都知事選と日本政治の展望


2014-02-11 豊島典雄

 

舛添氏当選、細川氏三位に終わる

 

2月9日投開票の東京都知事選は舛添要一・元厚生労働相((67)の勝利で終わった。主要候補の獲得票数は舛添氏が211万2979票、宇都宮健児・元日弁連会長(67)が98万2594票、細川護煕・元首相(76)が95万6063票、田母神俊雄・元航空幕僚長(65)が61万0865票であった。

一時は本命・舛添、対抗・細川といわれた細川氏の三位転落は世間の話題になっている。また、田母神氏の大健闘も注目を集めている。そして、5割を切った低投票率も今回の都知事選の大きな反省点である。月曜日に永田町で取材した結果をもとに、この都知事選の結果についてコメントしてみたい。

 

看過しがたい低投票率

 永田町の大政党の選対関係者は「投票率が5割を切る恐れがある」と言っていた。しかし、ここまで低いとはというところである。投票率は46.14%で前回(62.6%)を16.46ポイントも下回った。2人に1人が棄権したのである。戦後、3番目の低投票率だった。「結果が見えていたこと、細川さんの正式出馬表明が遅れ、告示日前に候補者による本格的な討論がなかったこと、そして投票日前日の45年ぶりの大雪が低投票率の主因だ」(自民党選対関係者)と言えよう。もっとも、国政選挙や都議会議員選挙では投票率が低下傾向にある。一昨年末の衆院選(小選挙区)は第二次世界大戦後最低の59.32%だった。昨年の参院選(選挙区)が52.61%と過去3番目、都議選も43.50%で過去2番目の低さだった。看過しがたい状況である。

こういう低投票率が続くと、いずれ強制投票制=義務投票制導入の議論が起きるかもしれない。オーストラリア、シンガポール、ベルギー、ルクセンブルクのように棄権者に罰金を貸す制度である。日本では投票は権利であり、義務ではないが義務と心得るべきだ。日本でも棄権者に対して、運転免許証、旅券の更新を認めない程度のペナルティを科せという議論はある。

また、舛添氏圧勝報道が低投票率のひとつの要因と見られている。選挙世論調査の公表には、有力候補と報道されず、有権者の視野から除外されがちな候補者から不満が強いことも事実である。だから、選挙運動期間中の世論調査の公表を禁止している国もある。「有権者の判断に不用意な影響を与えないようにする」ためであり、フランス、イタリア、台湾などで実施されている。こんな議論が日本でも起きるだろうか。

 

強運な舛添氏

 

舛添氏は推薦してくれた自民党や公明党の支持層を手堅くまとめたこと、頻繁なテレビ出演による知名度の高さが勝因である。東京五輪や成長戦略の国家戦略構想もあり、国と連携できる候補者が受け入れられた面もあるようだ。

舛添氏は、自民党を飛び出して「自民党の歴史的役割は終わった」と批判したこともある。新党改革を作っても党勢は一向に伸びず、昨年夏の参院選でも首都圏の選挙区からの出馬を模索したが、うまくいかなかったと報じられている。自民党を除名されたこともある舛添氏は、その自民党と公明党の組織に乗って当選したのである。強運というほかない。舛添氏が、2位にダブルスコア以上の差をつけて勝つとの予想は当たっていたが、得票数の211万票は有権者(1080万人)の5分の1でしかない。

共産党、社民党推薦の宇都宮氏は共産党などの組織票を手堅くまとめたことで、細川氏を上回る票を獲得したというところだろう。低投票率もプラスに作用したかもしれない。

 

不発に終わった即時原発ゼロ

 

話題の元首相コンビの即時原発ゼロの叫びは都民に受け入れられなかった。小泉純一郎元首相が細川氏と街頭に立ち、即時原発ゼロを叫んだ。一時は「2人の元首相が街頭に立ち、即時原発ゼロを叫び、マスメディアが群れる姿は悪夢だ」と自民党関係者を恐れさせた。

