2022-11-12 松尾芳郎
令和4年11月、我国周辺における中露両軍、北朝鮮軍の活動と、我国および同盟諸国の動きに関し、各所から多くの発表があった。注目すべきニュースは次の通り。
- 北朝鮮「火星17」ICBM発射、日本EEZ内に着弾、米本土が射程内の可能性
- イージス艦「まや」および「はぐろ」、「SM-3 Block IIA」ミサイル発射試験に成功
- 日米共同統合演習「キーン・ソード23(Keen Sword 23)」が終了
- 中国海軍艦艇、対馬海峡を通過日本海へ航行
- 中国およびロシアの戦略爆撃機編隊が日本海・東シナ海経由太平洋に進出し往復
- 令和4年度国際観艦式実施と多国間共同演習(マラバール/Malabar 2022を含む)の実施
- 中国海警局所属の76 mm砲搭載艦、尖閣諸島領海に侵入
- 米国防総省「中国の軍事・安全保障に関する報告」発表、2027年までに台湾占領か
- 日本、米政府とトマホーク巡航ミサイル500発の購入を協議
(Military threats of Russo-Chinese Forces and North Korea against Japan are active. Following nine were main issues in November.
- North Korea launched Hwasong-17 ICBM on Nov. 18 to Japan’s EEZ off the coast of Hokkaido,
- Japan’s latest guided missile destroyer Maya and Haguro launched successfully the next generation ICBM interceptor “SM-3 Block IIA”
- Japan, Australia, Canada, and U.S. Naval Forces conducted military exercise Keen Sword 23(KS23) in Japan’s surrounding territorial and international waters.
- Chinese naval vessels pass through Tsushima strait to Sea of Japan.
- Chinese and Russian strategic bombers flew surroundings Japanese Islands to Pacific water, go back and forth.
- International Fleet Week 2022, hosted by JMSDF, Oct 29 thru Nov 13, finished, following with multinational naval exercise Malabar 2022.
- A Chinese Coast Guard vessel arming 5 inch gun, penetrates Japan’s territorial water off Senkaku islands.
- The 2022 China Military Power Report published Nov 22 by U.S. DoD, says; could field 1,500 nuclear warheads by 2035, intensified military pressure against Taiwan and could seize by 2027.
- Japan is to buy 500 U.S. Tomahawk cruise missiles, Japan’s Kishida and U.S. Biden discussed on Nov. 13 on Cambodia Meeting.)
以下にそれぞれを紹介する。
- 北朝鮮「火星17」ICBM発射・我国EEZ内に着弾、米本土が射程内の可能性
北朝鮮は11月18日午前10時15分に平壌郊外の順安付近から日本海に向けて大陸間弾道ミサイル(ICBM)1発を発射した。ミサイルは11時20分ごろ北海道渡島大島の西210 kmの海域、日本の排他的経済水域(EEZ)内に着弾した。
