民間用エンジンの開発が目白押し、軍用エンジンを抜く(その2)


–ギヤード・ターボファンの出現、大型ファンと軽量エンジンに注目、日本の技術も貢献—

2015-02–02 松尾芳郎

–(その1)から続く–

現在型777搭載のエンジンGE90の生産は年産200台、2015年には227台となる。そして2016年からは次世代型777X用のGE9Xの生産が始まる。

GE9Xの開発は、設計が最終段階にあり、全く新しい設計の高圧コア(Core 1)の試運転は2015年内に行われる。そしてエンジン全体の試運転は2016年中に、飛行試験は2017年に開始する。型式証明取得は2018年、777Xの就航は2020年に予定している。協力企業は、日本・IHI、フランス・スネクマ、ベルギー・Techspace Aero、ドイツ・MTUなどで25%のコストを分担する。この内IHIは低圧タービン部品、タービンシャフトなど全体の15%を担当する。スネクマはファンケース、タービン・リアケース、ファンブレード、Techspace Aeroは低圧コンプレッサーとファンデイスク、そしてMTUはタービン・センターフレームをそれぞれ担当する。

GEは、コンポジット製ファンブレードで20年の経験を持っている。GE90-115Bエンジンのファンは22枚構成だったが、GE9Xでは素材に強化型第2世代CMC(セラミック・マトリックス・コンポジット)を使って16枚に減らし、重量の20%削減に成功している。

高圧コンプレッサー(HPC)では、空力性能を改善し圧力比27:1を達成、この結果全体圧力比は60:1となり民間エンジンの圧力比記録を更新した。なおGE90のHPC圧力比は19:1、GEnxは前述の23:1である。

HPTなど高温部分にも新耐熱素材CMCを使い、重量で3分の1、強度で2倍、許容温度の20%向上に成功している。

GE9X HPC

図:(GE Aviation)GE9Xの高圧コンプレッサー(HPC)は11段、圧力比27:1、これで全体の圧力比は60:1になり、民間エンジン史上最高となる。これにより777-300ER搭載のGE90-115Bエンジンより10%燃費が改善される。

ge9x

図:(GE Aviation)GE9Xは、CMC複合材製ファンブレード採用で、これまでで最少の16枚構成となる。前図のように11段HPCで記録的圧力比を達成。高圧タービン(HPT)にCMCを採用、性能向上を図っている。タービンケースとコンプレッサー・ケースを結ぶ補強ロッドはV字型2本配置だが、図示は1本のみ。

 

RR (Rolls-Royce)

ロールスロイス(Rolls-Royce)は、今月就航が始まったエアバスA350-900搭載のトレント(Trent) XWB-84(推力84,000lbs)の完成で一息ついたところ。続いて、今年6月頃にはA350-1000搭載用の大型エンジンRR XWB-97(推力97,000lbs)の飛行試験を、エアバス所有のA380飛行試験機に取付け行う予定である。このA350-1000は2017年に就航する。-900用のXWB-84エンジンは今年中に月産10台にし、2017年には月産30台に増やす。

787搭載エンジン市場ではGEと激しく競り合っているが、RRは今年中に改良型のトレント(Trent) 1000-TEN(推力70,000lbs級)を投入する。1000-TENは2014年に地上試運転に入り、今年中頃には同社保有の747-200飛行試験機で飛行試験を開始する。1000-TENにはトレントXWBで実証された新技術と開発中の新技術が組込まれ、787用としてシンガポールに新設した工場で生産される。そしてこれを搭載した787-8および同-9は2016年から就航する。さらに大きくした787-10の就航は2018年となる。

ロールスロイスのTrentシリーズのほぼ全てには川崎重工、三菱重工、IHIなどが「リスク収益分担パートナー」として参加してきた。最近では、Trent 1000で、川崎重工業が中圧圧縮機(IPC)モジュールおよびフロント・ベアリング・ハウジングの設計・製造やエンジン運転試験の一部を担当し、三菱重工が燃焼器と低圧タービンブレードの設計と製造を担当している。また、Trent XWBの開発には川崎重工、三菱重工および住友精密が参画している。

RRトレント1000TEN

図:(Rolls-Royce)トレント1000-TENは来年(2016)から引渡される787系列機に装着される。昨年5月から地上試運転が始まった。

 

1000-TENは、最新型のトレント(Trent)7000エンジンのベースとなる。この7000は昨年末にローンチしたエアバスA330neoに採用が決まったエンジンで、地上運転は2015年中に開始され、飛行試験は2016年の予定。トレント7000は推力68,000-72,000lbsで型式証明取得は2017年第1四半期、A330-800neoおよび-900neoに搭載される。また長期的にはA380のエンジン換装の話が具体化すれば、A380neo用としてRRはこれを提案したい、としている。

現在のA330はトレント700(推力約70,000lbs)を搭載し大きな成功を収めているが、これをトレント7000に換装しA330neoとすることで、RRは伝統を受け継ぐ格好の事例としている。トレント700は1995年から使われ、2014年11月には1,500台目の納入を済ませ、66社で合計3,000万エンジン時間の実績を打ち立てた。

