A400M墜落事故は、ソフト組込み過失によるデータ消失が原因


2015-06-19(平成27年) 松尾芳郎

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図1:(Airbus)エアバスA400M軍用輸送機。試験飛行中のA400M型機がスペインのセビル(Seville)近くで墜落し、エアバスの乗員4名が死亡、2名が負傷した。事故発生は去る5月9日現地時間午後1時頃。

 

この事故は、電子化が進む近代の航空機ではソフトの取り扱いが如何に重要であるか、改めて思い起こさせた。我が国ではほとんど報道されなかったので初耳の方が多いと思う。

 

スペイン軍航空事故調査委員会が調査中だが、エアバスによると「離陸上昇中に4つのエンジンのうち3基 (No.1、No.2、No.3)がパワーレバーの操作に反応しなくなり停止した」と云う。乗員は、通常の操作方法通りレバーを一旦アイドルに戻し、再びレバーを押し推力増加を試みたが成功せず、セビル郊外のラ・リンコナダ(La Rinconada)に墜落した。

エアバスの中間報告では、エンジンのエレクトニック・コントロール・ユニット[ECU =electronic control unit (電子制御装置)]の最終組立て段階でソフトの組込みを誤ったのが原因、としている。

 

(注):ECUとはエンジンの燃料管制装置で一般にはFADECと呼ばれる。

 

同機に搭載された4台のECUを調べたところ、この内の3台で重要なデータが消えていた。すなわち、ECUを組立てる段階でソフトを組み込むのだが、この際に”トルク較正用パラメータ(torque calibration parameter)”と呼ぶ重要なデータが消失した。このため飛行中に3台のエンジンが自動停止した、と推定している。

A400Mの設計では、離陸中エンジン故障が生じた場合は、関連ソフトウエアの働きで、高度400 ft (約130 m)で警報音が鳴りパイロットに注意する、地上走行中はエンジン故障警報音は鳴らない。昨年行われた安全審査で、ECUを含むエンジン故障の場合、地上で警報を出す必要性について検討したが見送られた。理由は、エンジン故障は極めて少ないこと、ソフト組込み時に検査を追加することで充分、と判断された。

事故機はトルコ空軍向けの3号機で、製造番号は「MSN023」、完成後の最初の試験飛行だった。同機は地上でエンジン試運転をしてから離陸滑走を行い、この間異常はなかった。前述のように離陸後高度400 ft)130 m)で警報音が鳴り、そのまま高度1,725 ft (526 m)まで上昇し、そこで反転し緊急着陸を試みたが、着陸寸前の地表近くで電柱に衝突、大破炎上した。

エンジンからのデータは、機体の”中央制御システム(central control system)”に逐次送られていたが、ECUデータの一部消失のため、中央制御システムはエンジンデータを理解できなくなり故障と判断したらしい。”中央制御システム”は、エンジンが故障した場合は、操縦性への影響を少なくするためエンジンを停止するように働く。このシステムはエンジン1台または2台が故障した場合に備え作られたもので、3台の同時故障は想定していなかったと云う。

エアバスは5月19日にA400Mを導入している各国に対し、同型機のエンジンのECUの一斉検査をするよう要請した。

事故後、同型機を運用中のイギリス、ドイツ、マレーシア、トルコの各国空軍は飛行を停止していたが、原因が明らかになってきたため、6月16日にイギリスが飛行停止を解除し、これに各国が追従している。

09_04_2013

図2:(Airbus) A400M Atlasはエアバス設計の多国共同開発の軍用輸送機。初飛行は2009年12月スペインのセビルで行われた。これまでに8ヶ国から174機を受注し12機を引渡し済み。開発費は200億ユーロ(約2兆7000億円)とされている。最終組立てはドイツとスペインで行っている。

 

A400Mは、米ロッキードC-130とボーイングC-17輸送機の中間のサイズ。我が国が配備を始めた川崎重工製C-2輸送機とほぼ同じ大きさである。ユーロプロップ*製TP400-D6ターボプロップ、出力11,000 HPを4基装備する。開発参加の国は、フランス、ドイツ、スペイン、英国、トルコ、ベルギー、ルクセンブルグ、それに最近南アフリカが加わった。

貨物室は長さ17,7 m、幅4 m、高さ3.85 mで37トンの貨物または武装兵士116名を搭載できる。機体全長は45.1 m、主翼は炭素繊維複合材製で幅は42.4 m、最大離陸重量は141トン。巡航速度は780 km/hr、航続距離は37トン貨物積載で2,300 km、30トン搭載の場合は4,500 km。プロペラは8枚型炭素繊維複合材で作るRatier-Figeac製 FH385およびFH386である。前者は反時計方向回転でNo.2とNo.4に、後者は時計方向回転でNo.1とNo.3に装着される。これで機体に加わるトルクを減殺している。操縦系統はフライ・バイ・ワイヤ方式。

各国空軍の発注機数/合計で174機になる、国別の発注機数は次の通り。

ドイツ    : 53機

フランス   : 50機

スペイン   : 27機

イギリス   : 22機

トルコ    : 10機

ベルギー   : 7機

ルクセンブルグ: 1機

マレーシア  : 4機

※  :ユーロプロップ(Europrop)社は、ロールスロイス、サフラン、MTUエアロエンジン、ITPの合弁企業で、”TP400-D6”のみを製造している。

 

-以上-

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

Aviation News 2015-06-17 “Airbus transport crash caused by wipe of critical engine econtrol data”by Sean Gallagher @ Jun 10. 2015

Ttorque Technology Jun 9, 2015 “Exclusive: A400M probe forcuses on impact or accidental data wipe”by Tim Hepher

Router Jun 10, 2015 “Airbus transport crash caused by “wipe” of critical enginee control data”by Sean Gallagher

“2015 Seville A400M crash” Wikipedia