三菱、先進技術実証機「X-2」が初飛行


2016-05-02 (平成28年) 松尾芳郎

2016-05-03 改定(5ページに第1航空団、第4航空団、岐阜基地の説明を追加)

 F-2開発に係る保管物品について

図1:(防衛省)4月22日に初飛行した次世代戦闘機用先進技術実証機「 X-2」。10年前にフランスでステルス性能試験に使われたモデルに比べ胴体が太くなっている。

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図3:(防衛省)地上走行試験の前に公開された「X-2」。キャノピーには覆いがされている。

 

以下は、先日外誌が先進技術実証機「X-2」の初飛行成功に関して述べた記事を参考にして書いたものである。

防衛省技術研究本部(TRDI)計画の次世代戦闘機用の先進技術実証機「X−2」が去る4月22日に名古屋空港を離陸して26分間の初飛行を行った。総額約400億円を投じて完成した「X-2」だが、どのような先進技術を組み込んであるのか、将来の新戦闘機配備計画に中でどのような位置付けになるのか、詳しくは明らかにされていない。

初飛行は、同じ三菱が作る「F-2」戦闘機が護衛して空自実験航空隊のある岐阜基地まで行われた。

2007年に技術研究本部が「ATD-X」の名称で5カ年計画として開始したプロジェクトだが、予定よりかなり遅れての初飛行となった。2014年5月に三菱小牧南工場で組立てが完成していたたが、飛行の遅れの理由は明らかにされていない。

「X-2 」は、ステルス形状、レーダーなどを機体の外皮に埋め込むスキン・センサー、操縦系統は光信号で制御するフライ・バイ・ライト方式、それからエンジン排気ノズルには推力偏向装置(thrust vectoring)、などを組込んであると云われているが、これからそれらの検証をする。この「X-2」をベースにし、大型化した新戦闘機「F-3」の開発の是非を2018年には決定する。開発がスタートすれば2030年頃から配備が始まる。

時事通信によると、「X-2」は離陸重量13トンだったと云う。2007年の報道では9トンとされていた。仮にこれが自重(空虚重量)とすると、翼幅9.1 m、長さ14.2 mの大きさから見てやや重いように思える。

胴体は、2005年にフランスで試験した「ATD-X」のステルス性能チェック用モデルに比べ、多少太め(good deal deeper)になっている。また、主翼前縁付け根にあったレーダー反射を防ぐためのスロットが無くなっている。

「X-2」の超音速性能については公表されていないが、翼付け根のエンジン空気インレットの形状から十分な超音速飛行が可能なことが判る。インレットの形状をよく見ると、前部胴体側面に生じる境界層を吸入するスロットがインレット内側にある。これは、最新のステルス機ではステルス性を阻害するとして使われなくなっているが、「X-2」では依然として使うようだ。

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図3:(防衛省)「X−2」の原型「ATD-X」のステルス性能(RCS)試験用実物大モデル、2005年にフランス国防装備庁の電波暗室で行われた。この試験は米空軍の施設で行おうとしたが断られたため変更された。

 

もう一つの特徴は垂直尾翼(fin)の付け根がかなり厚目になっていることである。これは胴体から生じる強い後流渦の中で方向舵を操作するため、強力な駆動装置が必要となったためと思われる。胴体後部には着陸用の制動フック(arrestor hook)があるが、これは臨時に取付けられたものらしい。制動フックはレーダー反射面積を大きくするからだ。

戦闘機にはミサイル等を収納する兵装庫が必要だが「X−2」にはない。防衛技研は今後、超音速飛行で兵装庫からミサイルを発射する試験を風洞試験を交えながら取り組まなくてはならない。また「X-2」には翼下面にミサイル、誘導爆弾などを取付けるハードポイント(hard points)が設置されていないが、これは「F-2」戦闘機などで経験があるので問題なかろう。

「X-2」完成機の仕上がりはかなり精密で、同じ三菱製のリージョナルジェット「MRJ」試作1号機を彷彿させる。「MRJ」は同じ名古屋空港から昨年11月に初飛行を行った。「X-2」を構成する部品の90%以上は日本製で、富士重工が主翼の製造を担当している。

エンジンはIHI製の「XF5-1」、重さ644 kg、これを2基装備する。「XF5-1」は低バイパス比ターボファンでアフトバーナ付き。「XF5-1」は、川崎重工が作る「P-1」哨戒機に搭載する「XF—7」高バイパス比ターボファンの派生型で、推力は11,000 lbs、これで「X-2」の推力/重量比は離陸時で約0.77となる。

