エアバス最新技術の結晶、A350のパイロット報告(その1)


2015-06-08 (平成27年) 松尾芳郎

 

エアバスとボーイングは、燃費が良く、運航費の安い、騒音やエミッションが少ない、長距離用の次世代型双発広胴機の分野で競争を繰り広げている。

ここで取り上げるA350は、エアバスが作る最大の双発機で、航続距離が最も長く、最も高空を飛び、最も高速で巡航できる最新型機である。つい先日カタール航空で飛び始めたA350-900型機はボーイング787より大きい。エコノミーで9列席、315名の乗客を乗せマッハ0.85の速度で7,750nm(14,300 km)を飛行する。対抗する787-9型機は280席で航続距離は8,300nm (15,400 km)。

エビエーションウイーク誌は、787型機について2012年に飛行体験報告を発表したが、今回はA350型機の操縦を体験した同誌の主席航空機評価記者フレッド-ジョージ氏のレポートである。

A350飛行中

図1:(Airbus) A350はエアバスで最も効率の良い主翼を備え、315名の乗客を乗せ14,300 kmを飛べる。構造の53%を炭素繊維複合材で作り軽量化を図り、客室与圧高度を6,000 ft(約2,000m)にして快適性を保っている。確定受注は780機。このうち日本航空から2013年10月にA350-900型機を18機と同-1000型機を13機、合計31機の確定受注、引渡し開始は2019年の予定、さらにオプション25機の契約を結んでいる。

 

A350は、787と同じく複合材を多用し、完全な3軸-デジタル・フライト・コントロール・システムを備え、最新のロールスロイスTrent XWBエンジンを装備する。しかしA350のシステム設計は787に比べやや保守的で、電動システムは少ない。油圧系統は、ボーイングの3システムに対し2システムだが、関連する電気系統を2重にしてフライトコントロール・システムの冗長性を補強している。

A350の客室の幅は広く座席幅18インチ(45.7 cm)のエコノミー席9列配置にゆとりを持たせてある。巡航高度は最大43,100 ft(13,500 m)だが、客室与圧は9.4 psiに保持され乗客の疲労を軽くするよう配慮されている、これは高度6,000 ft (2,000 m)の大気圧に相当する。客室の窓はA330より2 in(5 cm)も広い。

A350主翼の姿

図2:(Airbus) A350の主翼は最新の翼型を採用、エアバス設計の中で最も効率が良い。翼端の湾曲したウイングレットは長さ4.3 m、これで抵抗が減り航続距離が伸びる。

 

炭素繊維複合材が備える高強度と優れた疲労強度を生かして、主翼は高アスペクト比(細長)となり、エアバスの最新の翼型を採用したことで空力抵抗を減らしている。主翼の後退角は前縁から4分の1の所で31.9度、翼端は三日月型ウイングレット、スポイラーはフラップと同期して、プラップが下がると一緒に下がり、主翼に生じる隙間を埋めるようになっている。

私は、ツールース・ブラナック空港(Toulouse-Blagnac AP)でA350-900 型機2号機(MSN002)の機長席に座り、右席にはエアバス主席テストパイロットのピーター・チャンドラー(Peter Chandler)氏、補助席にはセーフテイ・パイロットとしてクリステイン・ノルデン(Christian Norden)氏が乗務した。MSN002は試験機材を満載しているに加え試験要員等13名が乗り込んでいるためかなり重く、離陸重量は最大の73%に相当する444,000 lbs(約200トン)近くになった。

フレッド・ジョージ氏

図3:(Aviation Week)A350の機長席に座るエビエーションウイーク誌の主席航空機評価記者フレッド-ジョージ(Fred George)氏。同氏のパイロット・レポートは平易で判りやすいと云う定評がある。同氏の右手は2本の推力レバーに添えられ、左手はサイドステイックを握っている。前面の液晶パネルは、正面に”PFD & ND”、左に”OIS”、そして両パイロットの間には”ECAM”その下に“多機能型デイスプレイ”がある。これら液晶パネルはタレス社経由で横河電機が供給している。