北朝鮮は、ミサイルはICMB「火星17」と発表。「火星17」は核弾頭数発を搭載して、射程は15,000 km 、米本土を攻撃可能な性能を持つ。今回の発射は、飛行時間が1時間を超え、最高高度は6,000 kmに達し、2段目の分離も正常に行われ、マッハ22の速度で飛行、予定海域に着弾した。通常の角度で飛行した場合は米大陸を射程に収めることができる。
今年11月における北朝鮮の弾道ミサイル発射は;―
・2日 :短距離弾道ミサイルなど20数発
・3日 :ICBM「火星17?」1発(2段目分離後失速して失敗)、短距離弾道ミサイル5発
・5日 :短距離弾道ミサイル4発
・17日 :短距離弾道ミサイル1発
・18日 :ICBM「火星17」1発(ロフテッド軌道で飛行、我国EEZ内に着弾)
図1:(朝鮮中央通信)11月18日午前10時過ぎに発射した新型ICBM「火星17」。今回の飛行距離は約1,000 km、最高高度6,040 kmのロフテッド軌道で飛行時間は69分とされる。
図2:11月18日発射の北朝鮮ICBM「火星17」の飛行経路。直線距離は約1,000 km、最高高度6,000 kmを超えるロフテッド軌道で飛行、日本EEZ内に着弾した。
- イージス艦「まや」および「はぐろ」、「SM-3 Block IIA」ミサイル発射試験に成功
11月中旬、ハワイ州カウアイKauai)島の太平洋ミサイル試験施設(Pacific Missile Range Facility)で、米海軍およびミサイル防衛局 (U.S. Missile Defense Agency)の協力を得て、海自イージス艦2隻がミサイル迎撃試験を行った。
11月16日に、海自イージス艦/ミサイル駆逐艦「まや」がRIM-161「SM-3 Block IIA」の発射試験を行い、また同18日に同型艦「はぐろ」が「SM-3 Block IB」の発射試験を行った。いずれも、米軍が発射した模擬弾道ミサイルを大気圏外で迎撃、命中に成功した。
また同21日には、模擬弾頭を発射せずに、「まや」のレーダーが探知した模擬弾頭の情報を使い「はぐろ」が「SM-3 Block IIA」を模擬発射し撃破に成功、これで両艦が“連携して弾道ミサイルを迎撃する機能(engage on remote)” が有効に作動することを確認した。例えて言えば、東シナ海/日本海に配備された「まや」が中国の内部から(低高度を飛ぶ)弾道ミサイルを発射したのを探知、その情報を太平洋上にいる「はぐろ」に伝え「はぐろ」が「SM−3」を発射・迎撃する、という機能である。
今回の試験は、来襲する弾道ミサイルを撃墜する「弾道ミサイル防衛/BMD (Ballistic Missile Defense)」能力を備える海自ミサイル駆逐艦「まや」および「はぐろ」の能力を実証するために行われたもの。
これで2007年にイージス艦「こんごう」が初めて「BMD」試験を実施して以来我が国が保有する8隻のイージス艦全てが「BMD」試験を完了、能力を持つことが確認された。
今回の試験で「まや」は、海自イージス艦としては、初めて日米共同開発の新型迎撃ミサイル「SM-3 Block IIA」を発射した。「Block IIA」は現在海自が配備している「SM-3 Block IA/B」に比べ、射程や高度がそれぞれ2倍、すなわち射程が2,000 km、高度1,000 kmで迎撃でき、命中精度も格段に向上したミサイルである。
米国務省は「対外軍需品売却法(Foreign Military Sale)」に基き、日本政府に対し「SM-3 Block IIA」ミサイル73発とその付属品を33億ドル(約4,000億円)で売却することを決定済み(2019年8月27日)。今回「まや」が試射したのはこの一部。
「はぐろ」の試験では、弾道ミサイル迎撃に「SM-3 Block IB」を使い、また自艦に来襲する巡航ミサイル標的の迎撃には「SM-2 Block IIIB」を発射し、同時に両方の模擬ミサイルの撃墜に成功した。「まや」、「はぐろ」を除く他のイージス艦6隻には、弾道・巡航両ミサイルに同時対処する能力が十分でないため、護衛するため別に防空艦の配備が必要とされる。
「まや」/「はぐろ」及び迎撃ミサイル「SM-3 Block IIA」については、「TokyoExpress 2020-04-02 “最新鋭イージス艦「まや」が就役、ミサイル迎撃能力を一段と強化”」に述べてあるので参照されたい。
