航空自衛隊、装備近代化へ大きく前進


航空自衛隊、装備近代化へ大きく前進

 

2014-02-27 松尾芳郎

 

アジア太平洋地域の平和は米軍の力で維持されていたが、近年は中国軍の台頭が著しく、地域での主権拡大を図り近隣諸国を脅かすようになっている。

米太平洋空軍司令官ハーバート・カーライル (Herbert “Hawk” Carlisle) 将軍のこの件に関する話;—「中国軍に対抗するため、米空軍はF-35戦闘機とKC-46新型空中給油機の完成・配備を最重点にして進めつつあり、ほぼ計画通りに進んでいる。しかし在来機の近代化改修は予算不足で遅れ気味だ。」

中国のステルス戦闘機”J-20”と”J-31”に対抗するため、アジア各国はF-35ステルス戦闘機を導入するところが増えている。日本を筆頭に、韓国、シンガポール、オーストラリアそれに台湾が相次いで導入を決定、あるいは検討中である。

 

ここでは、昨年末に閣議決定された「中期防衛力整備計画(平成26~30年)」にある“航空自衛隊の近代化計画”を中心に概要を述べて見たい。

 

1960年代から使ってきた[F-4EJ]シリーズ戦闘機75機(偵察機型13機を含む)の更新としてF-35Aの導入が決まったのはご承知の通り。[F-4EJ]は三菱重工で150機ほどライセンス生産された。導入に際し、対地攻撃の装備や空中給油装置は“専守防衛”に反するとして取外されたが、今にして思えば嘘のようだ。更新用のF-35は空戦のみならず対地、対艦攻撃も任務とする多目的戦闘攻撃機。従って、この採用は日本の国防政策の転換、つまり、これまでの“専守防衛”から“敵地攻撃も遂行”へと変ることを意味している。

中国の脅威は、頻発する領海侵犯だけでなく、領空侵犯の恐れの場合に実施される空自の緊急発進(スクランブル)回数にも表れている。1990年以前の冷戦時代には毎年800~950回のスクランブルが行なわれていた。冷戦終結後の1995~2005年は年間200~300回に減ったが、それが再び増え始め2012年以降には560回を超え、その50%以上が中国機となっている。

航空自衛隊の勢力は1970年代の14個飛行隊から12個飛行隊に減勢されたが、中期防ではF-15JとF-2の近代化改修を実施し、さらにF-35の導入を開始、期間中に対中国への航空優勢を確実に維持できるようにする。

 

F-15Jの近代化改修、[F-15MJ]へ

F-15J改修の目玉は「図2」に示すように、1970年代のレイセオン製[APG-63]から、1990年代に登場した[APG-63(V)1]に換装すること。新旧レーダーは共に“アレイアンテナ型/機械式ビームスキャン方式”に変りはないが、平均故障取卸し時間間隔(MTBF)は、旧型の数十時間程度から新型では10倍以上に延伸され、またスキャン機構を高速化して多目標の同時追跡性能が大きく改善される。

もう一つの改修は、携行する空対空ミサイルを、在来機のAIM-9LサイドワインダーとAIM-7F/Mスパローから、国産のAAM-5(短距離用)およびAAM-4B(中距離用)の運用を可能にする点である。

AAM-5「04式空対空誘導弾」は三菱重工製、目標に接近すると搭載の赤外線シーカーの画像で識別し誘導・命中する、射程は35km。米国のAIM-9XやドイツのIRIS-Tに匹敵する赤外線画像(IIR)世代の最新型である。ミサイル本体の直径は12.6cm、翼幅は44cm、長さは286cm、重量は83.9kg。

AAM-4B「99式空対空誘導弾(B)は三菱電機製、射程距離は推定100kmの中距離空対空ミサイルで、米国製最新のAIM-120C-7 AMRAAMに相当し、性能はこれを上回る。誘導は途中まで慣性・指令方式で行ない、その後は搭載レーダーで誘導接近・命中する。搭載レーダーは、窒化ガリウム(GaN)素子使用のAESA方式で、自律誘導距離を在来型AESAレーダー付きミサイル対比で1.4倍に伸ばしている。言い換えれば“撃ち放し”距離を伸ばし、母機の安全性を高めている。ミサイル本体の直径は20.3cm、翼幅は80cm、長さは366.7cm、重量は220kg。

