2016-04-30(平成28年) 松尾芳郎
図7:(Space X)「ファルコン9」は2段式ローンチャー、1段目はマーリン1D(Merlin)(推力18万lbs)を9基束ね、定格は約130万Lbs。再利用技術の確立を目指している。写真は今年(2016)4月8日1段目が初めて曳船に着陸した様子で我国でも大きく報道された。1段目、2段目は同じエンジンで、液体酸素(LOX)/ケロシンを使い、衛星など13トンを低地球周回軌道(LEO)に、5.3トンを静止軌道(GTO)に投入できる。
図8:(Space X)「ファルコン9」の1段目は、2段目と共通の「マーリン1」エンジンを写真のように9基束ねている。これまでNASAの国際宇宙ステーション (ISS) への貨物輸送に同社開発の「ドラゴン」宇宙船で3回成功済み。
「スペースX」社は、これと並行して新型ロケット「ラプター(Raptor)」計画を進めている。「ラプター」は液体酸素/液体メタンを使う「段階燃焼サイクル(staged-combustion cycle)」形式。当初は2段目用ロケットとして現用の「マーリンC/D」の後継との位置付けだが、将来は火星有人探査用ロケットの一段目に使うことが目標だ。開発には自己資金6,700万ドルを投じて来たが、このほど空軍から3,360万ドルの支援を受けることに成功した。「ラプター」は「ファルコン9」で使う「マーリン1C/D」の数倍、510,000 lbs (230トン)の推力を出す予定。
図9:(Space X)「ラプター」は、液体水素(LH2)と液体酸素(LOX)を使い「段階燃焼サイクル」を使う最新型エンジンで、燃料効率を表す比推力(ips)値は470秒に達する。現在大型打上げロケットの2段目に使われているA-R社の「RL-10B2」の比推力465秒、推力2,5万lbs、に比べ大きく勝る。将来は「ファルコン9」用の「マーリン1C/D」の代替となる予定。この場合新ローンチャーは「ファルコン9」の直径3.7 mに対し、直径10 mにもなる超巨大機となる。
「ラプター」は、再利用可能なロケットとして設計され、部品はアデイテイブ・マニュファクチャリング(additive manufacturing)、いわゆる3-Dプリンテイング方式で製造される。濃酸素予燃焼室やインジェクター(主燃焼室)などの主要部品はNASAのステニス・センターとスペースX社のマクレガー(McGregor, Texas)試験場で試験済みである。
同社によると、「ラプター」は材料と革新的な生産方式でリスクを最小限に抑え、低価格化することで、長期的に十分な競争力を備えたロケットになる、そして「安全保障のための宇宙開発(NSS=national security space launch)」用として正に理想的な性能のエンジン、としている。
オービタルATK
「オービタルATK」社は、航空宇宙防衛を手がける大企業でバージニア州ダラスに本拠を持つ。同社は世界最大の固体燃料ロケット製造業者で、一体型(monolithic)及び分割型(segmented)の大型固体燃料ロケットの開発を得意としている。
同社で開発中の次世代型中型ロケットに、このほど空軍からOTA資金4,690万ドルの交付が決まり、開発に一層弾みがついた。この資金は、単独で使う1段目用の分割型固体燃料「Common Booster Segment」ロケットと、他の打上げローンチャーのブースターとして使う「グラファイト・エポキシ・モーター(GEM=Graphite Epoxy Motor) 63XLの開発も含んでいる。さらに、2段目に使う「ブルー・オリジン」のBE-3U/ENエンジン用の伸長式ノズルの開発費にも充当される。
同社は、新型ブースターの地上試験を2018年に行ない、2019年には飛行試験を行う予定にしている。
これらは「安全保障のための宇宙開発(NSS=national security space launch)」用として型式証明取得に向けての作業中。同社のマグナ(Magna, Utah)、ユーカ(Iuka, Mississippi)、チャンドラー(Chandler, Arizona)の各施設で始まっている。
図10:(Orbital ATK) NASAの宇宙ローンチ・システム(SLS)用に開発中の5分割固体燃料ブースター(five-segment solid rocket booster)、図のローンチャー本体の両脇に描かれている部分がそれ。長さ177 feet,直径12 feet、世界最大の固体燃料ブースターで、ローンチャーに取付ける推力増強用。
図11:(Orbital ATK)地上試験中の5分割固体燃料ブースター。138万5000lbs の燃料を2分間で燃焼する。これは毎秒5.5トン燃焼するのに相当する。推力は110万lbs以上、ローンチャーの1段目として十分使える。燃焼中の最高温度は5,600度F(およそ3,100℃)に達する。この温度では鋼は溶けるのではなく沸騰する。全長177 ftは17階立てビルに相当する。
前述のGEM 63XL補助推力用ブースターの開発は、ULA社が今後の「アトラスV」と新しい「バルカン」ロケット打ち上げ用として昨年9月に発注を決めたことから開発が急がれている。
図12:(NASA)写真は「デルタIV」ローンチャー用のオービタルATK社製「GEM-60」固体燃料ブースター。左が先端で、右が後端になりノズルが見える。ULAの「バルカン」にはこれを大型化した「GEM-63XL」が使われる。完成は2018年末の予定。「GEM-63XL」は直径63 inch、長さ67 ftで一体型(monolithic)、地上推力は190トン程度、燃焼時間は90秒である。固体燃料は「HTBP」と呼ぶゴム状のもの。
