–ギヤード・ターボファンの出現、大型ファンと軽量エンジンに注目、日本の技術も貢献—
2015-02–02 松尾芳郎
–(その2)から続く–
軍用エンジンの展望
P&W製F135エンジン
軍用エンジンでは、ロッキードマーチン(Lockheed Martin)製F-35戦闘攻撃機に搭載するP&W製F135(推力43,000lbs/アフタバーナ時)が唯一進行中の大型プログラムである。P&Wは昨年10月に国防総省からLRIP-8 (少量初期生産ロット8) 43機に充当する分として、48台のエンジン生産を10億㌦(1,180億円)で受注した。この中には、昨年6月にF-35Aで起きた低圧コンプレッサー内シールの異常摩擦による火災対策改修に関わる費用も含んでいる。
火災事故に付いては次ぎの記事を参照されたい。
「F135 エンジン改修は11月から開始」2014-09-21
このLRIP-8には我が航空自衛隊に引渡される最初の完成機4機が含まれている。
2007年から始まったLRIP-1の2機から今年1月までに約120機が完成、米国防総省と一部の関係国に引渡されている。LRIP-8分が完成すれば合計で216機となる。米国はF-35を空軍用F35A、海兵隊用F-35B、海軍空母搭載用F-35C合計で、2037年までに2,443機購入する計画。開発に参加している欧州諸国など米国以外の国々(日本を含む)では合計550機ほどの購入が見込まれている。従って合計のF-35生産数は3,000機になる見込み、またそのエンジンF135は、何も無ければ4,000台ほどが作られそうだ。
我国はF-35A42機購入を予定し、三菱重工が機体をライセンス生産、またF135エンジンをIHIでライセンス生産することが決まり、準備が進んでいる。
図:(P&W) F135エンジンは、ステルス戦闘機F-22ラプターに採用済みのP&W F119をF-35 用に改良して搭載するエンジン。図はF-35AおよびF-35C用のエンジンカットビュー。P&Wが主契約となり、RRは海兵隊向けF-35B STOVL機のリフトファン・システムで、またハミルトン・サンドストランド(Hamilton Sundstrand)は電子式燃料制御システム、ギアボックス、などで協力している。長さ5.6m、径1.17m、重量1.7㌧(3,750lbs)、推力43,000lbs で、推力/重量比は11.47。コンプレッサーはLPC 3段、HPC 6段、タービンはHPT 1段、LPT 2段の構成。
図:(P&W)F-35Bに搭載するF135では前方にRR製リフトファン、左右にロールポスト・ダクトが付く。さらに排気ダクトはスイーベル方式で着陸時には90度下方を向く。
P&Wでは、2016年からF-35用のF135エンジンと空軍の新しいタンカー・ボーイングKC-46A用PW4062エンジン(推力63,000lbs)の量産が本格的に始まり、2020年までには年産200台に達する予定。KC-46Aは、民間用767旅客機を基本にタンカーに改良した機体で、昨年末に初飛行を実施、2016年から米空軍に引渡しが始まる。2028年までに179機が導入される。
第6世代機用エンジンAETD
米空軍研究所では、将来の第6世代戦闘機用として、AETD (Adaptive Engine Technology Development)”アダプテイブ・エンジン技術開発”と呼ぶ推力45,000lbs級のエンジン開発計画を進めている。AETDエンジン計画は、2015年から始めて4年かけて可変サイクル・エンジン(variable-cycle engine)として完成させようと云うもの。このAETDエンジンに組込む新技術(複数)は、別途AETP (Adaptive Engine Transfer Program) “アダプテイブ・エンジン(技術)転移プログラム”として先行して開発し、AETDエンジン開発のリスクを軽減させる。
GEとP&Wは、AETDエンジンの初期設計を今年(2015)初めから進め、早ければ2016年にかけて部分的な試験を計画している。
アダプテイブ・エンジンとはADVENT (ADaptive Versatile ENgine Technology)
プログラムとも呼ばれる。AETDあるいはADVENTエンジンとは、これまでのエンジンが設計ポイントを1つ(つまり速度)に絞る“単サイクル”であるのを改め、複数の設計ポイントを持つ”可変サイクル”エンジン(Variable Cycle Engine)である。すなわち、軍用に必要な速度と民間用に求められる低燃費性能を同時に取得するのが目的である。現在の“単サイクル”エンジンに比べ、燃費は25%低減、運転温度を30%高くし、推力を5-10%増加させ、さらにアダプテイブ・ファンで効率的な冷却を図ろうと云うもの。
