2014-07-29 松尾芳郎
2014-08-02 改訂
新しいボーイング787用に開発中の[Trent 1000-TEN]と、エアバスの新型機A350用の[Trent XWB]の技術を組込んだロールスロイス7番目の大型エンジンは「Trent 7000」と呼ばれる。「Trent 7000」はエアバスの新造機A330neoに搭載決定済み。現用のA330のエンジンが[Trent 700]なので、その後継を意味し「Trent 7000」と名付けられたらしい。
図1:(Rolls Royce) 「Trent 7000」は、新型787用の[Trent 1000-TEN]エンジンと良く似ている、現在のA330用のTrent 700に比べファン・バイパス比は2倍になっている。
現在のA330型機に使われているロールスロイスTrent 700は、作られてから24年になる。Trent 700は、当時GEのCF6-80E1とP&WのPW4000と競合していたがA330との独占契約でシェアを伸ばした。
今回A330neo用に決まった「Trent 7000」は、機体就航予定の2017年末に間に合わせて開発される。一般に新エンジンの開発には5-6年掛かるとされるが、ロールスロイスは、現在開発中の新787用の[Trent 1000-TEN]をベースにして開発期間を大幅に縮める。
「Trent 7000」は2015年に地上試験を開始、2016年には、ロールスロイス所有の747飛行試験機に取付け飛行試験をする。エンジン型式証明は2017年の第一四半期に取得したいとしている。「Trent 7000」の推力は68,000lbsおよび72,000lbsで、それぞれA330-800neoおよびA330-900neoに使う予定。
「Trent 7000」は現在のTrent 700に比べ重いが、新技術のお陰で性能は格段に向上している。ファン直径が大きくなるので、パイロンを伸ばし取付け位置をかなり前方に高くして、地上との間隙を充分にする。Trent 700のファン直径は97.5㌅、バイパス比は5:1だったが、「Trent 7000」はTrent 1000-TENと同じ112㌅ファン直径、10:1バイパス比、になる。
コンプレッサー全体の圧力比は、設計手法の進歩で50:1に向上し、Trent 700の36:1を大きく上回る。圧力比の向上とファン・バイパス比を大きくした効果で、燃費は10%改善される。
これに機体側の空力改善効果を併せて、A330neoの座席当たりの燃費はA330対比で14%も改善される予定だ。また大型ファンの採用で騒音はTrent 700付きA330よりも10db減る。これでA330neoはロンドンの厳しい騒音制限値を充分クリアできる。
「Trent 7000」は基本的にTrent 1000-TENの派生型だが、全く同じと云うことではない。A330neoの要件にあわせて、ブリード・エアのポートとギアボックスが変る。A330neoは、客室空調と翼の防氷装置にエンジン抽気を使うため、「Trent 7000」は、中圧コンプレッサー(IPC)と高圧コンプレッサー(HPC)に抽気用ポートが設けられる。また、ファン・ベアリング室を改良しオイル漏れを皆無にする。電気動力システムの787では電力使用量が大きいので、それに対応したゼネレーターとギアボックスが必要だったが、A330neoは相対的に電力消費が少なないので標準型ギアボックスに改められる。
ベースとなるTrent 1000-TENは、去る5月(2014年)末にRRのダービー工場で試運転が始まったばかり。-TENは推力78,000lbsで2015年から787の全モデルに搭載される予定で、2016年中に787-8および-9型で、また2018年から787-10型で就航する。Trent 1000-TENは2年前の6月に開発が決まり、これにはエアバスA350用に作られたTrent XWBエンジンで採用された先進技術を多く取入れてある。
「Trent 7000」には、Trent 1000-TENと同じ「空気流量を大きくした新型の8段中圧コンプレッサー(IPC)と、新しい6段の高圧コンプレッサー(HPC)が使われる。これ等IPCとHPCは、共にTrent XWB用に開発されたもので、HPCの前段3段はブレード–デイスク一体のブリスク構造になっている。HPC全体は抽気空気量に応じて変動するバルブを使い、空気流を冷却し効率を上げる仕組み(Adaptive HP Cooling system)を採用している。
「Trent 7000」の技術諸元
*構成 3軸型ターボファン
*バイパス比 10 : 1
*全体の圧力比 50 : 1
*ファンの構成 ブレード20枚、直径112㌅ (2.8m)
*中圧コンプレッサー 8段、ステーターに加温システムを採用
*高圧コンプレッサー 6段、空気流冷却システムを採用
*騒音レベル ステージ4規制に対し19 dbの余裕
*高圧タービン 1段 ブレード66枚で12,000 rpmで回転
*中圧タービン 1段
*低圧タービン 6段
ベースとなる787用Trent 1000-TENの特徴は次ぎの通り。「Trent 7000」とは中圧コンプレッサー(IPC)のケーシングとギアボックスが異なるが、他は全く同じ。
* 中圧コンプレッサー(IPC)・ケースには抽気ポートはない。代わりにギアボックス駆動のゼネレーターから500kwの電力を得る。
* バイパス比「10:1」:直系2.8mのファンで85%以上の推力を発生する。
* 低「ハブ:チップ比」:これが小さいので、ファン直径当りの空気流量が大きくなり、異物衝突(FOD)に対する耐久性が改善される。
* 中圧コンプレッサー(IPC)に防氷機能を付与:寒冷時や高湿度下で余裕ある運転をするため、IPCブレードの強度を高め、ステーター(ESS=engine section stator)には加温システムを組込んである。
図2:(Rolls Royce)Trent 1000-TENの分解見取図。①高バイパス比のファン、②3Dデザインの高効率中圧コンプレッサー(IPC)、③IPCは低圧系と逆方向回転、これで軽量化している、④電動システム採用のためIPCからの抽気はなく、ギアボックス経由で大電力を得る、⑤高圧タービン・コンプレッサー系は高効率設計、⑥IPCには加温型ステーター(ESS)を採用、運転範囲を拡大(図3を参照)。
図3:(Rolls-Royce) 加温システムを組込む中圧コンプレッサー(IPC)ステーター(ESS)。
最後にTrent シリーズ全体の開発、製造に日本企業が関わっていることに触れておこう;–
日本ロールスロイス社は、民間航空機部門に於ける日本とのパートナーシップに関し次ぎのように述べている。
『RRの主力エンジンTrentシリーズのほぼ全ての開発プログラムに、川崎重工、三菱重工、IHIなどの日本企業が「リスク収益分担パートナー」として参画中。
ボーイング787用のTrent 1000では、川崎重工が中圧コンプレッサー(IPC)およびフロント・ベアリング・ハウジングの設計・製造とエンジン運転試験の一部を担当、三菱重工が燃焼器と低圧タービンブレードの設計と製造を担当している。
エアバスA350 XWB型機用のTrent XWBの開発には川崎重工、三菱重工および住友精密が参画している。』
主題の「Trent 7000」への日本企業参画も当然引継がれている。
図4:(川崎重工)川崎重工が担当中のTrent 1000中圧コンプレッサー(IPC)。
–以上−
本稿作成の参考にした記事は次ぎの通り。
Aviation Week eBulletin Jul 21, 2014 “Rolls Details Trent 7000 Plans for A330neo” by Guy Norris
Golden Eagles News 07-24-2014 “Rolls-Roys Details Trent 7000plans for A330neo” @ Jul 14 2014 by Guy Norris
Rolls Royce Home page “Trent 7000”, “Trent XWB”, “Trent1000”
川崎重工「トレント1000量産へ」
Rolls Royce Japan Home Page「日本におけるロールス・ロイス」