エアバスA350 XWBの概要


エアバスA350 XWBの概要

 

2013-10-16  松尾芳郎

 

A350_XWB初飛行ポスター

図(Airbus)エアバスA350-900型機”MSN1”の初飛行を記念する公式ポスター。

初飛行は2013年06月14日午前10時から4時間行なわれた。操縦性のチェックや離着陸を模した飛行など基本的な操作性を主に正常であることを確認した。その後飛行試験は順調に進み、日本航空の発注(31機確定プラス25機オプション)が発表された10月7日までに300時間を完了済み。続いて10月13日には2号機MSN2が完成、5時間に及ぶ初飛行を行なった。型式証明取得は12ヶ月後になるが、それまでに5機が参加して2,500時間の飛行を予定している。

ローンチカスタマーは中東のカタール航空で、初号機を2014年後半に受け取る。

A350の3機種

図:(Airbus)A350XWBには上から順に”-800”、”-900”、”-1000”の3機種があるが基本型はA350-900。いずれも2006年12月に開発が決まった。就航予定はA350-900が最も早く2014年後半に、続いて”-800”が2016年夏、”-1000”の就航は2017年になる。A350 XWBの確定受注は750機以上。

 

前書き

去る10月7日に日本航空がA350-900型機18機とA350-1000型機13機からなる確定31機およびオプション25機を含め、合計56機の購入をエアバスとの間で取り決めた。日本航空は2019年の運航開始を目指し準備を進める。

その前の9月19日には、ルフトハンザがA350-900型機を確定25機およびオプション30機、いずれもA350-1000に変更可能な条件付きで合計55機の購入を決定した。

これまで我国では余り馴染みのなかったエアバスの新型機A350XWBは、この日独両社が購入を決めたことで存在を知られるようになった。以下にその細部を眺めてみよう。

 

A350XWBは、ボーイング787に対抗して運航費を8%低減することを目標した機体で、カタール航空(Qatar Airways)から80機の注文を受けて2006年12月に開発がスタートした。

A350XWBは、すでに就航済みの超大型機A380で開発された既存の技術を活用して作られている。すなわちA380と同じコクピット、フライバイワイヤ操縦系統、IMAアビオニクス(後述)、などのシステムを採用するだけでなく、製造方法についてもA380で開発したデジタル・モックアップ(DMU)システムを改良して使っている。

 

1. 設計、構造の特徴

構造は胴体、主翼、尾翼などに複合材を使用、全体重量の53%を占める。残りはアルミ合金、アルミ–リチウムが19%、チタンが14%、スチールが6%など。競合する787(複合材/50%)より複合材比率が大きい。

胴体は、断面は円ではなく“ダブルローブ”つまり卵形で、最大外径が5.97m。客室内の幅は5.61mで787より12.7cm(5㌅)広く777より28cm(11㌅)狭い。従って標準的なY-クラス9列仕様では座席幅は45cm、787の座席より1.3cm広くなるが777より1.27cm狭くなる。

機首と尾部を除き、客室部分(-900の場合)は、前から順に長さ13m、18m、16mのモジュールに分割して作られ、それぞれは左右、上下の4枚のパネルを複合材フレームに結合して作られている。787は一体のバレル構造でパネルの厚さが均一だが、A350では切り欠き部の多いパネルは厚く、その他は薄くして軽量化を図っている。

主翼は、イギリスのブロートン(Broughton, Wales)工場で作り、複合材製で翼幅は3機種共同じ64.8m、これは777の長距離型と同じ寸法。翼端は高さ4.4mのなだらかなウイングレットになっている。後退角は31.9度で巡航速度マッハ0.85に対応している。翼面積は-800および-900は442m2、-1000では後縁を伸ばし4%増やしている。複合材製とすることでアルミ合金製の主翼に比べ疲労破壊検査の頻度が少なくなり、またコロージョン関連の整備も節減できる。

主翼後縁のフラップはA380と同じドロップド・ヒンジ型で、フラップを下げた場合に生じる翼後縁とフラップ間のギャップをスポイラーで塞ぐ方式である。これで他機種と比べて低速領域での空力特性と騒音特性が勝れている。