「X-2」の予備的な開発が始まったのは2000年で、将来戦闘機開発のための技術力を温存して、「F-3」戦闘機開発に繋げようと云う目的で検討が始まった。

しかし具体化したのは2007年で、日本が求めていたロッキード・マーチン製「F-22」ラプター・ステルス戦闘機の輸入が米国により拒否されたため、この実証機の開発が承認された。最初は2008年から開発をはじめ2011年に初飛行ということだったが、実際には2009年にスタートし、当時の計画では2013年に飛ぶと云うことだった。

2012年になると初飛行は2014年に延期され、後に2015年1月に改められた。しかし期日になると、エンジンの空中再起動ソフトの改良のためと一部部品の納入遅れの理由で、さらに3ヶ月先延ばしされた。今回の初飛行はそれから1年遅れることになったが、理由は不明。

こうして「X-2」はやっと初飛行に漕ぎ着けたが、将来の日本空軍での位置付けについては明らかにしていない。すでに「F-3」戦闘機の概念設計はほぼ固まっている。詳しくは、TokyoExpress 2014-11-25掲載、2014-12-08改定3“我国の次世代戦闘機「F-3」の概念設計が進む”に述べてある。

2030年代用の戦闘機「F-3」計画の自国開発を断念する場合、日本は他国との共同開発を考えている。しかしヨーロッパには新戦闘機開発計画はないので、やはり米国と共同開発をするしか道はなさそうだ。

日本は「F-35A」ライトニングIIを、現在保有している「F-4EJ改」の後継機として42機を発注済みである。しかし、導入後30年を経る「F-15J/DJ」や15年を過ぎる「F-2A/B」などの後継機は決まっていない。これらに「F-3」を当てたいとする意見が強いが、予算の制約もあり防衛省幹部は口を濁している。

防衛技研の平成27年度概算要求を見ると、先進技術実証機「X-2」の試験継続と合わせて、現有「F-2」戦闘機の退役時期までに戦闘機関連技術の高度化を図りたいとして、「高推力エンジン」、「ヘルメット・マウンテッド・デイスプレイ」、「ステルス性を考慮した翼前縁と機首に装備するレドーム」、の研究を平成32年頃までに完成させたいとしている。これから見ると防衛省内では、「F-2」の後継として先進技術を搭載した「F-3」の実現を期待している様子が伺える。

 

最後に、我が航空自衛隊の戦闘機部隊の配備状況を簡単に紹介する。

戦闘機配備

図4:(Wkipedia)2016年現在の空自が使用する戦闘機の一覧。総計約250機の規模で中国、ロシアの脅威に対抗している。

 

戦闘航空団は戦闘機飛行隊ほぼ2飛行隊を含んで構成されている。したがって各航空団には戦闘機40機+が配備されている。我が空自の戦闘航空団は次の通り。すなわち、

第2航空団(千歳)、第3航空団(三沢)、第5航空団(新田原)、第6航空団(小松)、第7航空団(百里)、第8航空団(築城)、第9航空団(那覇)、の計7航空団からなる。

このほかに第1航空団(浜松)、第4航空団(松島)、がある。

第1航空団:航空教育集団の属する航空団で、中等練習機で基本操縦訓練を行い、航空従事者技能証明を履修、取得させる。

第4航空団:航空教育集団の属する航空団で、主にF-2及びF-4の操縦訓練を行う。配下の第11飛行隊は曲技飛行を担当するブルー・インパルスである。

岐阜基地 :岐阜県各務ヶ原にある我が国最古の歴史を持つ飛行場で、飛行開発実験団がある。ここでは空自運用の航空機や装備品の試験が行われる。従って「X-2」を含む空自保有の航空機の殆どがここで試験される。隣接地には川崎重工の大型ハンガーがあり、XC-2輸送機及びP-1哨戒機の開発、改良が行われている。

—以上—

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

Aviation Week Apr. 28, 2016 “MHI X-2 Fighter-Technology Demonstrator Makes First Flight” by Bradley Perrett

TokyoExpress 2014-06-22掲載、2014-06-23改定“先進技術実証き「ATD-X」(心神)、今年末に初飛行”

TokyoExpress 2014-07-14掲載“先進技術実証き「ATD-X」が完成、地上試験を開始”

TokyoExpress 2014-11-25掲載、2014-12-08改定3“我国の次世代戦闘機「F-3」の概念設計が進む”