中国開発のCOMAC C919、国内向けになるか?


–巨費を投じエアバスA320/ボーイング737独占の市場に参入を目指すが、FAA証明取得の見通しは立たない–

 

2014-02-11  松尾芳郎

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図:(COMAC)COMACが開発中のC919は、158〜174席級の狭胴機で、中国が開発する最大の旅客機、2015年の初飛行、2016年末の引渡しが目標。

全長38.9m、翼幅35.8m、最大離陸重量77.3㌧、航続距離5,500km、エンジンはCFM Leap 1C推力25,000-30,000lbsが2基だが、将来は中国製に換装する予定?2010年広東省マカオ近郊の珠海で行なわれた航空ショウで55機の受注が発表された。現在の受注は400機と云われるが真偽は不明。

 

中国が開発中の新型狭胴機COMAC C919は、海外市場への進出を目論んできたが、FAAの証明取得が難航しており、中国民間航空局(CAAC)の証明だけで国内用として就航することになりそうだ。中国国内だけで1,000機ほどの需要が見込まれている。

COMACでは以前から小型のARJ21と呼ばれるリージョナル機の開発に取組んでいるが、これの型式証明交付に関わるFAAと中国CAAC当局との間で権限委譲の話が進んでいない。このことから、C919開発に際してもFAAとCAACの関係がスムースに進んでいない。西側の耐空証明が得られなければC919は海外に販路を得られず国内に止まらざるを得なくなる。

中国の関係筋はFAA証明取得に付いて「大変複雑な問題だ。ARJ21に関するFAAの対処は未だ解決していない。C919は当面中国CAACの証明を取得して、その後CAACとFAAの相互認証の協定成立を待ちたい、FAAの承認取得を諦めた訳ではない」と云っている。

China_ARJ-21

図:(COMAC)COMAC製ARJ21リージョナル旅客機,80人乗り。2002年に開発がスタートし2006年の引渡しとされたが、多くの問題の処理に手間取り実際は2015年5月就航になりそう。すなわち開発が始まってから13年後の引渡しとなる。COMACによると中国CAAC型式証明は2014年末になる。COMACの子会社「成都航空(Chengdu Airlines)」は初号機を2015年初めに受取る。ARJ21は中国独自の技術で開発したと主張するが、実際は、以前ライセンス生産していたMD-80の治工具をそのまま使い製作した機体、主翼はウクライナのアントノフ設計局の設計を使用。エンジンはGE製CF34-10A推力17,000lbs(76kN)を2基装備、機内システムにはハニウエルやロックウエルコリンズなど西側装備が多用されている。国内ユーザーを主に約400機を受注したと云う。

 

ARJ21の型式証明交付の権限は中国CAACにあり、FAAも認めている。FAAの立場は、「航空安全に関わる相互承認協定(Bilateral Air Safety Agreement)」の下でARJ21の証明取得に関してCAACの指導、監督をすることにある。同じようにFAAは三菱MRJの証明取得にも日本のJCABを通じて関与している。最新の情報ではARJ21の証明取得は2015年初めになる模様。CAACは証明交付に際し、FAA(およびEUのEASA)の定める規約の遵守が求められる。C919にも同じプロセスが要求されるが、COMAC側は「これには膨大な作業が生じるため必ずしも同意しない」としている。CAACの証明だけでも国内販売は充分可能と踏んでいるためだ。

若しFAA証明が得られなければC919の販路は中国国内に限定され、開発に際し掲げた“A320neoおよび737Maxが独占する世界市場に参入する”と云う目標は不可能になる。そして今年に入り“開発の再遅延/初飛行は2015年末”、“中央翼胴体部の材料変更/複合材の取り止め”、などが発表され、これ等で世間の評価は一層下がってきている。

専門家の間では、C919の開発予算は95億㌦(9,500億円)と云われていたが、実際には50%増の142億㌦(1兆4,000億円)を超える、と見ている。仮に1,000機売れるとして1機当たり2,000万㌦の開発費を上乗せすると、競争力は著しく減殺されそうだ。単価は発表されていないが、推測では7.000万㌦(70億円)を超えると云う。在来型の737NG-900ERの9,500万㌦、A321の1億070万㌦と比べ競争力のある価格とは云えない。

しかしCOMACは強気で「C919は2,200機の販売が可能で、このため年産150機を考えている」と云っている。

C919の最終組立は、上海地区に新設されたCOMAC工場で行なわれる。エンジンはCFM Leap 1C、エンジンナセルとスラストリバーサは GE-Safran合弁のネクセル(Nexcelle)、そしてアビオニクスや各システムには多くの西側企業(日本のパナソニックも含む)が協力している。主な機体構造は、国内各地にあるAVIC SAC(瀋陽)、成都航空機、AVIC Jiangxi Hongdu航空機(無錫)、などが担当、製作する。

