2015-06-21(平成27年) 松尾芳郎
6月18日に、恒例のLeeham Co.による2015年パリ航空ショーでの受注状況のまとめが発表された。これによると期間中の受注総額は1,070億ドルに達し、エアバスが過半を獲得しボーイングを抑えトップになった。
ショー期間中にエアバスが得た確定受注(orders)と購入約束(commitments)は図1に示す通り。エアバスのF. ブレゲー(Fabrice Bregier)会長は、ショー開幕時にはやや控えめに200機程度の受注を期待したい、と云っていたが、実際には421機の確定受注と購入約束を獲得した。総額は公示価格で570億ドルに達する。
図1:エアバスがパリ航空ショー期間中に獲得した受注(orders)と購入約束(commitments)の一覧。
エアバスでは、今後20年間に於ける民間輸送機の需要は、これまでの予測(図2に示す)では32,600機としていたが、今回のショーの結果を踏まえ33,000機に修正した。その大半は単通路の狭胴型機で23,000機になり、残りを双発広胴型機と4発広胴型機が分けると見ている。
これに対しボーイングの今後20年間の需要予測はやや多めで、合計38,050機、このうち狭胴型機は26,730機を占めると予想している。
図2:エアバスがこれまで予想していた今後20年間の機種別需要の表、今回のショーの受注成績からこれを上方修正している。
狭胴型機:—
在来型のエアバスA320とボーイング737NGが50 : 50で市場を折半しているが、新型のA320neoと737 MAXでは60 : 40と占有率で優位になっている。これにエアバスでは自信を深めているが、特にA320neoの大型版A321neoの売行き好調に勇気付けられている。今回のショー期間中での最大の受注はヨーロッパのLCC「ウイズ・エア(Wizz Air)」からで、その内容は239席型A321neoの110機、総額 125億ドルの購入約束(commitment)、プラス90機オプションであった。これでA320neo系列機の受注は4,000機を超えた。
ウイズ・エアに続いて、大韓航空からA321neoを30機(+オプション20機)、シナジー(Synergy)社からA320neoを62機などの受注に成功した。
広胴型機;—
サウジ・エアから400席仕様のA330-300型機を20機受注、同時に20機のA320neoの受注も得た。ガルーダ航空とはA350XWB-900を30機購入する覚書(LOI)を交わしたが、LOIのため「図1」の表には含まれていない。
エアバス機で唯一受注がなかったのは世界最大の広胴型機A380である。
図3:(Airbus) ウイズ・エア(Wizz Air)が購入覚書(MOU)を取り交わしたA321neoの完成予想図。ウイズ・エアは中部及び東部ヨーロッパ最大のLCCで現在61機を運用中。客席数が230席を超えるA321neoはボーイング757の更新として注目されている。
これに対するボーイングの受注は331機、公示価格で402億ドルであった。最大の成約は、ドイツのリース会社「エアキャップ(Aircap)」からの737 MAX 型の100機で107億ドル。
全体的に今回は前年のファンボロー航空ショーに比べやや低調だった。昨年のショー期間中エアバスは486機の受注と購入約束、総額750億ドルの成果を挙げたが、今年は前述のように421機、570億ドルで昨年に及ばなかった。一方ボーイングは昨年のショーでの201機402億ドルに対し、今年はほぼ横ばいであった。
2015パリ航空ショーでのトピックス;-
1) 注目を集めたのはインドネシア・ガルーダ航空で、ボーイングとは737 MAX型機 30機と787-9型機 30機、エアバスとはA350XWB型機30機の発注覚書(LOI)を取り交わした。
2) A380の胴体延長型の構想が出てきた。エアバス最高幹部(J. Leahy氏)とリース会社ALC会長(Udvar-Hazy)氏が語ったところによると、胴体延長の案は6 m、これで1、2階客室を伸ばし6列ずつ増席し合計100席を増やそうというもの。これにより客席数は20%増えるが重量増は5%に止まる。A380に比べ、近く就航するA350-1000とボーイング777-9Xは相当運航費が安い。このため胴体延長と新エンジン搭載を含むA380neoの開発が検討されている。今年11月のドバイ航空ショーで何らかの進展がありそうだ。
3) リージョナル機の分野では、ブラジルのエンブラエルがE190-E2、E195-E2を含む50機、計26億ドルをスカイウエスト、ユナイテッド航空、など4社から受注した。他のリージョナル機メーカー、ボンバルデイア、ATR、三菱航空機はいずれも販売を伸ばせなかった。
4) A320neo系列機のエンジン選定に関連して、ショー期間中に明らかになったニュースは;—
・ 世界第3位のリース会社「SMBC」はA320neo 発注60機のうち30機についてはPW1100G-JM、残り30機にはCFM LEAP-1Aをそれぞれ選定、2017年から引渡しを受ける。
・ GE系列のリース会社「GECAS」は、60機のA32-neoのエンジンとしてCFM LEAP-1Aを選定した。
・ 大韓航空は今回発注したA321neo、 確定30機+オプション20機のエンジンとしてPW1100G-JMを決めた。
・ 中国のリース会社「CALC」は今回MOUを取り交わした18機のA320neoのエンジンとしてPW1100G-JMを選んだ。
・ ショーの前、今年4月にルフトハンザ航空は、発注済みのA320neo 70機用として、40機にはCFM LEAP-1Aを、また30機にはPW1100G-JMをそれぞれ選定した。
5) [pdxlight]が公表した資料によると、A320neo系列機の受注とエンジン選定は次の通り。すなわち、確定受注(firm order):3,857機、購入覚書(MOU):561機、オプション:1,149機、そしてエンジン選定はCFM:1,312機、P&W:1,118機、未定:1,427機、となっている。
-以上-
本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。
Aviation News “Paris Air Show Supplemet” –“Airbus wraps up Paris Air Show 2015” June 18, 2015 by Leeham Co.
The Seattle Times June 18, 2015 “Airbus edges Boeing in order race at Paris Air Show” by Greg Keller / Associated Press