JAXA、太陽光で帆走する“宇宙ヨット”を開発し木星探査を計画


2014-05-11 松尾芳郎

トロヤ探査

図:(JAXA)木星近傍のトロヤ群小惑星を訪れる“宇宙ヨット”の想像図。花びら状の部分は太陽からの光子を受け推力を得るソーラーセイル(橙色の矢印)。中央部分は太陽電池と制御装置、イオンエンジンを含む探査機本体(灰色)を示す。赤色の回る矢印は、制御装置で全体を回転させ遠心力でソーラーセイルの形状を保持している様子を示している。

3年前に打上げて宇宙帆走に成功したイカロス(Ikaros)の成果を基に、大型の帆走用ソーラーセイルを開発。これに高性能イオンエンジンを組合わせたハイブリッド推進の探査機をトロヤ群小惑星に送り、着陸しサンプル採取、帰還しようと云う構想である。探査機のソーラーセイルは直径50m級の大型になる見込み。

今の計画では、2019-2020年に打上げ、2026-2028年に木星に到着し観測軌道を確定、トロヤ群とのランデブーは2030年になると見込んでいる。

イカロス展張

図:(JAXA)写真は2010-05-21に打上げられ、展張に成功した一辺14mの正方形のイカロス。全体が太陽光を受けて推進力を出すソーラーセイルで、中心部には軌道補正用の装置、中程には薄黒色の薄膜太陽電池が枠状に貼付けてある。太陽電池による発電を確かめ、太陽光により加速していることを確認した。

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図:(JAXA)“イカロス”は、H-IIAで金星探査機PLANET-Cと相乗りで打上げた後、数週間かけてセイルを展張し、それから太陽電池で発電を始めた。その後半年間、セイルで太陽の光の力(極めて微力)を受け、加速していることを確認した。同時に液晶装置でセイル膜面の向きを調整し軌道制御を行い、航行技術を獲得した。イカロスの膜面は一辺14mの正方形で厚さは0.0075mmのポロミド樹脂である。太陽光による宇宙帆走は世界初の試みで、各国から高く評価されている。

 

近着の外誌によると、「古来日出ずる国と呼ばれてきた日本は、宇宙開発で太陽光利用の先陣を切っている国でもある」と次ぎのように紹介している。

『宇宙での太陽光利用では、太陽エネルギーを受け止める巨大な衛星を打ち上げ、そこからエネルギーをビーム状に束ね地表に送り込む「”SSP” = space solar power」構想が知られている。この四月には日本が主催して”SSP”に関する国際会議を神戸大学で開催し、宇宙空間から太陽エネルギーをマイクロ波で地表に伝達する最新の研究成果が多く発表された。

席上JAXA代表から「宇宙空間から太陽エネルギーを直接地上に送り、送電網に供給するSSP技術とは別に、JAXAは“はやぶさI”に太陽光発電推力装置/イオンエンジンを搭載して小惑星帯の一つ「いとかわ」に接地、サンプル採取して帰還する事に成功した。この直後2010年5月にJAXAは金星気象探査機”あかつき”(PLANET-C)」を打上げたが、これに相乗りの形で世界最初となる太陽光で帆走する宇宙ヨットの実証機を宇宙空間に送り込んだ。』

 

この宇宙ヨットは”イカロス”(IKAROS)と名付けられ、一辺14m、対角線20mの四角形の帆で厚さ7.5μの薄膜構造、これで太陽からの光子を受け、その力(僅か1.12mm Nt)で宇宙空間を帆走する。この帆の中程には薄い太陽電池が貼付けてあり、“あかつき”と一緒に飛行するのに必要な電力を得ている。

JAXAでは、“はやぶさI”の後継機として、小惑星帯の別の惑星1999JU3からのサンプルリターンを目指し、”はやぶさII”を開発中で今年末に発射する。目的の惑星1999JU3は、”はやぶさI”が行った「いとかわ」とは異なり、炭素質組成で水や有機物を含む可能性がある。

”はやぶさII”は、重量600kgの探査機、H-IIAロケットで打上げ、改良型イオンエンジンで加速し地球スイングバイ航法で2018年に目的天体にランデブーし、着地、サンプル採取、再度イオンエンジンで航行、2020年にオーストラリアに帰還する予定だ。

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図:(JAXA)「はやぶさII」は小惑星1999JU3に到着、表面を上空から観測した後、タッチ・アンド・ゴー方式でサンプル採取、それから衝突装置を投下し人工クレーターを作り、その近辺からも物質採取をする。図はその想像図。

 

”はやぶさII”に使う改良型イオンエンジンの技術は、「イカロス」で開発した太陽光セイルの技術と組合せ、ハイブリッド推進として木星およびトロヤ群小惑星の探査機に使われる。

つまり、セイル表面に貼った太陽電池で発電し、イオンエンジンを動かす。これまでのエンジンでは、木星軌道まで行けても帰還用燃料の重さのため地球への帰還は難しい。ソーラー電力セイルとイオンエンジンの組合せで初めてサンプルリターンが可能になる見通しだ。しかし、その実現には「イカロス」より10倍大きい帆を展開、制御する技術や、「はやぶさI」より数倍燃費の良い高性能のイオンエンジンが必要となる。

–以上−

 

 

本稿作成の参考にした記事は次ぎの通り。

Aviation Week April 21, 2014 page 22 “Rising Sun” by Frank Morring, Jr.

ISAS 2014-01-10「宇宙・夢・人 108th:木星のトロヤ群小惑星からサンプルリターン」

ISASコラム2014-02 No.395 「はやぶさ2を全体俯眼して」 国中 均

JAXA 2012-11-30 「IKAROS 世界記録に認定!」

JAXA 2012-03-21 「小型ソーラー電力セイル実証機[IKAEOS]降機運用報告」森治

JAXA 2011-01-31「木星探査用ソーラー電力セイル(中型セイル)の研究開発状況」船瀬龍、矢野創、津田雄一、