図3:(海上自衛隊)イージス艦「まや・DDG-179」2020年3月就役。同型艦は「はぐろDDG-180」2021年3月就役。共に満載排水量10,250 ton。
図4:(海上幕僚監部)イージス艦「まや/DDG-179」が発射した「SM-3 Block IIA」迎撃ミサイル。
図5:(海上幕僚監部)イージス艦「はぐろ/DDG-180」が発射した「SM-3 Block IB」迎撃ミサイル。
- 日米共同統合演習「キーン・ソード23(Keen Sword 23)」が終了
[Keen Sword]とは「鋭い刃」あるいは「抜けば玉散る氷の刃」と言ったような意味。「キーン・ソード23」については「TokyoExpress 2022-10-09 “令和4年10月、我が国周辺における中露両軍・北朝鮮の活動と我国および同盟諸国の対応」の”8“項で概要を紹介済みである。
本演習は、台湾侵攻を含むグレーゾーンからの武力攻撃を想定して、日米両軍が主体となり、即応性及び相互運用性の向上を図るための演習で、これまでの最大規模となった。
- 実施期間:11月10日〜19日の10日間
- 実施場所:津多羅島、奄美大島、徳之島、我国周辺の海空域(フィリピン海を含む)、
- 訓練項目:水陸両用作戦、陸上作戦、海上作戦(対潜水艦作戦を含む)、航空作戦、統合後方補給、宇宙・サイバー・電磁波領域の情報を駆使して実施部隊を支援、
- 参加部隊:自衛隊―統合幕僚監部、陸・海・空自衛隊から人員26,000名、艦艇20隻、航空機250機、
米軍―陸・海・空・海兵隊などから10,000名、艦艇10隻、航空機120機、
オーストラリア軍―艦艇1隻、航空機1機、
カナダ軍―艦艇2隻、航空機1機、
イギリス軍―艦艇1隻、
演習期間中の11月14日、海自ヘリ空母「いずも」艦上で、統合幕僚長・山崎幸二陸将と在日米軍司令官・リッキー・ラップ空軍中将 (Lieutenant General Ricky N. Rupp, Commander, U.S. Forces Japan and Fifth Air Force)が共同記者会見を実施、「KS 23演習を通じ、強固な日米同盟で挑発的な勢力(中露北鮮をを指す)を抑止する軍事力の向上を内外に示す」と発表した。
- 各自衛隊から;―海自からヘリ空母「いずも/DDH-183」、同「いせ」、輸送艦「おおすみ」、ミサイル駆逐艦「あたご(DDG-177)、同「あしがら(DDG-178)、など、陸自から大型輸送ヘリ「CH-47」、攻撃ヘリ「AH-64D」、テイルトローター輸送機「V-22」、16式機動戦闘車、12式地対艦誘導弾システムなど、空自から大型輸送機「C-2」、ステルス戦闘機「F-35A」などが参加した。
- 米軍からは空母「ロナルド・レーガン(USS Ronald Reagan / CVN-76)」、ミサイル駆逐艦「ベンフォールド(USS Benfold /DDG-65)」、高機動ロケット砲システム「ハイマース(HIMARS)」、テイルトローター輸送機「V-22」、ステルス戦闘機「F-35A」、同「F35B」などが参加した。
- カナダ海軍からはフリーゲート「バンクーバー(HMCS Vancouver / FFH 331)」、同「ウニペグ(HMCS Winnipeg / FFH-338)」が参加した。
- オーストラリア海軍からはミサイル駆逐艦「ホバート(HMAS Hobart/DDG-39)」が参加した。
図6:(西日本新聞)「キーンソード23」演習が行われた「津多羅島」は、南西諸島から離れた長崎県五島列島にある小さな島で尖閣諸島の魚釣島と形が似ている。17日には離島奪還を想定してCH-47輸送ヘリを使い部隊の展開演習が行われた。
図7:「キーンソード23」演習がおこなわれ他南西諸島の島嶼、太字で示す。「津多羅島」は前図参照。
図8:(統合幕僚監部)徳之島では大規模な島嶼奪回演習が行われた。写真は上陸した海自エアクッション艇。
図9:(統合幕僚監部)陸自テイルトローター輸送機「V−22」オスプレイ。「Bell-Boeing V-22 Osprey」はCH-46輸送ヘリの後継機で、「CH-46」ヘリと比べ、速度は2倍、行動半径4倍、輸送兵員数2倍、積載量3倍、と大幅に性能向上している。離陸重量重量27 ton、兵員24-32名、積載量9 ton、航続距離3,500 km。2007年から米海兵隊、空軍、海軍で合計375機を使用中で、合計飛行時間は50万時間を超えている。我が陸自は17機を調達中で当面木更津基地に配備、恒久的には佐賀基地に配備を予定。。