段階燃焼サイクル (Staged Combustion Cycle)とは
「Staged Combustion Cycle」は「予燃焼室サイクル (preborner cycle)」とも呼ばれ、燃料の1部を予燃焼室で燃焼させて、燃料ポンプ駆動用タービンを回し、その排ガスを主燃焼室に送る方式である。こうして全ての燃料を主燃焼室(injector)で燃焼し推力を生み出す。2つの方式があり;—
酸素を濃くする「濃酸素予燃焼サイクル(oxidizer-rich staged combustion)」
燃料を濃くする「濃燃料予燃焼サイクル(fuel-rich staged combustion)」」
「段階燃焼サイクル」では全ての燃料が主燃焼室(Combustion Chamber)で燃やされるので効率が高い。
これに対し予燃焼室(Pre-Burner)で燃やした排気(Exhaust)を主燃焼室に送らず、外気に捨てる方式を「ガス・ジェネレーター・サイクル」と言い、これまで多くのエンジンが採用してきた。
図13:(Wikipedia)「ガス・ジェネレーター・サイクル」は予燃焼室で燃やしたガスでタービンを回し、そのまま排気(Exhaust)として捨てられる。効率は劣るが構造が簡単なため多く使われている。Space X社「ファルコン9」用の「マーリン1」などがその例だ。
図14:(Wikipedia)「段階燃焼サイクル(staged combustion cycle)」の「濃燃料予燃焼サイクル(fuel-rich staged combustion)」の例。ここでは全ての燃料(Fuel)と1部の酸化剤(Oxidizer)が予燃焼室(Pre-Burner)を通り濃燃料ガス(Fuel-rich gas)となる。そしてタービン(Turbine)を回し、ポンプを駆動してから主燃焼室(Combustion Chamber)に噴射され、酸化剤(Oxidizer)と混合燃焼する。構造が複雑になるが、効率が高い。濃酸素(oxygen-rich)予燃焼室サイクルでは図中の燃料とOxidizerが入れ替わるが、燃焼室の圧力を一層高くでき、効率が上がる。しかし高温の酸素を扱うので予燃焼室やタービン、関連ダクト類には厳しい耐酸化性能が要求される。
図15:(Wikipedia)「段階燃焼サイクル(staged combustion cycle)」の進化した「全流量型段階燃焼サイクル(FFSC=Full-flow staged combustion cycle)の例。予燃焼室(Pre-burner)は、濃酸素(Oxidizer-rich)と濃燃料(Fuel-rich)の2つがあり、それぞれで液体酸素及び燃料を送る別々のターボポンプを回す。これで両ターボポンプを流れる流量が増えタービン温度と圧力を下げることができ、信頼性が高まる。「スペースX」が開発中の次世代エンジン「ラプター」は、液体水素(LH2)と液体酸素(LOX)を燃料とするが、この「FFCS」サイクルが採用される。
—以上—
本稿作成に参考にした主な記事は次の通り。
Aviation Week April 11-24, 2016 page 50-55 “Rocket-Propelled” by Frank Morring, Jr and Guy Norris
ULA “Vulcan Centaur and Vualcan ACES”
ULA “BE-4 Rocket Engine”
Blue Origin “BE-4: America’s Next Rocket Engine”
Space News “Blue Origin plans growth spurt this year”@ March 8, 2016 by Jeff Foust
Spaceflight Insider September 15, 2015 “Blue Origin’s “Very Big Brother” heralds Firm’s Operatins at SLC-36B” by Jaxon Rhian
Aerojet Rocketdyne “AR1 Booster Engine”
Space X “Falcon 9”
SpaceNews “Space X reusable Falcon 9: What are the real cost saving for customers?”
SpaceNews April 27, 2016 “Space X win $83 million contract for 2018 Falcon 9 launch if GPS3 satellite
NASA Spaceflight.com “The Raptor Engine History”
Orbital ATK “Space Launch System(SLS)-Solid Rocket Boosters”
Apaceflight Now Sept. 22 2015 “Orbitao ATK beats out Aerojet in ULAvbooster Selection” by Stephen Clark
Wikipedia “Staged Combustion Cycle”
TokyoExpress 2016-04-11 “「アマゾンの創立者Jeff Bezos」が設立した宇宙企業「ブルー・オリジン」とは“