機首部分はA380方式を踏襲し、下部にノーズギヤ収納室を設け、天井部にはコクピットクルーの休憩室が設けられる。これで客室部分の容積を損なわずに済む。

コクピットは、A380と同じ38cm(15inch)型液晶スクリーン6枚構成、中央上下の2枚はエンジンとシステム関係、両クルーの正面の1枚ずつはPFD(プライマリ・フライト・デイスプレイ)で飛行情報と航法情報を表示、その両側にはその他の情報表示パネルがある。ヘッドアップ・デイスプレイを含めハニウエル(Honeywell)とロックウエル・コリンズ(Rockwell Collins)がフライトデッキを担当する。フライトコントロールにはA380で開発したフライバイワイヤ・システムを採用する。

アビオニクスは、A380で開発されたIMA(integrated modular avionics)を改良したシステムが使われる。IMAを通じてランデイングギヤ、燃料、ニューマテイック、客室空調、火災警報、など40種類の機能をコントロールしている。IMAを取り込んだことにより、整備で交換が必要となるプロセッサやコンピュータの数を半減できた。フランスの電子機器大手のタレス(Thales)グループがアビオニクスと航法機器類を供給する。

その他システムでは;—

フライトコントロール関係のアクチュエータは、ロックウエル・コリンズとモーグ(Moog)が供給する。

燃料システムではタンクに窒素封入方式を採用、落雷などで火災が起きるのを防いでいる。

ハイドロ・システムは、A380で実証された2システム(他の機種では3システムが多い)に2系統の電気ハイドロ・バックアップシステム追加した5,000psi方式を採用している。これで軽量化と整備コストの低減が図られている。

客室内装はBMWが担当し、エンタテインメント・システム(IFEC)はパナソニックが供給する。

メインランデイングギヤは、A350-800と-900は4輪式ボギーでフランスのミシェル–ダウテイ(Missier-Dowty)が担当する、-1000は6輪式ボギーとなりUTCが担当する。

バッテリーは、787で問題になったリチウムイオン電池の使用を止めてニッケル−カドミに改めた。

A350への日本企業の参加はボーイングに比べ遥かに少なく、搭載のロールスロイス・トレントXWBエンジンの開発製造に参加している三菱重工、川崎重工の他には、胴体や垂直尾翼用の複合材製縦通材を供給しているジャムコ、客室IFECシステムのパナソニックなど、数社に止まる。

 

2. RRトレントXWBエンジン

A350XWB型機に搭載する”トレントXWB”エンジンは、A380のトレント900およびボーイング787のトレント1000型を継承するモデルだが、幾つかの点で改良が加えられている。

大きな違いは、トレント1000ではエンジン・ブリード (抽気)を使わない方式だったが、トレントXWBではブリード・エア・システムを復活させている。

ファンは直径3m(118inch)で、トレント1000では20枚だったが、トレントXWBでは22枚に増えている。

“トレントXWB”は、2種類で3機種に対応している。基本型はA350-900用の推力83,000lbs(370kN)で、-800用としてこれを74,000lbs(330kN)に推力を落として使う。A350-1000用には推力97,000lbs(432kN)に増やした型を使う。

トレントXWB

図:(Rolls Royce)エアバスA350XWBシリーズ用ロールスロイス(Rolls Royce)“トレントXWB”エンジンのカットビュー。A350-900用は2013年に型式証明取得済み。

 

構成は3軸方式で、ファンバイパス比は9.3:1、離陸推力は75,000~97,000lbs (330~430kN)をカバーする。全体の圧力比は52:1。図の左から順にファン1段、IP(中圧)コンプレッサ8段、HP(高圧)コンプレッサ6段、燃焼室、HP(高圧)タービン1段、IP(中圧)タービン2段、LP(低圧)タービン6段、の構成になっている。

この内、三菱重工が燃焼器、LPタービンブレード、IPタービンデイスクの製造を担当する。また川崎重工がIPコンプレッサ全体の設計製造を担当する。

 