図:(GE Aviation)アダプテイブ・エンジンの概念図。ファン空気流は、これまで同様コアを通過するのに加え、2層のバイパス・ダクトを通り排出される。離陸や攻撃回避など高推力が必要な時はバイパス・ダクトを2つとも閉じてターボジェットとして運転し、長距離巡航では燃費を節減するため2層のバイパス・ダクトを開けてファンエンジンとする。3層目(外側)のバイパス空気流はバイパス効果だけでなく、排気ガスを包み冷却して、赤外線エミッションを減らしステルス性を高める。可変サイクルのためのダクト開閉は、センサーを含むデジタル燃料管制装置で行う。
GEは、第5世代戦闘機であるF-35用エンジンとして、RRと組み F136を提案、P&Wの F135と激しく争ったが、敗退した(2011年)。これを挽回すべくAETD開発には力を注いでいる。これまでにAETDに投入した資金は10億㌦。この内6億㌦はGEがLeap1やGE9Xあるいは”パスポート”ビジネスジェット・エンジンンに使う新素材CMCなどの先端技術からの転用で、AETD開発のみに投じたのは4億㌦と云う。
GEは、AETDを第6世代戦闘機用としてだけでなく、2025年以降におけるF-35の代替エンジン提案も視野に入れている。
GEが進めているAETD/第6世代エンジンは、ファン3段、高圧コンプレッサー(HPC)はCFM Leap1用の10段設計で圧力比は22:1の構成。最大の特徴は軽量、高耐熱性のCMC(セラミック・マトリックス・コンポジット)を多用し、大半のニッケル合金部品を置き換える予定だ。タービン入口ガイドベーンは1,630℃以上の高温に曝されるので、Ni基耐熱合金は溶けてしまう。
タービンの冷却に使うコンプレッサー・ブリード/抽気は、高圧力比のためかなり高温になる。これを冷やすためファン3層目ダクト内に熱交換器2個を設置、ファン・バイパス空気でHPCブリードを冷却して(65℃)から使う。冷えたブリードエアはタービンの冷却だけでなく機体の電子装備品室(electronics bay)の冷却にも使う。
AETD用ファンの小型モデルを2015年末にライト・パターソン空軍基地(Wright Patterson AFB, Ohio)の設備で試験する。続いて2016年には実物大コアを自社のイーブンデイル(Evendale, Ohio)の設備で試験する。これまでの試験運転で、試作コアは航空エンジン史上最高の運転温度を達成している。
この成果で空軍研究所から今年始め(2015-01-20) にADVENTエンジン開発フェイズ3の計画を3.25億㌦で受託した。フェイズ3契約では、エンジン全体の運転で高バイパスから低バイパスまで安定した運転が可能なことを実証する予定だ。
P&Wは、今年(2015)初めまでにAETDの基本設計を終わり、試作の高圧力比コアの運転試験を2016年初めに実施する。しかし詳細は一切明らかにしていない。続いて同年末までに3層軸流式のアダプテイブ・ファンとアフトバーナー・排気ノズルを組込んだ全体エンジンの地上試運転を始めるとしている。
図:(GE Aviation) GEが開発中のADVENT エンジン斜め後方の写真。黄色テープで塞いでいるのは3層目(外側)のバイパス出口。GEは最新の技術、先端材料CMC(ceramic matrix composite)で、空軍の目標を達成すべく10億㌦(1,800億円)の開発費を投入してきた。
GE製F414エンジン
GEの軍用エンジンの現在での稼ぎ頭はボーイングF/A-18E/Fに2基搭載されているF414(推力22,000lbs/アフトバーナ時)である。F/A-18系列機は1999年から配備が始まりこれまでに500機以上が生産されてきたが、数年後にはロッキードマーチンF-35Cの納入が始まり取って代わられる。2016年末までは年産100台の生産/主として米海軍への納入、が続くが、その先は終了を迎える。GEは、生産は先細りになるものの2025年までは続くと見ている。
インドではHAL製の軽量戦闘機テジャス(Tejas)の生産が開始されており、今年から最初の量産エンジンF414-INS6 99台の出荷がスタートする。
さらにスエーデンのサーブ(Saab)開発の新戦闘機グリペン(Gripen)JAS 39E/FにもF414系列エンジンの採用が決定している。スエーデン空軍は60機を、またスイス空軍は22機を購入する予定。納入は2018年から始まる。
やや不透明だが、韓国が開発を考慮中の双発戦闘機KF-Xでは、F414が欧州ユーロジェット(Eurojet)製EJ200と採用を競っている。
