、機外(主翼中央部)に装備するエクスターナル型が検討され、さらに複数の水素航空貨物機のコンフィギュレーションも検討されました。(図-6、-7参照)
図-6 インターナル型水素タンク 図-7 エクスターナル型水素タンク
さらに1978年7月に報告された「亜音速航空機の液体水素燃料システムの研究;Study of Fuel systems for LH2-fueled Subsonic Transport Aircraft」では、水素エンジン及び燃料システムのより詳細な研究が実施されています。当該プロジェクトは米国航空宇宙局(NASA)のラングレー研究センターとロッキード社が実施し、下記のメーカーが水素関連システムの開発に参加しています。
・ロッキード・ミサイル・宇宙カンパニー(Lockheed Missiles and Space Company, Inc)
:極低温液体水素タンクの断熱システム
・ギャレット・コーポレーション・エアーリサーチ部門(Garrett Corporation, AirResearch div.)
:液体水素ターボファン・エンジン、燃料制御システム、ポンプ等の設計
・ロックウェル・ロケットダイン部門(Rockwell, Rocketdyne div.)
:液体水素燃料供給システム、ブーストポンプの設計
ロッキード(Lockheed)社は、上記研究から、ロッキードL1011-500改造機での実証試験を1988年に計画しましたが、実際に改造及び実証試験は行われずに終わっています。(図-8、9参照)
図-8 L1011-500 改造機(想像図) 図-9 L1011-500改造機断面図
(3) ロッキード社/米国航空宇宙局の水素超音速旅客機検討:水素タービン
前記の亜音速の水素航空機と時期がやや前後し、米国航空宇宙局エイムズ研究センター(NASA Ames Research Center)は、1974年1月に「水素燃料仕様の最新超音速機技術研究最終報告書;Final Report Advanced Supersonic Technology Concept Study Hydrogen Fueled Configuration」を発表、この水素超音速機の研究もロッキード社が実施しています。この研究は、フェーズ1で最適コンフィギュレーション決定のためのデータ分析、フェーズ2では選定された1つのコンフィギュレーションの機体構造、極低温タンク、タンクの断熱システムの実現可能な基本設計がなされました。研究ではマッハ2.2とマッハ2.7の機体が研究されましたが、基本的にはマッハ2.7の機体を想定したもので、主な仕様は下記の通りです。(図-10参照)
・乗客数:234名
・巡航速度:マッハ2.7
・航続距離:約7,780km(4,200nm)
・液体水素格納:胴体340ft、直径12.9ft
(胴体)胴体1/3が2重デッキの客室キャビン、前後1/3が液体水素コンパートメント
・直接運航費:亜音速機の4倍強
・機体価格 :4億5,500万ドル
図-10 Lockheed水素エンジン超音速機想像図
(4) 旧ソ連による水素タービン航空機プロジェクト(ツポレフTu-155)
旧ソ連では1988年にツポレフTu154の中央第2エンジン(クズネツォフ社製NK-88エンジン)を、液体水素、液体天然ガス(Liquid Natural Gas; LNG)用エンジンに改造したツポレフTu-155を開発、同機は1988年4月15日に初飛行しています。旧ソ連がこの時点で、何故、水素航空機の開発に取り組んだか、その背景は明確ではありませんが、代替燃料機の開発で同国の技術力をアピールすることが一つの目的ではないかとも指摘されています。ただし、Tu-155は、炭素繊維強化型プラスチック(CFRP)製の液体水素タンクが取り付け部品を含めるとアルミ製よりも重くなったことで中止、後継のTu-156(クズネツォフ社製NK-89エンジン)プログラムも中止となりました。ツポレフでは当初、アルミニウム・リチウム合金でタンクを製造することも提案されたのですが、当時の旧ソ連の技術では実現できませんでした。なお、計画中止となるまで100フライト程度、飛行が実施されました。(図-11参照)
図-11 TU-155水素タービン・エンジン改造機
B . 2000年以降の水素航空機の研究
2000年代になり、米国では米国航空宇宙局(NASA)とボーイング(Boeing)社がジェネアビ機(単発機)で燃料電池を搭載した航空機の開発・試験や、胴体と翼部分が一体となったブレンデッド・ウィング・ボディー(Blended Wing Body; BWB)機への燃料電池の適用研究などを行っています。
(1) 米国航空宇宙局における水素航空機関連の取組み
