新型哨戒機P-1に空戦能力を持つ“ミサイル発射機”型が出現か


2015-05-23(平成27年) 松尾芳郎

 XP-1マベリック発射

図1:(防衛省技術研究本部)XP-1哨戒機が空対地ミサイル(ASM)、レイセオン製AGM-65 マベリック(Maverick)を発射した様子。平成23年(2011)6月発表の写真。マベリックは1980年代に実用化され以来多くの改良型があるが全長2.5m、発射重量約300kg、射程20km程度。

平成27年(2015)2月には厚木基地のP-1哨戒機2機がハワイ州カネオヘ基地に進出、対艦ミサイル(ASM)ハープーン(Harpoon)の発射実験を行い成功している。ハープーンには、艦対艦(SSM)RGM-84、潜水艦発射型(USM)UGM-84、空対艦(ASM) AGM-84などがあるが、空対艦AGM-84には固体燃料ブースタはない。最新型のブロックII空中発射型AGM-84Lは、全長3.85m、重量530kg、射程270km。

p-1哨戒機

図2: (海上自衛隊)P-1哨戒機は2000年に開発が決定、2007年9月に試作1号機が初飛行、2013年(平成25年)3月から海上自衛隊厚木基地第51航空隊に納入が始まった。現在10機が配備中で合計70機の調達が予定されている。本題の“ミサイル発射機”や“早期警戒管制機(AEW&C)”の開発が見込まれるので、さらに増えそうだ。

P-1哨戒機は、IHI製のF-7-IHI-10ターボファン、推力13,500lbs (60kN)を4基搭載し、全長38m、翼幅35.4m、最大離陸重量約80トン、巡航速度830km/hr、航続距離8,000km (4,300 nmi)、実用上昇限度13,500m (44,000ft)。兵装は胴体内兵装庫と翼下面のハードポイント8箇所に空対艦ミサイル、対潜爆弾、魚雷など9トン以上を搭載できる。ハープーンや後述のASM-2 93式空対艦誘導弾を装備する。

 

近着の外誌によると「防衛省は1月22日に川崎重工(KHI)に対し、同社が製造する新型哨戒機P-1を基にして、射程100km以上の大型空対空ミサイルの運用能力を追加し2030年代中頃までに配備する案を提示、対案を求めた」。

これに対しKHIは、3月20日に“ミサイル発射機”の開発案を回答した。

詳細は不明だが、配備中のP-1を改修するか、あるいは現在検討中の”早期警戒管制機(AEW&C=airborne-early warning and control)型P-1”をベースにするか、いずれかと思われる。

現在空自は、ノースロップグラマン製AEW&C E-2Cホークアイ13機を運用中だが、新たに新型のE-2Dアドバンスド・ホークアイ4機の導入を決めている。詳しくは参考資料7)を参照。現用E-2Cホークアイ13機の後継としてE-2Dの追加購入の話もあるが、外誌は国産のP-1哨戒機のAEW&C型を有力候補としている。事実、防衛省が公開している文書には”P-1型 AEW&C”の開発推進を裏付ける記事がいくつか見られる。

P-1哨戒機のアビオニクスは、当初米海軍のP-8A*と共通性を持たせる話だったが、その後白紙に戻され自主開発のシステムが搭載されている。主なものは、機首下部に引込み式HAQ-2型光学/赤外線探知機(FLIR)ターレット、機体下面にソノブイ発射口37本、機首レドーム内と機首車輪格納部付近には、HPS-106レーダーが計3面、と云う具合だ。HPS-106レーダーは、XバンドAESA型でGaN(窒化ガリウム)送受信素子1600個から成る長方形アンテナを使い、これまでの哨戒機P-3Cのレーダーより遠距離、高高度で微小な目標を探知できる。戦術データ-リンクシステムは、米規格のLink 16経由で友軍の艦船、航空機、レーダーサイトなどと情報を共有できる。

“P-1型AEW&C”機用として開発中のレーダーは次のような斬新な装置になる模様。すなわち「電波-光波複合センサー-システムの研究」として2010年から開発中の“電波(発射電波の反射波)と赤外線(目標の熱の受感)情報を組合わせて目標を探知するレーダー”で、2017年中に完成する予定。H27(2015)年度概算要求に依ると、E-767 AWACS(早期警戒管制機)と同じく胴体上部にレドームを新設、ここにレーダー-アンテナを搭載するらしい。新レーダーは在来型よりずっと早く遠距離から高い精度で来襲する敵の弾道ミサイル、巡航ミサイル、ステルス攻撃機、を探知できる。新レーダーは、機体搭載型として関連装置を含めて2025年までに完成させるとしている。

こうして“P-1型AEW&C”機は、探知能力の優れた新レーダーを備え、9トンの兵装を搭載する機体となる。長射程の空対空ミサイルを搭載すれば、相手機ミサイルの射程外から敵を攻撃できる理想的な“ミサイル発射機”となりそうだ。

 

(注)*ボーイングP-8Aは、737-800NGをベースに主翼を-900から転用して作られ、2013年11月より配備が始まり現在20機ほどが完成している新型哨戒機。米海軍は122機を購入する予定。エンジンはCFM56-7B推力27,000lbs (120kN)を2基、最大離陸重量約85トン、巡航速度815km/hr、戦闘行動半径2,200km、兵装積載量9トン。従ってP-1哨戒機とほぼ同じ性能、大きさ、搭載量を持つ。

