–ソーラー・インパルスの新型機”HB-SIB”は4月完成を目標に工事が進む–
2014-01-28 松尾芳郎
図:(Solar Impulse)完成を急ぐ新型機”HB-SIB”の主翼、上面全体にソーラーセルを貼付ける主翼は、幅80m/262.5ft (72m/236ftとする説もある)に達する。”HB-SIB”は2015年に25日ほど掛けて世界一周飛行を目論む。
図:(Solar Impulse)昨年5月3日サンフランシスコ湾上空を飛ぶ太陽光エネルギー機”HB-SIA”。単座で、2ヶ月掛けて米国主要都市を訪問、大陸横断飛行に成功した。”HB-SIA”は、全長21.9m、翼幅63.4m、主翼/尾翼上面に貼付けたソーラーセルの合計面積は200m2、エンジンは電動モーター/7.5 kW(10馬力)を4基、プロペラ直径は3.5mで200~400rpm。巡航速度は70km/hr、巡航高度は8,500m。製作中の”HB-SIB”はこれより2~3割大きくなる。
図:(Solar Impulse)カリフォルニア州マウンテンビューにあるNASAエームズ研究所のモフェット・フィールド(Moffett Field)から、昨年5月3日金曜日に米大陸横断飛行に飛び立つソーラー・インパルス”HB-SIA”機。離陸速度は35km/hrなのでチームの1人が電動自転車で伴走している。
昨年(2013)5月3日カリフォルニア州モフェット・フィールド(Moffett Field)を飛び立ったソーラー・インパルスの太陽光エネルギー機”HB-SIA”は、途中フェニックス、ダラス、セントルイス、ワシントンなどに立ち寄り、同年7月6日にニューヨークJ.F.ケネデイ空港に着陸、北米大陸横断飛行に成功した。
ソーラー・インパルスは、スイスの太陽光エネルギー利用航空機プロジェクトで、初号機”HB-SIA”は高翼単座の飛行機、翼に貼付けたソーラーセルで得た電力でバッテリーを充電し、その力で4基のモーター(各10馬力)を駆動、プロペラを回して離陸し、36時間滞空できる。初飛行は2009年12月で9時間に亘って飛行した。
ソーラー・インパルスは、この”HB-SIA”を改良して大型化した登録記号”HB-SIB”機を製作中で、これを使い2015年に世界一周飛行を行なおうとしている。コクピット内の装備は、乗員が最大5日間の継続飛行に耐えられるよう作られている。
現在”HB-SIB”は、チューリッヒ(Zurich)近くのドウベンドルフ(Dubendorf)空軍基地のハンガー内で組立中だ。世界最大の旅客機エアバスA380とほぼ同じ翼幅の80mの主翼は、長大な桁に多数のリブと前縁部が取付けられ、表面は超軽量の炭素繊維製の薄布(重さ90gr/m2)で被われ、その上面にはソーラーセルが取付けられる。このソーラーセルは変換効率が22%ほどだが、厚みは135μしかない。コクピットを含む胴体も工事中で、4月9日の完成/公開に向け作業を急いでいる。
”HB-SIB”の初飛行は5月の予定。試験飛行はベルン近郊のパイエルン(Payerne)空港で行なうので、機体はトラックでそこまで運んで組立てる。
目標の世界一周飛行は2015年3月、ソーラー・インパルスの責任者で“革新技術財団「アルトラン(Altran)」理事長のChristian Le Liepvre氏はこの飛行について次ぎのように語っている。
「世界一周飛行の出発地は、北アフリカのモロッコとアラビア半島のUAEとの間の地点、つまり赤道よりやや北から離陸し、数日おきに5~10ヶ所に寄港し乗員を交替しながら、20~25日ほどを費やし、最終着陸はアイルランドを予定している。途中モンスーンの前の中国大陸を通過するのが難所となる。」
”HB-SIB”は原型の”HB-SIA”より大型になる。パイロットは1名で変らないが、5日間の飛行ができるようコクピットは広くなり、食料や水も多く搭載、さらに巡航高度12,000mに対応する酸素供給システムや各種環境支援システムが付加される。これ等のため有償荷重は2倍になる。
外形も大きくなり、重量は原型機の2㌧から1㌧ほど増え、翼幅は63.4mから2割増の72~80mに達する。主翼上面に貼るソーラーセルの数は12,000から約17,000枚に増える。これで搭載バッテリーの充電能力が改善され、夜間や天候不良時を考慮しても5日間の飛行が可能となる。バッテリーはエネルギー密度の高いリチウムーポリマー電池(260 watt-hr)を搭載する。
パイロットの負荷を軽減し、休息を可能にするために“安定性増強システム(SAS=stability augmentation sys.)”を搭載する。さらに不注意な高度変更が生じないように”監視・警報システム(MAS=monitoring and alerting sys.)も取付ける。
5日間の飛行での重要課題はパイロットの睡眠を如何にするかだ。今考えられている案は、24時間の間に20分ずつ10回に分けて仮眠をとる方法である。パイロットを勤めるBertrand PiccardおよびAndre Borschberg両氏は、連続72時間のフライト訓練をこなし、また心理学者の指導も受けて睡眠取得の練習を行なっている。
72時間連続飛行訓練は、”HB-SIB”用コクピット(3m x 1.7m x 1mサイズ)を模したシュミレータを使い、高度1,000mから12,000mの範囲で飛行する想定で、2013年12月に行なわれた。72時間、すなわち3日間とは、米国東岸のノーフォーク(Norfolk)空港から大西洋を横断し、スペインのセビル(Seville)空港までの飛行に相当する。3日の間パイロットは1人で操縦に当たることになるので、人間にとっても大きなチャレンジとなる。
2003年から始まった太陽光エネルギー機のプロジェクトは、2015年予定の世界一周飛行完了まで、総額で1億5000万スイスフラン(1億7000万㌦)の費用を見込んでいる。
−以上−
本稿作成の参考にした記事は次ぎの通り。
Golden Eagles News 2014-01-22 “Solar Impulse to Unveil New Aircraft in April” by Thierry Dubois in Aviation Week
“Solar Impulse” Wikipedia
Solar Impulse Home Page “Around the world in asolar airplane”
Solar Impulse “Transatlantic 72Hr simulation”