図10:(統合幕僚監部)「C-2」輸送機で「12式地対艦誘導弾システム」を奄美大島に展開した。「12式地対艦誘導弾システム」については ”TokyoExpress 2022-08-15 「12式地対艦誘導弾(能力向上型)開発の現況」“を参照する。
図11:(Yahoo) 11月16日奄美大島で、ウクライナでも活躍している米陸軍長距離ロケット砲システム「ハイマース(HIMAES)」が公開された。
図12:11月14日「いずも」に着艦した陸自「CH-47」輸送ヘリコプター、海自鹿屋基地から記者会見場となる「いずも」まで記者団を輸送した。
図13:統合幕僚監部)「キーンソード23」に参加した海自ヘリ空母「いずも・DDH-183」。満載排水量26,000 ton、全長248 m、現在2番艦「かが・DDH-184」と共に短距離陸垂直着陸(STOVL)型戦闘機「F-35B」運用のための改修が行われている。
図14:(統合幕僚監部)輸送艦「おおすみ・LST-4001」満載排水量13,000 tonが2隻のエアクッション艇を従えて、手前のヘリ空母「ひゅうが・DDH-181」と並走する写真。「ひゅうが」・満載排水量19,000 ton、全長197 m、の甲板上には、陸自攻撃ヘリ「AH-64D」2機が着艦している。「キーンソード演習」の一コマ。
図15:(Royal Navy) 英海軍の哨戒艦(Patrol ship)「スペイ (HMS Spey)」が英海軍として初めて太平洋における最大規模の「キーンソード」演習に参加した。事前に横須賀を訪問、海自輸送艦「くにさき・LST-4003」満載排水量13,000 ton、と合流、徳之島での上陸演習で海自輸送艦の護衛任務に当たった。「スペイ」は「リバー」級パトロール艦で2021年就役の新造艦、排水量2,000 ton、長さ90.5 m、口径30 mm機関砲1門、他各種機銃を装備する。
「キーンソード23」演習最終日11月19日には、九州北西の東シナ海上空の空域で、空自戦闘機部隊と米空軍爆撃機が戦術訓練を実施した。参加したのは;―
- 空自第8航空団(築城基地)所属の戦闘機「F-2」5機
- 米空軍第28爆撃航空団(エルスワース空軍基地/ Ellsworth AFB, South Dakota)所属の戦略爆撃機「B-1B」2機
エルスワース空軍基地は、米国中部北のサウス・ダコタ州にあり、グローバル・ストライク・コマンド(Global Strike Command / AFGSC)麾下の第28爆撃航空団(28th Bomb Wing=28 BW)の基地。第28爆撃航空団は、空軍に2つある「B-1Bランサー(Lancer)」爆撃航空団の一つ。「B-1B」は昨年から退役が始まり、2035年頃からは順次新型爆撃機ノースロップ・グラマン製「B-21」に交代する。
図16:(航空幕僚監部)11月19日東シナ海上空を飛ぶ第28爆撃航空団の「B-1B」爆撃機と空自第8航空団の「F-2」戦闘機。
図17:(Military com)「B-1B」は、現在ボーイング傘下にあるロックウエル(Rockwell)が開発・製造した可変後退翼付き超音速戦略爆撃機。1960年代製造の「B-1」の改良型、1986年から配備され現在空軍では45機が使われている。最高速度は、高空でマッハ1.25、低空でマッハ0.95に改められた。最大離陸重量216 ton、機内弾倉に精密誘導爆弾・ミサイルなど最大34 tonを搭載。エンジンは F101-GE-102アフトバーナー付き推力30,000 lbsを4基装備。低空で敵地近くの空域に進出、長射程巡航ミサイルで目標を破壊するのが主な任務。
- 中国海軍艦艇、対馬海峡を通過日本海へ航行
11月28日から29日にかけて中国海軍ジャンカイII級フリゲート(577)とソブレメンヌイ級ミサイル駆逐艦(138)が、長崎県対馬海峡を東シナ海から日本海に向けて通過した。
図18:(統合幕僚監部)「ジャンカイII/江凱II」型は「054A」フリゲート、満載排水量4,000 ton、全長134 m、速力27 kt、HQ-16対空ミサイルを32セルVLSに収納。対艦ミサイルYJ-83型を艦中央にある4連装発射機2基に搭載する。本型は外洋艦隊用で防空能力を強化している。同型艦はすでに30隻が就役済み。