P-1 AEW構想

図3:(防衛省H27年度予算概算要求)予算要求書に掲載されたP-1哨戒機をベースとする早期警戒型AEW&C機の風洞試験説明図。E-767などと同じく胴体上面に円板型レドームを搭載、その中に新型レーダー-アンテナを収める模様。

 

“「我国の次世代戦闘機「F-3」の概念設計が進む」2014-12-08改定3”にあるように、次世代戦闘機F−3の「25 DMU」案では、速度を犠牲にして航続距離と搭載ミサイルの数に重点を置く考えになっている。

P-1型“ミサイル発射機”は「F-3」とは異なるが、共通するのは空対空ミサイルの発射能力である。比較的低コストで優れたセンサー、ミサイル誘導技術、ミサイル本体を開発することで、巨額な資金が必要な戦闘機の大量配備を節約しよう、と云う考えだ。

軍拡を進める中国は、近くロシア製スーホイSu-35型戦闘攻撃の購入契約を結ぶものと見られ、在来のJ-10、J−11、J-16などと併せて10〜20年後には数百機の攻撃機を擁する大空軍に成長する。

防衛省によると“ミサイル発射機”の要件として、長さ4.7 – 8.4 m、重さ650 – 1,340kgの大型空対空ミサイル(AAM)の搭載を検討している。現在配備中の三菱電機製「99式空対空誘導弾(B) (AAM-4B)」は全長約3.7m、重量220kg、速度はマッハ4-5、射程は非公開だが米国レイセオン製AIM-120B AMRAAMを上回る100km程度とされている。これに比べると搭載を考えているAAMはかなり大型で、地上配備用あるいは艦載用の対空ミサイルに相当するサイズになる。パトリオットやSM-2の改良型を考えているかも知れない。

 

(注)パトリオット:地対空ミサイルでPAC-1からPAC-3がある。全長5,8m、重量700kg、速度はマッハ4.1、射程約 100km、PAC-3は弾道ミサイル迎撃に重点を置いた型でその場合の射程は20km。我が国ではライセンス生産を行い各地に配備中である。

SM-2:艦載型対空ミサイルで、空対空ミサイルAMRAAMのシーカーを搭載した新型はSM-6と云う。SM-2ブロックIVは全長6.6m、重量1,470kg、射程300km。

 

“ミサイル発射機”構想は、1957年にアメリカ海軍でも検討されたことがあった。戦闘機よりもミサイルに重点を置く考え方で、空母艦載の攻撃機ダグラスF6Dを“ミサイル発射機”に改造し当時のAAM「イーグル」、重量580kg長さ4.9m、を6基搭載する、と云うアイデアだった。しかし、当時開発が進んでいたグラマンF-14「トムキャット」が選択され、キャンセルになった。

最近では2011年に米国のシンクタンク「ランド-コーポレーション」が、B-1超音速爆撃機に、地対空パトリオットや艦載型SM-2対空ミサイルの改良型を20基程度搭載することを提案したが、実現していない。

 

ここで国産の対艦、対空ミサイルの主なものについて簡単に触れて見よう。

l   対艦 (SSM)ミサイル;—

SSM-1B 90式艦対艦誘導弾(SSM)。ハープーンの代替として開発され、配備中

ASM-2 93式空対艦誘導弾(ASM)。SSM-1Bを改良したASM-1C(91式空対艦誘導弾)をさらに性能向上し、赤外線センサーを搭載、電子戦妨害を受けにくくしたもの

XASM-3 2016年度開発完了予定の超音速空対艦ミサイル(ASM)。現在F-2戦闘攻撃機を使用し発射試験を行っている。固体燃料ブースタとラムジェットを組み合わせた統合推進システム(IRR)を採用し、マッハ3以上(一部報道ではマッハ5)の超音速で目標に向け飛行。アクテイブ/パッシブ-複合シーカー方式のセンサーで目標探知能力が向上している。全長6m、重量900kg、射程は150km以上とされる。XASM-3が実用になれば、P-1哨戒機にも搭載される。

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図4:(防衛省)F-2戦闘機の翼ハードポイントに懸架されたX ASM-3空対艦ミサイル(白色)。ミサイル下面両側に見えるのはIRR用ラムジェット。

 

SSM-1改 12式地対艦誘導弾(SSM)。SSM-1を大幅改良し、射程を200km程度に延伸したもの。詳しくは参考資料8)を参照。

  空対空(AAM)ミサイル;—

AAM-4B 99式空対空誘導弾(B)(AAM)。前モデルAAM-4の改良型で内蔵レーダーをAESA化し、射程を100km程度に伸ばしたもの。全長3.7m、重量220kg、速度マッハ4-5。詳しくは参考資料9)を参照。

 

-以上-

 

1) Aviation Week May 11-24, 2015 “Mighty Missileer” by Bradley Perrett

2) 防衛省技術研究本部ニュース平成23年6月“次期固定翼哨戒機(XP-1)性能評価を実施中

3) 防衛省技術研究本部ニュース平成24年3月”次期固定翼哨戒機(P-1)の開発完了

4) 「我国の次世代戦闘機「F-3」の概念設計が進む」2014-12-08改定3

5) 防衛省技術研究本部“電波-光波複合センサシステムの研究”

6) 防衛省“平成27年度予算概算要求の概要”

7) 防衛省、「V-22オスプレイ」、「RQ-4Bグローバルホーク」、「E2-Dアドバンスド・ホークアイ」の採用を公式発表」2014-12-02作成

8) 「陸自、新型地対艦ミサイルの熊本集中配備を決める」2014-06-17作成

9) 「欧州製「ミーテイア」空対空ミサイルに日本製シーカーを搭載」2014-08-05作成