3. A350XWB系列機の特徴

A350-800

ボーイング787-9に対抗するために作られた機体で、標準型3クラス仕様で270席、航続距離は15,400km、-900型の胴体のフレームを10本少なくし全長を6.3mほど短くした機体。他のシステムは-900型とほとんど同じで、最大離陸重量は248㌧となり、余裕分は搭載量の増や航続距離を伸ばすのに使われる。

受注(確定)は、カタール航空20機、USエアウエイズ18機、エアロフロート18機など合計89機。

A350-900

A350XWBの基本型で、3クラスで314席、航続距離は15,000km。エアバスによるとボーイング777-200ERに比べ、座席当たり空虚重量は16%減、座席当たりの燃費は30%減、運航経費は25%良くなると云う。

受注は、エアフランスKLM25機、ALC 20機、キャセイパシフィック50機、エミレーツ50機、日本航空 18機、ルフトハンザ25機、カタール航空40機、シンガポール70機、など合計499機。

A350-1000

A350-900の胴体フレームを11本増やし胴体長さを約7m伸ばし73.88mとし、3クラス350席とした機体。航続距離は15,600km。主翼後縁を少し伸ばし翼面積が-900比で4%増となる。就航は最も遅く2017年になる予定。ボーイング777-300ERと競合する。

受注は、キャセイパシフィック26機、エミレーツ20機、日本航空13機、カタール航空37機、ユナイテッド35機、など合計176機。

 

確定受注はA350-800、-900、-1000、の合計で764機とされる。

 

4. 新しい製造技術

 

A350組立て

図:(Airbus)組立時間を短くするため胴体モジュール内部の配管、ケーブル類、装備品の一部など、大半の装備はグリッド構造の枠組などに組付けて事前に準備し、これを取付けてから最終組立工程に送られる。

 

エアバスは、かねてから“先進型製造技術”の導入を進めてきたが、漸くその成果が出始めてきた。狭胴型機A320は月産42機となり、米国モバイル(Mobile, Ala.)工場が稼働する2年後には46機体制が整う。生産遅れが続いていた大型機A380は月産3機体制に入った。A330は今年になりこれまでの最高となる毎月10機が出荷されている。本題のA350 XWBは2018年以降からツールース(Toulouse)工場で月産13機を予定している。

エアバスの全体設計担当の副社長ジェンス・グラーフ(Jens Gralfs)氏は、この経緯について次ぎのように語っている。「以前の製造現場は殆ど自動化されておらず、ジグ工具類には融通性が無かった。設計は航空機の性能向上に100%焦点が当てられ、製造には考慮が払われていなかった。A380になって、初めて設計段階で性能と同じレベルの考慮が製造にも払われるようになった」。

A350XWBでは、A380用として10年前に開発した“デジタル・モックアップ(DMU=digital mock-up)“手法を、改良して適用している。すなわち、基本となる「マスターDMU」を全ての協力企業と共同で、設計と製造の観点から作り、設計の進行に従って定期的に改訂しながら、先ず仮想組立て(virtual process planning)を進めて行く。これで問題点を把握し修正してから実際の製造に入る方法だ。A380での製造遅れの反省を踏まえて、手法を改善したため組立遅れは他機種の場合に比べ大きく改善された。A380の場合、DMU方式を使ったのは良いが、目的別に複数のDMUを導入したため整合性がとれず、作業が混乱した経緯がある。

精密な位置決めをして組立てる方法も開発された。前述のように胴体モジュールは複合材パネルをフレームに組立て作られる。ところが複合材は剛性に乏しく金属パネルのように正確な形に保持できない。A350の場合、一般的なジグ、フィクスチャーの類いは使わず、DMUデータを使う数値制御(NC)測定組立てシステムを開発し、これを使って正確に位置決めをしながら組立てる。