 

(注)AESAレーダーとは、半導体を使った超小型の送受信素子(TRモジュール)をレーダー送受信アンテナ面に多数並べ、レーダービームの走査(スキャン)を電子的に行なう方式。半導体素子にはガリウム−砒素(GaAs)を使うのが一般的だが、我国では、出力が3倍にもなる窒化ガリウム(GaN)素子の実用化が世界に先駆けて進んでいる。

 

これでF-15Jは、米空軍のF-15C/D改修型に匹敵する性能を持つことになる。

F-15J

図1:(航空自衛隊)F-15Jは、空自主力戦闘機として8個飛行隊と飛行教導隊などに約200機が配備中。三菱重工がライセンス生産。現在4個飛行隊88機に[J-MSIP]計画(多段階能力向上計画)に基づき改修が行なわれている。新中期防(平成26-30年)で28機が追加されたのでほぼ半数の機体が能力向上・近代化改修を適用されることになる。改修後の機体は[F-15MJ]と呼ばれる模様。F-15Jは全長19.4m、翼幅13.1m、エンジンはF100-PW(IHI)-100推力8.6㌧を2基装備。全備重量は25㌧、最大航続距離2,500nm (4,600km)、最大速度はマッハ2.5。対地、対艦攻撃能力はMk.82型無誘導爆弾(500lbs)を搭載できるが限定的。

 

f-15MJ概要

図2:(防衛省)F-15Jに実施中の[J-MSIP]計画のあらまし。費用は1機当たり約12.5億円、主な内容は次ぎの5項目。

*レーダーをAPG-63からAPG-63(V)1に換装、

*セントラル・コンピュータの能力向上、

*空調システムの強化、

*ジェネレーターの能力向上、

*空対空ミサイルAAM-4BおよびAAM-5を搭載可能とする改修、

*通信機能向上のためのFDL搭載改修(Link 16)、

これとは別に自己防衛能力付与のためNVG (Night Vision Goggle)搭載改修、費用は1機当たり0.8億円。

 

F-2の近代化改修

F-2は、空戦の他に対地、対艦攻撃もできる多用途戦闘機として日米共同で開発された機体。米国のF-16C/Dブロック40を基本とし、旋回性能向上のため翼面積を増やし(29.7m2から34.84m2へ)、軽量化のため炭素繊維複合材を多用、離陸性能改善のためエンジンを推力向上型に変更してある。

平成7年(1995年)初飛行後、平成23年(2011年)に94機目(他に試作4機)となる最終機が納入された。定期整備後の試験飛行で1機全損(2007年10月)と津波被害(2011年3月)で5機の全損が発生した。このため現有勢力は、津波被害で修理中の13機を含め、88機に減少している。これが3個飛行隊と操縦教育訓練部隊に配備されている。単座型のF-2A(62機)と複座型のF-2B(32機)が製造された。

F-2の最大の特徴は三菱電機製J/APG-1レーダー。実用機搭載では世界初のAESAレーダーで、ガリウム−砒素(GaAs=Gallium-Arsenide)半導体製の送受信素子約800個を直径70cmの平面アンテナ上に並べている。これを改良し探知距離を伸したのが近代化改修で換装するJ/APG-2レーダー。半導体素子を窒化ガリウム(GaN=Gallium-Nitride)に変更し、1216個使用する。”GaAs”に比べ”GaN”半導体送受信素子は出力が3倍になる。

F-2の近代化改修は2009年から実施中で、内容は次ぎの項目からなる。

*  空対空戦闘能力向上にため、AAM-4B 空対空ミサイルおよびAAM-5空対空ミサイルの搭載能力を持たせる機体改修、およびJ/APG-2レーダーへの換装。1機当たり費用は、機体側改修が3.2億円、新型レーダーが3.1億円。