図:(GE Aviation) GE F414はアフタバーナ付きターボファン。F/A-18ホーネット用F404の改良型(推力35%増)で、写真のボーイングF/A-18E/F スーパーホーネット(Super Hornet)などに搭載されている。ファン3段、高圧コンプレッサー7段、全体の圧力比30:1。タービンは高圧、低圧共に1段ずつ。GEはF414の低圧タービンブレードをCMCで製作、試験を行っている。これを基に前述のGE9XあるいはAETDエンジンのタービンブレードをCMC製とすべく進めている。
ユーロジェットEJ200エンジン
ユーロジェットはAvio、MTU、ITPおよびRolls-Royceの合弁企業で、2013年中期までに合計1000台のEJ200エンジンを出荷している。Avioはイタリアのエンジンメーカー、MTUはドイツ企業、ITP(International Turbine Engine Co.)は米国のハニウエル(Honeywell)とAerospace Industrial Development Corp.の合弁会社である。ITPは、イタリアのアレニア・エアロマッキ社(Alenia Aermacchi)製ジェット練習機F124型機にF124エンジンを供給する予定である。またインド空軍のジャガー(Jaguar)戦闘機エンジン換装計画にもF124-INを提案中である。
終わりに
以上2015年民間用エンジンと軍用エンジンの展望を述べたが、GE Aviationの強さと、それに続くP&Wとロールスロイスの3強体制が今年も持続するのは明らかだ。そして、我国の企業が多くの新型エンジンの開発に関与し、また新素材で貢献していることが判る。注目すべきは軽量、高耐熱性の新素材CMCに必要な炭化硅素(SiC )長尺繊維の供給が、我国の独占である点。既述のようにCMCはGEが開発を進める軍民の新型エンジンの性能向上に大きく寄与している。また我国で開発を進めている次世代戦闘機「F−3」用に搭載予定の新型国産エンジン(推力33,000lbs)にもCMC技術が適用される。
–以上−
Aviation Week Jan 14, 2015 page 58 “Powerful Promise” by Guy Norris
MTU Aero Engines “PW1000G”
IHI “航空エンジン事業のご紹介” Nov 17, 2014
GE9X the world’s next great engine by GE
AINonline July 14, 2014 “GE9X Technology Validated as Program Gathers Pace” by Charles Alcock
Defense Industry Daily Jan 22, 2015 “The ADVENT of a Better Jet Engine?”
“GE Aviation Demonstrates Highest Core Temperatures in Aviation History” February 08, 2013
Rolls-Royce Press Release at 15 Oct. 2014 “Rolls-Royce Advance and UltraFan CTi fan blade flies for first time”
Rolls-Royce “日本におけるロールス・ロイス”
日本カーボンKKお知らせ2014.09.04”子会社NGSアドバンストファイバーの生産能力増強に関するお知らせ“
Defence.net international version Jun 25, 2014 “New Haize Engines Pushed to Service; Adaptive Engines Promise Greater Range and Efficiencies” by Haishan
Defense Industry Daily 2015-01-24 “An Update on the F-35 Final Assembly Line” by Steve Trimble of Flight International
Aviation Week eBulletin Jan 29, 2015 “Successful Rotating CMC Part Demp for Future GE Fighter Engines Saged” by Guy Norris
Aviation Week eBulletin Jan 29, 2015 “GE Details Sixth-Generation Adaptive Fighter Engine Plan” by Guy Norris