「建設的野党とは何なのか?」<その2>


2014-05-07   元・国務大臣秘書官 鳥居徹夫

  ■□安倍首相が行政代表として出席したメーデーに、自民党が欠席

さる4月26日に行われた中央メーデー式典に、安倍晋三首相が自民党政権の首相として13年ぶりに出席した。安倍首相と田村憲久厚生労働大臣の出席は、政府を代表してであり、自民党の代表として挨拶したのではなかった。これまで自民党政権下でも労働大臣や厚生労働大臣が挨拶していたが、あくまでも政府・行政側の位置づけであり、政党として自民党の代表が招待されることはなかった。

連合は今回、共産党を除く全政党にメーデー出席を要請した。民主党、日本維新の会、公明党、みんなの党、結いの党、生活の党、社会民主党、新党大地、新党改革が、それぞれ挨拶したが、自民党は出席しなかった。

挨拶で安倍首相は、「日本を豊かにするために、与野党やさまざまな立場の違いを超え、このデフレ脱却のチャンスをつかむ必要がある。企業の収益が賃金の向上につながり、働く人が景気回復を実感できるよう全力を尽くす」と述べ、「アベノミクス」への理解を求めた。

これに対し、民主党の海江田万里代表は「働く者の犠牲による見せかけのデフレの脱却は長続きしない」「労働者保護ルールの改悪は阻止しなければならない」と述べ、対決姿勢を鮮明にした。

安倍首相は、自民党の代表としてではなく、政府・行政府を代表として挨拶したのである。

政府も経済界も連合も、当面の課題は「脱デフレ」であり「少子高齢化対策の推進と、社会保障の基盤整備」である。そのため連合からも、政府の審議会に委員を派遣している。

しかし成長戦略を策定する規制改革会議や産業競争力会議に、労働界からの委員が選出されていない。労働者の保護規制の改廃・見直しが、そこの大きなテーマであるにも関わらずにである。

連合は、「 すべての働く者の幸せの実現のために力を結集する」、「働くことを軸とする安心社会」の実現に全力を尽くすことを運動に掲げている。このため連合は、非正規労働者(派遣、パートなど)が4割近くを占めるなどの「不安定雇用の増加」と「所得格差等の拡大」に歯止めをかけること、そしてブラック企業などに見られる「雇用の劣化や職場の荒廃」を食い止める運動に力を入れている。

連合は、これらを助長する解雇規制の緩和など雇用に悪影響を及ぼす施策が、政府の成長戦略として論議されていることを問題視している。 当然のこととして連合は、一歩たりとて譲れないのである。

 

■□野党とは「政府・政権に反対する政党」のことなのか ?

政界は、3年後の参議院選挙まで、(補選等を除いて) 国政選挙がない。来春に統一地方選挙があるが、国政に直接の影響はない。自民党にとって「黄金の3年間」といわれるが、これは民主党の現職議員にとっても同様である。

「黄金の3年間」は、民主党にとっても応援団の連合を重視する必要がないのである。

そのためか、民主党の政策には「左翼バネ」と「反原発」が強くなり、連合との間のミゾが大きくなりつつあるようである。

連合は、民主党の支持団体との見方が、マスコミに強くあった。しかし今春の東京都知事選挙では、連合が自民党の推薦する舛添候補を支援し、民主党「即・原発ゼロ」の細川護煕支援と分かれ、連合支援の舛添候補が当選した。

昨今の民主党の不人気は、その政策や行動が、国民からも労働団体の連合からも遊離していることである。とりわけ安倍政権に何でも反対のポーズをとる「抵抗政党」のイメージが強くなっていることは否めない。

「野党とは何か?」との問いに、「政府に反対する党」という回答が一部に連想されているが、正解は「政権に参加していない政党」を野党と呼ぶのである。民主党政権のときは、政権に参加していない自民党や公明党なども野党であったのである。このときは「まず政局ありき」で自民党は「赤字国債発行特例法案」を人質にとり、衆議院の解散に追い込んだのである。

当時の野党自民党から、脱デフレなどの政策提言はなかった。消費税増税を自らの手を汚さずに民主党政権に行わせた。そして民主党内の党内抗争と分裂により、民主党が自滅するのを、自民党はひたすら待っていた、といっても過言ではなかった。そして総選挙での政権交代となったのである。

 

■□各党の姿勢が問われる集団的安全保障の行使と憲法改正

さる5月1日に開かれた「新しい憲法制定推進大会」では、自民党、民主党、日本維新の会、公明党、みんなの党、結いの党が出席し、それぞれの代表が挨拶を行った。

憲法改正に関わる国民投票法改正案(18歳からの投票に法整備など)が与野党合意し、連休明けの8日に全政党の賛成で衆議院を通過、参議院に送付され通常国会での成立は確実である。

集団的安全保障の行使をめぐる論議も、連休後に本格化してくる。

大会の挨拶で維新の会の平沼赳夫代表代行は、「自民党は憲法に後向き」、「どこの政党かと思う発言をする議員がいる」、「結党時に、憲法改正と集団安全保障体制の下で平和の平和と国家の独立を宣言している」と批判した。

これこそ、まさに「わが国の存立に関わる事態」に備える建設的野党の姿である。

2012年12月の衆院選で、自民党は国家安全保障基本法案を提起し、集団的安全保障の行使容認を掲げ、国民の支持を得た。しかし政権復帰とともに多くの自民党議員は、憲法改正や集団的安全保障の行使に腫れ物扱いである。

ちなみに民主党の長島昭久副幹事長は挨拶で、「集団的安全保障の行使は、憲法解釈の変更ではなく、憲法改正で行うべきとの議論があるが、その方々は集団的安全保障の行使に否定的だからだ」、「どこまで憲法解釈で可能かを検証すること、あわせて憲法改正論議もすすめることが必要」と強調した。

これまでも憲法解釈を変更した事例が存在する。憲法89条は私立学校に公費助成に対し「公の支配に属さない」として、違憲扱いされた時期もあった。

しかし、国民の教育を担うという役割を重視し「公教育の補完、そして相互協力関係」として、現在は当然のように私学助成が国・地方自治体から支出されている。

すなわち憲法89条については、これまでの内閣法制局の見解は、間違っていのである。

ところで、保守合同で誕生した自民党が結党時(1955年11月15日)に確認した政綱には、次のように記されている。

「国際労働憲章、国際労働規約の原則に従い健全な労働組合運動を育成強化して労使協力体制を確立するとともに、一部労働運動の破壊的政治偏向はこれを是正する」

つまり本来の自民党の姿は、労働団体とは敵対関係ではなく、協調関係なのであり、公式に招待されたメーデーに、自民党の代表が出席することには違和感はないのである。 –以上−