日本の次世代戦闘機F-3は実現するか?


–F-22を凌駕する新戦闘機「F-3」、2030年配備を目指す–

 

2012-11-12  松尾芳郎

これは、2013-09-02掲載の「先進技術実証機[ATD-X](心神)から次世代戦闘機[F-3]へ」を補完するため、2012-11-12に他ブログに掲載した「日本の次世代戦闘機F−3は実現するか?」を転載したものである。

防衛省が平成22年(2010年)8月発表した「将来の戦闘機に関する研究開発ビジョン」およびAviation Week/Oct. 22. 2012, Page 24~記載「GenerationF-X」などを参考にして、世間で「F-3」と呼んでいる次世代戦闘機構想を紹介する。

 

はじめに

米空軍は、2030年頃までに現在のロッキードマーチンF-22やF-35を超える新戦闘機を開発する計画を持っている。一方我国でもほぼ同時期に同じような次世代型戦闘機を開発、配備する構想が進んでいる。

我国の新戦闘機計画と米国のF-35後継機計画は、偶然同じ頃の実現を目指しているので、あるいは将来両者が合体することになるかも知れない。我国の計画は、2014年に実証機「心神」の初飛行、2016年から新戦闘機「F-3」の本格開発を開始、2025年頃に初飛行、2027年頃からの量産配備を目指している。「F-3」には自国開発のステルス技術を使い、また国産の新エンジンを搭載する予定だ。

 

ステルス技術実証機「ATD-X」(心神)

心神下面

図:(防衛省)2014年(平成26年)9月の初飛行を目指して開発中のステルス技術実証機「ATD-X」(心神)。この成果をベースにして新戦闘機「F-3」の開発が始まり2024-25年頃の初飛行を予定している。

 

XF5-1エンジン (2)

図:(IHI)2012年航空宇宙展で展示されたIHI製の新型実証エンジン「XF5-1」、全長3m、直径0,6m、重量0.64㌧、推力はアフトバーナ時で約5㌧、アフトバーナ無しで3.5㌧。実証機「ATD-X」(心神)に2基搭載される。

 

防衛省技術研究本部が指揮して進めている先進技術実証機「ATD-X」「心神」は、2012年3月28日から製造段階に入り2年後に完成、2014年9月には初飛行する予定である。

約400億円掛けて試作中の単座、双発の「ATD-X」「心神」は、機体表面の電波吸収材とその形状で高ステルス性を備え、エンジン排気孔に付けた3枚の推力偏向パドルによる高機動性を持つのが特徴。

高機動性を実現するために「統合飛行制御システム(IFPC=Integrated Flight Propulsion Control system)が開発され、ステイック一本で翼舵面と推力偏向パドルを同時に動かして、運動性能を高めている。

「ATD-X」「心神」は重量13㌧、全長14m、翼幅9mの比較的小型機で、エンジンはIHI製の実証エンジン「XF5-1」推力5㌧を2基装備する。最大時速は高高度でマッハ2.5と云われている。AESAレーダーや高度な電子機器、および兵装は搭載しておらず、純粋の先進技術実証機である。

IHIは「XF5-1」の技術を基にして、現在推力15㌧(33,000lbs)クラスの新実証エンジンの開発を進めている。

「ATD-X」「心神」の組立ては三菱重工飛島工場で開始され、2年後の完成、初飛行を目指している。そして同社はこれを基に新戦闘機「F-3」の開発に取組むことになる。

 

新戦闘機「F-3」の開発構想

「F-3」の開発が本格化するのは「ATD-X」「心神」の実証試験結果が得られた後、その成果が反映できる2016年または2017年となる。そして「F-3」原型機の初飛行は2024-25年なる予定だ。そして本格的な量産開始は2027年で、2030年代中頃までに現在のF-2攻撃戦闘機と交替する予定。2030年代後半頃にはF-15J戦闘機が退役しその後を「F-3」が埋めることになる。この時期にはF-15Jはかなり旧式になるが、近代化改修で老朽化を防ぎながら我国の防空を担う予定だ。

具体的な計画は明らかにされていないが、空自が保有しているF-2、およびF-15J、これからF-4EJ改の更新用として導入されるF-35戦闘機(42機)などの後継として、「F-3」を充当し約200機を生産することを考えている模様。一方米海軍と空軍はF-Xと呼ぶ新戦闘機を2030-35年頃から配備したいとしている。