2000年、米国航空宇宙局(NASA)はラングレー研究センターに、革新的航空宇宙システム(Revolutionary Aerospace System)の概念と技術評価を推進することを求め、革新的航空宇宙システムコンセプト「ラスク」(RASC:Revolutionary Aerospace Systems Concepts)プロジェクトを立ち上げました。「ラスク」プロジェクトは将来の革新的システムに関する多数のプログラムから構成されていましたが、2001年の予算で「クワイエット・グリーン・トランスポート」(QGT:Quiet Green Transport)プロジェクトを開始しました。当該プロジェクトは航空機排出ガス、騒音の低減と将来実現性が高い技術を評価、水素利用推進システムや燃料電池の適用が検討されましたが、システムそのものよりも環境影響評価が中心でした。
- 「クワイエット・グリーン・トランスポート」(QGT) における「コンセプトA」機
(液体水素適用)
水素タービン・プロジェクトでは「コンセプトA」と呼ばれるストラットで主翼を支えられた形態の航空機(strut-braced wing configuration)コンセプトがあり、この「コンセプトA」には液体水素の適用が、同コンセプト機の実現にあたりキーとなる技術として検討されました。2002年~2004年にかけて実施され、成果は「騒音及び排ガス低減を目的とした翼上水素燃料エンジン装着機のコンセプト評価;Evaluation of an Aircraft Concept With Over-Wing, Hydrogen-Fueled Engines for Reduced Noise and Emission」にとりまとめられました。なお、「コンセプトA」機のベースラインの仕様は図-12のとおりです。
液体水素は極低温タンク(温度が-253度、ケロシンの4倍の容量)に収め、エンジンはターボファン・エンジンを改修した水素タービンで、二酸化炭素(CO2)と一酸化窒素(NOx)の低減及び、水の排出による飛行機雲(コントレール;Contrail)の抑制を図るとしています。
図-12 ストラットで主翼を支えられた形態の「コンセプトA」機の仕様
- ブレンデッド・ウィング・ボディー(BWB)機「コンセプト B」への燃料電池の適用研究
2004年に排出ガス低減・騒音低減を目的に、ブレンデッド・ウィング・ボディー(BWB)機(コンセプトB)への燃料電池適用の研究を実施しています。
当該研究は米国航空宇宙局ラングレー研究センター(Langley Research Center)と、同グレン研究センター(Glenn Research Center)の共同研究で実施、コンセプトと排出ガス、騒音など環境負荷低減効果が研究されました。
なお、米国宇宙航空局では航空機の他、宇宙関連で多くの燃料電池の研究を実施しています。「コンセプトB」機のベースラインと仕様を図⁻13に示します。
図-13 ブレンデッド・ウィング・ボディー(BWB)「コンセプトB」機の仕様
- 燃料電池推進システム機(Fuel cell E-plane)
2001年~2005年にかけて米国航空宇宙局の予算(40万ドル)で実施された燃料電池航空機の開発プログラムです。米国航空宇宙局グレン研究センター(Glenn Research Center)が中心となり、UQMテクノロジー社(UQM Technologies, Inc)、アメリカン・チリ・エアクラフト社(American Ghiles Aircraft)、ジナー・エレクトロケミカル・システムズ社(Giner Electrochemical Systems)、サテコン・テクノロジー・コーポレーション社(Satcon Technology Corp)、ダイヤモンド・エアクラフト社(Diamond Aircraft)、アナリティック・エネルギー・システムズ社(Analytic Energy Systems)、ロックウッド・アビエーション社(Lockwood Aviation)、リンテック社(Lynntech)、ウオーセスター・ポリテクニック・インシティテュート&フロリダイン・シティテュート・テクノロジー社(Worcester Polytechnic Institute and Florida Institute of Technology)、ファステック/ATP社(FASTec/ATP) などが参加。 機体はダイン・エアロ社製MCR01キットプレーンを使用し、ロータックス912(Rotax912)エンジンの代わりにUQMテクノロジー社製モデルSR286 モータ(ブラシレス永久磁石モータ、定格出力12kW)を搭載。電源として燃料電池(PEMFC;固体高分子形)とバッテリーの双方を装備、パワー・マネジメント&ディストリビューション(PMAD; Power Management And Distribution)により電力を制御、モータ及びプロペラ(回転数 2,550rpm)を駆動するとともに、その他機体装備の補助電源の役割も果たしました。液体水素タンクにはコンポジット製(5,000psi)を使用し、機体は時速約139km、高度約 1,000mで実証飛行を実施しました。(図-14参照)
図-14 燃料電池推進システム機(Fuel cell E-plane)コンセプト