図19:(統合幕僚監部)ロシア海軍用に19隻が建造され、内4隻が中国海軍に譲渡された。中国海軍は長距離対艦ミサイルを装備「空母キラー」として米空母接近を阻止する艦と位置付けている。満載排水量8,000 ton、速力32 kts、130 mm 連装砲2基、30 mm CIWS対空機関砲4基、VLS 32セルに対空ミサイルHHQ-16および対潜ミサイルYU-8を装備。そして、対艦攻撃用として射程150km以上の超音速巡航ミサイルYJ-12の 4連装発射機2基を備えている。同型艦は「杭州(136)」,「福州(137)」、「泰州(138)」「寧波(139)」の4隻。就役は1999年から2006年でかなり新しい。
図20:(統合幕僚監部)11月末に対馬海峡を通過日本海に入った中国海軍ジャンカイII級フリゲート(577)とソブレメンヌイ級ミサイル駆逐艦(138)の航跡。
- 中国およびロシアの戦略爆撃機編隊が日本海・東シナ海経由太平洋に進出し往復
11月30日午前から午後にかけて中国空軍爆撃機「H-6」2機およびロシア空軍爆撃機「Tu-95」2機が、日本海から東シナ海を通り、沖縄県宮古海峡を通過太平洋に進出、反転して往路を経由、基地に帰還するという長距離共同飛行を行った。これらが東シナ海から太平洋に飛行した際には、中国軍戦闘機「J-16」2機が2箇所で合流、護衛の任に当たった。
これらに対し、航空自衛隊は戦闘機を緊急発進、領空侵犯を防いだ。
図21:(統合幕僚監部)「H-6」は、ロシアTu-16爆撃機を西安航空機で国産化した機体。H-6K、H-6H、H-6M、H-6Nなど各型が配備されている。我国周辺にはH-6K、H-6M、それから最新のH-6Nが現れる。H-6Kは兵装搭載量が9 tonから12 tonに増え、機番が5桁表示になり、翼下面に巡航ミサイルCJ-10Aを6発搭載する。H-6N型は対艦ミサイルYJ-21を発射可能と言われる。写真は機番が5桁なので「H-6K」らしいが翼下面に巡航ミサイルは搭載していない。
図22:(統合幕僚監部)空自機が撮影したものとしては珍しく不鮮明な写真。ロシア空軍は、「 Tu-95 」爆撃機および改良型「Tu-95MS」戦略ミサイル輸送機として63機を配備。軸馬力14,800 hpのターボプロップ4基、最大離陸重量185㌧、最高速度925 km/hr、航続距離は6,400 km。海軍用に対潜哨戒機Tu-142がある。[ Tu-95MS ]は、超音速対地攻撃用ラドガ(Raduga) Kh-15巡航ミサイル(射程300 km) 6発を胴体内のドラムランチャーに搭載。派生型のTu-95MS-16は、ラドガ(Raduga) Kh-55亜音速・射程2,500 kmの巡航ミサイルを胴体内に6発と翼下面に10発、計16発搭載できる。
図23:(統合幕僚監部)中国軍「J-16」戦闘機。瀋陽航空機工業製で2014年から供用開始、これまでに250機が配備されている。乗員2名、最大離陸重量35 ton、エンジンはWS-10Bターボファン、アフトバーナー時推力30,000 lbsを2基、最大速度マッハ2、行動半径1,500 km、対艦・対地・対空の各種ミサイルを搭載できる。
図24:(統合幕僚監部)11月30日、日本海―東シナ海―太平洋を往復した「H-6」爆撃機、「Tu-95」爆撃機、それに護衛戦闘機「J-16」の航跡。
- 令和4年度国際観艦式の実施と多国間共同演習(マラバール/Malabar 2022を含む)の実施
11月6日相模湾で国際観艦式が岸田首相出席のもと実施された。日本での国際観艦式は2002年以来20年ぶりとなる2回目、関係が冷え込んでいた韓国海軍からは大型輸送艦が参加した。
参加部隊は;―
海自から艦艇20隻と航空機6機、陸自から航空機5機と輸送艦に搭載した車両等、空自から航空機16機、海上保安庁から巡視船1隻、
外国12カ国から艦艇18隻、(オーストラリア、ブルネイ、カナダ、インド、インドネシア、マレーシア、ニュージランド、パキスタン、韓国、シンガポール、タイ、米国)。航空機2カ国合計6機、
図25:(産経ニュース/酒巻俊介氏撮影)11月6日午前、相模湾で挙行された国際観艦式で観閲艦を務めるヘリ空母「いずも」、上空を飛行するのは陸自輸送機「V-22」オスプレイの編隊。
図26:(産経ニュース/海自ヘリから春名中氏撮影)岸田首相・浜田防衛相が乗艦する観閲艦「いずも」を先頭に「ひゅうが」が続く。岸田首相らは「いずも」の右舷艦橋後方の「舷外エレベーター」に設けられた観閲台から観閲した。