 

機長席でベルトを締めると“静かで落ち着いた雰囲気のコクピット”の印象を受けた。そこには何も緊張感を強いる新奇なものや音は感じられず、液晶デイスプレイに使われる色調も慣例に従っている。ノブを引いてデータを選択する時は青色(cyan)、ノブを押し込みコンピュータに指示を出す時は赤色(magenta)、青色(cyan)はパイロットの操作終了時にも使われる。緑色(green)は正常、作動中、操作終了、の意味に使われる。

A350のデイスプレイはエアバス機では最大で、横長のタレス(Thales)製15 インチ(38 cm)フラットパネル6枚で構成されている。左右外側は“オンボード・インフォメーション・デイスプレイ(OIS)”、両パイロット正面には“プライマリー・フライト&ナビゲーション-デイスプレイ(PFD/ND)”がある。中央上部の“エレクトロニク・セントラライズド・エアクラフト・デイスプレイ(ECAM)”はエンジン関係の計器、各システムの表示、メールボックス、および乗員に対する警報、を表示する。その下のスクリーンは多機能型デイスプレイで、飛行計画作成に使われタッチパネル(point-and-click)式になっている。

エンジン・スタート前のチェックは驚くほど簡単。先ず“オンボード・インフォメーション・システム(OIS)”経由でグランドパワー(地上補助動力装置)を接続、次に故障の有無を”ECAM”とログブック(運航日誌)でチェックしてからエンジンを始動する。それからAPU(補助動力装置)の火災警報装置をチェックし、APU (ハニウエル製HGT1700)(補助動力装置)をスタートする。

右席のチャンドラー主席パイロットが右の”OIS”を指さし、「ここには現在の天候、使用する滑走路長その他の条件の下で、出発に際し必要な最低限の装備を示す”minimum-equipment list”と”interactive configuration-deviation list”が表示される」と説明してくれた。

チャンドラー氏は”OIS”のairport performance computer softwareを使うために、(引き出し式キーボードを使って)出発地点データとして、”ツールース空港(高度489 ft)”、”ランウエイ14L”、”風向140°”、”風速10 kt”、”外気温(OAT) 19℃”、”高度計セット1019 mb.”の諸データを入力した。そして離陸時の基本データとしては「内翼前縁のDND(drooped nose devise)」は16.7°、外翼前縁のスラットは18°、フラップは20°下げ」の“configuration 2”を使うこと、エンジンは損耗を防ぐため”Flex 50”推力を使用、と入力した。”OIS”に出た計算結果は、必要な離陸滑走距離は7,740 ft / 2,360 m (ランウエイ 14Lは9,843 ftなので十分)であった。使用するエンジン推力”Flex 50”とは、外気温(OAT) 50℃で使う推力値で、最大推力の84%に相当する。”OIS”の表示には”Flex 60”でも安全離陸に支障はないとされたので、離陸には”Flex 69”推力を使うことにした。

A350離陸

図4:(_Airbus) A350のエンジンは、高バイパス比のRR Trent XWBなので離陸時の騒音は91.5 EPNdb。低騒音エンジンと高効率の主翼のお陰で空港周辺の騒音は著しく減少する。試乗した2号機”MSN002”には、炭素繊維複合材使用を強調する塗装がしてある。開発に参画している日本企業は、炭素繊維複合材は東レ(プリプレグ)と東邦テナックス (TPCL)、客室エンタテイメント・システムはパナソニック、ビジネスクラス座席はジャムコ、ランデイング・ギア部品は神戸製鋼、ラダー縱通材はジャムコ、RR Trent XWBエンジンでは川崎重工がIPコンプレッサー、三菱重工が燃焼器とLPタービンブレード、などを供給している。またラジアルタイヤはブリジストン製である。

以下(その2)に続く;—