–ギヤード・ターボファンの出現、大型ファンと軽量エンジンに注目、日本の技術も貢献—
2015-02–02 松尾芳郎
民間用エンジンにとって今年(2015)は数機種で初飛行が行われ、また地上試運転が始まり、新型エンジンの量産がスタートするなど、これまでにない多忙な年になりそうだ。片や軍用エンジンでは、多くのメーカーが少ない機会を巡って競争を繰り広げると云う展開になる。
民間用エンジンの展望
P&W (Pratt and Whitney)
特に注目されるのはプラット&ホイットニー(P&W=Pratt and Whitney)、同社にとって2015年は特別な年になる。すなわちPW1100G-JM装備のエアバスA320neoおよびPW1500G付きボンバルデイアCSeriesがいよいよ秋には就航する。また上半期にはPW1200Gを搭載した三菱MRJが初飛行する予定だ。すなわち、現在のエンジンに比べ燃費を著しく改善したギヤード・ターボファン時代の幕開けとなり、P&Wは民間エンジンで失った地位を復活する重要な年となる。
しかしここまでの道のりは平坦ではなかった。2013年5月に起きたCSeries/PW1500Gの地上運転中に起きた破裂事故で、オイルシステムが設計変更となり、このため4ヵ月近く試験飛行が中断された。エンジン改修後CSeriesの試験飛行は再開され、今では遅れをほぼ取り戻すまでに回復している。
PW1000G系列は、A320neo、MRJ、CSeries、に加えロシアのイルクーツク(Irkutsk) MC-21とブラジルのエンブラエル(Embraer) E-2系列機に採用が決まり、これまでに合計6,000台以上を受注している。これからさらに採用が増えそうだ。
PW1000G系列エンジンについては、を参照されたい。
「P&W、エアバスA320neoエンジン「PW1100-JM」の初号機を納入」2014-08-08作成、2014-08-11改訂
図:(Airbus)エアバスA320neoに取付けられたPW1100G-JMエンジン、2014年9月に飛行試験をスタート、暮れにFAA型式証明を取得。今年秋には就航する。写真のPW1100G-JM/A320neo(推力24,000-33,000lbs)の他に、PW1000Gシリーズには、PW1200G/三菱MRJ(推力15,000-17,000lbs)、PW1400G/Irkut MC-21(推力28,000-31,000lbs)、PW1500G/ボンバルデイアCSeries(推力19,000-23,300lbs)、PW1700GおよびPW1900G/エンブラエルE-jets E2(推力17,000-23,000lbs)がある。各型式に応じファン直径は56㌅〜81㌅、バイパス比はそれぞれ9:1〜12:1となる。
「-JM」の意味は、開発に参加しているドイツMTU社と我国JAEC(IHI、三菱重工、川崎重工の3社連合)のそれぞれの頭文字。JAECの参加は23%、ファンケースとGV、低圧コンプレッサー(LPC)、タービンシャフト、燃焼器などの開発、生産を担当する。またPW1200G/三菱MRJの組立ては、三菱重工名古屋航空宇宙システム製作所で行なわれる。MTUの参加分はエンジン型式により異なるが15-18%を担当、高速回転する低圧タービン(LPT)と高圧コンプレッサー(HPC)の前方4段を受持ち製造する。
図:(MTU Aero Engines)PW1000G ギヤード・ターボファンは、 P&Wが20年の歳月と100億㌦の資金を投入、完成した次世代エンジン。低圧コンプレッサーとファンの間に減速ギアを入れ、両者を最適速度で回転させる。これでファン直径を大きく出来、低圧コンプレッサー・タービンは高速運転が可能となる。この結果、全体として段数が6段減り、エアホイルは2000枚少なくなる。燃費は現在のベスト・エンジン対比で16%向上する。
今年はまた、大型キャビンを備え長距離用の新型ビジネスジェット、ガルフストリーム(Gulfstream)G500の試験飛行が始まる。これにはP&W Canada製の次世代ビジネスジェット用エンジンPW800を搭載する。PW800は、PW1500Gエンジンと同じコアを使っているがファン駆動ギアはない。G500の就航は2018年と予定されており、大型化したG600は一年遅れで就航する。
ドイツMTUが高圧コンプレッサー(HPC)と低圧タービン(LPT)を製造、開発を含む全体の15%を担当している。G500用にはPW814GA、G600用にはPW815GAが装備される。MTU担当の高圧コンプレッサーは、圧力比その他詳しい性能は明らかにしていない。ほぼ同時期に就航予定のスネクマ製”シルバークレスト”(後述)とは競合する関係にある。
図:(P&W Canada)PW800エンジンは推力12,000-20,000lbs級のターボファン。ファンはブレード20枚とデイスクの一体型、ベアリングはハイブリッド・セラミックで軽量、長寿命、発熱量が少ない、スラスト・リバーサーは複合材製、高圧コンプレッサー(HPC)8段、高圧タービン(HPT)2段。低燃費で、ICAO環境基準対比でNOxは50%、COは35%優れている。