*  JDAM(Joint Direct Attack Munition)「GPS誘導爆弾」機能の付加。1機当たり費用は2.8億円。

*  三菱電機製、ターゲッテイング・ポッド[J/AAQ-2]「外装型赤外線前方監視装置」の搭載試験。最初の試作改修費は67億円だが、量産化後の改修費は1機当たり数億円程度に減ずる見込み。

さらに開発中の新空対艦ミサイルXASM-3の完成(2016年予定)を待って、機体改修が行なわれる。

これ等一連の改修でF-2の総合的戦力は米海軍のF/A-18E/Fスーパーホーネットに迫ることになり、対中国海空軍との軍事バランス改善に役立つ。

 

F-2

図3:(航空自衛隊)2007年6月グアム島アンダーセン基地から離陸するF-2A戦闘攻撃機(第3航空団第3飛行隊所属)。三菱重工製だがロッキードマーチンが構造等の40%を分担。

全長15.5m、翼幅11.1m、全備重量22㌧。エンジンはGE F110-IHI-129型推力13.4㌧1基、IHIでライセンス生産。搭載兵装は13ヶ所のハードポイントに燃料タンクを含み8㌧まで可能、空対空ミサイル、対艦ミサイル、500lbs爆弾などを任務に応じて多様な兵装を搭載できる。

 

F-35の調達

F-35Aは、空自が1960年代から使ってきたF-4EJ戦闘機(75機を保有)の更新として導入が決まった。42機を2021年までに導入の予定だったが、予算の制約で2023年に延期されるかも知れない。

昨年暮れに決定された中期防(平成26~30年)では、42機中の28機の導入が記載されている。難航していた開発も問題点が順調に解決し、昨年暮には100機目の完成式が行なわれた。現在は搭載兵装の発射試験が行われているところ。兵装はAIM-120空対空ミサイル、JDAM統合直接攻撃爆弾など多岐に亘り、このためのソフト[ブロック3F]の完成が急がれている。

F-35

図4:(Lockheed Martin)背面を見せながら飛行するF-35A、胴体下部の弾倉が開いているところ。ここにJDAMやAIM-120が搭載される。この他に翼下面のハードポイントにも各種兵装を装着、携行できる。

 

我国は、少数初期生産(LRIP 8)、つまりロット8生産分から4機を完成機で受領し、以後は三菱重工が建設予定の「最終組立て検査施設(FACO)」で組立てる。エンジンはP&W F135(推力43,000lbs)をIHIがライセンス生産する予定。導入当初の兵装はJDAMやAIM-120になるが、いずれ前述した国産のAAM-4BやAAM-5空対空ミサイルの搭載問題が出てくる。これについてロッキードマーチンの開発責任者は「AAM-4BはAIM-120と比べ直径が23mm太いだけで長さはほぼ同じ、従って搭載には問題ない」と語っている。しかしソフトは改める必要がある。

F-35Aの導入機数は、前述の近代化改修から外れたF-15Jの旧型機約100機の退役に併せて、その更新として増機が必要となる筈だ。また、2015年3月にはヘリ空母”いずも”満載排水量27,000㌧が就役し、数年後には同型艦の2隻目が完成する。さらに中期防には「期間中に・・・指揮統制、大規模輸送、航空運用能力を兼ね備えた多機能艦について結論をだす」とあり、“次期防で強襲揚陸の取得”が現実味を帯びてきている。これ等で搭載機の候補として登場するのが、米海兵隊が使うF-35B STOVL機(短距離離陸垂直着陸機)である。

これ等を考えるとF-35の機数は現計画の42機に止まらず、大幅に増えることになろう。

 

[F-15MJ]、[F-2]、[F-35A]を支援する航空機群

 

*  [E-767]早期警戒管制機の能力向上

E-767

図5:(航空自衛隊)B767旅客機を基本にして警戒管制システムを搭載した「早期警戒管制機」。乗員20名、最大離陸重量170㌧、航続時間約12時間。2000年から運用開始中で現在4機を保有。

 