「i3ファイター」構想とは

新戦闘機「F-3」には様々な新技術を盛り込み、中国やロシアなどで開発中の機体に対抗し、性能面で断然優位に立てる機体にしたいとしている。すなわち我国で開発された独自の技術を使って、考えられる数的な劣勢とステルス化された脅威に対抗しようと云う考えだ。防衛省ではこれらの新しい要素技術を集積し「i3ファイター」構想と呼んでいるが、それは次ぎの言葉の頭文字からきている。

・”Informed/高度に情報化された技術”

・”Intelligent/知能化された技術”

・ Instantaneous/瞬時に敵を撃破する技術”

具体的には次ぎのような要素技術について研究が進んでいる。

*ネットワークで繋がった有人機、無人機の群れの中から、どれかが敵を探知すれば直ぐに誰かが撃てる“新データリンク”「統合火器管制」システムを搭載する。

*操縦系統などには電子戦に強い光ファイバーを使った「フライ-バイ-ライト」(FBL)システムを採用する。「FBL」はすでに海自の新型哨戒機「P-1」に搭載、世界で初めて実用化に成功している。

*機体構造には高い電波吸収機能のある「シリコン・カーバイド繊維」を採用する。コクピットキャノピ–には高い電磁遮蔽性能を持つ「プラズマテレビ用電磁シールド」を採用する。さらに機首レーダー収納部には電波反射波の方向を曲げる機能を持つ「メタマテリアル」を使う。これ等の基本素材は、我国で開発済みかあるいは開発の最終段階にある。

*現在世界各国で主流となっているレーダーはガリウム・砒素(GaAs)半導体素子を使ったAESAレーダーである。「F-3」に搭載するレーダーは、(GaAs)素子に代わり、出力が3倍もある、従って探知距離が飛躍的に伸びるガリウム・ナイトライド(GaN)半導体(窒化ガリウムとも云う)素子を使用する。

「GaN」送受信素子は、昨年就役した新護衛艦「あきずき」クラスに搭載された「FCS-3A」射撃管制レーダー(三菱電機製)に使われたのが世界最初である。また「F-2」戦闘機近代化計画の一つとして「F/APG-2」レーダーの搭載が始まっているが、これも「GaN」素子で作られている。さらに従来の99式空対空誘導弾「AAM-4」を改良した「AAM-4B」誘導弾にも「GaN」素子製のAESAレーダーが新たに装備された。「GaN」素子製のレーダーを実用化したのは我国が最初で、米国を含む他国では未だ開発途上にある。

*「F-3」には、高出力の(GaN)レーダーと赤外線センサー(IRST)および電子支援装置(ESM)から得られるデータを融合して、ステルス機の探知、対処を可能にする「戦闘機搭載用センサー/スマートRFセンサー」を開発し、前述の「統合火器管制システム」の主装備として搭載する。

*さらに航空機の外形形状に沿ってレーダー送受信素子を配列する次世代型センサー・システム「スマートスキン機体構造の研究」が完了済みである。スマートスキンが実現すれば、自機周辺全体の状況把握が一層容易になり、脅威への対処能力をさらに向上させることができる。

一部では、将来「i3」技術は米国にも提案され米国のF-X開発にも寄与することになるかも知れないとの観測がなされている。

 

新エンジン

「F-3」用として開発中のIHI製新エンジンは、F/A-18E/Fスーパーホーネットに2基搭載しているGE F414エンジンより推力が50%も大きい33,000lbs(15㌧)になる予定だ。F/A-18E/Fは空虚重量14㌧最大離陸重量30㌧で、F414エンジンはアフトバーナ時推力10㌧。このことから新エンジンは「F-3」には充分余裕を持って対応できる。

F-3用エンジン

図:(防衛省)「F-3」用の新エンジン概念図、2010年(平成22年)から「次世代エンジン技術の研究」として開発がスタートし、2015年(平成27年)にコアを完成し、実証エンジンの試運転を2017年まで続ける予定。

 