GE (General Electric)
GE-スネクマ(Snecma)の合弁企業CFM社は、新しいLeap-1エンジンを開発中で2015年は重要な節目となる。Leap-1系列の最初のモデルLeap-1Cは中国Comac C-919に搭載されるが、最初のエンジンがこのほど完成(2014年10月)、GE所有の飛行試験機747に取付けられ飛行試験が始まった。殆ど同一モデルのLeap-1AはエアバスA320neo用で今年(2015)末から飛行試験が始まる。またボーイング737MAX用のLeap-1Bは 747飛行試験機を使い今年初めから飛行試験をする。そして737MAXに搭載しての試験は2016年から始める。
CFMは、実機搭載用のLeap-1C を今年第2四半期中に中国Comacに引渡す。C919は現在最終組立工程にあり、初飛行は2015年末を目標にしている。そして中国政府の型式証明取得は2017年末、就航は2018年初めから開始したい、としている。
図:(CFM International) 中国Comac C919用のLeap-1Cエンジンは、GEの飛行試験機747に取付け(写真)、試験を開始(2014年10月)、2016年には型式証明取得を予定している。系列にはLeap-1A(推力24,500-32,900lbs)、Leap1B(推力23,000-28,000lbs)、Leap1C(推力27,980-30,000lbs)があり、それぞれエアバスA320neo、ボーイング737MAX、COMAC C919に使われる。燃費はCFM56-7BEに比べ15%改善される。
図:(CFM)Leap-1エンジンは、炭素繊維複合材製ファン/18枚、低圧コンプレッサー(LPC)3段、低圧タービンは(LPT)7段。コアはGE90/GEnxで実証済みの「高圧コンプレッサー(HPC)10段、TAPS低排ガス型燃焼室、高圧タービン(HPT)2段,」を適用している。コンプレッサーはデイスク一体型のブリスク構造、バイパス比は8.5-10:1。
CFMではLeap-1の開発を急いでおり、受注済みの7,800台の引渡しを早急に開始したい、としている。一方在来型のエアバスA320系列機、ボーイング737NG、空軍のKC135Rタンカーなどに搭載しているCFM56-5Bおよび-7B(推力20,000- 30,000lbs)の受注残は合計4,000台もあり、GEとスネクマ両社は折半して生産中。年間生産量は、昨年は1,550台ずつ、これを逐次増やし2020年には1,800台にして受注残を消化する予定。そして2019年からは生産をLeap-1に切替える。
CFM Leap-1については次ぎの記事を参照されたい。
「次世代エンジン”CFM-Leap-1”用ファンブレードの量産始まる」2014-06-10作成
GEが他社と共同で運営しているエンジン事業は次ぎのように多い。すなわち、CFM56エンジン製作のスネクマを始めとし、A380用GP7000系列エンジン(推力70,000lbs)を製作するエンジン・アライアンスのP&W、ビジネスジェット用のHF-120エンジンを製造するGE-Hondaのホンダ。これらGEが関与する事業も拡大傾向にあり、2016年には2,860台の受注(大半はCFM56)が見込まれている。
図:(GE Honda Aero Engines)GE-Honda製最初の量産型HF120エンジンが、昨年末(2014-11)にホンダジェットHA-420用に納入された。型式証明は2013年末に取得済み、ホンダ開発のHF118エンジンを基本に、GE-Hondaで改良した推力2,000lbs級の小型ターボファンである。長さ1.2m、直径54cm、重さ180kg。現在シエラ・インダストリーズ(Sierra Industries)と提携、セスナ(Cessna)社製サイテイション(Citation)ビジネスジェット機のエンジン換装計画を進めている。
ボーイング787の引渡し機数の増加に伴いそれに搭載するGEnx系列の生産量、納入数も増え続けている。GEnx-1Bおよび-2Bエンジン(推力67,000lbs級)の生産量は2016年には304台に達する。GEnxは、高性能を実証済みのGE90-94Bの高圧コンプレッサー(HPC)、10段、圧力比23:1、を中心にして作られた。
ボンバルデア(Bombardier)およびエンブラエル(Embraer)両社が作るリージョナルジェット用のCF34エンジン需要も堅調で2014年9月までに4,000台を出荷済み、2020年までには合計で7,500台が生産されよう。系列にはCF34-3からエンブラエル190/195用のCF34-10E(推力20,000lbs)までがある。CF34—10A(推力18,000lbs)はCOMAC ARJ21に搭載されている。CF34系列エンジンには我国のIHIが開発から量産を含め、低圧タービン(LPT)、高圧コンプレッサー(HPC)後段部、タービンシャフトなど27%を担当している。
図:(GE Aviation)1992年にリージョナル機用として登場したCF34エンジンは以来1億時間を超える飛行でその信頼性の高さを証明している。
–以下(その2)に続く–