図27:(産経ニュース/海自ヘリから春名中氏撮影)観艦式で観閲する海自艦艇(左側)と観閲を受ける各國の艦艇。
多国間共同演習「マラバール2022(Malabar 2022)」
国際観艦式終了した11月8日〜15日の間、関東南方・フィリピン海にまたがる広大な海空域で、日本主催のもと、米、印、豪各國が参加して大規模な演習「マラバール2022(Malabar 2022)」が実施された。「マラバール演習」は米印2か国で1992年に始まり今回は26回目、これに日本・オーストラリアが加わり4か国演習となってからは3回目となる。主催国は4か国の持ち回りで今回は日本となった。演習海空域は西太平洋、南シナ海、インド洋の広い範囲になる。
参加部隊は;―
- 海上自衛隊から;護衛艦「たかなみ(DD-115)」、同「しらぬい(DD-120)」、ヘリ空母「ひゅうが(DDH-181)」、輸送艦「くにさき」、補給艦「おうみ(AOE-426)」、潜水艦1隻、哨戒機「P-1」、電子戦訓練支援機「UP-3D」,特別警備隊
- 米海軍から;空母「ロナルド・レーガン(USS Ronald Reagan/CVN-76)」・「第5空母航空団(Carrier Air Wing/CVW-5)」、ミサイル巡洋艦「チャンセラーズビル(USS Chancellorsville/CG-62)」、ミサイル駆逐艦「ミリウス(USS Milius/DDG-69)」、哨戒機「P-8A」、特殊作戦部隊
- インド海軍から;フリゲート「シバリク(Shivalik)」、対戦コルベット艦「カモルタ(Kamorta)」、哨戒機「P-8I」、特殊作戦部隊
- オーストラリア海軍から;フリゲート「アランタ(RAN Arunta/FFH-151)」、補給艦「ストルワート(RAN Stalwart/A304)」、潜水艦「ファーンコム(Farncomb)」、空軍から哨戒機「P-8A」、
図28:(7th Fleet, photo by Mass Communication Specialist 2nd Class Michael B Jarmiolowski)11月11日フィリピン海で「マラバール2022」演習中の様子。手前からオーストラリア海軍潜水艦「ファーンコム」、海自潜水艦艦名不詳、米空母「ロナルド・レーガン(USS Ronald Reagan/CVN-76)」。
図29:(7th Fleet, photo by Mass Communication Specialist 2nd Class Michael B Jarmiolowski)同じく「マラバール2022」演習で、手前から海自ヘリ空母「ひゅうが(DDH-181)」、インド海軍フリゲート「シバリク(Shivalik)」、米空母「ロナルド・レーガン(CVN-76)。
- 中国海警局所属の76 mm砲搭載艦、尖閣諸島領海に侵入
11月25日午前、尖閣諸島周辺の日本領海内に中国海警局所属の艦艇4隻が相次いで侵入した。このうちの1隻は口径76 mm(5 inch)砲を装備していた。5 inch砲を搭載する海警局所属の艦艇の出現は今回が初めて。中国海警局艦艇の領海侵入は11月13日以来で、今年になってからは25回目となる。
松野官房長官は例のように外交筋を通じて「国際法違反だ」と厳重抗議をしただけ。「中国側に対して冷静かつ毅然と対応していく」と発言したが、中国側にとっては痛くも痒くもない。
中国政府は1971年12月に尖閣諸島の領有を主張し始めて以来、1992年には「領海法」を制定し、尖閣諸島を中国領としてきた。2012年9月、民主党の野田政権が尖閣諸島を国有化すると、中国側は接続水域や領海侵入を常態化するようになる。
最近では4隻が組となって交代で航行するようになり、今回の4隻は11月15日に前の組を引継ぎ、「海警2501」、「海警2301」、「海警2101」、そして76 mm砲搭載の「海警2204」の4隻が尖閣諸島海域を巡回している。
図30(第11管区海上保安本部)11月25日尖閣諸島領海に侵入、写真は、我が国漁船を追い回した中国海警局艦艇4隻のうちの1隻、76 mm砲搭載の大型艦「海警2204」。
図31:(第11管区海上保安本部)「海警2204」の艦首部拡大の写真。76 mm 機関砲が見える。