ロートドーム内に装備されるレーダーシステムは、米空軍E-3最終型と同じWestinghouse製AN/APY-2で3次元パルス・ドップラー・レーダー、その背面にはMk.XII敵味方識別装置(IFF)アンテナが付いている。

2010年からの改修で、通信機能を強化した[F-15JおよびMJ]との連携ができるようになり、巡航ミサイルへの対処が可能になる。また、2013年決定の「能力向上」で次世代型敵味方識別装置(IFF)関連の改修が行なわれる。改修予算は9億5,000万㌦。

 

*  新早期警戒(管制)機4機の導入

E-2C

図6:(航空自衛隊)E-2C早期警戒機、現在13機が三沢基地に配備、運用中。新規導入の4機はこれの性能向上型[E-2D]になるとの見方が有力。[E-2D]は、外見はあまり変わらないがレーダーを含む電子装備を一新した新型機。

 

1987年から導入したE-2C早期警戒機“ホークアイ(Hawkeye)”は、双発ターボプロップ機でロートドーム内にレーダーを装備する。低空侵入機の早期発見、捜索、救難、指揮の円滑化、通信中継、などを担当する。2005年から米海軍の”ホークアイ2000”と同等機能への改修を実施。

中期防期間に導入予定の新早期警戒機4機は、E-2Cの改良型で2010年から米海軍に納入が始まった[E-2D Advanced Hawkeye]が有力候補だ。

[E-2D]は、新型レーダーAPY-9(AESA型)を始めアビオニクスを全て更新し、Link 16通信機能を備え、エンジンはRR T-56-A-427Aにするなど、格段に性能が向上している。米海軍への納入価格は1機当たり1億2000万㌦。

 

*  新空中給油・輸送機3機の追加導入

KC-767

図7:(航空自衛隊) [KC-767]は、ボーイング767-200ERを空中給油・輸送機に改造した機体で、尾部に給油ブームを装備する。タンカーとしては初めて遠隔視認装置を採用、胴体底部のカメラ5台を使いコクピット後部の操作台で給油ブームを操作する。

 

2008~2010年に[KC-767]型空中給油・輸送機を4機導入、小牧基地に配備、使用中。中期防中に配備予定のF-15J、F-2 、F-35A等の給油支援には不足するので、新たに3機を追加導入するもの。

最大搭載燃料は91.6㌧、輸送能力は人員200名または貨物30㌧。単価は223億円。

 

*  C-2輸送機10機の導入

xc-2

図8:(航空自衛隊)飛行試験用C-2は2機が岐阜基地に配置され試験が続けられている。中期防期間中に10の調達を予定している。

 

開発が遅れているが、平成26年度末(2015年3月)完成を目標に作業が進んでいる。最大貨物搭載量は30㌧、航続距離は貨物12㌧を搭載して6,500km、小牧からホノルル、シンガポール、デリーなどに直行できる。空中受油装置およびF-15J改修機と同じ暗視装置NVGを備える。

 

*  PAC-3の能力向上

説明を省略。以下を参照されたい。

2010-12-07「PAC-2およびPAC-3防空ミサイル」

2013-09-23「わが国のミサイル防衛[BMD]は3段構えに」

 

 

*  対空型無人機3機の導入

ノースロップグラマン製のRQ-4Bグローバルホーク(Global Hawk)あるいはその米海軍型MQ-4Cトライトン(Triton)のいずれかを指すが、説明は省略。

 

−以上−

本稿作成の参考にした記事は次ぎの通り。

Golden Eagles News 2014-02-13 by Wendell Minnick

Aviation Week 2014-02-03 & 10, “Many on many” by Bill Sweetman

第II部 わが国の防衛政策の基本と防衛力整備、第4節 中期防衛力整備計画

航空自衛隊主要装備136ページ

“[F-15J]戦闘機の近代化計画が本格的に進む”2008-09-17

“新型ミサイルでF-2の空戦能力が大幅アップ“2012-03-09

“レーダーの基本”2010-09-20

“新中期防で調達予定の主な米国製品は”2014-01-14