令和4年3月、我国周辺における中露両軍の動向と我国/同盟諸国の対応


2022-4-12 (令和4年) 松尾芳郎

令和4年3月、我国周辺における中露両軍の活動と、我国および同盟諸国の動きに関し、それぞれの公的部門等から多くの発表があった。以下にその項目と内容を紹介する。注目すべきニュースは次の通り;

1. ロシア海軍、北海道周辺で活発な動き:

TokyoExpress 2022-03-22 “ロシア、北海道周辺で軍事力を強化、北海道侵攻を狙う” で記載済み

2. グアム島北方海空域で日米両軍が実戦演習

海自、陸自、米海軍、米海兵隊はグアム北方の洋上にある射爆場で実戦を模した島嶼奪回の演習を実施した。

3. 南シナ海で日米豪海軍艦艇の共同訓

南シナ海で航行の自由を守る作戦の一環として3カ国海軍が共同訓練を実施した。

4. 米空母、黄海で北朝鮮ICBM発射に警告する演習を実施

北朝鮮によるICBMの発射実験が著増することに警告する意味で、米空母は黄海に進出、示威演習を行なった。

(The military maneuvers by Russo-Chinese forces around Japan are increasing ever. Against the threat, Japan and allies move to take a farther counter measure. Following four were noteworthy in March ;-

  1. Russian navy conducted active maneuvers around Hokkaido as described in “TokyoExpreess 2022-03-22”.
  2. Japan’s Navy and Amphibious Rapid Deployment Brigade together with U.S. Navy and U.S .31st Marine Expeditionary Unit conclude Bilateral Advanced Warfare Training (BAWT) at the Farallon de Medinilla range in the U.S. Marianas Islands. 
  3. U.S. Navy guided missile destroyer USS Momsen joined JMSDF destroyer Yudachi and Australian HMAS Arunta in the South China Sea, conducted
  4.  multinational training, to promote “navigation freedom in support of a free and open Indo-Pacific”.
  5. North Korea has increased the pace and scale of its ICBM launches since last fall. The U.S. strongly condemns them and conducted a carrier based air demonstration in international airspace in the Yellow Sea.)

以下に詳細を述べる。

令和4年3月統合幕僚監部発表

  • 3月11日発表 ロシア海軍艦艇10隻が太平洋から津軽海峡を通過、日本海へ

本件はTokyoExpress 2022-03-22 “ロシア、北海道周辺で軍事力を強化、北海道侵攻を狙う” で記載済みなので簡単に紹介する。

3月10日午前2時、北海道襟裳岬の南を西に向かう艦隊を発見、その後艦隊は津軽海峡を通過日本海に入った。艦隊はウダロイI級駆逐艦を先頭に最新のステレグシチー級フリゲート4隻、グリシャV級フリゲート2隻、それに兵器輸送艦1隻を含む。

図1:(統合幕僚監部)「アドミラル・パンテレーエフ(548)」/1991年就役。ウダロイI級駆逐艦は太平洋艦隊に4隻と北方艦隊に4隻配備されている。ウダロイI級は満載排水量8,500 ton、全長163.5 m、速力最大29.5 kt。兵装はAK-100 100 mm単装砲2門、AK-630 30 mm CIWS x 4基、3K95 キンジャール短SAM 8連装VLS x 8基など。

  • 3月14日発表 ロシア海軍艦艇6隻がオホーツク海から宗谷海峡経由、日本海へ

TokyoExpress 2022-03-22 “ロシア、北海道周辺で軍事力を強化、北海道侵攻を狙う” で記載済みなので簡単に紹介する

ロシア海軍情報供給部(2022/03/15)によると、オホーツク海で演習を終了した太平洋艦隊の「2番隊」6隻は、オホーツク海の氷原を進み、宗谷海峡を経由してウラジオストク軍港に帰投した。氷原通過に際して砕氷船「カピタン・フレブニコフ」が先導した。