C919の胴体は、アルミ−リチウム(Al-Li)合金で作るが、これは円筒形部分のみで、機首と尾部部分は加工が難しいので在来のアルミ合金製となる、いずれも西側からの輸入素材を使う。前述の中央翼胴体部は、炭素繊維複合材製とされていたが、製造の見通しが立たずアルミ合金に変更、COMACが掲げてきた“複合材使用比率30%以上”の目標は達成できなくなった。尾部と動翼には複合材が使われると云う。

現在原型機を組立中で2014年(今年)末には完成する予定、並行して各システムの試験も始まり、今年6月頃からは全システムの統合試験装置(iron bird)を使ってのテストを開始する。

 

こうして見ると、「C919は西側先進国に多くの技術を頼っており、FAAの型式証明取得も見通しが立たず、これでA320neoや737Maxに挑戦することは先ず不可能」と云うのが大方の意見と云ってよい。

 

ところがCOMAC/中国政府の意向を代弁した中国科学アカデミーの有力メンバー某氏はAviation Week誌(2014-01-13)でこう反論する;—。

「ライト兄弟が初飛行をしたのは1903年だが、それから6年後に中国人Feng Ruが自身で設計、製作した全く新しい飛行機で飛行に成功した。彼はカリフォルニア州で飛行に成功した後、支那に帰国して航空関係のビジネスを始めた。そして、清国が倒れた後の最初の大統領(袁世凱?)がFeng Ruと会い“航空の発達が国を救う”と述べた。

1050年代以降中国は空軍機の分野で長足の進歩を遂げたが、民間機では未だだ。そこで中国政府はC919の開発を最重点課題として取組んでおり、同時にこの計画達成は全中国人民の夢でもある。C919の初飛行が2015年に延期されたのは残念だが、特に大きな問題があったと云うことではない。この計画は中国が取組む最初の大型民間機だから、設計と製作に齟齬のないように充分時間をかけるのは当然のことだ。787やA380でも初飛行をしてから引渡しまでに随分遅れたではないか。

C919は材料の点でA320や737よりも勝れている。チタン合金の使用比率は10%に達し、737の2.2%やA320の4.5%より多い。複合材の使用も737より多くA320より僅か少ない。Al-Liなどの先進素材の国産化にも努力しているところだ。

エンジンは当面外国製を使うが、長期的には困難を乗り越えて国産エンジンに換装する。すでに新エンジンの設計は完了し、部品の製作が始まっている。

 

(注) AVICの子会社エンジン担当のACAEが開発中のCJ-1000を指しているが、2011年に開発発表があったものの、Leap並の性能を得るのは容易ではなく、実用化は2025年以降になりそうだ。

 

C919の実現は中国の国威発揚の重要なステップだ、中国政府が巨費を投じて取組む民間機であり、自国の技術を結集して完成することに間違いはない。そして強大な中国の実現に向けて大きく飛躍する。」

これに先立ち2013-07-17の中国の新聞「環球時報(Global Times)」は、C919の将来性に疑問を呈したAviation Week誌の記事に対し、“悪意に満ちた批判だ(maliciously disparaged)。ボーイング、エアバスが牛耳る市場に中国機が参入するのを、暴言で阻止しようとしている”と非難した。

 

いずれも事実を曲げ自分の考えを通そうとする典型的な支那人の言い分。多くの手段で自己主張をするやり方には、我国も云われなき被害を被ってきた。

−以上−

 

本稿作成の参考にした記事は以下の通り。

Aviation Week Jan. 28, 2013 page 11 “C919 Wing Passes Review”

Aviation Week May6/13, 2013 page 24 “China‘s Power Play” by Brad Perrett

China Defense Blog Sept. 27, 2011 “China’s jumbo jet equipped with “Chinese Heart” engine”

Aviation Week Aug.19, 2013 page39 “Not Just Inexperience” by Brad Perrett

Aviation Week Nov.11/18. 2013 page 30 “Engine Overreach” by Bradl Perrett

Aviation Week Dec. 16, 2013 page 33 “Domestic Drift” by Brad Perrett

Aviation Week Jan. 13, 2014 page 50 “Delaying C919 First Flight is Sensible” by Cao Chunxiao

“Comac C919” Wikipedia

“Comac ARJ21” wikipedia