今年はまたRRにとっては、2020年の実用化を目指す将来エンジン“アドバンス(Advance)”に採用する新技術開発のための重要な年となる。”アドバンス”計画は、ファン・バイパス比は11:1、全体の圧力比は60:1以上、燃料消費率は現在のトレント700対比で20%以上改善、と云う目標を掲げている。これに続いて2025年を目標に、トレント700対比で燃費25%改善を目標とする”ウルトラファン(UltraFan)”の開発に取組む。“ウルトラファン”はRR伝統の3軸ではなく2軸式で、P&Wギヤード・ターボファンと同じファン駆動ギアを設け、さらにファンを可変ピッチとし、バイパス比を15:1にし、全体の圧力比を70:1に高めようとしている。

RR新型ファン

図:(Rolls-Royce)RRの次世代エンジン“アドバンス(Advance)”と“ウルトラファン(UltraFan)”に使うカーボン/チタニウム(CTi)複合材ファンブレードの飛行試験が始まった(2014-10-15)。写真はRR所有の747飛行試験機の2番エンジンに、CTi複合材ブレード(青色)を組込んだトレント1000を取付け離陸したところ。場所はタクソン(Tucson, Arizona)基地。

RR CTiファン

図:(Rolls-Royce)RRの次世代CTiファンブレードはトレント1000 ALPS (Advanced Low Pressure System) プログラムとして飛行試験に入った。CTiファンブレードと複合材ケースの組合せで、1機当り700kg軽くできる。

 

ロールスロイスのTrent系列エンジンについてはこれまでも述べてきたが、以下に記事名を示すので参考にされたい。

*「エアバスA350 XWBの概要」5ページ、2013-10-16

*「ロールスロイス、複合材(CFRP)ファンブレードを復活」2013-10-24

*「エアバスA330neoに装備するRRトレント7000エンジンとは」 2014-07-29、2014-08-02改訂

*「ロールスロイス、新型エンジン開発計画を発表」2014-08-29

 

軽量、高耐熱性の新素材CMCとは

GEとRRなどが、採用を進めている新素材CMCについては次ぎの記事を参照されたい。

「超合金に替わる“セラミック・マトリックス複合材(CMC)」2014-04-09作成」

CMC(ceramic matrix composite)材は、金属材料に比べ耐熱性が20%も高く、重さは3分の1、と云う優れた性質を持つ次世代エンジン用の素材である。この軽量化による相乗効果は3倍を遥かに超える。すなわち、ファンブレードをCMC製にすればファンの重さは3分の1となるが、それに繋がるタービンデイスクや他の部品もずっと軽くなるからだ。

これには日本の企業「日本カーボン」が開発した耐熱性と耐久性に優れたシリコン・カーバイド(SiC)長尺繊維“ニカロン(Nicaron)”が使われる。“ニカロン”(Nicalon)は、直径20μのシリコン・カーバイド(SiC)の長尺繊維、人間の毛髪の4分の1ほどの極細繊維。良く知られている炭素繊維は、耐熱性がなく高温で燃えるが、炭化硅素(SiC)繊維は高い耐熱性を持つ。これをセラミックの中に入れ、強化して使うのがCMCである。

日本カーボンでは以前からニカロンをGE、RRなどに供給してきたが、このほどGE(Newark, Del.)およびスネクマ(Snecma)と共同で、東京に「NGSアドバンスド・ファイバーズ(NGS Advanced Fibers)」社を設立(2014-09-04)、大量のSiCニカロン繊維を長期的に安定して供給する体制を確立した。

GEでは、CFM Leap1のタービン・シュラウドなどにニカロン入りCMCを使用する。またGE9Xでは高圧タービン部品のみならず、ファンブレードもCMC で製造し軽量化/性能向上を図る。

 

Snecma(Safranの子会社)

スネクマ(Snecma)は、大型のビジネスジェット、ダッソー(Dassault)ファルコン(Falcon) 5Xおよびセスナ(Cessna)サイテーション・ロンジチュード(Citation Longitude)に採用された新エンジン、シルバークレスト(Silvercrest)を開発中である。このエンジンは、推力9,500-12,000lbsで、大型、長距離用ビジネスジェット、あるいは40-60席級のリージョナル機用のターボファンである。2015年末に型式証明を取得する予定。スネクマでは現在米国でガルフストリーム2に取付けて飛行試験を行っており、並行してフランス国内の2ヶ所(VillarocheとIstres)で地上試験を行っている。また、耐久試験はサフラン(Safran)の子会社であるベルギーのTechspace Aero社で実施中である。前述のP&WC 製PW800と競合関係にある。

Silvercrest

図:(Snecma) シルバークレストは、2軸式、ファン直径40㌅、バイパス比は5.9:1、高圧コンプレッサーは軸流4段+遠心1段式で圧力比は17+:1、全体圧力比は38.5。タービンは高圧1段と低圧3段。

 

–以下(その3)に続く–