図2(ロシア海軍情報供給部)オホーツク海の氷原を先導する砕氷船「カピタン・フレブニコフ」

図3:(ロシア海軍情報供給部)氷原を進むウダロイI級駆逐艦「マルシャル・シャーポシ二コフ(543)」

  • 3月16日発表 中国軍偵察型無人機1機が東シナ海で我国防空識別圏に侵入

3月16日午後、中国の無人機1機が、沖縄本島西の東シナ海で我国防空識別圏(ADIZ)に侵入したため、航空自衛隊南西航空方面隊・那覇基地から戦闘機が緊急発進、領空侵犯を防いだ。この無人機が我国近辺に出現したのは今回が初めて。

図4:(統合幕僚監部)中国軍偵察無人機BZK-007は翼幅11.3 m、全長6 m、巡航速度230 km/hr、離陸重量700 kg、エンジンはRotax 912S出力100 hp装備、小型爆弾・ミサイルを搭載可能。航続時間は16時間と長い。

図5:中国軍偵察無人機BZK-007は中国陸軍が運用している。写真は珠海航空ショーで撮影されたものらしい。

  • 3月16日発表 ロシア海軍戦車揚陸艦4隻が太平洋から津軽海峡経由、日本海へ

TokyoExpress 2022-03-22 “ロシア、北海道周辺で軍事力を強化、北海道侵攻を狙う” で報告済みなので簡単に紹介する。

ロシア海軍情報供給部(2022/03/17)によると、この4隻は次の通り。

アリゲーターIV級戦車揚陸艦(081)「ニコライ・ビルコフ」1974年就役

ロプチャーI級戦車揚陸艦(066)「オスラービア」1981年就役

ロプチャーI級戦車揚陸艦(055)「アドミラル・ネベリスコイ」1982年就役

ロプチャーII級戦車揚陸艦(077)「ペレスベート」1991年就役

これは、ロシア太平洋艦隊所属のカムチャツカ半島駐留第40独立海軍歩兵旅団から1,500名の兵員をウクライナ戦線に派遣するための航行。4隻はウラジオストクで車両・兵員を陸揚げ、ウクライナ侵攻作戦に参加すべく移動したと思われる。

  • 3月22日および3月30日発表 ロシア海軍情報収集艦1隻が日本海から対馬海峡経由東シナ海へ、その後3月29日には再び対馬海峡経由で日本海へ戻る

図6:(統合幕僚監部)ヴィシュニヤ級情報収集艦は1986年からポーランドの造船所で建造され7隻が就役中、うち2隻が太平洋艦隊に配備。満載排水量3,400 ton、速力17 kt。

  • 3月25日発表 ロシア海軍艦艇1隻が日本海から対馬海峡経由東シナ海へ

3月11日発表の日本海に入った10隻のうちの1隻

図7:(統合幕僚監部)ロシアは「ウダロイI級駆逐艦」を「大型対潜艦」と呼ぶ。

図8:(ロシア海軍情報供給部)艦番号「548・アドミラル・バレンテーエフ」は3月30日に東シナ海で艦載ヘリコプターの離発着訓練と潜水艦捜索訓練を行なった。

  • 3月29日発表 中国海軍艦艇2隻が東シナ海から対馬海峡経由日本海へ

3月28日昼、長崎県五島列島の西170 km の海域および同じく330 kmの海域を北東に進むルーヤンIII級ミサイル駆逐艦およびジャンカイII級フリゲート各1隻を発見、これらはいずれも対馬海峡を挟む形で通過し日本海に入った。

図9:(統合幕僚監部)

図10:(統合幕僚監部)

令和4年3月海上幕僚監部

  • 3月4日発表 グアム北方海空域で陸自、米海軍、米海兵隊と共同訓練

2月28日から3月4日まで、関東南方からグアム島北方の海空域で、自衛隊からは海自護衛艦「しらぬい/DD-120」およびヘリ空母「ひゅうが/DDG-181」と陸自水陸機動団が参加。そして米海軍第7艦隊所属の第15駆逐艦隊のミサイル駆逐艦「バリー(USS Barry/DDG-52)」、「ミリウス (USS Milius/DDG-69」、「ヒギンズ(USS Higgins (DDG-76 」、「デユーイ (USS Dewey/DDG-105 」および同貨物弾薬補給艦「リチャード・E・バード」、[米海兵隊第3海兵機動展開部隊・第5航空艦砲連絡中隊 (III Marine Expeditionary Force’s 5th Anglico)が参加して行なわれた。訓練項目は対地射撃、対水上戦など。