787とA350の胴体組立て手法は異なるが、両者とも組立て時間短縮のため予め電気系統ケーブルや油圧パイプ、その他の装備品を胴体モジュールに取付けてから最終組立に送っている。A350では、これ等のハーネス、パイプ類を別途用意した障子の枠のような“グリッド構造”に組付け、これを胴体モジュールに取付ける方法を採っている。これは、アビオニクス・ベイのように複雑な箇所では特に有効である。

複合材部材に補強フィッテイングやブラケットを取付けするには、従来は人の手で接着していたが、今では自動樹脂注入成形法?(automatic resin transfer molding process)でフィッテイング等を成型し取付け、時間の半減に成功した。

 

5. ルフトハンザ、A350 XWBとボーイング777-9Xを同時発注

Lufthansa DHL 777-300ER Artwork

図:(Boeing)“前書き”で述べたように、ルフトハンザ(Lufthansa)は9月19日にA350-900を確定25機+オプション30機、合計55機を発注した。同時にボーイングの新型機777-9Xを確定発注約束34機とオプション30機の覚書を取り交わした。就航予定は2020年ごろ。

 

777-9Xは、ジャンボ機747-400 型機の更新用としてボーイングが開発検討中の新型機、つまりここで述べてきたA350XWBとはサイズが異なる機体である。ルフトハンザは747-400を22機使用中だが、その更新用としてすでに747-8を19機発注し、内9機を受領している。

ボーイングは777-9X開発を正式には決めていないが、業界筋は今年年末までに、あるいは来月(11月)のドバイ航空ショウで発表されると見ている。

今のところ777-9Xの購入を決めたのは1社だけだが、ボーイングは、全日空、ブリティッシュ航空、エミレーツ、日本航空などに購入を働き掛けている。ドバイ航空ショウではエミレーツが発注するとの噂が流れている。

エミレーツは、アラブ首長国連邦のドバイを本拠とする航空会社。同社は777-300ER 120機含む合計139機を発注している世界最大の777ユーザー(うち78機を受領済み)なので、777-9Xの大量発注に踏切る可能性が高い。

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図:(Emilates)ドバイ空港ターミナルに駐機するエミレーツ航空の777機群。

 

2011年9月にボーイングは新型双発機777-9Xの構想を公表した。777-9X型機は777- 300ERの胴体を 2.13m延長して全長76.5mとし3クラス標準乗客数は407席で、航続距離は15,000km。この胴体長さは世界最長の747-8型機の76.3mを超える。主翼は新設計の複合材製、翼幅は777-300ERの64.8mから71.3mに延長される。この翼幅は787-8の68.5mをも上回る最大となるため、空港ゲートへのアクセス性を考慮して、空母艦載機と同じ翼端折畳み方式を採用し、ゲートでの翼幅を64.8mにする。最大離陸重量は777-300ERの351.5㌧と変らない。

 

ボーイングの営業担当副社長ジョーン・ウオジック(John Wojick)氏はルフトハンザの発注決定を受けて次ぎのように語っている。「777が長距離路線のリーダーとして活躍していることは誰しも認めるところだが、これを受け継ぐ777-9Xは、双発機としては世界最大で最も効率の良い機体となる。すなわち、新型エンジンと一新された複合材製主翼の採用により現在の777対比で燃費を20%改善し運航費を15%低減できる筈だ。」

20%燃費節減の半分は新設計の長大な主翼による空力改善効果によるもので、残りは新型のGE9Xエンジン、推力102,000lbs(450kN)に期待している。

 

最後にA350XWBの3機種と777-9Xの簡単な諸元比較表を添付する。

A350-800 A350-900 A350-1000 777-9X
3クラス座席 270席 314席 350席 407席
全長 60.54m 66.9m 73.9m 76.5m
翼幅 64.8m 64.8m 64.8m 71.3m、折畳み時は64.8m
最大離陸重量 248㌧(optionで259㌧) 268㌧ 308㌧ 351㌧
空虚重量 NA 115.7㌧ NA NA
航続距離 15,700km 15,000km 15,800km 15,000km
エンジン推力 74,000lbs(330kN) 83,000lbs(370kN) 97,000lbs(432kN) 102,000lbs(450kN)

–以上−