海警局には76 mm機関砲を搭載する艦は40隻以上ある。「海警2204」はこの内の2,000 ton級の[718B型]9隻のうちの一つ。他の76 mm砲搭載艦は、1万トン級、5000トン級、4000トン級、3000トン級などである。
図32:(微博、pelicanmemo)「海警2204」は「718B型」2000 tonの1隻、同型艦は2016~2018年に建造された。2018年に、海警局は中央軍事委員会が指揮する国防省警察部隊に編入された。「718B型」は長さ102 m,、満載排水量2200 ton、最大戦速23 kts程度、武装は艦首に76 mm速射砲1門、艦橋上部に30 mm機関砲2門を有する。後部にはヘリコプター甲板がある。76 mm速射砲はH/PJ-26型で海軍の056型コルベット艦装備と同じ。
- 米国防総省「中国の軍事・安全保障に関する報告」発表、2027年までに台湾占領か
11月29日、米国防総省は「中国の軍事・安全保障分野の動向に関する年次報告」を発表した。この中で中国人民解放軍の創設100年となる2027年までに目標の軍事力強化を達成すれば「台湾統一」が実現しそうだ、と述べ、危機感をあらわにしている。
「台湾有事」については、米・インド太平洋軍の前司令官デービットソン(Philip Davidson)海軍大将が、同趣旨の見解を昨年述べ警告している。
中国習近平主席は党大会の活動報告で、中国軍の近代化を今後5年間で加速し、戦略的阻止力を強化すると、述べた。これで台湾に対する海上封鎖、上陸作戦、など様々な軍事的圧力を行使する能力が高まり、台湾侵攻作戦に対する米軍の介入を排除しようとしている、と分析している。
この5年間の軍事力強化には、企業が持つ高度な先端技術を取り込む事で遂行を図っている。これに対し米政権は、中国軍の技術力向上を警戒、今年10月から高性能半導体、同製造設備やスーパー・コンピューターの対中輸出を厳しく制限することを決めた。そして日本やNATOなど同盟国、に対しても同様の禁輸措置を採ることを求めている。日本に対しては、12月9日にレモンド米商務長官が西村経済産業相に電話会談で申し入れた。
中国は現在運用可能な核弾頭を400発以上保有しているが、2027年までにこれが700発になり、2030年までに1,000発に達し、2035年には約1,500発を保有するに至る、と予測している。また2021年現在、拡弾頭搭載の大陸間弾道弾(ICBM)を収納するための地下格納庫の数は300箇所を超えたと推定している。
このような事で米国は2030年までに大量の核兵器を保有する中露2大国、に対峙することになる、と言及、中国に対する警戒感を一段と強調・説明している。
- 日本、米政府とトマホーク巡航ミサイル500発の購入を協議
「TokyoExpress 2022-11-21 ”反撃力のシンボル BGM-109トマホーク巡航ミサイル“」で詳しく紹介したが、今年11月13日プノンペンで、岸田首相がバイデン大統領と会談、「トマホーク」500発の購入交渉の進展を相互で再確認した。
敵のミサイル発射基地などを破壊する「反撃能力」を巡り、12月中に改定する国家安全保障戦略、いわゆる「安保3文書」にその保有が明記される事で最終調整が行われている。
「反撃能力」として想定されているのは陸自の「12式地対艦誘導弾」だが、敵基地を叩くには、射程を大幅に伸ばし1,000 km以上にする「12式地対艦誘導弾(改)」または「12式地対艦誘導弾(能力向上型)」が必要となる。しかしこれの配備は、現行の開発予定では、艦艇発射型が2027年、航空機発射型は2029年からになる。
詳細は「TokyoExpress 2022-08-15 “12式地対艦誘導弾(能力向上型)開発の現況”」参照。
防衛省は、改良型12式の配備開始の2027年までの空白期間を埋めるために「トマホーク」を最大500発導入が必要と見積もっている。
「トマホーク」は1991年の湾岸戦争、シリア攻撃など実戦に使用され、高性能は実証済み。その高性能の故、米国は売却先を限定、これまでに同盟国イギリスに対して2014年に65発を合計1億4千万ドル(190億円)で売却したのみ。昨年米・英・豪の安全保障協定「オーカス(AUKAS)」締結されたのに伴い、オーストラリアにも売却を約束している。
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