米第7艦隊ニュース(march 3, 2022)によると、本演習は「相互高度戦闘訓練/BAWT =Bilateral Advanced Warfare Training」と名付けられ、米軍と日本自衛隊の各軍が共同で行う訓練で、毎年実施している。今年は2月28日から3月4日まで行われた。両軍からの参加艦艇、部隊は前述の通り。

今回は、米海兵隊と陸自水陸機動団が初めて参加した訓練となった。演習は米領マリアナ諸島にある「ファラロン・デ・メデイニラ(Farallon de Medinilla)」島・射爆場で行われ、米海兵隊・第5航空艦砲連絡中隊 (5th ANGLICO=5th Air Naval Gun Liaison Company)と陸自水陸機動団の兵員は、水上および空中機動で艦砲射撃を交えた実戦さながらの演習に参加した。

実戦を想定した高度な共同訓練で、両軍の有事対応能力を著しく高めることができた。

図11:(海上幕僚監部)「しらぬい・DD-120」は「あさひ・DD-119」型護衛艦の2番艦で2019年就役、満載排水量6,800 ton、全長151 mの新鋭艦。写真は62口径5インチ砲の実弾射撃。手前の四角い箱はMk.41 VLS (32セル)ミサイル垂直発射機。

  • 3月7日発表 オーストラリア海軍およびシンガポール海軍との訓練

3月5日にベンガル湾で海自護衛艦「ゆうだち」とオーストラリア海軍フリゲート「アランタ」は、各種戦術訓練を実施した。翌日には同海域で護衛艦「ゆうだち」はシンガポール海軍フリゲート「テネシャス」戦術・通信訓練を実施した。

  • 3月9日発表 日米共同の電子戦訓練

3月8日に日本周辺の太平洋上で、海自哨戒機「P-3C」、画像データ取集機「OP-3C」、電子戦訓練支援機「UP-3D」は米第7艦隊所属の電子戦機「EA-18G」グローラーと電子戦訓練を行なった。

海自の「OP-3C」と「UP-3D」はいずれも岩国基地第31航空軍第81航空隊に配属されている。

これらは川崎重工がロッキード社からのライセンス供与で98機を生産した「P-3C」哨戒機を基に改造した派生型機種。海自は別に完成機3機を輸入・保有している。海自ではこれら派生型機を「多用機」と呼んでいる。

図12:(海上自衛隊ホームページ)[OP-3C]画像データ収集機。5機を配備中。尾部のMADブームを降ろし、機首下面にレドームを増設している。

図13:(海上自衛隊ホームページ)[UP-3D]電子戦訓練支援機。3機配備中。尾部のMADブームを降ろし、胴体上面に2箇所、下面に2箇所レドームを増設、護衛艦の電子戦訓練を支援するのに使われている。

図14:(海上自衛隊ホームページ)[EP-3]電子戦データ収集機。5機を改造、「EP-3」として岩国基地に配備中。MADブームを降ろし、胴体上面に3箇所、下面に1箇所レドームを増設している。

  • 3月11日発表 日米共同の対潜水艦訓練

3月8日〜10日の間、神奈川県相模湾沖合で海自ヘリコプター「SH-60K」と米第7艦隊所属のヘリコプター「MH-60R」は対潜水艦訓練を行なった。

  • 3月17日発表 南シナ海で日米豪艦艇が共同訓練

3月14日〜16日の間、南シナ海の海空域で日米豪3カ国海軍が共同訓練を行なった。参加したのは:海自から護衛艦「ゆうだち/DD-103」、米海軍から駆逐艦「マンセン (USS Momsen/DDG-92)」および哨戒機「P-8A」、オーストラリア海軍からフリゲート「アランタ(HMAS Arunta/FFH-151)」および哨戒機「AP-3C」。訓練は各種戦術訓練を実施した。