(2) ボーイング(Boeing)社の取り組み:水素燃料電池推進システム・デモンストレータ機
ボーイングは2000年代に複数の燃料電池の研究開発プロジェクトを実施しています。ただし、これらは旅客機等の装備システム向け電源としての利用可能性を評価することを目的としたもので、燃料電池を利用した電動推進システムの開発を目指したものではありませんでした。2003~2005年には、旅客機への燃料電池の適用可能性検討のために、PEM型燃料電池(英国、Intelligent Energy Ltd製)を搭載した小型機を開発しました。プロジェクトはボーイング・ファントム・ワークス(Boeing Phantom Works)が実施、スペイン・マドリッドにあるボーイング・リサーチ&テクノロジー・ヨーロッパ社(Boeing Research & Technology Europe;BR&TE)が、オーストリアのダイヤモンドエアクラフトインダストリー(Diamond Aircraft Industries)社製の「スーパー・ディモナ」(Super Dimona ;2人乗り)をベースに開発したものです。2004年3月に初飛行、時速約100kmで高度約1,000mを約20分飛行、巡航時には20kW、離陸時には45kWの出力を要しました。
ただし、最終的にBoeingは、大型旅客機への燃料電池の適用は現実的ではないと結論。2012年に前述のIHIが開発した再生型燃料電池を737-800のエコ・デモンストレータ(eco-Demonstrator)機に搭載して実証研究を実施しました。又、2016年には全電動コミュータ機向けの電源として固体酸化物形燃料電池の研究開発を行っています。ただし、いずれも航空機装備システム向けの電源としての活用で、電動推進システムとしての活用ではありませんでした。(図-15参照)
図-15 ボーイング社水素燃料電池推進システム・デモンストレータ機
3. 水素エネルギー推進航空機開発の現状
最近の水素エネルギー推進航空機開発では、米国より欧州の方が進んでいると思われるので、その欧州での現状を紹介します。
A. 欧州におけるモジューラ・ハイブリッド開発プラットフォーム:燃料電池(PEM)
エアバス社(Airbus)とドイツ航空研究所(DLR)は、2008年9月にモジューラ・ハイブリッド開発プラットフォーム、「アンタレスDLR-H2」プロジェクト(Antares DLR-H2 Project)を立ち上げ、ZSW社、バラード・パワー・システムズ社(Ballard Power Systems)、ダイムラー・ベンツ社(Daimler Benz)と共同で、10kW、600Wh/kgの燃料電池を開発(低温型PEM、高圧水素貯蔵容器を含み、燃料電池効率は50%)。高圧水素貯蔵容器は350bar、水素エネルギー密度は33kW/kg、圧力容器内エネルギー密度1.65kW/kg、重量比は燃料電池:水素貯蔵=1対3となっています。(図-16参照)
図-16 アンタレスDLR-H2想像図(DLR提供)
更に、ドイツ航空研究所は2016年、スロベニアのピピストレル社(Pipistrel)のトーラス(Taurus)G-4機を改造したHY-4燃料電池航空機(PEMFC形燃料電池使用)を開発、試験初飛行は2016年9月29日で、将来的には最大40席までの電気航空機に適用するとしています。(図-17参照)
HY-4の基本仕様は以下のとおりです。
・全長:7.4m ・全幅:21.36m ・座席数:4席
・空虚重量:630㎏ ・全備重量:約1.100㎏ 最大重量:1,500㎏
・航続距離:750-1,500㎞ ・最大速度:200km/h ・巡航速度:165㎞/h
・推進出力:80kw ・燃料電池出力:48kW(12kW×4) (+リチウムイオン電池搭載)
・巡航時推進出力:26kW
・燃料電池:ハイドロジェニックス(Hydrogenics)社製
重量279㎏ ・FCスタック合計重量:100kg(4スタック)
高圧水素タンク重量:170kg(2本) 水素合計貯蔵量:9kg
図-17 ピピストレル HY-4水素燃料電池推進航空機
- 欧州フレームワーク・プロジェクト・ホライズン2020(EU Horizon2020)
2018年からヨーロッパ連合(EU)の「ホライズン2020」のハイブリッド電動推進技術に対するモデュラーアプローチ「通称MAHEPA: Modular Approach to Hybrid Electric Propulsion Architecture」で、新たなハイブリッド推進システムの開発、飛行実証等を実施しています。メンバーは、ドイツ航空研究所(DLR)、H2フライ社(H2FLY)、ピピストレル社(Pipistrel)、オランダのウルム大学(University of Ulm)等で、HY-4の試験では2時間で30回の離陸を実施。従来のHY-4との大きな違いは、高圧圧縮水素ガスに代わり液体水素を適用している点です。なお、モータは120kWで、時速200km。2020年12月、MAHEPAメンバーはHY-4の開発状況を受けて、今後10年程度で40席クラス、航続距離2,000kmの水素燃料電池を搭載した航空機の開発は可能との見解を示しています。
