グルメブームが食材偽装を生む


2013-12-07 産経新聞論説委員 木村良一

 

全国各地のホテルやデパート、レストランで、メニューの表記と異なる食材が使われていた問題が相次いで発覚した。

たとえばバナメイエビを使用しているのに「芝海老」と書いたり、白ねぎや青ねぎを「九条ねぎ」と偽ったりしていた。紙容器入りのジュースが「フレッシュジュース」、牛脂注入の加工肉は「牛ステーキ」、冷凍魚も「鮮魚」と表示するなど挙げれば切りがない。

飲食店側は「偽装」ではなく、「誤表示」と主張するが、いずれも安い食材を使いながら高い食材を使用しているように表記して高級感を出し、消費者のブランド好みやグルメ志向をくすぐっていた。それだけに消費者は「高級店が厳選した食材だと思ったからこそ、高いお金を支払ったのに裏切られた」と納得がいかない。

それにしてもどうしてこんな問題が次々と発覚しているのだろうか。一流、二流を問わず、大半の飲食店が足並みをそろえたように食材の表記をごまかしていた点も疑問だ。飲食店がグルになって消費者をだまそうとしたと考えるのは不自然だから、外食・食品業界にとって虚偽表示は日常茶飯事で慣習だったのだろう。

事実、過去の取材の中で「飲食業は羊頭狗肉が当たり前の世界だ」という話を聞いたこともある。外食・食品業界と消費者との間に大きなギャップがある。ならば消費者の方は、そのギャップを理解したうえでもう少し賢くなる必要がある。

ところで5年前の2008(平成20)年1月21日付の産経新聞に、そのころやはり大きな社会問題となった消費期限や賞味期限を改竄した食の偽装が起きた原因を探るコラムを書いたことがある。見出しは「清潔社会が食偽装を生む」で、そのコラムから要所要所を抜粋して考えてみよう。

コラムは〈昭和が人気である。平成のいまの時代に対するある種の不安が、ノスタルジアをかきたてるのかもしれない〉と始まり、映画「ALWAYS 三丁目の夕日」を取り上げ、次に昭和のなつかしい「食」に触れている。

〈そのころ日清食品が世界初の即席麺のチキンラーメンを発売し、コッペパンと鯨肉の竜田揚げ、脱脂粉乳が学校給食の定番だった。それが日本の「食」だった〉

〈昭和30年代のこの時期、日本は長いトンネルから頭を出した蒸気機関車のように終戦直後の食うや食わずの貧しさから抜け出し、高度経済成長期へと突入していく。やがて食も豊かになり、美食とか、グルメとかがもてはやされるようになった〉

話題は昭和の食から現在の食へと移り、〈豊かな食の半面、消費期限や賞味期限を改竄した食の偽装が大きな社会問題となった。昨年(2007年)1月には不二家で消費期限切れの牛乳が菓子の材料に使われていたことが発覚、8月には北海道の「白い恋人」(石屋製菓)で賞味期限の改竄が明るみに出た。伊勢土産の「赤福餅」や大阪の料亭「船場吉兆」にも驚かされた〉と食の偽装問題を取り上げ、その解明に入っていく。

コラムの中で解明のカギに使ったのが、日本人の「清潔好き」だった。〈百貨店やスーパーマーケットは「抗菌」の2文字が入ったグッズであふれ、ドラッグストアにはトイレの消臭スプレーや口臭予防のうがい薬、体臭を消す制汗剤がいくつも並んでいる。どんな品物も除菌、殺菌され、臭いを消すことが重要視される。現代人を「超が付くほど清潔志向が強く、その神経の使い方はものすごい」と指摘する医学者もいる〉

〈たとえば、ハムや缶詰など長期保存ができる食品に表示する賞味期限の方は、それが過ぎても食べられないわけではない。味もほとんど変わらない。腐りもしない。しかし、消費者は衛生にこだわる。かといって捨てるには忍びない。それならばと、表示を付け替えて売る。ところが、内部告発でそれがばれ、信用を失う。これが大方の経緯だろう〉

食の偽装は超清潔社会の中で起きたというのが、このコラムの結論になる。

今回の食材の虚偽表示問題も根っこは同じだ。そのまま「グルメブームが虚偽表示を生む」と言い換えることができる。消費者は産地や品種に目がない。そうした消費者のグルメ志向に業界が便乗してもうけようとした。これが構図だろう。

ただ、このグルメ志向も怪しいものである。バナメイエビと芝海老の味の違いも見抜けず、結局はだまされていたのだから。そう考えると、情けなくなる。消費者側も「高ければ本物」という安易な思考を改めたい。

もちろん消費者を欺く行為は許されない。それゆえ消費者庁が食品・飲食業界に対し、景品表示法違反の疑いで調査を行っている。その一方で消費者は「食なんてそんなもの」と余裕を持って接する必要があるのではないか。

「慶大綱町三田会のメッセージ@penから転載」

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