しかし、あらゆる世論調査でも原発問題は都民の第一の関心事ではなかった。「景気・雇用」「医療・福祉」が最大の関心事、争点であった。原発ゼロに一点集中の細川・小泉コンビの選挙戦略は失敗した。「『脱原発』ムードの敗北だ」「小泉劇場  風吹かず」(2月10日の産経新聞)。また、細川氏が首相だったのは20年前であり、若者にとっては知らない人であった。産経新聞の出口調査でも、20代の細川氏支持はわずか8.2%にとどまった。過去の人になっていたのだ。細川氏は76歳と高齢な上に、東京五輪返上論などの過去の言動も災いしたようだ。また、街頭演説に舛添氏をはるかに上回る大勢の人々が集まったが、小泉さん目当てであり、得票には結びつかなかったようである。「純ちゃん」と書かれた投票用紙もあったという。小泉さんも選挙中、自らのツィツター(フォロワー10万人)で「新聞の調査結果にびっくりした。街頭の反応とまったく違う」と言っていた。

選挙運動では即時原発ゼロが災いして、連合東京を舛添推薦にしてしまった。産業界の労使ともに敵にしてしまった。細川氏が純粋無所属を標榜したこともあり、民主党が全党一丸となってということはなかった。「東京の有力な民主党議員の事務所に行ったが、細川さんのポスター、ビラはなかった」(民主党関係者)。選挙運動の手足が弱体化してしまった。もっとも民主党は、細川さんの弟子筋が要所におり、「資金的には支援した」(民主党幹部A氏)。永田町では「元首相2人に恥をかかせた戦犯は、元政治家の○○と○○だ」などと雑音が高い今日である。

 

田母神氏 大健闘 

 

この低投票率の中での田母神氏の61万票は大方の予想をはるかに超えていた。得票率12.5%であった。永田町の選対関係者にも「どんなにとっても50万票」と見られていた。組織も持たずに戦ったが、最善の結果を出した。田母神氏のツィツターは20万人を超えるフォロワーがおり、ネットでの支持率調査ではダントツの1位であった。やはり、今回の出口調査では20代の支持は舛添氏(30.6%)に次ぐ第2位24.5%)であった(産経新聞)。

この背景には、軍拡に狂奔し、周辺国の領土や資源の強奪に乗り出している中国、大量破壊兵器の開発に狂奔している北朝鮮による恫喝を受け、わが国の安全保障環境が著しく悪化していること、にもかかわらず米国の姿勢は弱腰であることがあるようだ。若者の支持が多いことは田母神氏の前途に光明がある。保守新党結党へとつながっていくのではないか。日本維新の会は東西対立も激化し「二本維新」状態である。田母神候補の応援団長格であった石原慎太郎氏らとの連携に注目したい。

 

野党再編 勢い失速

 

細川都知事誕生を期して、それに便乗して野党再編をという一部の野党のリーダーのもくろみも挫折した。「野党再編勢い失速」(2月10日の産経新聞)である。「政党支持率が0%かそれに近い弱いものが集まってもだめです」「国政選挙が近づかないと再編など進みませんよ」「安倍内閣は続きますよ」「10年は政権は戻ってこないと思います」(民主党関係者)。本格的野党再編はなかなか難しいということだ。

 

安倍政権に追い風

 

安倍政権は消費増税による景気腰折れ回避のための補正予算案を成立させた。次は、3月末までに本予算案を成立させ、6月22日までの今国会中に、集団的自衛権の憲法解釈変更の閣議決定を断行する予定である。最近の世論調査では、国民の安全保障意識の現実化のせいか、集団的自衛権の憲法解釈変更には賛成が反対を上回っている。保守系野党のみんなの党、日本維新の会も賛成である。「公明党も連立しているからこそ、政策実現というメリットがある。連立離脱なぞしませんよ」(民主党幹部Bさん)。「自公両党とも、選挙や政策実現を考えれば別れませんよ」(自民党幹部A氏)。

「それより至難なのは原発再稼動」(自民党幹部B氏)である。保守系野党も反対である。しかし、即時原発ゼロを叫んだ小泉元首相との師弟対決にも圧勝し、安倍首相にとっては原発再稼動への環境整備を一歩進めた感じである。ひとつの山を越えたようである。安倍首相も都知事選での舛添候補勝利にほっとしているのではないか。

都知事選という山も超えた安倍政権は長期政権化の様相である。「安倍首相は、安倍政権を長期政権にするために、どのタイミングで衆院解散、総選挙をするかを考えていくね。三つの方法が考えられる。ひとつは再来年末の任期満了の衆院選、もうひとつは再来年夏の衆参同時選挙、さらに、来年秋の自民党総裁選の後に衆院解散、総選挙をやり、それから4年間政権を維持することも考えられる」(民主党関係者)。

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