(1) ピピストレル(Pipistrel)「ミニライナー;Miniliner」 19席 水素燃料電池推進システム機」
前記の「MAHEPA」を受けて、2021年2月、Pipistrel が、19席 水素燃料電池推進システム機「ミニライナー;Miniliner」の開発計画を発表。(図-18参照)
・最大離陸重量:8,500-9,000kg(18,700-19,800lb)
・離陸距離: 800m(2,620ft)※欧州の空港の約8割で運用可能]
・航続距離:300-400km(160-215nm)
液体水素タンクを装備することで約1,852km(1,000nm)の飛行が可能
・運航コスト:既存の航空機よりも座席当たり4割低減
・開発計画:初飛行が2028年、就航は2030年~2031年を予定
図-18 ピピストレル「ミニライナー」想像図(ピピストレル社提供)
(2) ドイツ航空研究所/MTUエアロ・エンジン社 水素燃料電池推進システム機
ドイツ航空研究所(DLR)、MTUエアロ・エンジン(MTU Aero Engines)社は、2020年8月5日、ドルニエ228(Do228)を改造した燃料電池推進システム機の開発で覚書を締結。ドルニエ228の推進システムの一つを500kWモータに換装、水素燃料電池を使用。ドイツ航空研究所では水素燃料電池の推進システムは、将来のリージョナル機、短・中距離向けの航空機に適しており、今後の電動・ハイブリッド機の開発に寄与するとしています。ドイツ航空研究所が、飛行試験、実証機の提供・運用、水素燃料電池推進システムのインテグレーション及び認証取得を担当、MTUエアロ・エンジン社は水素燃料電池推進システムを開発。現在、2026年に実証機飛行を計画しています。(図-19参照)
図-19 ドルニエ228水素燃料電池推進システム機
(3) エアバス・ゼロ・エミッション(Airbus Zero-Emission)水素エネルギー推進航空機
2020年9月にAirbusが発表したプログラムで、2035年までのEISターゲット、3種の水素航空機コンセプトを発表。(図-20参照)
- ターボファン小型機
・座席数:120-200席 ・航続距離: 2,000nm以上(約3,700km)
・巡航速度:Mach 0.78 ※A320neoの航続距離は3,400nm
・水素ガスタービン
・後部圧力隔壁後ろに液体水素タンク配置(機体全長が長くなる)
- ターボプロップ機
・座席数:最大100席 ・航続距離: 1,000nm以上(約1,850km)
・水素ガスタービン ・液体水素タンク(スタンドアローン式のホッド)
・電動機、燃料電池、液体水素タンク、冷却システム、電子機器などから構成
- BWB機
・座席数:最大200席
・水素ガスタービン ・液体水素タンクの配置場所は複数オプションあり
図-20 エアバス・ゼロ・エミッション水素エネルギー推進航空機
ー以上ー
(参考資料)
① IHIエアロスペース社資料;737₋800 eco-demonstrator用燃料電池
② 川崎重工資料;地上用水素タービン発電機
③ NASA Report「Martin B-57 SF-1 System」
④ NASA Report「Study of the application of Hydrogen Fuel to Long-Range Subsonic Transport Aircraft」
⑤ NASA Report「Study of Fuel systems for LH2-fueled Subsonic Transport Aircraft」
⑥ NASA Report「Advanced Supersonic Technology Concept Study Hydrogen Fueled Configuration」
⑦ AMC’S Hydrogen Future: Sustainable Air Mobility, Department of the Air Force Air University, Air Force Institute of Technology, 2009/6
⑧ NASA Report「Evaluation of an Aircraft Concept With Over-Wing Hydrogen-Fueled Engines for Reduced Noise and Emission」
⑨ Pipistrel社資料;EU MAHEPA Project「HY-4」
⑩ DLR Report「DLR and MTU Aero Engines study fuel cell propulsion system for aviation」
⑪ Flightglobal News 「Mid-2030s zero-emission aircraft horizon ‘credible’: Airbus chief」31stMar.2021