米第7艦隊ニュース(March 17, 2022)によると、今回の演習は3カ国共通の運用・通信の能力を向上するために行ったもの。これで同盟国に対する突発的な攻撃に即応する体制が向上した。

図15:(US 7th Fleet / CTF-71, Mass Com Specialist 3rd class Lily Gebauer)南シナ海での日米豪3カ国海軍による合同演習の様子。手前から海自護衛艦「ゆうだち/DD-103」、米駆逐艦「マンセン (USS Momsen/DDG-92)、オーストラリア海軍フリゲート「アランタ(HMAS Arunta/FFH-151)」。「ゆうだち」は「むらさめ」級護衛艦/満載排水量6,100 ton、9隻中の3番艦。「マンセン」は「アーレイバーク・フライトIIA」級の約70隻中の40番目くらいの艦、満載排水量9,500 ton。

  • 3月18日発表 東シナ海で日仏共同訓練(オグリ・ヴェルニー)

3月17日東シナ海で海自護衛艦「きりさめ」は太平洋管区フランス軍のフリゲート「ヴァンデミエール」と各種戦術訓練を実施した。

  • 3月19日発表 日米共同の対潜哨戒機訓練

3月17日、18日、三陸沖の太平洋上で海自哨戒機「P-3C」と米海軍哨戒機「P-8A」は共同で対潜水艦戦の訓練を行なった。

  • 3月30日発表 日米共同の南シナ海における哨戒機訓練

3月28日、29日の両日、東シナ海空域で海自電子戦データ収集機「EP-3」と米海軍電子戦機「EP-3E」は、戦技向上と相互運用性の向上のため共同訓練を実施した。

米第7艦隊ニュース(March 29, 2022)によると、この訓練は「Raijinn 22-1 (雷神22-1)」と名付けている。

図16:(US 7th Fleet/TF-72, Mass Com Specialist 1st Class Glenn Slaughter) 沖縄県嘉手納基地で 共同訓練に参加した日米両海軍将兵の記念写真。

  • 第7艦隊ニュース March 15, 2022 “空母打撃群が黄海で警告演習“

北朝鮮は昨年(2021) 9月以降弾道ミサイル発射の頻度を著しく上げてきた。2月17日と3月5日に相次いでICBM(大陸間弾道ミサイル)を発射するなどの行為に対し米政府は強硬な非難声明を出した。北朝鮮に対抗し日本を含む友好国を防衛するために、第7艦隊隷下の空母打撃群を黄海に派遣、警告の意を示すため演習を行なった。

演習は、すでに実施中の黄海海空域のISR(情報収集、監視、偵察/Intelligence, Surveillance and Reconnaissance)飛行を含み、空母「アブラハム・リンカーン(Abraham Lincoln)」搭載の戦闘攻撃機と地域(那覇など)に駐留する米空軍機が参加して行われ、北朝鮮に対し強固なミサイル防衛の姿勢を示した。

米空母による黄海での警告演習にも関わらず北朝鮮の姿勢は変わっていない。その後3月16日に平壌郊外から弾道ミサイル「火星15 ?」を発射したが直後に空中爆発で失敗。そして3月24日には、再び同型ICBM「火星15 ?」とみられる弾道ミサイルを発射、こちらは成功しロフテッド軌道で高度な6000 kmに上昇後、我国EEZ(排他的経済水域)内に落下した。これは通常の弾道で発射した場合、射程は10,000 kmを超え米本土の大半を攻撃できる。

図17:(U.S. 7th Fleet Public Affairs) 空母「アブラハム・リンカーン」からカタパルトで発艦するF-35C艦上戦闘攻撃機。

図18:(北朝鮮中央通信)3月24日に発射した北朝鮮弾道ミサイル「火星15」型。中央通信は「火星17」型と主張している。9軸18輪の発射台付き車両 (TEL)から発射する。

―以上―