新型コロナは駆逐できない。うまくコントロールしながら付き合っていくべきだ


2021-05-06(令和3年)木村良一(ジャーナリスト、元産経新聞論説委員)

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図:(Yomiuri. online)新型コロナ・ウイルス「N501Y]はウイルス表面のスパイク(突起)先端の分子1個が変化している(英国エデインバラ大学の研究)。英国医療当局によると、「N501Y」は従来のものに比べ感染力が強く1.7倍になり得ると言う。

 

■イギリス由来の変異ウイルス「N501Y」に入れ替わる

3回目の緊急事態宣言が4月25日に出された。期間はGWを挟んだ5月11日までで、感染が急拡大している東京、大阪、京都、兵庫の4都府県で人の流れを減らし、第4波ともいわれる流行を抑え込もうというわけだ。

感染を急拡大させている原因は変異ウイルスだ。主流はイギリス由来の「N501Y」。ジーンズの人気モデルを連想してしまうが、ウイルス表面のスパイク(突起)に存在する501番目のアミノ酸(タンパク質の構成物質)が既存ウイルスのN(アスパラギン)からY(チロシン)に置き換わっていることからこの呼び名が付いている。

人の細胞に取り付くスパイク部分が変異したことで、感染力が強く、発症から重症化までのスピードも速いといわれる。若年層でも重症化が指摘されている。すでに日本各地に広がり、5月中には既存のウイルスを追い出し、このN501Yに入れ替わるという。

N501Yのほか、484番目のE(グルタミン酸)がK(リシン)に変化した南アフリカやブラジル由来の「E484K」という変異ウイルスも日本国内で見つかっている。この変異ウイルスは人の免疫に作用してワクチンの効き目を低下させる危険性がある。

 

■最終的には「風邪ウイルス」になっていく

私たちは変異する新型コロナにどう対応していけばいいのだろうか。この問題を考える前に新型コロナ以外のコロナウイルスが現在どうなっているのかについて説明する。

人に感染するコロナウイルスには分かっているだけで計7種類ある。新型コロナ、SARS(サーズ)、MERS(マーズ)の3種類とそれ以外の4種類で、4種類は通常の風邪の病原体として私たちの身の回りに存在している。私たちはこの4種類に感染して咳をしたり、発熱したりする。ときには肺炎を引き起こすこともあるが、多くは免疫(抵抗力)の働きで治る。4種類のコロナウイルスは人間の世界に定着し、人間と共存している。

コロナウイルスのようなRNAウイルスには変異が付きものだ。新型コロナは世界の至る所で様々な変異を繰り返し、環境に適合したものが生き残り、適合しないものは死滅する。自然淘汰され、より人に感染しやすくなったものが子孫を増やしていく。病原性(毒性)の方は、人に感染しやすくなればなるほど弱まるといわれる。病原性が強いと人の世界に残存するのが難いからだ。

今年の2月号の「メッセージ@pen」でも書いたが、新型コロナは変異を繰り返しながら人間界に定着し、最終的には4種類のコロナウイルスと同じような「風邪ウイルス」になっていく、と私は考えている。

 

■SARSはその症状がはっきりしていたから駆逐ができた

新型コロナはSARSのような駆逐や制圧は不可能だろう。SARS は2002年から翌年にかけ、東南アジアを中心にアウトブレイク(地域的流行)した。感染すると、急に発熱して咳き込み、呼吸が苦しくなって重い肺炎を引き起こすなどはっきりした症状が出た。発症して初めて他人に感染した。

症状が明らかな分、患者は見つけやすく、患者を一定の期間隔離して病原体のウイルスを制圧することができた。

SARSは8096人の感染者を出し、うち774人が死亡したものの(致死率9・6%)、パンデミック(地球規模の流行)が食い止められ、人間界から忽然とその姿を消した。

ちなみにSARSという呼び名はその症状を示す「重症急性呼吸器症候群」(Severe Acute Respiratory Syndrome)から取られている。2012年からサウジアラビヤやアラブ首長国連邦などで感染を繰り返しているMERSの方は、流行地域を示す「中東呼吸器症候群」((Middle East Respiratory Syndrome)から取られている。MERSは致死率が35%と高く、症状がはっきり出るものの、ウイルスの宿主がヒトコブラクダとみられる人畜共通感染症で、ウイルスが人とラクダの間を行ったり来たりしているために駆逐が難しい。

 

■正体は「格差の感染症」「環境のウイルス」だ

新型コロナの病原体も同じコロナウイルスだが、性質や特性はまた異なる。不顕性感染の無症状者や通常の風邪程度の軽症者が8割を占め、若年層にその傾向が強い。その分、症状から患者を特定することが難しく、患者・感染者の隔離が思うように進まない。しかも発症前から他人に感染する。それゆえ、新型コロナはあっと言う間にパンデミック(2020年3月11日、WHOが宣言)を引き起こしてしまった。

若者が重症化しにくいという性質に加え、80%の感染者は他人に感染させていないという特性や、アジアで感染が少なく、欧米で感染が拡大したという特徴もある。新型コロナは「格差の感染症」なのだ。さらに換気に弱く、3密(密集・密接・密閉)という環境下で感染が強まるという「環境のウイルス」の特性も合わせ持つ。こうした性質や特性は変異を重ねても変わらないだろう。

こんな難しい新型コロナウイルスとどう付き合っていけばいいのか。短期的には、ワクチンが多くの国民に行き渡って社会に集団免疫ができ上るまで不要不急の外出は避けたい。3密を回避し、手洗いやマスクの着用を励行しながら規則正しい健康的な生活を続けることも大切だ。

感染拡大を食止める労を惜しんではならない。拡大が続いてオーバーシュート(感染爆発)を引き起こすと、多くの健康弱者が犠牲になる。感染の山のピークをできる限り低く抑え込んで裾野を広げるべきだ。

長期的にはどうすべきか。変異に対応した有効性と安全性の高いワクチンや特効薬を開発・製造し、これらを使って感染や流行をうまくコントロールしながら新型コロナと共存していくことを考えるべきである。決して新型コロナと戦おうなどと考えてはならない。大半の感染症は駆逐も制圧も難しい。感染症とはうまく付き合っていくことが肝要なのである。

 

―以上―

※慶大旧新聞研究所OB会によるWebマガジン「メッセージ@pen」の3月号(下記URL)から転載しました。

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