スホーイ・スーパージェット100、メキシコに引渡し開始


2013-09-04  松尾芳郎

 SSJメキシコに着陸

図:(Aichive com) メキシコ・トルカ(Toluca, Mexico)に2013-08-02到着したスホーイ・スーパージェット100。インタージェット社では20機を導入する計画。

 

Su-34や最新のT-50 PAK FAなどの戦闘機開発でロシア空軍を支えるスホーイ(Sukhoi)社は良く知られている。しかしその子会社スホーイ民間航空機(SCAC)が、2000年から100席クラスのリージョナル機を開発していることは、日本では余り話題にされていない。

スホーイ・スーパージェット100と呼ばれるこの機体は操縦系統にフライバイワイヤ(fly-by-wire)を採用し、欧米の技術を多く取入れ、西側への拡販を目指している。すでにロシア国内で数社に採用され、ラオスとインドネシアにも引渡しが始まっている。先月行なわれたメキシコのLCC(low cost carrier)インタージェット(intejet)社への2機の引渡しは、本格的な西側進出の始まりとして関係者の注目を集めている。インタージェット社はA320-200を39機保有しメキシコ国内と近隣の国際線を手広く運行するエアライン、これにスーパージェット100が20機加わることになる。

スーパージェット100は2008年5月に初飛行、2011年2月にロシア航空当局[ARIAC]とEUの[EASA]から型式証明を取得、2011年4月からエアロフロート社で運航が始まっている。SCACは2011~2012年で17機を製造済み、2013年には26機、2014年には40機を作る予定と云われる。これまでにエアロフロートなどロシア企業を中心に21機を納入、これを含み確定受注は284機に達している。

これまでのロシア製中小型旅客機であるアントノフAn-148やツポレフTu-204/214などと異なり、スーパージェット100は単価3,500万㌦(35億円)の低価格、それに装備に多くの西側企業の技術を取入れている点が大きな強みとなっている。

Sam146パリエアショー

図:(Wikipedia)2011年パリ航空ショウで展示されたパワージェットSaM146、推力15,400lbs(69㌧)、圧力比23.8、ファン直径1.22m、バイパス比4.43:1、推力/重量比5.3:1の2軸式ターボファン。

 

先ずエンジンだが、フランスのスネクマ(Snecma)とロシアのNPOサターン(Saturn)が半分ずつ出資するパワージェット(PoweJet)社が開発製造を担当。「SaM146」と呼び、スネクマがコアとコントロールシステム(FADEC)、ギアボックス、全体の構成を担当、NPOサターンが低圧系を担当している。EUの航空当局[EASA]から2010年6月に型式証明を取得済み。

ランディングギアはミシェール・ダウテイ(Messier-Dowty, カナダ)、ホイール・ブレーキはグッドリッチ(Goodrich)、油圧系統はパーカーハニフィン(Parker hannifin,米)、フライトコントロールはリエベール・エアロスペース(Liebherr Aerospace,独)、システムソフトウエアはタレス(Tales,仏)、電気系統はハミルトン・サンドストランド(Hamilton Sundstrand,米)、コクピットはハニウエルとタレス(Honeywell/Thales,米、仏)と云う具合に多数の西側企業が参加して作っている。それに開発資金の一部をアレニア・エアマッキ(Alenia Aermacchi,伊)が負担、ボーイングがマーケッテイングを支援している。

スーパージェット100には、75席級の[SSJ100-75]と95席級の[SSJ100-95]があり、それぞれに長距離用として[LR]型が用意されている。全長はそれぞれ26.4mと30mで異なるが、翼幅は同じ27.8m、胴体外径は3.35mで変わらない。最大離陸重量は38.8㌧~49.5㌧、航続距離は2,900km~4,580kmである。

こうしてみるとスーパージェット100は、開発途上にある我が三菱MRJやエンブラエルE-Jetシリーズと大きさ、性能がかなり似通っており、手強い競合相手になりそうだ。

スーパージェット100で起こった事故は2件ある。すなわち、2012-05-09にインドネシア・ジャカルタで乗員8名、乗客37名を乗せてデモ飛行中に標高2,200mの山岳地帯に衝突した件、事故調査で対地接近警報装置(GPWS)が警報音を鳴らしたにも拘らず乗員が無視して降下を続けたためと判明した。他の一つは2013-07-21にアイスランドのケフラビック(Keflavik)空港に着陸の際、脚を出し忘れて胴体着陸となった件である。いずれも本質的な設計や製造の誤りによる事故ではないが、販売活動に打撃を与えたことは否めない。

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