図の“黄色”の部分が高圧系でコンプレッサー6段、タービン1段、その前後の低圧系は”白色”で示すファン3段、タービン1段、の2軸構成。高圧系と低圧系は逆方向に回転し、これで低圧タービンのベーンを省略している。タービン入口温度を上げるためベーンとローターシュラウドには、耐熱性の高いセラミック・マトリックス複合材(CMC=Ceramic Matrix Composite)を使用する。

昨年公表された新エンジンの概要によると、全体の構成はF-22ラプターに搭載されているF119-PW-100エンジン/アフトバーナ時推力35,000lbs(15.8㌧)に似ている。ファンのインレット部にはレーダー反射を少なくするようにデザインしたベーンを備えている。

F-3エンジン要素

図:(防衛省)新エンジンのモジュール、左はファン3段、右は高圧コンプレッサー6段。ファンおよび高圧コンプレッサー部は、ブレードとデイスクを一体加工で作る”ブリスク”構造となる。これで各段のエアリークを防ぎ高い効率が得られ、部品点数を少なくする。

 

このエンジンの外見の特徴は極めてスリムなボデイだ。同クラスエンジンの前面直径は、F/A-18C/Dスーパーホーネット用(2基)のF414(推力10㌧)は「0.89m」、ユーロファイター用(2基)EJ 200(推力9㌧)は「0.74m」だが、新エンジンの直径はこれ等と同程度あるいは以下となる模様。小さな前面面積と低バイパス比でアフトバーナを使わずに超音速巡航ができる。

高性能を得るために、高圧タービンの入口温度を1,600℃(2,900℉)以上にすべく研究が続いている。地上設置型ガスタービンでは、すでに三菱重工が昨年この運転温度を達成している。

高性能タービンの研究では、単結晶タービンブレード、セラミック・マトリックス複合材(CMC)製のタービンノズル、先進型燃焼室などの試作と試験が進んでいる。CMCの原料“シリコン・カーバイド”「炭化硅素(SiC)」繊維は日本メーカーの得意とする分野で、米国の新エンジン計画「ADVENT」および「AETD」のタービン耐熱材料用として我国から独占的に供給している。

米国のある専門家は「F-2」のエンジンについて次ぎのように話している。すなわち

“将来若し「F-3」計画と米国の新戦闘機計画が合流すると、米国がすでに「AETD」エンジンの開発に取組んでいるので、IHIの開発は不必要になるかも知れない。しかし日本は、協議が不成立になった場合に備え、自主性を保つために新エンジン開発を続けるだろう。場合によってはその技術が米国を助けることになるかも知れない。”

 

むすび

前述した防衛省公表の「将来の戦闘機に関する研究開発ビジョン」によると「F-3」の開発には機体サイズにもよるが、5,000~8,000億円規模の経費が必要とされる。

エビエーションウイーク誌が今年10月に我国の新戦闘機「F-3」計画を採り上げてから、ロシア、中国を含む多くの関連サイトで様々な意見が述べられてきた。国内サイトの意見を纏めると;—

・ 独自開発で実現してほしい

・ 米国の圧力でF-2の場合と同じく共同開発になるのではないか

・ 近年の防衛費漸減傾向に歯止めが掛からなければ開発は無理だろう

・ 技術的に難題が多すぎる、エンジン開発は米国にかなわないだろう

多少解説すれば;

「F-2」戦闘機が日本側6、米国側4の割合で共同開発と決まったのは1988年11月のこと。当時日本側は、①主翼を炭素繊維複合材で作ること、②レーダーをフェイズド・アレイ方式にすること、と云う当時としての最新技術を使うことを決定。エンジンは自主技術がなかったため、GE製F110-GE-129推力29,400lbs(13.1㌧)を採用、ライセンス生産することとなった。つまりエンジンを含む一部の新技術を米国に頼らざるを得なかった点を突っ込まれ、共同開発とならざるを得なかった。

今回は、しかし、米国には存在ない独自の要素技術を多く組込む予定で、エンジンにもCMC使用で従来にない高温運転を目指すなど新機軸を盛り込んだ開発を進めている。従って日米プログラムの合併交渉となっても我国の優位な立場は変わらないだろう。

予算の制約は気になるところだが、最近の世論の動向と近く出現する新内閣の手で防衛費の増額を期待したいところだ。その中で開発費を捻出し「F-3」が実現することを望みたい。

–以上–